ライオンとウザいカップル

実話です

 
今、私は一人で動物園に来ている

私は猫科の動物が好きだ
特にカラカルが好きである

しかし、ライオンは嫌いだ

ライオンはメスが群れで狩りをする
その狩りの様子たるや集団リンチのようで見ていられない
そのうえ、オスは狩りをせずメスがとってきた獲物を先に食う
まるで、図々しいヒモ男のようだ。

ほとんどの猫科の動物は単独で生きている
人間強度…いや、猫強度が強い孤高の存在だ。

それに比べてライオンは群れを作らなければ生きていけない
まるで、大勢でいると威勢がいいくせに
一人になると無口になるパリピを思わせる。

それが、ライオン嫌いの原因なのだ。

………

にも関わらず私は今、ライオンの檻の前にいる。

立派なたてがみの生えたオスライオンだ
飼育員に餌をもらう存在のくせに
スフィンクスのように偉そうに鎮座している。

ライオンをなんの感情もなく見ている私

すると横にいるカップルの男のほうが
「おらぁ、こっち来てみろよ!これねーだろ!」と挑発していた
女は横でクスクス笑っている

男はライオンに力を誇示することで
女に「ライオン相手にも強気な俺」アピールでもしているのだろうか?
本当に強さを誇示したいなら自分から檻の中に入ってライオンと闘ってみたらどうか?

しかし、女の方も女だ。
このお調子者の男の横でクネクネしながらクスクス笑っている
(ほんとこの人ってしょうがないんだから!でもかわいい!)
などと、母性をくすぐられているのだろうか? 

高橋留美子の漫画にでてくる
ウザいバカップルを彷彿とさせる

このカップルに別れあれ

その時だった

ライオンは耳をピクリと動かしてスッと立ち上がる
くるりと後ろをむいた…尻尾をぐいと上げる

(これはもしや…)

私は即座にライオンの檻から離れた

ライオンは客に向かって勢いよくおしっこを檻から噴射した

………

舞い散るおしっこ

おしっこの射程内にいた人間たちの頭にシャワーのように降りかかる

キャー!

もちろん、先程のカップルもおしっこの餌食になっている 
カップルの男の方はあわてふためき、女は横でおろおろしている

それぞれの悲鳴が交差するなか私は一人ほくそえんでいた

これは、「スプレー行動」というやつだ
「ここは俺のテリトリーだ」という意味でおしっこを高い位置に噴射するのだ

私は猫を飼っているのでおしっこをかけるときのモーションを知っている
当然、ライオンの動きも読める
だから、浴びずにすんだのだ

未然にトラブルを回避した自分の機転に酔いしれる。

もう一度、先程のカップルに目をやる
男の方は情けない姿で悔しそうにおしっこを拭っている
女は顔をしかめて自分の服をハンカチでふいている

さっきの威勢はどうした?実にカッコ悪いぞ。

ちなみに、猫のおしっこ…特にスプレー行動などの
マーキングのためのおしっこは特殊な匂いを発する
水でふいても、匂いはなかなかとれないのだ

このカップルは今日1日
ライオンのおしっこの匂いに包まれながら過ごす
周囲の人間に「臭い」と思われながらデートするがいい

檻の中のライオンと目があった、なにかが通じあったような気がした。

ライオンとウザいカップル

なんとなく、いらっとした出来事からのライオンの反撃…あのときの光景は忘れられません

ライオンとウザいカップル

ライオンにマーキングされたカップル

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-29

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted