ヒメノスピア×キリングバイツ

モッチー

  1. 第1話:三門陽湖
  2. 第2話:園藤姫乃
  3. 第3話:谷優牛
  4. 第4話:祠堂零一
  5. 第5話:栗原
  6. 第6話:粗科涼子
  7. 第7話:村上綾
  8. 第8話:乃塒押絵
  9. 第9話:中西エルザ
  10. 第10話:時坂、聖、北川、西田
  11. 第11話:服部渚
  12. 第12話:藤本康臣
  13. 第13話:横田大

pixivに連載中の私の作品であるヒメノスピア×キリングバイツ(https://www.pixiv.net/novel/series/1143454)を、こちらでも掲載させて頂きます。

内容としましては、ヒメノスピア第11話(https://www.heros-web.com/comics/9784864685900/)以降の園藤姫乃がキリングバイツ第30話(https://www.heros-web.com/comics/9784864684729/)までの野本裕也の役割を担うが、無料では引き受けないぞ!的な内容です。

第1話:三門陽湖

2019年6月17日 東京都道245号杉並田無線

1台の高級車が“ある場所”に向かって走っていた。
「お嬢様、もう直ぐ[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]に到着いたします」
運転手の真後ろ(乗用車における上席)に座る女性が不機嫌になる。
「運転手さん……台詞を間違えてます。ちゃんと台本を読んでいます?」
運転手が慌てて言い直した。
「はっ!失礼いたしました!もう直ぐ西東京市に到着いたします!」
さて、この2人が西東京市の呼び方についてこうも揉めているのか、簡単に説明しよう。
元々はただの西東京市であったが、去年(2018年)の6月13日に日本の警察組織が“ある者”を強奪しようと目論み、1人の女子高生に大量殺戮テロの首謀者と言う濡れ衣を着せた事で、西東京市の運命は大きく変わった。後に『鷺宮女子高銃撃テロ事件』と呼ばれる事になる事件である。
濡れ衣を着せられ知らず知らずの内に日本全土を敵に回す羽目になった“ある者”は、“ある力”を使って日本の警察組織を1週間かけてじわじわと浸食し、逆に鷺宮女子高銃撃テロ事件の真相を白日の下に曝して空前絶後の警察不祥事を引き起こしたのであった。
だが、日本の警察組織を完膚なきまで辱めただけでは飽き足らない“ある者”は、自身の理想を具現化した日本の中でも独立した特別自治区を築いてしまったのだ。
しかも、その“ある者”がある組織[[rb:達 > ・]]にとんでもない要求をしてきたのだ。
(待ってておじい様……私が必ずあの法案を取り戻してみせるから!)

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校正門

高級車がとある学校の校門前に到着した。
「鷺宮女子高等学校……此処に、園藤姫乃が居る!」
女性は車から降りて校内に入ろうとするが、直ぐに生徒達に取り囲まれてしまった。
「見ない制服だね。転入生?」
「それとも願書と取りに来た受験生かな?」
「何処に行きたいの?事務所?職員室?」
「案内してあげるね」
生徒達は善意の心算であったが、女性にとっては無礼以外の何者でもなかった。
「退いて貰える」
「もー。遠慮しちゃ駄目だよ」
「知らない人にも親切にって、姫乃様が言ってたからね」
「そうそう」
「困った事があったら言ってね」
もう我慢の限界に達してしまった女性は、遂に怒号を飛ばしてしまった。
「この私が、三門財閥の三門陽湖が直々に園藤姫乃に会いに出向いてるのよ!さっさと取り次ぎなさい!この愚民が!」
遂には、取り囲んだ生徒の内の1人の襟首を掴んで脅す様な格好になってしまった。
「お前なんかじゃ話にならない。責任者を出しなさい!」
予想外の展開に、取り囲んでいた生徒達は右往左往する。
「きゃああああああ」
「ちょっと!?みんな落ち着いて!」
其処へ、1人の中年男性がやって来て皆を宥めた。
「やめなさい。この方は、園藤姫乃さんの客です」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校裏庭

「いやー、驚かせてすいませんでした。予想していた事とは言え、まさかあそこまで騒ぐとは」
中年男性の釈明をまるで聞いていないかの様に無言でついて行く陽湖。
「ここでは、至る所で『女王』に対する愛情や善意が溢れ返っていますから、どうしてもああなってしまうのです」
やはり陽湖は聞く耳持たない。
「あ、申し遅れました。私は、この学校の保健医、藤本です。以前は『蜂』に関する研究施設に勤めていたのですが、訳あって解雇されてしまいましてねえ―――」
陽湖の隣にいた青年が代わりに質問した。
「貴方はもしかして、フジモト生物化学研究所所長の藤本康臣氏ではありませんか?」
「[[rb:元 > ・]]が付きますがね。今は専門知識を活かしながら『蜂』の巣窟であるこの学校で働きつつ、観察を続けている訳です」
陽湖が漸く口を開いた。
「で、園藤姫乃は何処に居ますの?」
藤本の話に全く興味を持たない陽湖であったが、藤本は全く気にしない。
「やはり、あの法案が白紙撤回された事をいまだに恨んでいますか?」

日本経済は、400年前から四大財閥に支配されていた。だが、件の四大財閥の間で発言権や収益に関する話し合いで大きく揉めてきた。
そこで、四大財閥が財力に物を言わせて集めた達人達に様々な勝負をさせる事で、四大財閥同士の潰し合いを未然に防いできた。それが『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』である。
それから時代は流れ、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』の一大エンターテインメントとして公式化させようと言う動きがあった。その為に必要な法案も可決・成立する筈だった。
だが、急に立ち塞がったのが[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]を支配する『女王』園藤姫乃で、彼女の鶴の一声で『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』公式化に必要な法案は否決・白紙撤回されたのであった。

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校裏庭

「いやー……しかし、貴方方も災難でしたなあ。まさか、特定遺伝子組換改革法が否決されてしまうとは。やはりこれも、園藤姫乃の力が、警察のみならず、政局にまで及んでいる証拠ですな」
「そうよ。全く、いい迷惑だわ」
「しかし、四大財閥の仲違いによる日本経済の混乱は避けたいからと、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』を非合法化させる事で、秘密裏であれば『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』を開催できる。と、言った所ですかな?」
陽湖の眉が不機嫌そうに動いた。
「仰る意味を測りかねますが、所長……いや、藤本教授は、三門財閥が『蜂』に屈したとお考えですか?」
それに対して、藤本は軽々しく答えた。
「いやいやいやいや。屈するとか屈しないとか言う次元の話ではありません。元々昆虫は、既知の種だけでも600万超。これは、地球上の全生物の中でも、半分以上を占める数値ですが、その中でも―――」
やはり陽湖は聞く耳持たない。
「はいはい。話が長くなるなら止めていただけますか?」
藤本はつまらなく呟いた。
「これからが面白いのですがね」
陽湖の目が鋭くなった。
「兎に角、園藤姫乃が何を手に入れようと、所詮は愚民。日本最大・世界最長の歴史と伝統を誇る一流の財閥である三門財閥の前では只の屑。それが園藤姫乃よ!」
藤本が嬉々として言い放つ。
「素晴らしい。『兵士』への不満としては初めてのケースです。果たして『女王』がどんな感想を持つか、私も詳しく知りたい所ですな」
陽湖は少し気持ち悪くなった。
(フン!薄気味悪い老人ですわね)
とは言え、此処で引き下がる気は一切無い。
(ま、何にせよ、これで一先ず、園藤姫乃に会えそうね。どんな女か知りませんが、少なくとも判っているのは、身の丈を弁えずに女王を名乗る、教祖気取りのサイコ屑。根拠の無い自信ともたざる者への憐みを携え、『争いの無い国を造る』とか言う夢物語を真顔で語る平和ボケ。最も愚かな阿呆)
陽湖の顔に血管が浮かぶ。
(身の丈に合わない支配者顔を想像するだけで、腹ただしいですわ!見た瞬間に怒りに飲まれそうで怖いですが、先ずは落ち着いて、あの法案を元に戻す方法を聞き出さないと!)
そうこうしている内に、学校の花壇をいじるジャージ姿の女子高生の背後に辿り着いた。
「ほう、ハルジオンですな。キク科の植物は、最も進化と分化を重ねて来た種族です。人類に次代の進化を促す『女王』を象徴する花と言えますなあ」
藤本の言葉に、女子高生は照れ臭く控えめに答えた。
「い、いえ……単に母が好きだったもので……それと」
学校の花壇をいじるジャージ姿の女子高生が振り返り、それを見た陽湖が驚愕した。
(……嘘……でしょ……)
「『女王』はやめてもらえませんか、藤本先生。私は唯の女子高生なので……」
(この……まるで垢抜けない地味眼鏡が……土塗れな愚民女が……)
金魚の様に口をパクパクさせる陽湖。
「これは失敬。所で、此方の方々はですな―――」
ジャージ姿の女子高生が服に就いた土を手で払った。
「ええ、お話は、ルシアさんから伺っています」
ジャージ姿の女子高生が金魚の様に口をパクパクさせる陽湖に自己紹介する。
「初めまして鷺宮高校生徒会長、園藤姫乃です」

人目を気にせずにジャージ姿で園芸部とじゃれ合う姫乃を見て、陽湖は唇がブルブルと震え、胃の奥から溢れ出た、悲痛な叫びを抑える様に、無意識に両手を口元に持っていく。
「女王蜂とは、その呼び名に反し、本質的には働き蜂と何ら変わりはありません。生物学的には『生殖虫』と呼ばれ、あくまで生殖の役割を担う一個体に過ぎず、群れを統率するわけでも、君臨するわけでもないのです。然るに、この学校の『女王』である園藤姫乃の存在もまた、基本的には唯の一生徒。ごく普通の女子高生に過ぎないのです。特に『兵士』ではない一般の生徒にとって園藤姫乃は、元いじめられっ子で異様に腰の低い生徒会長に過ぎないわけで……聞いてます?」
陽湖は聞く耳を持つ余裕が無かった。
日本の警察組織を完膚なきまで辱め、日本国内に独立した特別自治区を築き、鶴の一声で『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』公式化に必要な法案を否決・白紙撤回させた『女王』が、普通の女子高生だと言うのだ。
陽湖は、この設定に精神的にも生理的にも耐えられなくなり、隣にいた青年に残忍かつ薄情な命令を下した。
「『[[rb:獅子 > レオ]]』!こいつらを皆殺しになさい!」
その直後、渚は陽湖をうつ伏せにしながら馬乗りになった。
「姫乃、大丈夫?」
園芸部が驚く中、姫乃は平然としていた。
「はい。怪しい気配は感じていましたが、皆さんが守ってくれると思っていましたから」
姫乃のこの言葉を合図に、大勢の女子高生が続々とやって来た。しかも、やって来た女子高生全員が陰部から伸びる長い管状の『針』を蠍の尻尾の様にちらつかせた。
これこそが、姫乃が手に入れ、警察が恐れ、日本政府が欲した『蜂』の……そして、『女王』の力である。

警察や政府が言っている『蜂』とは、人間社会に寄生する異形の針を持つ赤い寄生バチの事である。
彼らは一般的なハチ目(膜翅目)と違って女王蜂のみが生息し、働き蜂が1匹もいない。
そこで、彼らは人間の女性に針を刺して体内の毒素を注入する事で、自分を愛し護る『兵士』に変えるのである。
しかも、彼らは女性を刺す時に『兵士』にするか『女王』にするか選択する事が出来るのだ。
そして、姫乃は『蜂』に選ばれて『女王』となり、『蜂』同様に人間の女性に針を刺して体内の毒素を注入する事で、自分を愛し護る『兵士』に変えるのである。
また、『蜂』に刺された女性は、『兵士』であろうと『女王』であろうと、体質変化によって長い管状の『針』を得る。伸縮自在である『針』は、普段は陰部に内蔵されているが、有事に際には陰部から出て威嚇や攻撃(『女王』のみ『兵士』を生み出す時にも使用する)に用いるのである。
そうする事で、『蜂』は人間社会を乗っ取り我が物にして理想の社会を作ろうとしているのである。

「とは言え、やはり『女王』が特別な存在である事は否めません。常に触覚が触れる距離で護衛するのが『兵士』の役割。いかに巣の中とは言え、敵襲の惧れがある屋外において、単騎でいる道理はありません」
姫乃は、さっきまでのお気楽な女子高生とは打って変わって、上から目線で陽湖に告げた。
「残念ですが、今あなたがした事は立派な犯罪行為です。騒乱罪、暴行罪、殺人未遂罪、そして、国家反逆罪においてあなたを拘留します」
『兵士』達が陽湖を生徒会雑務室に連行する中、姫乃は陽湖に[[rb:獅子 > レオ]]と呼ばれた青年をジーっと視ていた。
「姫乃、どうしたの?」
声を掛けられてハッと我に返る姫乃。
「いえ……ちょっと考え事を……」
『兵士』達の前で気丈に振舞う姫乃であったが、奥歯に物が挟まる気分であった。

第2話:園藤姫乃

2018年6月13日 西東京市

園藤姫乃と服部渚は、フジモト生物科学研究所研究主任原口理栄が運転する車に乗っていた。
「間に合って良かった。このまま一般道通って、永野の観測施設に向かいます」
そんな原口の説明を聞きながら、後悔と罪悪感に苛まれた表情で後ろ見た……
銃声に包まれてしまった母校『鷺宮女子高等学校』を。
「携帯の電源は切っておいてください。追跡される恐れがありますから。ナビも消しておきましょう」
それに対して、渚が原口の頭頂部を鷲掴みにしながら質問する。
「おい。説明しろ。どうしてこんなに早く警察が動いた。しかも、奴ら、大して確かめもせず、『仲間』だろうがそうでなかろうが、無差別で撃ちまくってた」
そう、鷺宮女子高等学校を銃声で包んだのは、本来なら市民を守るべき警察なのだ。しかも、彼らは何かを国民に隠していたのだ。
「この日本でそんな簡単に人が殺せるもんかよ。どう考えても普通じゃないだろ。あいつら一体何考えてんだ」
そして、渚の舌先が、警察が国民に隠している“ある物”に触れた。
「てか、そもそも『蜂』ってのは、一体何なんだ!?」
原口は重々しく答えた。
「それはまだ解りません。ですが、確実に言えるのは、彼らは何より『女王』の力を欲しています」
それこそ、警察が鷺宮女子高等学校を銃声で包んだ本当の理由である。ただそれだけの為に警備部機動隊と特殊急襲部隊まで動員し、中にいた生徒達を無差別に射殺したのだ。
「『兵士』を生み出す『女王』の能力を科学的に解明し技術として抽出できるなら、軍事面・政治面での利用価値は計り知れません。そもそもの話、特務捜査課も研究所も、表向きは『蜂』に関する犯罪を収拾する為の組織です」
原口は、研究主任として『蜂』を調べていく内に、『蜂』に関する犯罪を収拾する為に組織された警視庁公安部特務捜査課の存在理由に疑問を膨らませていった。
そもそもの話、『蜂』や『女王』が特殊急襲部隊の手を煩わす程危険な存在なら、自然災害や逃走犯の様に事前に国民に公表して注意を促すのが普通であろう。なのに、警察は『蜂』について国民に詳しく説明した事など1度も無いのである。それはつまり……
「しかし、その本質的な存在意義は、『女王』を捕らえる事にあります」
少々不安がらせたと感じた原口は、安心させる様にこう続けた。
「でも大丈夫。私は内部の人間ですから、彼らの思考はおおよそ見当がつきます。『女王』には指1本触れさせません。だから、安心して―――」
だが、完全に罪悪感に飲まれてしまった姫乃が原口の言葉を遮った。
「すみません。『女王』はやめて下さい。好きでなった訳じゃないですから……」

2018年6月13日 フジモト生物化学研究所八ヶ岳自然環境観測所

そんな、罪悪感に完全に屈してしまった姫乃を奮い立たせたのは、少し前まで自身を虐待していた母親の存在であった。
姫乃を取り逃がした警察は、『鷺宮女子高銃撃テロ事件』と言う偽りの凶悪テロ事件をでっちあげ、姫乃を凶悪テロ事件の首謀者に祀り上げ、挙句の果てに姫乃の母親を逮捕したとテレビで報じたのだ。
「ママを助けに東京に帰ります」
それを聞いた渚と原口が慌てて説得するも、姫乃にとっては最早『天敵』でしかない警察をこれ以上野放しにする事は、道徳的にも良心的にも耐え難いものとなってしまっていたのだ。
「もう許さない。私の友達を殺して、楽園をぶち壊して、その上ママまで……もうこれ以上奪わせない」
そして……姫乃はとうとう日本の警察組織に宣戦布告するかの様な言葉を口にしてしまった。
「どんな手を使ってでも、ママを取り戻します!」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会雑務室

その後、渚と原口の説得を振り切った姫乃は、1週間かけて母親を奪還を目的とした強固な人脈を作り上げ、自ら警視庁に乗り込んで母親の釈放を目的とした交渉を行い、母親奪還に失敗したと見るや『鷺宮女子高銃撃テロ事件』に関する真実をネットやテレビに流して空前絶後の警察不祥事を発生させ、西東京市をバチカン市国の様な独立した都市国家に変え、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]崩壊に導きそうな法案を次々と廃案に追い込み、その事を恨んでで姫乃殺害を目論んだ三門陽湖を拘留して現在に至っている。
「改めて、先程の犯行について、動機をお尋ねします。三門陽湖さん」

まるで大企業の会議室の様に並べられた長机とパイプ椅子に並んで座る『兵士』達に睨まれながら椅子に縛り付けられる陽湖。上座には姫乃が座っている。
まるで裁判の被告人の様な位置に座らされて自由を奪われる。それだけでも陽湖にとっては耐え難い屈辱であったが、その元凶が家庭内虐待の被害者でいじめられっ子の地味女だと思うとはらわたが煮えくり返って血液が沸騰する。
「あんた達……この私にこんな事をして……ただで済むと……思ってるの……」
陽湖は必死になって怒りを抑えようとした。そうでもしないと、怒りに語彙力を全て奪い尽くされそうだからである。
だが、陽湖から反省の意志を全く感じない渚が陽湖の頭頂部を鷲掴みにして陽湖の怒りの炎に油を注いでしまう。
「てめえ……調子付いてんじゃねえぞ。ドラ息子がぁ」
陽湖が怒りのあまり青筋を浮かべているが、渚も青筋を浮かべる程怒っていた。
「私は元よりここにいる全員が、てめえの何千何万倍もムカついて、てめえを今すぐブチ殺したくてウズウズしてんだよ。誰に頼まれた?公安か?人権団体か?吐け!」
陽湖が怒りに任せてついに暴走した。
「ふざけるな下郎!世界最古の歴史を誇る企業組織『三門財閥』の代表者である三門陽湖にこれだけの無礼をして、無事に済むと思うなよ愚民どもがぁ!」
「うるせえ。今度『虫』つったら殺すぞ」
「下郎の分際でこの私に命令だと?お前達愚民は、ただ跪いていれば良いのよ!」
姫乃が陽湖と渚の口論に割って入った。
「誰が……誰が好き好んで卑屈になるものですか。9歳の時、母が外出の折、母が連れ込んだ見知らぬ男に服を脱げと命令されました」
「姫乃?」
姫乃が自分の恥部を語り始めたので、渚が怒りを忘れてキョトンとする。それに引き換え、陽湖はいまだに激怒していた。
「従わねば叱られ母に嫌われると思った私は、泣き出したいのを堪え服を脱ぎました。そこに母が帰宅。裸のまま逃げ助けを求めた私に対し、母の取った行動は、肌を魅せ男を誘った罰として嫌がる私を無理矢理に押さえつけ、熱したアイロンを私の顔に押し当てました」
姫乃は眼鏡をはずし、右頬の火傷痕を見せた。
「これは、その時の[[rb:痕 > きずあと]]です。移植手術なり何なりして、消そうと思えば綺麗に消す事は可能です。でも、あえてそうするつもりはありません」
怒りが未だに収まらない筈の陽湖が、姫乃の威圧感に抑えられ何も言えなくなってしまった。
「何故なら、どんな酷い仕打ちを受けても、どんなに醜い傷を負っても、受け入れなければ生きていけない。それが私の人生だったからです」
格の違いを魅せ付ける為に姫乃の容姿に関する悪口を必死に紡ぎ出そうとする陽湖であったが、姫乃の威圧感に怒りを抑え付けられて言葉を発せなかった。
「親にも環境にも恵まれて、何不自由無く暮らして、勝手気ままに暴言を吐いて、これまでの人生、さぞや楽しかった事でしょうよ。そんなあなたに」
姫乃が『女王』の『針』を露出する。
「一体私の何が分かるっていうんですか」
怒りが未だに収まらない筈の陽湖が、一切暴言を吐けない自分に歯噛みした。
(何故私が何も言えないの?こんな四流学校に通うカス如きに!)
陽湖は汗だくになりながら必死に上から目線的な視線を姫乃に向ける。
対して、言いたい事を言い切った姫乃は自分の席に戻り、渚も他の『兵士』達も完全に冷静さを取り戻していた。
「改めて、先程の犯行について、動機をお尋ねします。三門陽湖さん」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校正門

三門陽湖への尋問に参加しなかった『兵士』2人が、姫乃の命で何かを待っていた。だが、とある理由からスマホに夢中になるなど不真面目であった。
「と言うか、来ると思う?」
「私なら行かないわ。こんな劣悪な条件だと。ま、姫乃様の命令なら行っちゃいそうだけど」
そこへ、1人の女子高生がやって来た。
「鷺宮女子高等学校って、此処で良いのか?」
来るとは全く思っていなかった2人は、突然声を掛けられて驚いた。
「嘘!?来たの!?」
「わざわざ殺されに!?」
殺されると言われて不機嫌になる女子高生。
「人聞き悪いな。私が敗けるとでも思ったのか?」
正門で待っていた『兵士』の内の1人が、思い悩んだ表情で何かを促した。
「……悪い事は言わない。『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』が目的なら、今直ぐ帰れ。姫乃様が出した貴女への条件は、貴女にとっては命取りだ」
そう言われた女子高生は、悪人の様な微笑みを浮かべてこう述べた。
「好条件も悪条件も関係ねえ。牙の鋭い方が勝つ。それが『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』だ」
2人の『兵士』が危うく『針』を露出させそうになった。

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会雑務室

陽湖が汗だくで姫乃の圧倒的な威圧感に耐えながら必死に上から目線的な視線を姫乃に向ける。
其処へ、1人の『兵士』が入室した。
「姫乃様!来ました!例の女が!」
渚にとっては予想外の事であった。
「馬鹿な!?姫乃が出した条件を知ってて言っているのか!?」
「はい。当人は屁でも無いって言い張っていますが」
姫乃が再び立ち上がり退室しようとしていた。
「行きましょう。『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』を実際に観に」
その言葉を合図に、渚や『兵士』達も次々と退室した。椅子に縛り付けられた陽湖と自主的に残った1人の『兵士』を残して。
姫乃の退室を確認した途端に汗が一気に引いた陽湖を診て、居残っていた『兵士』が図星を指した。
「……あんた、姫乃様に敗けたろ?」
精神的焦りを指摘されて慌てて弁明しようとする陽湖であったが、居残っていた『兵士』が完全に無視して寧ろ屈しきれなかった陽湖をわざとらしく称賛した。
「無理しなくて良いよ。貴女は頑張った方だよ」
言い返そうとする陽湖を無視して話を続ける。
「さっきも言った通り、貴女と姫乃様とでは、くぐり抜けた修羅場の数が違い過ぎるからね。本来なら、貴女の様なボンボンドラ息子なんてあっという間に屈するもんだよ。姫乃様と違って地獄を体験してないからね」
「私の生き様が軽いと言うの?」
「軽いよ」
自分の人生を全否定されて怒りを蘇らせる陽湖。
「こんな四流学校に通う愚民如きが―――」
「その時点でもう軽い。親の威を借るドラ息子ってね」
「三門財閥の代表者たる―――」
「それが貴女を軽くしているのよ。それに引き換え、姫乃様は失うに対する恐怖を知り尽くした。知り過ぎた」
完全論破された陽湖が沈黙を保つので精一杯になってしまった。
「さっきのお話しから察するに、姫乃様の父親は既にいないな?離婚か死別かは知りませんが。それに、『鷺宮女子高銃撃テロ事件』の真相を知っている者なら知ってると思いますが、姫乃様は1度楽園を失ってます」
「だから何?どうせクズなんだから―――」
居残っていた『兵士』が陽湖を睨んだ。
「あんたも何かを失ってみるか?そうすれば、あんたも少しは重くなるんじゃない」
「……これ以上、園藤姫乃は何を奪うって言うの?」
「逆に訊くけど、貴女は何を失ったの?」
暫く沈黙したのち、居残っていた『兵士』が照れ笑いした。
「ま、ブサイクって理由だけで働き蜂に降格した醜女が偉そうな事言うのも可笑しな話だけどね」
言われてみれば、居残っていた『兵士』の左目は右目より2倍近く大きかった。しかも、前歯(上顎中切歯)はビーバーの様に長く伸びていた。
「それより、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』について語らない?」
「フン!そんなもの、実際に観れば良い話でしょ?」
「無駄だよ。今から校庭で行われる『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』は、ただの出来レースだからね。姫乃様が提示した条件を管理局が全て飲んでいればの話だけど」
陽湖が黙ってしまった。[[rb:獅子 > レオ]]に勝てる者が少ない事を知っているからだ。
「それに対して、貴女が知っている『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』に関する情報を聞いた方が有益だと思ったからね」
居残っていた『兵士』が自己紹介を始めた。
「私は川辺のぞ美。園藤姫乃に仕える『兵士』で、趣味は生物学よ」

第3話:谷優牛

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校校庭

姫乃と姫乃に仕える『兵士』達が見守る中、陽湖に[[rb:獅子 > レオ]]と呼ばれた青年と姫乃に悪条件を付き付けられた女子高生が対峙していた。
姫乃にとってこの対峙は、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』公式化に必要な法案の否決・白紙撤回が正しいか否かを知る為の試金石でもあり、ある者を手に入れる為の出来レースでもあった。
それに対して、渚はある意味予想外であった。
「あんた……あんな条件でよく来たな?」
「さっきの門番にも言われたよ。だが関係ねえ。牙の鋭い方が勝つ。それが『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』だ」
女子高生が強気な発言をするが、姫乃が『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』管理局に付き付けた条件は、開始前から結果が見えている劣悪なモノだった。
「そうは言われても、向こうは『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』経験数10回以上の中で最も勝率が高い奴。一方のおまえは、女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]の中で最も勝率が低い。それが、姫乃が『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』管理局に付き付けた条件の筈だろ?」
女子高生が冗談交じりで悪態を吐く。
「お陰で、こいつと私の『[[rb:賭け率 > オッズ]]』は100対0。このままだと、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』は成立しない」
「そりゃあそうだろう。百戦錬磨のこの俺と―――」
『兵士』の内の1人が、女子高生の無謀に対して悪態を吐いた。
「と言うか、馬鹿でしょ?此処まで解っていながらノコノコ来るなんて」
それを聞いた青年が、青筋を浮かべた。
「バカ?今、馬鹿って言ったのかい?」
まさか青年の方が怒ると思っていなかった言い出しっぺが慌てて釈明する。
「違う!私はあなたに言ったんじゃなくて、向こうの無謀馬鹿に言ったの!」
聴く耳を持たない青年は、その容姿を劇的に変化させた。
「貴様の様な非力で矮小な唯の人間が、この[[rb:百獣王 > キング・オブ・キングス]]、[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:獅子 > レオ]]』に向かって……」
そして、青年の上半身がライオンそのものの姿になった。
「馬鹿とはどういう了見だ?」
「だから向こうに言ったんだってばぁー!」
見かねた姫乃が助け舟を出した。
「谷さん、戦う相手を間違えていますよ?」
姫乃に問われて振り返る青年。
「下らない理由で暴力沙汰では、[[rb:百獣王 > キング・オブ・キングス]]の[[rb:谷優牛 > たにゆうご]]の名に傷がつきますよ?」
姫乃の言い分も一理あるので、取り敢えず怒りを治める優牛。
「確かにな。だが、さっきも言った通り『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』は成立しないぞ?」
「仕方ありません。[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]の園藤姫乃が、そちらの子に賭けましょう」
姫乃の発言に、優牛が挑発気味に質問する。
「何だと?お前が金を出す保障は?1000万円だぞ」
「手は尽くしますよ。と言いますか、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』公式化に必要な法案の否決・白紙撤回を勝ち取った[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]の園藤姫乃の力を舐めないで下さい」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会雑務室

一方、生徒会雑務室に居残った川辺と陽湖が『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』に使われている獣化手術について語り合っていた。
「つまり、遺伝子内に眠る他の動物の要素を取り出して増量させるって訳ね?」
「そう。今の『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』は、獣人同士の決闘よ。最新の遺伝子強化手術により、人の頭脳と獣の牙を併せ持つ……ね」
「だが、あんたが『[[rb:獅子 > レオ]]』と呼んだ谷優牛は、その割には優男じゃない?」
「普段はね。でも、獣化すると獣の様な姿になるわ」
「……それって、本当に人と言えるの?」
陽湖が残念そうに呟いた。
「ある時期までは言えたわ。獣化手術を取り入れてもなお『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』の伝統的な姿を維持してきたわ。5年前にあの馬鹿が余計な真似をするまでは」
「……余計な事?」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校校庭

「では、開始して下さい」
姫乃が開始の合図を出した直後に優牛が女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]をビンタで吹き飛ばす。
「秒殺かよ!?」
だが、優牛の猛攻はこれで終わりではない。
仰向けに倒れた女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]に跨り、容赦無くネコパンチを何十発もお見舞いした。
「たとえ獲物が子ウサギであると全力。圧倒的パワーでねじ伏せる。それが、[[rb:獅子 > レオ]]の戦い方だ!」
相手がギブアップするまで殴り続けるつもりの優牛だが、傍目にはこのままでは女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]が死んでしまうのではないかと思える。
「ウガアアアアア」
咆哮をあげながら何時までも殴り続ける優牛を観てそら恐ろしくなる渚。
「殺す気かよ!?」
しかも、優牛は既に強烈なダメ押しをしていた。
「王に挑む事の愚かさと恐怖!その身に刻め!」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校校内

「ガアアアアア」
優牛の咆哮を聞いた生徒や教師の反応は、『兵士』か否かで大きく分かれた。
校庭から聞こえる咆哮の正体を確認しようとした生徒の一部が全く動けなくなってしまったのだ。
「何で……物凄く怖い筈なのに、身体が動かない」
「動けないの!?唯の遠吠えの筈なのに!?」

ライオンの咆哮は、猫科の猛獣の中で最も大きく、最も遠くまで響き渡り、半径8㎞以内に棲む全ての動物を威嚇しその動きを封じる。
闇に潜み茂みに隠れる事を生活の基本とする野生動物の中にあって、他種に存在を誇示する動物は、天敵のいないライオンだけである。

校内に残っている『兵士』達が、優牛の咆哮を聞いて動けなくなった生徒や教師をテキパキと保健室に運び込んだ。

蜂と同じ膜翅目に属するグンタイアリの兵士は、脳組織が退化し全く存在しないにも関わらず、何故かお互いに連携し協力し合い、綿密で複雑な作戦行動を可能とする。
司令塔も命令系統もそれを受ける脳すらもないが、兵士は一切迷う事が無い。まるで、何者かの『意思』に導かれているかの様に……

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校校庭

校内の様子をスマホ越しに聴いた渚が、目の前で行われている『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』の中止を進言した。
「姫乃、『仲間』以外の子が次々と金縛りになったって!こんな事やってる場合じゃないんじゃないの!」
渚に促され、終了の合図を出そうとした姫乃であったが、
「ぐッ……」
その前に優牛が咆哮を止めて後方にジャンプした。
慌てる優牛を観て、渚がまた面食らった。
「今度はどうした!?」
優牛の右手が歯形だらけになっていた。
「こ、こいつ……爪撃を受けながら、俺の指を噛み千切って……」
女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]は既に獣化していたが、獣の様な耳に手足や背中が異様に毛深くなっただけと言う、優牛の獣化とは比べ物にならない程地味な変身であった。
「恐怖?恐怖ねぇ……生まれてこの方、どうもその、恐怖って奴を知らなくてね」
女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]の強気な発言に、優牛は怒りと恐怖で震えた。
「な、何ィーーーーー……恐怖を知らぬ獣など……存在せん。俺の『[[rb:獅子咆哮 > ローリング・レオ]]』を浴びた者は、本能的に恐怖で身を強張らせ、反撃など不可能になるはずが……」
「やっぱり。さっきの校内の金縛り騒動はお前のせいかよ!」
渚のツッコミを無視して女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]に問う優牛。
「貴様、一体何者だ。名乗れ」
女性[[rb:獣闘士 > ブルート]]が、自身の傷を舐めながら名乗った。
「[[rb:蜜獾 > ラーテル]]。[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会雑務室

優牛の咆哮が止み、校内で起こった金縛り騒ぎが落ち着いたので、陽湖の所に戻った川辺。
「で、一応聞くけど、ただいま谷さんの[[rb:白星 > エサ]]になっている哀れな[[rb:生贄 > おじょうちゃん]]は、何者だい?」
陽湖があっけらかんと答える。
「知らないわ」
「知らない?三門財閥との関係性が深いって、自分で言ってたじゃん!」
だが、陽湖は本当にそう答えるしか出来なかったのだ。
「本当に知らないわ。その子、今日が初戦のルーキーとしか聞かされてないもの」
川辺は驚きを隠せない。
「初戦だと!?くっ!これなら確かに勝率が低いわな!0戦なんだから!」
その時、川辺のスマホが鳴った。
「はい」
質問の内容に、川辺が愕然とした。
「ラーテルだと!?」
聞き慣れないマイナーな名前に首を傾げる陽湖に対し、川辺は管理局の狡猾さに畏怖した。
「まさか……奴らが姫乃様の意図を読んで……くっ!」
川辺が慌てて校庭に向かい、生徒会雑務室に居残ったのが椅子に縛り付けられていた陽湖だけとなった。
「ちょっと!この縄を解いてからにしろ!」

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校校庭

ライオンがラーテルを忌み嫌う最大の理由。それは、闘えば必ず負傷するから。
猫科の猛獣は、狩りの際、速やかに獲物をしとめる為、首や腹などの弱点を狙う。
だが、ラーテルにとっては目の前に迫る全てが攻撃対象。たとえそれが、鋭利な刃物であろうと危険な毒であろうと一切躊躇しない。
その必然として、狩人は大切な商売道具である爪や牙を傷付け失う事にもなりかねない。それは、自然界では死を意味する。
即ち、ラーテルに闘いを挑むと言う事は、命を賭けた危険な行為なのである。

だが、
「対戦相手の名前くらい憶えとけよな。バーカ」
[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』の挑発を受けて青筋を浮かべる程冷静さを失ってしまう優牛。
「ば……馬鹿だと……この俺に向かって、貴様の様なチビガキが、取り消せー!」
漸く校庭に辿り着いた川辺が優牛に警告する。
「駄目だ谷優牛!冷静さを失うな!」
だが、全てが遅かった。
『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』の強烈な引っ掻きが優牛の左肩を切り裂いたからだ。
「[[rb:蜜獾斬 > スラッシュ]]」

2019年6月17日 日本某所三門財閥関連私設

「『[[rb:獅子 > レオ]]』が負けた……?」
人工衛星越しに『[[rb:獅子 > レオ]]』対『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』を観ていた富豪達は、予想外の結果に驚きを隠せなかった。
「馬鹿な」
「99対1だぞ」
「どう言う事だ!?」
「あの[[rb:獣闘士 > ブルート]]は、一体何者だ……」
別室で混乱する富豪達を見ていた1人の学者が、[[jumpuri:複数の黒服の男性 > https://www.ebookjapan.jp/ebj/content/sakuhin/17111/maincharacter.asp]]に囲まれた老人に話し掛けた。
「ご覧頂けましたか?あれが私の最高傑作、[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』」
一方の老人は、ただ満足気に高笑いをしていた。
「ヒャッヒャッヒャッヒャッ!やられたわい。まんまと1人で勝ちを浚いおって」
「か、会長……」
「『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』か。祠堂、お前の言う通り、なかなか面白い娘よのぉ……」

第4話:祠堂零一

2019年6月18日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校保健室

保健室のベットで寝かされていた[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』が目を覚ました。
「……ん……あ?ここは……」
「お。気が付きましたかな?宇崎瞳さん」
突然藤本に声を掛けられて少々困る[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』。
「おっさん誰?医者?」
「私は、この学校の保健医、藤本です。以前は『蜂』に関する研究施設に勤めていたのですが、訳あって解雇されてしまいましてねえ、今は専門知識を活かしながら『蜂』の巣窟であるこの学校で働きつつ、観察を続けている訳です」
『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』もまた、藤本の話に全く興味を持たないが、陽湖とは違って話を強引に終わらせる程の乱暴さは無かった。
「あっそ。そんな事より、園藤姫乃は何処だ?祠堂さんが園藤姫乃に用が有るって―――」
「下手にその様な質問をしない方が賢明ですな」
まさか止められるとは思わず、『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』は不機嫌になる。
「……お前も、園藤姫乃の『兵士』かよ?」
「いえいえ、『蜂』の『兵士』に成れるのは女性だけです」
「じゃあ、何で止めた?」
「私の見解では、家庭や身内、中でもとりわけ[[rb:女性 > メス]]に対しては愛情が深まり穏やかで温厚になりますが、『女王』に仇為す者に対しては苛烈な攻撃性を帯びる筈です。即ち、園藤姫乃の敵にとってこの学校は、地獄そのものと言う事です」
だが、『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』は藤本の警告を無視した。
「うるせえ。祠堂さんが園藤姫乃に用が有るって言ってんだ。会わせろ」
そこへ、タイミング良く姫乃と渚が現れた。
「私もぜひお会いしたいです。[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]の最重要人物に」
『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』は少し悩んだが、祠堂の指示に逆らうつもりは無い為、やっぱり会わせる事にした。
「……でも、その前に……」
「え?」

2019年6月18日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]][[jumpuri:デニーズひばりが丘店 > https://shop.dennys.jp/map/2517]]

[[jumpuri:キャラメルハニーパンケーキ・Tallサイズ > https://www.dennys.jp/menu/dessert/caramelhoneypancakes/]]を注文し、蜂蜜をたっぷりかける『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』。
それに対し、あまりの蜂蜜の量にドン引きする渚。
「お前……甘党だったのか?て言うか、(蜂蜜の)量が多くねえ?」
「黙れ。祠堂さんが園藤姫乃に会いたがってるもう直ぐここに来るから……それまでの間、口閉じてろ。なるべく呼吸もすんな」
「随分嫌われたものだな?」
「て言うか……何でお前までついてきてんだよ?邪魔なんだよ。消えろ腰巾着」
「てめえが消えろ化物。本当ならとっくにぶっ殺してるところを、姫乃の恩情で見逃してやってるんだからよ、役立たずの駄猫(谷優牛)を連れてさっさと消えろ」
このままだと口論では済まなくなると感じた姫乃が渚を制止させた。
「服部さん、私は平気なので、もうその辺で……」
「あ。うん」
その直後、『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』が急に立ち上がり、深々とお辞儀をした。
「あ、あの、昨日は本当にすみませんでした」
突然の『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』豹変に面食らう渚。
「な!?何なんだいきなし!?」
『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』豹変の元凶は、姫乃達の背後にいる人物であった。
「何を謝る?お前は完璧に仕事をこなした。そうだろ?瞳」
(この方が……祠堂さん?)

そこから少し離れた席で『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』と渚のやり取りを観察していた川辺が、陽湖に言われた言葉を思い出していた。

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会雑務室

「ある時期までは言えたわ。獣化手術を取り入れてもなお『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』の伝統的な姿を維持してきたわ。5年前にあの馬鹿が余計な真似をするまでは」
「……余計な事?」

2019年6月18日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]][[jumpuri:デニーズひばりが丘店 > https://shop.dennys.jp/map/2517]]

祠堂と思われる人物の前で赤面する『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』。
「で、でも、あの、[[rb:獅子 > レオ]]を1発で倒そうと思ったけど序盤でラッシュされて、まあ、あんなの屁でもなかったですけど……私がうまくやれないせいで、その、祠堂さんを不安にさせちゃったかもしれないと思って―――」
祠堂が安心させるかの様に『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』の頭を撫でた。
「俺はお前を信じている。不安を感じた事など1度も無い」
(こいつが祠堂か?ていうか……この人も誰?)
未だに祠堂到着前と後で性格がまるで違う『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』に面食らい続ける渚。
(とても同一人物には見えねぇ。何だこの態度の変わり様は……)
テーブルに重そうなアタッシュケースを置いて席に着く祠堂。
「はじめまして。祠堂零一と申します。瞳の保護者です。どうぞよろしく」
「はじめまして……と言うのも変ですが、私は―――」
「園藤姫乃。鷺宮女子高等学校普通科3年生。現住所は、鷺宮女子高等学校学生寮。当たってるかね?」
(やはり、姫乃の事を調べてたか!?)
「で、どうだった?『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』を特等席で観た感想は?」
姫乃の眉がピクっと動いた。
「単刀直入に言いまして……人間の手に負える力じゃないですね」
「ほう」
それを聞いた渚が祠堂に質問する。
「て言うか、四大財閥は、自分達の仲違いを防ぐ為にあんな事を繰り返してたのかよ」
祠堂は素直に答える。
「400年前から続く世界最古の豪商の一族。それが財閥だ。戦後GHQに解体させられた事になっているが、[[rb:現在 > いま]]も日本経済は、4つの財閥に支配されている」
祠堂の解説に、姫乃が付け足しを加える。
「各財閥の代表者同士が財界の発言権を賭けて戦う。言わば代理戦争」
祠堂と姫乃達の間でピリピリとした緊張感が漂っている中、客のフリして聴いていた川辺も別の意味でピリピリしていた。

2019年6月17日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会雑務室

「余計な事って誰がよ?」
川辺の質問に対し、陽湖が不機嫌そうに答えた。
「お爺様は、祠堂を野放しにし過ぎです。『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』は彼の遊び場ではないのですよ!」
その言葉に、川辺は[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]参戦者の獣人化を推し進めたのが祠堂零一だと解釈した。
「その獣人作りの名人が、お前達四大財閥に何の用なんだ?」
「決まってるわ。『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』管理局長、祠堂零一の企てよ。あの男にとって『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』とは、研究成果を証明するための実験場に過ぎない。由緒正しい決戦の場を私物化する者を、私は断じて許さない」
川辺は、「貴様等が仲違いせずに日本経済を支配し続ける為だろ」と言ってやりたかったが、祠堂が恐ろしい事をしようとしている様に思えたので、それを飲み込んで換わりに更に突っ込んだ質問をしようとした。
「祠堂は、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』を利用した実験を成功させた後、何をやろ―――」
だが、『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』と交戦中の優牛の咆哮による金縛り騒ぎへの対応に追われる形で退室を余儀なくされる川辺であった。

2019年6月18日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]][[jumpuri:デニーズひばりが丘店 > https://shop.dennys.jp/map/2517]]

(もっと踏み込んだ質問をして欲しかったが、この店の店員の何人かは『仲間』だが、学校と違って此処は『仲間』の数が変動しやすい。ここで[[rb:戦闘開始 > はじめる]]のは得策ではないか?)

「そう言えば、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』を[[rb:円滑に > ・・・]]管理するのも、貴方方管理局の仕事でしたね?」
「それが何か?」
姫乃の舌先が陽湖への処罰に触れた途端、川辺は悔しそうに舌打ちをした。
(くっ!結局、祠堂の最終目標は聞けず終いかよ!?)
「私達が拘留している三門陽湖さんの事ですが、本来なら罪を問う所ですが、ただ殺意を口にしただけであり実行犯になる筈だった谷優牛さんも全く動きませんでした。よって、今回の事は不問に付します。陽湖さんを連れて帰って下さい」
「随分寛大な処罰ですな」
「[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]は、世間が思っている程不自由を強いていませんので」
それを聞いた祠堂が決断する。
「なるほど、そう言う事なら安心して……瞳を預けられるな」
祠堂の言葉に、渚がまた面食らう。
「預けるって、お前の手駒を私達がか?こいつ、一応女だぜ?」
「て、てめえ……何で其処で一応を付けんだよ!」
「普通の女はライオンの前足を噛まねー!」
「『兵士』のクセに平和ボケかよ!」
「てめえみてえな異常者を姫乃から遠ざけんのが私達の仕事なんだよ!」
今度は祠堂が渚と『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』の口論を説き伏せた。
「我々には君達を護る義務がある」
「何故ですか?」
「彼女は、今現在唯一の[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』の出資者だ。彼女に万一の事があれば、君も『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』の参加資格を失う。そうなれば我々も大損だ。是非、協力して欲しい」
完全に飼い犬状態の『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』はふたつ返事で了承した。
「祠堂さんのお役に立てるなら、喜んで……」
「判り易いなてめえ……」
祠堂は、退席際に姫乃に告げた。
「園藤君、君には次の試合でも『出資』してもらう。費用はそのケースの中、今回の『配当金』の一部だ。日時は追って指示する」
そう言って店を後にする祠堂。
一方、相変わらず面食らってばかりの渚。
「配当金って……こんな大きなケースが必要な賞金って……」
「フン。お前の事なんかどーでもいいけど」
「何気に[[rb:非道 > ひど]]いなソレ」
「要は、この金を見張るのが私の仕事だ。持ち逃げしやがったら殺すかんな。覚えておけよ」
「生憎だが、私達が姫乃以外の命令―――」
ケースに敷き詰められた大量の札束(一万円札)を見て、慌ててケースを閉じる渚。
「持てるかあー!?怖すぎるだろ!」

姫乃と祠堂のやり取りを観ていた川辺が、感想を独白していた。
(結局、祠堂の目論見は視られなかったが、なかなか有意義な会話だったと思う)
川辺が注目するのは、姫乃達が座っている椅子と『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』が座っている椅子の違い。
(しかし、姫乃様も人が悪い。姫乃様と渚がいちいち引いたり押したりする1人用の椅子に対して、『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』や祠堂が座ったのは数人用の固定されたソファ。くく……咄嗟に動く時の動きやすさは段違いか?)
姫乃が席を立ったが、出入り口とは逆方向に歩き始めた。
(と言うか……まさか!?こっちに!?)
川辺が慌ててテーブルの下に隠れたが遅かった。
「川辺さん、こんな所で何をしてるんですか?」
照れ臭そうにテーブルの下から出てくる川辺。
「あぁ……バレてました?」
『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』がダメ押しのツッコミを入れた。
「普通解るだろ?」
慌てて取り繕う川辺。
「いや!……姫乃様に仕える『兵士』としましては、姫乃様に万が一の事がありますとね―――」
「嘘付け。[[rb:獅子 > レオ]]の時、お前いなかったじゃねぇかよ」
「え!?なんでそんな……いや、そう言う事じゃなくて!そう言う意味じゃなくて!」
『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』の余計なツッコミのせいで、どんどん泥沼にはまる川辺であった。

第5話:栗原

2019年6月19日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会執務室

渚が、目の前で起こっている出来事に唖然としていた。
「―――それでは、貴女の出願を正式に受理し本校への編入を認めます。[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]の学生に相応しい品行方正な発言と行動に心がけ、清く正しい学校生活に勤しんで下さい。宜しいですね?」
相手が相手だけに、渚は呆然とせざるおえなかった。
「宇崎瞳さん」
「展開……早くね?」
瞳のツッコミに対して、姫乃は平然と答えた。
「いえ、突然の事で少し迷いましたが、『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』管理局の推薦状がありますから、とても無下には出来ません」
それを聞いた瞳が驚いた。
「祠堂さんが!?」
「相変わらず判り易いな!?」
渚のツッコミは無視された。
一方、姫乃は重そうなアタッシュケースをチラ見した。
「で、管理局の方が言っていました次の『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』は、いつ頃になるんでしょうか?」
「と言うか、一口1000万円って何だよ!?しかも、あの中身は、何度数えても1億円じゃねぇかよ!」
「何回数えたって変わりゃしねえよ。暇な奴だな」
渚が手を振りながら否定する。
「いやいやいやいや。こんな物騒な物を渡しておいて、今更平然とされても困るんだよ」
「『兵士』の割には、意外と肝が据わってねえな」
「お前の金銭感覚が可笑しいだけだろ!」
確かに、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]側にとってはあらゆる意味でこのアタッシュケースが怖かった。
ちょっと動いただけで1000万円以上の金が易々と動き、必要とあらば1億円を惜しみなく一括払いで支払える……これだけでも、日本経済を支配する四大財閥が強大無比である事を裏付ける事実と言える。
渚が寒気を感じている中、瞳が転校生特有のありきたりな質問をした。
「で、私の教室は何処だ?」
姫乃がどのクラスかを伝えると、瞳はそそくさと退室した。
渚は、今回の出来事についての疑問を口にした。
「どういうつもり姫乃。あんな奴をこの学校に入れるなんて。どうかしてるよ」
無論、姫乃も無償で瞳を引き取った訳ではない。
「私達の強みは、『兵士』の1人1人が個性を失わず、それぞれの使命を全うする事です。いくら強固に見えても、個性の無い集団は、たった一手であっさり滅びてしまう。1年前のあの時の様に……」
それが、無数の生徒や教師を無差別に殺した『鷺宮女子高銃撃テロ事件』から学んだ事の1つである。
「だから、あえてあの人に、特別な役割を与えたいんです。私に肯定的な人間ばかりでなく、私に明確な害意を持っているという、強烈な個性を持った人間を、そのままの状態で側に置いて置きたいんです」

2019年6月19日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校廊下

姫乃に言われた教室に向かう瞳は、川辺と遭遇する。
「やあ……所で、なんとお呼びすれば良い?宇崎さん?『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』?それとも……瞳さんは流石に馴れ馴れしいか?」
川辺の質問に対し、瞳はあっけらかんとしていた。
「好きにしろ」
「いやいや、連れなくないか?」
だが、たまたま近くにいた[[rb:乃塒押絵 > のどぐろおしえ]]が瞳を見て固まってしまった。
「乃塒さん?どうかした?」
乃塒の顔は赤く、目は瞳に一点集中していた。
「……この御方は……」
いつもとは違う乃塒の様子に、川辺が困惑しながら答えた。
「(多分)今日からこの学校に転校になった……」
瞳が何も答えないので、川辺が慌ててツッコんだ。
「ちょちょちょちょっとちょっと!貴女が答えるのが筋でしょ?」
仕方なく、川辺が答える。
「宇崎瞳さんです」
乃塒の顔は完全に恋する乙女であり、目がハートであった。
「ヒトミ……ちゃん……」
(まさか惚れ……『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』だからな、それだけは無いに決まってるな!)
だが、瞳が自分の編入先のクラスと言うと、乃塒が物凄い表情をしながら絶叫した。
「神様ありがとおぉーーーーーうぅーーーーー!」
勿論教師にも聞かれてしまい、川辺は説明に四苦八苦した。
(何故……こうなる?)

2019年6月19日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校正門

その日の夕方、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]側の小さな悩みの種が今日もやって来た。
「性差別主義者は、この街から出ていけーーッ!」
「ヒメノスピア反対!」
「元の街に戻せー!」
「私達の街を返せー!」
朝の瞳と乃塒との遭遇が起こした騒ぎでうんざりしている川辺は、また来た[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]否定派デモを発見してうんざりした。
「また来たのか?一般生徒が巻き込まれる前に片付けないとな……」
とは言え、毎回の事とは言え物言いや判断がほぼ一方通行相手に生半端な説得は通用しない。川辺もそれは承知の事である故にうんざりしていた。
「……さて……今日はどう説得しようか?」
川辺がうじうじしている間に、乃塒が嬉々として瞳を連れてやって来た。
「え……」
蒼褪める川辺。生物学を趣味としている故の勝手な決めつけがその原因であった。

ラーテル。
イタチ科に属する小型の雑食性動物。体長は60~80㎝。その性質は荒く凶暴そのもの。
体格に大きく差のあるライオンや水牛等の大型動物にも臆することなく立ち向かうため、「世界一怖いもの知らずの動物」としてギネスブックに認定されている。
すなわち、ラーテルは地上最強の小型哺乳類なのである。

(拙い!このまま『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』とデモ隊が激突すれば、デモ隊の敵愾心は更にエスカレートし、最悪、警察沙汰!?な……なんとかせねば!なんとか早急に終わらせねば!)
だが、焦れば焦る程冷静さを失われ、妙案から遠ざかり、無駄に時間を消費した。
そして、とうとう瞳と[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]否定派デモが対面した。
「何だお前等は!?この化物共め!」
(あー!やめろぉー!その『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』に喧嘩を売るなぁーーーーー!)
現れた瞳と乃塒を見てエスカレートするデモ隊を掻き分け、1人のロングコートの女が正門に近づいて行った。
「あの、すいません、少しお時間を頂けませんか?」
「嫌だ」
瞳の即答に、エスカレートするデモ隊。
「無視した?無視したぞ!?」
「汚いぞ!」
「卑怯者ー!」
(やっぱりか?ああ……もうこれ以上刺激しないで……)
ロングコートの女が、瞳の意見を無視してロングコートを脱いだ。
「ちょっと、観て貰いたい物が……」
だが、ロングコートの下はパンティのみの上半身裸であった。
「これなんですけど♡」
露出狂痴女の出現に、流石のヒートアップし過ぎたデモ隊ですら無言で固まった。
「な……何をやってるんだね……」

一方の瞳は、露出狂痴女を無視してある者を指名した。
「栗原さん、いる?」
露出狂痴女の出現に困惑していた栗原は、突然の指名に困惑した。
「なっ!?……何よ……」
「お前の妹さん、姫乃に熱狂的なドルオタ状態に変えられたらしいな?」
瞳の他人事の様な言い回しに、無言で固まっていたデモ隊が猛抗議を再開した。
「そうよ!直美を、妹を返して欲しいだけよ!この高校に入学して以来、毎日毎日ヒメノ様ヒメノ様って、家じゅうにベタベタポスターを貼ったり、自分とヒメノ様の恋愛小説を書いたり……」
姫乃に仕える『兵士』である川辺にとっては、栗原の言い分は耐え難い見当違いに聞こえた。
「その事の何処が悪い!」
「気持ち悪いったらありゃしない!元の直美に戻してよ!」
「ふざけるな!それの何処が罪だ!」
「罪よ!と言うか、あんたに直美の何が分かるのよ!」
「そうだそうだ!」
「平和な街に戻るまで、断固として戦うぞ!」
「おー!」
「おおーッ!」
早々と無視された露出狂痴女が、予想外とばかりに困惑する。
一方、完全にデモ隊をヒートアップさせてしまった川辺が攻撃的になるが、意外にも瞳が制止した。
「待ちな。この話には、続きが有るんだよ」
「知るか!姫乃様に止められていたが、もう無理!ブチ殺してやる!」
「アホか?あいつ等、もっと図に乗るぜ?」
「ぐっ!?」
説得を受けて固まる川辺をよそに、瞳が栗原に語り掛ける。
「だからって、森田や大崎に純情をくれてやるって言うのは、筋違いじゃね?」
「え!?」
瞳の口から出た予想外の言葉に、デモ隊がまた固まる。
瞳に名指しされた大崎が慌てて反論した。
「騙されるな!あの女は『兵士』だ!園藤姫乃の手先だぞ!」
だが、その焦りがデモ隊の猜疑心を刺激してしまった。
「ちょっとあんた!言いがかりにしちゃ慌て過ぎなんじゃないの!?」
更に瞳がダメ押しのツッコミを入れた。
「何で栗原じゃなくて大崎が否定するんだ?」
これだけにとどまらず、瞳が言葉で畳みかける。
「そう言う永井だって、デモ隊から貰った金で合コン開いてるだろ?」
「何だと!?」
瞳に名指しされた永井が慌てて反論した。
「騙されるな!あの女は『兵士』だ!園藤姫乃の手先だぞ!」
だが、その焦りがデモ隊の猜疑心を刺激してしまった。
「どっちが正しいんだ!?それによっては大問題だぞ!?」
後は、デモ隊が見苦しい内紛を行うのを待つだけとなった。
「騙されるな!あの女は『兵士』だ!園藤姫乃の手先だぞ!」
「ちょっと待て!そう言えば、この前の会合の後、2人だけでどっか行ったよな!?」
「そういやあんた、関口さんと温泉行ってたよな?」
「俺達の金を勝手に遊びに使いやがって!」
「放せ!俺に借りた金を返してから言えよな!」
「これの何処が人権保護団体なのよ!?パワハラとセクハラの温床じゃないの!」
デモ隊の見苦しい内紛を行う中、乃塒が胸キュン。
(なんてクールなの……好き……♡)
一方、見苦しい内紛に巻き込まれた露出狂痴女が、予想外とばかりにキョロキョロと辺りを見回す。
その背後に、既に瞳が背中合わせに立っていた。
「やっぱりね。餌を1匹泳がせときゃ、間抜けな[[rb:獣人 > サカナ]]が釣れるとは思ってたけど……こんなに簡単に背後を獲られるなんて、油断し過ぎじゃね?」

ラーテルは、意外にも頭のいい動物として知られる。
飼育下では、木の枝や石・スッコプ・タイヤなど、あらゆる「道具」を用い堀を乗り越え、爪を使って柵の鍵を開け脱出する等、鋭い機転と観察力を窺わせる事例もある。
恐れを知らず何にでも興味を持つ性質は、無謀な行動のみならず、時に、機知に富んだ戦略を生み出す。

(な……あのデモ隊が、完全に『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』の手の平……)
だが、追い詰められている筈の露出狂痴女が邪な微笑みを浮かべた。
(なんだこの余裕……背中……ハッ!こいつまさか!?)
川辺は嫌な予感がした。

第6話:粗科涼子

2019年6月19日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校正門

露出狂痴女に擬態し、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]否定派デモまで利用して園藤姫乃に近付こうとした謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]に対し、宇崎瞳が[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]管理局から得た情報を武器にデモ隊を翻弄してその隙に謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]と背中合わせとなった。
「やっぱりね。餌を1匹泳がせときゃ、間抜けな[[rb:獣人 > サカナ]]が釣れるとは思ってたけど……こんなに簡単に背後を獲られるなんて、油断し過ぎじゃね?」
だが、川辺は宇崎のこの行為が正しいとは思えなかった。
確かに、普通の人間なら背中は致命的な弱点となろう。だが、野生動物が相手だとそうとは限らない。寧ろ、背中に武器や防具を搭載している動物はうようよいる。
例えば、ハリネズミだ。
背は体毛が変化した棘で被われる。針のようなトゲは、体毛の一本一本がまとまって硬化したものである。これにより敵から身を守る。
もし、謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]に与えられた力がハリネズミなら……
「油断?」
謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]のこの言葉に、宇崎も川辺も嫌な予感がした。
その直後、謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]の髪の毛は硬質化した巨大な針に変化し、さらに体中に無数の針が生える。
宇崎が慌てて飛び退き無傷で脱した。
(こいつ。背中からも針を……)
「背後を取った?笑わせる」
川辺は、謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]の針の大きさに歯噛みした。
「ハリネズミ系の中で最悪な奴が来やがった!」
「私にとって、其処は死角じゃない。むしろ、最も攻撃しやすい[[rb:位置 > ポジション]]」
謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]の獣化に巻き込まれて右太ももに巨大な針が貫通してしまった青年が、正体を現した謎の[[rb:獣闘士 > ブルート]]を見上げた。
「全身武器。それがヤマアラシ」
「よりによって……ハリネズミ系の中で1番凶暴な奴が!」

ヤマアラシの針は防御の為ではない。ヤマアラシの針は攻撃用の武器である。
ハリネズミやハリモグラなどと形態が似るものの、全く別種であり、針の使い方も大きく異なる。
外敵に出会うや否や、足を踏み鳴らし威嚇。全身の針を逆立たせ、前後を問わず突進。その猛攻は凄まじく、狩りに慣れた肉食獣ですら、数頭がかりでも持て余す始末。
迂闊に噛みつけば無数の針を顔面に受ける事になり、その洗礼を受け、針が口元に刺さったまま暮らすライオンや、無残にも顔中針だらけになってしまった犬など、ヤマアラシの武勇を示す事例は数多い。

「[[rb:獣闘士 > ブルート]][[rb:蜜獾 > ラーテル]]。お前の情報を聞き出した後、[[rb:園藤姫乃 > パトロン]]を殺して『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』の参加資格を奪う手筈だったけど……」
校門越しにいる川辺を背にして宇崎の方を向く[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「本人を殺っちゃえば手間が省ける」
邪な微笑みを浮かべる[[rb:山荒 > ラウディ]]。
だが、宇崎は余裕であった。
「心配すんな。武器の多さなんて関係無い」
あの口癖を放ちならが獣化する宇崎。
「牙の鋭い方が勝つ。それが『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』だ」
ここで、内輪揉めに没頭していた[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]否定派デモが[[rb:山荒 > ラウディ]]の獣化に漸く気が付いて、一目散に蜘蛛の子を散らす様に我先にと逃げ出した。
「うわあぁー!化け物だぁーーーーー!」
一方の川辺は、デモ隊のあまりの反応の遅さに呆れていた。
「……遅っ」
しかも、逃げ惑うデモ隊の姿は、信念も尊厳も慈悲も無い自分勝手な見苦しいものであった。
「何……これ?暴徒化したデモの方がまだマシだわ」
自分勝手なデモ隊参加者のあまりの見苦しさに目を奪われていた川辺であったが、その間にも[[rb:山荒 > ラウディ]]と宇崎の戦いは続いており、逃げ惑うデモ隊も御構い無しに大技を繰り出そうと大ジャンプをする[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「ライオンすら畏怖嫌厭する、ヤマアラシの猛攻!」
「は!?あの馬鹿共正気か!?」
「凌げるものなら凌いでみろ!」
空中から無数の針を発射する[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「必殺……[[rb:山荒嵐 > ラウディストーム]]」
宇崎があまり動かずにもろに受けてくれたお陰で、発射された針は思ったより散らばらなかったものの、下手をすればデモ隊も巻き込まれて死者すら出る可能性もあった。

「拍子抜けだわ。[[rb:獅子 > レオ]]に勝ったってのも単なるバカヅキだったみたいね?」
闘いに巻き込まれたデモ隊を全く無視して大技を繰り出し、しかも宇崎しか見ていない[[rb:山荒 > ラウディ]]の言動に激怒する川辺。
「待てェ!」
「あら?愉しませてくれるの?」
『針』を露出して威嚇する川辺。
「姫乃様に楯突いていたとはいえ、彼らも[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]の住人だった。姫乃様に仕える『兵士』としては、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]の住人を利用してしかも殺そうとするなんて……見過ごせると思う!?」
校門を掴んで跳び越えようとする[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「生身の場合だと……10本刺しても死なない奴がいたわ。それが最高記録。フフ、あなたは何本いけるかしら?」
「知るかぁー!お前が一撃死しろぉー!」
「そんなところで何をしてるんですか?川辺さん」
背後から聞こえる聞き慣れた声に、川辺が涙を浮かべながら喜んだ。
「ひ……姫乃様ぁ!」
無数の『兵士』を引き連れながらやって来た姫乃を見て、[[rb:山荒 > ラウディ]]が吹いた。
「プッ!これが園藤姫乃?警視総監を無職にした程の大物だって聞いていたからどんなんかと思えば……思ってたより……地味ね?」
『兵士』達が[[rb:山荒 > ラウディ]]の傲慢な言葉を聞いて不機嫌になる中、姫乃が[[rb:山荒 > ラウディ]]に質問した。
「あなたは何者ですか?」
[[rb:山荒 > ラウディ]]がまた吹いた。
「プッ!何?その暢気な質問?馬鹿じゃないの?」
其処へ、藤本が現れて[[rb:山荒 > ラウディ]]に警告する。
「此処は……退いた方が賢明ですな。貴女がどれ程の力を持っているのか知りませんが、これだけの数を1人で相手にするのは―――」
一方の[[rb:山荒 > ラウディ]]は余裕の表情を崩さなかった。
「賢明じゃないとでも?私の後ろにある物を診てから言って欲しいわね」
だが、藤本は懲りずに質問をした。
「ハリネズミさん」
漸く不機嫌になる[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「ヤマアラシだ!あんな[[rb:雑獣 > ザコ]]と一緒にするな!」
だが、藤本は懲りずに質問をした。
「ミツバチがスズメバチを殺す為に形成する熱殺蜂球に必要な数がどのぐらいか、ご存知ですかな?」
[[rb:山荒 > ラウディ]]が余裕の表情を取り戻して吹いた。
「プッ!何なのこのボケ老人?」
「答えは、数百匹。ですが、問題はそこではありません。蜂球形成の過程で、最初にオオスズメバチに飛びついた中心部のミツバチは天敵の大顎によって噛み殺されてしまい、その数は20匹以上に及ぶこともあります。しかし、犠牲を払いながらも蜂球により天敵を熱殺することで、巣内の何万匹ものミツバチの命が守られます」
「で?」
「つまりですね……」
『兵士』達の殺気を感じた藤本が結論づける。
「相手がどんな武器を持とうが、『兵士』は必ず襲い掛かります。貴女が巣と『女王』の敵である内はですがね」
其処へ、何者かが走る音が響いた。
「貴女がもたもたしていますから、ほれ、どんどん取り囲む『兵士』の数が増えていきますよ?」
だが、来たのは[[rb:刺又 > さすまた]]で武装した[[rb:乃塒押絵 > のどぐろおしえ]]であったので、川辺がズッコケた。
「糞ハリネズミー!ヒトミちゃんの仇だぁー!」
「ヤマアラシだ!あんな[[rb:雑獣 > ザコ]]と一緒にするな!」
川辺が慌てて乃塒を取り押さえた。
「何やってんの!?『兵士』じゃないあんたが敵う相手じゃないって!」
「放して!私がヒトミちゃんの仇を討つの!」
そんな乃塒に声を掛ける姫乃。
「其処を何とか譲って欲しいのですが」
だが、乃塒は譲らない。
「はあああああ!?そんなわけないでしょおおお!これは、私とヒトミちゃんと糞ハリネズミの問題よ!部外者は黙ってなさいよ!」
「ヤマアラシだ!あんな[[rb:雑獣 > ザコ]]と一緒にするな!」
川辺は困惑した。
「何……この支離滅裂なやり取りは……?」
そんな中、姫乃が何かを発見して凝視した。
「あれ?」
「姫乃様?」
「宇崎さん?何でこんな所で寝てるのですか?」
[[rb:山荒 > ラウディ]]が余裕の表情を取り戻して吹いた。
「プッ!何?このおマヌケ?居眠りと死体の―――」
その時、宇崎がわざとらしくあくびをした。
「ふあー……」
[[rb:山荒 > ラウディ]]の時間が止まった。

「んー……いい感じにツボが刺激されたわ。気持ち良くなった」
自慢の必殺技がいとも簡単に破られて困惑する[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「ツ……ツボ……」
そして、必死に弁明する[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「ちょ、ちょっと待て![[rb:山荒嵐 > ラウディストーム]]の斉射を受ければ、鋼鉄だってボロボロになるんだぞ!それをお前、まともに食らって、何でピンピン―――」
対して、宇崎は余裕だった。
「何言ってんだ?こんなモンが、私の毛皮を徹るわけないだろ」

ラーテルの甲皮は、分厚く柔軟性に富んだ天然の装甲。
ライオンの牙も爪も徹さない程の頑丈さを持ち、この甲皮を貫き物理的なダメージを与える事の出来る武器は、自然界には存在しない。
事実、ヤマアラシが縄張りの侵入者に対し、威嚇と針による攻撃を試みるものの、全く意に介さず食事を続けるラーテルの姿が目撃されている。

自慢の必殺技を否定されて時間が止まる[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「……バ……バカな……在り得ない……こんな事……」
一方、乃塒は[[rb:蜜獾 > ラーテル]]の超規格外の耐久力に惚れ惚れしていた。
「た……たくましい……好き」
「いやいやいやいや。たくましいか否かの問題を大きく超えてるから」
そして、姫乃を殺す為に跳び越えた校門を再び跳び越える[[rb:山荒 > ラウディ]]。宇崎の息の根を止める為に。
「ありえない……ありえなぁーーーい!」
川辺が戦況を冷静に分析して、[[rb:山荒 > ラウディ]]が既に終わっている事を悟った。
「ヤマアラシが完全に冷静さを失ってる!やったか!?」
だが、[[rb:山荒 > ラウディ]]を倒したのは、宇崎でも姫乃でも『兵士』でもなく、太鼓腹の巨漢のタックルであった。
「こげな細か針、おいの脂肪の前には爪楊枝同然たい。獣化するまでもなか」
新たなる敵の出現に、服部渚が喚く。
「おいおいおい!全然やってねぇじゃねぇか!それ所か、第2ラウンド開始じゃねぇか!しかも、あのデカブツ、間違いなくさっきの剣山女より強えぇじゃねえかよ!」
太鼓腹の巨漢が宇崎を発見して声を掛けた。
「おはんが、[[rb:蜜獾 > ラーテル]]じゃっとが?」
現場にいる者全員に緊張が走る。
(やはり……此奴の狙いも宇崎か)
「ああ?だったら何だよ」
「そげか……じゃっどん、こげな可愛か[[rb:女子 > おなご]]が、あの[[rb:獅子 > レオ]]ば倒しよるとはのう。ふっふっふっ」
宇崎が臨戦態勢を取る。
「だから何なんだよてめえは?殺すぞ」
だが、皆の予想に反して、太鼓腹の巨漢が突然土下座した。
「お頼み申す!おい達の陣営に、力ば貸してほしかと!」
太鼓腹の巨漢の予想外の言葉に、『兵士』達がどよめく。
「これって……もしかして……」
「スカウト?それとも、引き抜き?」
「どっちにしろ、この人は宇崎さんの敵じゃなさそうね?」
そんな中、姫乃が指示を出す。
「取り敢えず、この人達を中に入れましょう。あと、村上さんを呼んで下さい。警察にこの[[rb:獣闘士 > ブルート]]を逮捕させます」

第7話:村上綾

2019年6月19日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校保健室

露出狂痴女に擬態し、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]否定派デモまで利用して園藤姫乃に近付こうとした[[rb:山荒 > ラウディ]]を撃破したが、デモ参加者の中に闘いに巻き込まれてけがをした者がいる上に、突然現れた太鼓腹の巨漢が宇崎瞳をスカウトしにやって来たのだ。
宇崎と[[rb:山荒 > ラウディ]]の戦いに巻き込まれて足を怪我したデモ参加者の青年の治療を手伝う太鼓腹の巨漢。
「こいでよか。薩摩焼酎は消毒になりもす。骨にも異常ありもはん。まず問題なかと。じゃっどん、明日は病院に行った方がよかと。[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]指定の専門医を知っとりもす。紹介するでごわんど」
そんな中、宇崎が質問する。
「で、お前誰?」
太鼓腹の巨漢が再び土下座する。
「自己紹介が遅れもした。おいの名前は岡島壱之助。石田財閥所属の[[rb:獣闘士 > ブルート]]でごわんど」
姫乃が岡島に質問した。
「つまり、宇崎さんに所属を変えろと?」
だが、宇崎の口から意外な言葉が出た。
「所属?何の事だ?」
保健室の時間が一瞬だけ止まった。
「……知っての通り[[rb:獣闘士 > ブルート]]は、[[rb:三門 > みつかど]]、[[rb:八菱 > やつびし]]、[[rb:角供 > すみとも]]、石田、四大財閥いずれかに属するのが通例―――」
「何で?」
保健室の時間が一瞬だけ止まった。
「み……味方は多い方がよかと。[[rb:山荒 > ラウディ]]は八菱の所属。ごわんでおい達と組めば、奴らもそうそう好き勝手はできもはん。園藤殿の身の安全のためにも―――」
「うるせぇ。味方なんていらねぇし、どこにも属さねぇ」
宇崎と岡島の自分勝手なやり取りに、服部渚が呆れ果ててしまった。
「たった1人で何が出来る?」
渚の言葉に不快感を懐く宇崎。
「私の実力疑ってんのか?殺すぞ」
「馬鹿はお前だ。それとも、お前1人で私達全員を殺せるのかよ?」
岡島は渚の意見に賛成だった。
「確かにおはんは強か。じゃっどん、このままでは敗けもす。天賦の才だけで生き残れる程、[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]は甘くはなか」
一方の宇崎は、岡島の説得を聞くどころか、寧ろ更に不快感を強めた。
「てめぇ、誰に向かって説教してんだ。闘んのか?ああ?」
宇崎と岡島の自分勝手なやり取りのせいで、宇崎が谷優牛に勝利した理由がますます解らなくなった。
「呆れた……本当に救い様が無い馬鹿だな」
だが、姫乃の一言で事態は一変した。
「宇崎さん、そろそろ祠堂さんに、正門での出来事について報告した方が宜しいのでは?」
「え?祠堂さんに!?」
祠堂の名を出されて慌てて保健室を出る宇崎。
宇崎が保健室を出るのを確認した姫乃は、恋する乙女の様な感じでボーっと立っていた[[rb:乃塒押絵 > のどぐろおしえ]]の眼前に歩み寄った。
「まさかと思いますが……今の宇崎さんの姿が孤高に見えましたか?」
姫乃の乃塒への予想外の質問に、渚が驚きの声をあげた。
「ええぇー!?」
一方の乃塒は、完全に恋する乙女と化して全く聞いていなかった。
(あぁ……なんて神々しさ……好き―――)
乃塒が、宇崎と岡島の自分勝手なやり取りを自分の都合良く解釈していると判断した姫乃は……
突然、刃物が壁に突き刺さる音が聞こえたので、渚と岡島とデモ参加者の青年が音がした方を視た。
刃物の正体は姫乃の秘部から出て来た『女王』の『針』であった。姫乃の『針』が乃塒の真横の柱に刺さっていた。
「乃塒さん、貴女が誰を好きになっても構わないと言いたい所ですが、岡島さんの言う通り、宇崎さんの[[rb:命 > じかん]]は残り少ないです。宇崎さん自らの手で」
姫乃の警告の意味を正しく理解した乃塒は、あからさまに不満と不機嫌を露にする。
「園藤!あんたの目は節穴!?」
「何だとてめえ!?」
姫乃は無言で渚を制止させた。その間も、乃塒は姫乃や岡島への文句を口にしていた。
「園藤もそこのデブも、全然現実が見えてない!ヒトミちゃんは強いの!無敵なの!」
姫乃も一歩も引かない。
「それは、1対1の時の話で、1対多数や多数対多数は含まれていません。まあ、岡島さんとのやり取りを視る限りだと、多数対多数での宇崎さんの実力は、たかが知れていますけど」
乃塒の顔が、先程岡島に喧嘩を売った時の宇崎と全く同じになった。
「てめぇ、誰に向かって説教してんだ。闘んのか?ああ?」
姫乃は、渚が動き出す前に渚に宣告した。
「動かないで!私は大丈夫ですから」
「ひ、姫乃!?」
其処へ、宇崎が保健室に戻って来た。
「ん?どうしたんだ姫乃?そんな物騒なもん出して」
先程までの不機嫌は何処へ行ってしまったのか、岡島を発見した宇崎が、万遍の笑顔でこう告げた。
「分かった。協力する!」
先程までの態度からは想像出来ない言葉に、一同が驚いた。
「え?」
「石田には所属しないけど、臨時雇いって形で仮登録するわ。んで、次の[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]には石田の[[rb:獣闘士 > ブルート]]として出場する。それでいいよね?」
確かに予想外ではあったものの、取り敢えず一応了承を得たので深々と頭を下げる岡島。
「も……勿論!そいでよか。あいがともさげもす!」
姫乃が祠堂の名を出した後の宇崎の言動に呆れる渚であった。
(本当に……解り易いなこいつ……)
因みに、謝罪の仕方で悩み、睡眠時間を削る動物は、人間だけである。
「どーしよーかなー?なんて返そうかなー?」

2019年6月19日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校正門

一方、警察は[[rb:山荒 > ラウディ]]の護送方法が全く思い浮かばず困り果てていた。
「まったく……さっさと獣化とやらを解いてくれねぇかなー……」
遅々として話が進まない事に不快感を露にする女性刑事。
しかし、岡島に敗れた[[rb:山荒 > ラウディ]]が完全獣化状態のまま気絶してしまった為、背中にびっしりと無数の針が生えたままなのだ。
更に、川辺が物凄い事を言い始めた。
「そいつ、今獣化解除したら、全裸だよ」
「……マジか?」
「事実だよ。此奴、完全獣化すると着ていた服を背中の針で破いちゃうみたい」
「で、この毛皮みたいな下着は?」
「獣化した時だけ生えるみたいね?」
女性刑事は、煙草を銜えながら頭を抱える。
「かぁー……随分警察泣かせな通り魔様だな」
其処へ、岡島と宇崎のやり取りを見届けた姫乃がやって来た。
「やはり……まだ運べないんですね?」
「ああ。背中の馬鹿デカい剣山が邪魔で、パトカーに叩き込めない。本当に迷惑だよ」
姫乃がふと[[rb:山荒 > ラウディ]]に言われた言葉を思い出した。
「所で村上さん、この方が、まるで私が警視総監を解雇したかの様な事を言っていましたが……」
女性刑事がサラッと事実を口にした。
「土岐田なら、警察から追い出されたよ。表向きは依願退職だが……間違いなく懲戒免職だなアレは」
その言葉で、公安警察がまだ自分の打倒を諦めていないと悟った姫乃。
「やはり!」
とは言え、警視総監の[[rb:妻や娘 > ・・・]]からの定期報告が滞ってるので、ある程度は予想していた。
「と……なりますと、また新たな『仲間』が必要になりますな?」
「確かにな……一介の刑事が手に入れられる情報は、決して多くないからな」
悔しそうに歯ぎしりする姫乃。
其処へ、1人の男性がやって来た。
「誰だお前?」
「身元引受人です」
「引き受け?この剣山の事か?」
男性は、複数のパトカーを見て疑問を口にする。
「この喧騒は何です?隠密に処理して欲しかったのですが、事件を喧伝する様な真似をすれば、四大財閥だって黙ってはいない筈ですよ?」
姫乃は男性のこの言葉を真っ向から否定した。
「いえ、今回の戦いに巻き込まれた方やご家族の無念を思えば、警察に届け、公式に捜査してもらうのが、当然の―――」
件の青年が、何故か警察がうようよいる正門にいて、自分を指差していた。
「……俺?」
呆れる川辺。
「……何でいるの?」
「道に迷ってしまって」
「でしたら、案内してもらえば良かったのですが」
気まずそうに頭を掻く青年。
「でも、理由はどうあれ、皆さんの敵の所に居ましたし」
女性刑事が不機嫌そうに言う。
「敵……か……」
そして、[[rb:山荒 > ラウディ]]の身元引受人を名乗る男に文句を垂れた。
「すっとぼけてんじゃねえよ」
「何の事で?」
「川辺の証言によると、宇崎が姫乃を否定するデモ隊に関する随分余計な事を知っていたそうだ」
「それと私に何の関係が?」
「全部お前達が用意した茶番なんだろ?宙ぶらりんだった宇崎を石田に放り込む為の」
しらばくれる男性。
「それで、そんな事をして八菱に何の利益が?」
確かに、石田が宇崎を手に入れて得をするのは石田だけの筈だ。だが、それでも今回の騒動の背後に何かがある気がして仕方がないのだ。
「てめえ……今ここでハジいてやろうか―――」
だが、姫乃が喧嘩腰の女性刑事を制止させた。
「村上さん、下がってください」
このままでは新たな戦いが始まりそうだったので、青年はとんでもない事を白状した。
「あのー、すいません。例のデモの事なんですが」
「四大財閥に体よく利用されたデモ隊がなんだって?」
「俺……ただのバイトなんです」
青年の予想外の言葉に、姫乃の目が点になる。
女性刑事が姫乃の代わりに青年を問い詰めた。
「バイト?何の事だ?」
「俺……あのデモ隊の事は……ぶっちゃけ、あんまり知らないんです。ただ、周りの連中のオウム返しをしてるだけで、高額なバイト代が貰えると聞いただけなんで」
そして、青年が土下座した。
「だ、だから……その……ご、ごめんなさい!何も知らなかったんです!まさか、デモ隊の人数稼ぎだったなんて!」
これには、川辺と女性刑事が大笑い。
「あはははは!あははははははッ!あいつ等、散々偉そうな事言っておいて、既に人材不足だったのかよ!?」
「あッははは、お腹痛い!しかも、四大財閥が余計なカミングアウトをやらかしたせいで、お互いの醜い本性が見えてしまった。暫くデモ隊の人間関係荒れるわ!」
姫乃は、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]否定派デモを諫言の心算で放置していた。だが、蓋を開けてみればこの様である。
なぜ自分はあのデモ隊を生かしておいたのか、ますます解らなくなった姫乃であった。

[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]否定派デモの醜い本性が明らかになり、川辺と女性刑事が大笑いしていたが、そのタイミングで女性刑事の携帯が鳴った。
「フヒヒヒ!はい!もしもし!ケヒヒ!」
だが、電話の相手が相手のせいか、途端に真顔になって不機嫌になる女性刑事。
悔しそうに携帯の通信を切る女性刑事を見て、次の言葉が大体予想出来た姫乃。
「村上さん……もしかして……」
「……釈放だ。そいつを八菱に返せ……だとよ」
「四大財閥が、警察に圧力をかけたか!?」
女性刑事が煙草の灰を[[rb:山荒 > ラウディ]]の額に落とした。
「熱いーーーーー!あちあち!」
「やっと起きたか?喜べ剣山女。家に帰れるぜ」
[[rb:山荒 > ラウディ]]が宇崎や姫乃の事を思い出して慌てて臨戦態勢を取るも、[[rb:山荒 > ラウディ]]の身元引受人がそれを否定した。
「もう遅いよ。君の負けだ」
負けを宣告されて困惑する[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「私が[[rb:蜜獾 > ラーテル]]如きに敗けた!?……そ……そんな筈無い!私はまだ戦える!お前だって[[rb:山荒嵐 > ラウディストーム]]の威力は知ってる筈だろ[[rb:麒麟 > ジラフ]]!?」
それに対し、身元引受人は冷酷に事実を口にした。
「さっきまで寝てたのにかい?少なくとも、君は分単位で落ちていた。それが、[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]では何を意味するのか……知らない君ではあるまい?」
現実を思い知らされ、力無く座り込む[[rb:山荒 > ラウディ]]。
「お……おぉおー……」
「これが敗者って奴か……哀れだな……」

2019年6月19日  東京都千代田区霞が関二丁目1番1号。警視庁本部庁舎警視総監室

警視総監が溜息を吐きながら椅子にもたれかかる。
「フウゥー……村上警部補は、此方の指示通りに彼女を釈放するそうです?」
1人の男性が、警視総監の目の前でソファーに座った。
「これで……良かったのですかな?岩崎さん」
「ええ。今の所は」
警視総監は、岩崎の目的が全く読めなかった。
「私は、[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]や[[rb:獣闘士 > ブルート]]と言うものが何なのか全くわからないので、チャンピオンである[[rb:獅子 > レオ]]がどれ程の実力者か判りませんが、それでも、チャンピオンはチャンピオン。それに勝利する程の将来性を持つ新人を、むざむざと他の陣営に明け渡すのは―――」
警視総監が喋り過ぎだと感じた岩崎は、脅しの言葉を掛けた。
「あまり変な事を言わない方が宜しいのでは?おしゃべりが過ぎると、警視庁公安部第6課が特定遺伝子組換改革法を使って何を始めようとしているのかが、園藤姫乃に気取られる恐れがありますよ」
その言葉に、警視総監が蒼褪める。
「待ってくれ!止めてくれ!あの計画が実行される前に園藤姫乃にバレて何らかの対策を取られたら、前任の土岐田同様に私の首が飛ぶ!」
笑って誤魔化す岩崎。
「ははは、冗談ですよ」
「心臓に悪い台詞だ!」
岩崎は、取り敢えず警視総監の疑問に答えた。
「さっき貴方が言ったのと同じですよ。ある人物にある計画を悟られない様にする為の遠回りですよ」
警視総監の疑問が増えた。
「ある人物?園藤姫乃か?」
「いいえ、[[rb:蜜獾 > ラーテル]]や園藤さんは、既に[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に巻き込まれていますので、今は警戒する必要はありません」
「では、誰……」
と言いかけて止めた。下手な事を言えば、岩崎が本当にあの計画を姫乃に密告しそうなので。
替わりに[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]に関する警告をした。
「岩崎弥芯さん、八菱財閥を失いたくなければ、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]壊滅や園藤姫乃打倒にもっと本腰を入れるべきです」
岩崎は、鷺宮女子高銃撃テロ事件の様な大々的な警察不祥事をまた起こす気かと言ってやりたかったが、馬の耳に念仏だと思って、適当にあしらいながら退室した。
([[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]が滅びる……か。勝ち負けの本当の判断基準を知らない者では此処までが限界か?そんなんだから『蜂』は、貴方方に尻尾を振らずに敵対するのですよ)

2019年6月19日  東京都千代田区霞が関二丁目1番1号。警視庁本部庁舎正面玄関

複数の部下が岩崎を待っていた。
「会長、新任の警視総監は如何でしたか?」
岩崎がバッサリと切り捨てた。
「駄目だね。1年前に園藤に殺された黒田二郎とか言う男と同様、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]の真の存在価値と言うものがまるで見えていない。遅かれ早かれ、彼らは1年前の様な負け方をした方が良い」
岩崎が話題を変えた。
「所で、[[rb:蜜獾 > ラーテル]]や園藤さんがちゃんと[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に参加出来る様にしてあるかね?」
「は。三門と角供が余計な真似をしたので少々苦戦しましたが、石田が既に3人目を手に入れてますから、無事に参戦出来るでしょう?」
「上出来だね」
「は」
そう言うと、岩崎達は足早に警視庁を去った。

第8話:乃塒押絵

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校屋上

かつて西東京市と呼ばれ、今はバチカン市国の様な特別自治区となっている[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]。
そこは、『女王』園藤姫乃が生み出した『兵士』達によって管理されている。
『兵士』は、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]のあらゆる場に溶け込み、効率的に住人を監視している。
そして、何か問題が起きれば、その解決に如何なる手段も努力も惜しまない。
何故ならば、『兵士』にとって、巣の安定を維持する事が『女王』に対する忠誠であり、生きる意味そのものだからだ。
その為、適当に『兵士』を挑発していれば、次の[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]を待つ間の生活を飽きさせない……宇崎瞳はそう思っていた。
だが、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]では問題を起こさせないと言う『兵士』達の意志の強さを侮っていた。
現に、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]の犯罪率は奇跡的に低い。通りのベンチでスーツ姿のOLが白昼堂々と授乳しているのがその証拠と言えよう。
それでも、『女王』に巣の管理と警護を押し付けられた『兵士』が、憂さ晴らしの為に裏で喧嘩……とも思った。
けど、ある日に見たある出来事が、宇崎の予想を裏切った。

2019年6月21日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校3年A組

姫乃を支える最初の『兵士』である服部渚が、どう言う訳か姫乃を突き飛ばしたのだ。
宇崎は、渚がとうとう刑務所の囚人の様な生活に耐え切れずに反旗……と思いきや……
「ポッキーって、こんな精神の堕落と体重増加を美味しいだけのお菓子なんか、姫乃に相応しくない!」
宇崎は呆れた。単なる過保護ゆえの暴走だったのだ。

ミツバチの女王は、生涯を通じて口移しで働き蜂から食事を与えられる。
その際、女王が口にするのは、働き蜂の体内で精製された、非常に栄養価の高い発酵食品である。

「姫乃に相応しい棒状のバランス栄養食!それは、森谷製菓のエネルギーinシリアルバープロテイングラノーラ!」
もう此処まで来ると、何がしたいのかが全く解らない。何らかのお菓子を口に銜えているので、ポッキーゲームがしたいと言うのは大体解ったが……
「あ、あの……」
「食べろ!」
「何だか物凄く趣旨と違ってきていませんか!?」
「早く食べろおおお!」
宇崎は、これ以上観ても何の得も無いと思い、その場を離れた。
「……アホだ」
だが、姫乃に対してやや暴走気味な愛情を懐いている渚に呆れる宇崎を偶然発見した川辺が独白する。
(君の隣にも……愛情超過剰な奴がいるんだよ……気付かないか?)

2019年6月24日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校1年B組

彼女の名前は[[rb:乃塒押絵 > のどぐろおしえ]]。
趣味は、同級生・宇崎の観察である。そして、スマホで宇崎の顔の写真を撮り続けていた。
「ヒトミちゃん、もう放課後よ。甘い物食べに行こ」
乃塒の言葉に、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]に漂う安寧に耐え切れずに寝ていた宇崎が目を覚ました。
「んあ?甘いモノ?」
「こっちこっち。良いお店見つけたよ」

2019年6月24日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]HBショップKUE NAIYA

メープルシロップパンケーキ(ドリンク付)¥800(税別)を美味そうに食べる宇崎をスマホで撮り続ける乃塒。
(きゃああああああ♡何て幸せそうな[[rb:y表情 > かお]]なの。普段はあんなにぶっきらぼうで不愛想な癖に、可愛すぎる)
そして、乃塒の独白は、渚が懐く姫乃に対してやや暴走気味な愛情によく似たモノへと変異していく。
(あーーーーー……結婚したい♡)

ノドグロオミツシエ。
蜂の蜜や幼虫、巣そのものが大好物。
蜂の巣を発見する能力に長けるが、自力で地中から掘り起こす事は出来ない為、同じ蜂蜜には目がないラーテルを巣の在り処まで誘導し、ラーテルの食事の脇からおこぼれに与るという共生関係が成り立っている。

「超うめーよコレ。お前も食ってみ」
だが、乃塒は宇崎の顔を写真で撮る事に夢中であった。
「私は良いから、もっと食べるトコ見せて!」
宇崎は、乃塒が言ってる意味が解らないが、それでもパンケーキを乃塒に食わせた。
「何言ってんだ?ホレ」
「あむ」
「な、美味いだろ?」
だが、
(ヒ……ヒトミちゃん……)
「好きいいいい♡」
「うわヤメロ!?抱き着くな!」
因みに、乃塒は獣人でも何でもない。

2019年6月25日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会執務室

体育教師の荒水巌から苦情が来た。
「園藤君、この前の転校生の事なんだが」
渚が嫌な予感がした。
「あの野郎、何かしでかしたか?」
「それだけじゃない!他の生徒に校則違反を促したのだ!」
荒水の証言に、姫乃も聞き捨てならなかった。
「その話……詳しくお聞きしたいのですが!」

2019年6月25日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校付近

(今日の体育は、校外マラソンの練習です。皆がうだってる中……ヒトミちゃんだけは元気です)
「はー、無意味にダラダラ走んの楽しいなー♪」
「ひゃ、100%共感不能ー」
乃塒は、目の前に物凄い物がある事に気が付いて、それを指差した。
「はっ!ヒトミちゃん、見て見て!」
それは、古びた今にも壊れそうな自動販売機であった。
「超古い自販機に見た事ないジュースがあるよ!」
「な、何だこりゃ!?」
宇崎は、自販機の品揃えを視て更に驚いた。
「緑色だぜ。[[jumpuri:マウンテン…… > https://products.suntory.co.jp/d/4901777045682/]]何?山?」
乃塒は、取り敢えず買ってみる事にした。
「うお。何でお前金持ってんの?」
「やった!買えた!」

ミツオシエという鳥は、ラーテルを甘味処へ導くため、いかなる時も注意を怠らない。

見た事の無いジュースを飲む宇崎。
「ヒトミちゃんどう?山の味する!?」
が、宇崎の口元から垂れたジュースを観て、乃塒の脳裏に[[jumpuri:邪な考え > http://livedoor.blogimg.jp/anico_bin/imgs/3/0/30ac2583.jpg]]が浮かんだ。
その時、荒水が宇崎と乃塒がサボっている事に漸く気が付いた。
「コラー!お前ら!」
[[jumpuri:逃げる宇崎と乃塒。追う荒水。 > http://livedoor.blogimg.jp/anico_bin/imgs/1/f/1f046024.jpg]]
「お前ら!授業中だぞ!」
「逃げろ!」
「待ってー!」
「待てー!」
乃塒はただの女子高生であり、獣人でも何でもない。
その為、乃塒はあっさり荒水に捕まった。

2019年6月25日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会執務室

荒水の証言を聞いて、川辺が右掌を顔に当てながら溜息を吐いた。
「先生……逆です……」
「逆?」
「[[rb:蜜獾 > ラーテル]]の校則違反を誘導したのは、乃塒さんの方なんですけど」

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校1年B組

スマホで何かを検索していた乃塒が絶叫した。
「なんだってー!?」
周りが驚き、川辺が呆れた。
「[[jumpuri:iPS細胞で同性間でも子供を作ることが可能に!? > https://girlsjamboree.tumblr.com/post/148451920594/%E7%B6%9Aips%E7%B4%B0%E8%83%9E%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%81%AE%E3%81%A7%E5%90%8C%E6%80%A7%E3%81%AE%E9%96%93%E3%81%A7%E3%82%82%E5%AD%90%E4%BE%9B%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%84%E3%81%A7%E3%81%99]]」
まるで漫画の様な事を言い出す乃塒に絶句する川辺。
「それって私とヒトミちゃんの赤ちゃんも作れるってこと!?」
(冗談でしょ?)
「素晴らしい!エクセレント!最新医学万歳!」
(その最新医学が、[[rb:獣闘士 > ブルート]]や[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]を生み出したんですけど)
乃塒は、少しだけ冷静になった。
「でも、私子育てなんてできるの?」
(え?ツッコミ所其処?と言うか、産むの前提!?)

ミツオシエ科の繁殖形態は卵生。
確認されている限りでは樹洞を巣にする鳥類の巣に、1回に1個の卵を産む(托卵)。孵化した雛は宿主の卵を破壊したり雛を殺して、宿主から与えられる食物を独占する。

だが、乃塒の決意は固かった。
「ううん!大丈夫!ヒトミちゃん!私と一緒に!幸せな家庭を築きましょう!」
(逃げ切ってくれ頼む!今回だけは、貴様の味方だ!)

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校廊下

川辺は、乃塒から逃げる様に宛ても無く歩き出した。
「ふーう……」
(だめだ。あの空間耐えきれねー)
あの[[rb:山荒 > ラウディ]]事件以来、乃塒は変わった。変わり過ぎた。
「姫乃様が、『兵士』に変えずに置いておくから、よもやただのバカではあるまいと思っていたけれど、まさか、ただのバカだとはね……」
川辺は、偶然藤本に出会う。
「あ、藤本先生」
「どうしました?何か悩んでいる様ですが?」

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校保健室

「なるほど。それは興味深い」
「何処がよ!?あれ以上話したら、バカが[[rb:感染 > うつ]]るところだったわ」
だが、藤本の意見は逆だった。
「それはどうですかな?」
「え?」
「女性は、社会性を重んじ、元来争いを好まない生物です。が、女性同士が争わなければならない決定的な理由があります。それが何かわかりますかな?」
川辺は、色々と答えを言う。
「子孫……妊娠、子育て、巣の確保」
「若いのによく解ってらっしゃる」
でも、川辺は藤本が言いたい事が解らない。
「生命の目的は、遺伝子を後世に伝える事です。ですから、最近の乃塒の行動は理解不能です!」
「あほらしいなどととんでもない。遺伝子を後世に伝える為なら、どんな愚行も正当化されるのです」
「だからiPS細胞を使ってでも好きな女の精子を手に入れようと!?まるで漫画だ!」

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校廊下

ますます乃塒の事が解らくなる川辺。
そんな川辺の目に、本来なら閉じられている屋上へと続く扉の鍵が開かれているのに気が付いた。
「こ……今度は何だ!?」
川辺は、恐る恐る屋上へと向かう川辺。

第9話:中西エルザ

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校屋上

本当は立ち入り禁止である屋上で昼飯を食べていた宇崎。
「あー……平和だ……[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]が恋しくなる程……」
『兵士』がうようよしていると聞いていたが、実際は『兵士』とは名ばかりの平和な毎日に飽き飽きしていた。
特に、[[rb:乃塒押絵 > のどぐろおしえ]]の宇崎への警戒心の無さは異常と言っても良い程である。まあ、乃塒の言動が観てて飽きないのが唯一の救いである。

因みに、乃塒はただの女子高生であり、『兵士』でも何でもない。

過去の自分を思い出して溜息を吐く宇崎。
「こりゃ性に合わない。なんせ……私が生きてきた環境とは……違い過ぎる!」
其処へ、鷺宮女子高等学校とは別の制服を着ている女子高生に声を掛けた。
「見つけた」
覗き込む様に見る他校の女子高生を見つけ、驚き半分好戦半分の苦笑いをした。
「立入禁止の屋上に出るなんて、[[rb:蜜獾 > ラーテル]]さんは悪い子だね」
「だから何だ?」
「私、[[rb:中西獲座 > なかにしエルザ]]。八菱財閥の[[rb:獣闘士 > ブルート]]よ。よろしくね♡」
「ったく。露出狂の次は覗き魔かよ。八菱にゃ変態しかいねぇのか?」
「変態じゃないよ。私が興味あるのは、あなただけ」
それを聴いてますます好戦的な態度になる宇崎。
「何だよ?こんなトコで闘ろうってのか?」
それに対し、エルザは宇崎の股間を覗き込む。
「そうね……ココでヤッちゃうってのも、アリかも♡」
宇崎は、獣化しながらパンツを脱がそうとするエルザに襲い掛かるも、渾身の右ストレートを躱されて後ろに飛び退かれる。
「あはっ♡パンツGET!」
「てめー……ぶっ殺す!」
完全に獣化した宇崎を見ても余裕のエルザ。
「ひゅー。すごいな。何の迷いも無く戦闘モードに入っちゃうなんて。でも、ノーパンのままじゃ風邪ひくよ?」
一方の宇崎は少々困惑していた。
(こいつ、あの至近距離で、私の爪を受けやがった。その気ならカウンターをとれたはずが、どういうつもりだ?)
その間も、奪ったパンツを回したりと、余裕のエルザ。
「さてと、戦利品も手に入ったし、今日の―――」
「これ程の校則違反……鷺宮女子に関わる『兵士』としては見過ごせないね」
突然現れた川辺。既に『針』を露出させて臨戦態勢である。
「へー。これが『兵士』の『針』かー」
余裕の表情とエルザの体型から、川辺はある推測が浮かび、それを立証する為に『針』でエルザを刺そうとしたが、エルザに簡単に避けられてしまった。
だが、川辺の推測が確信に変わった。
「『兵士』の『針』を初見で躱したな?これで……お前の正体見たり!」
川辺が、カッコ付けながらエルザを指差す。

チーターの最高速度時速120㎞とは、即ち秒速33.3m。
その校則の世界を常とするチーターの動体視力の前には、秒速3mの液体など、空中を漂うシャボン玉の如き浮遊物に過ぎない。

「つまり。その子の元ネタは……」
[[jumpuri:既に、屋上にいるのは川辺だけであった。 > https://livedoor.blogimg.jp/henshinhero/imgs/b/a/ba0f692c.jpg]]
[[jumpuri:「あれ?どこ行った?」 > https://livedoor.blogimg.jp/henshinhero/imgs/6/0/6012b9da.jpg]]
川辺は理解出来なかった。
エルザは納得がいく。自身の正体が暴かれそうになっているからだ。下手すれば殺されていたかもしれない。
だが、宇崎は明らかに変だ。これから戦う敵の正体を知っておく事は、どれだけ優勢か計り知れないからだ。
それ程有益な情報を捨ててまで途中退場の意味が解らなかった川辺。
[[jumpuri:「……あれっ?」 > https://livedoor.blogimg.jp/henshinhero/imgs/a/6/a6929d56.jpg]]
[[jumpuri:驚いた風に後ろを振り向く。 > https://livedoor.blogimg.jp/henshinhero/imgs/7/f/7f9aa3b2.jpg]]だが、屋上にいるのは川辺だけであり、その光景は、かなりシュールであった。

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校最上階廊下

エルザをの正体を見破った川辺を屋上に置いてきぼりにした宇崎は、からかいにながら逃げ回るエルザを追いかけ回していた。
「待てこらぁ!」
其処に、間の悪い事に乃塒がいた。
「あれ?ヒトミちゃんはどこに……」
周りをキョロキョロしていた乃塒が宇崎と激突した。
「おわ!?」
「きゃ!?」
「あいたた……」
「ん?」
宇崎の倒れ方が悪かったのか?それとも、乃塒の起き上がるタイミングが悪かったのか?
乃塒がノーパンの宇崎の秘部を観てしまった。
(きゃああああああ♡)
が、宇崎はそれどころじゃなく、乃塒の襟首を掴んで問い質す。
「乃塒!あいつはどこだ!?」
「ヒトミちゃん!ご褒美なんですか!?これは御褒美なんですか!?」
全く噛み合っていない会話に業を煮やしたエルザが、からかう様にしゃしゃり出て来た。
「こっちこっち。ハーイ♡」
乃塒を突き飛ばしながらエルザを追う宇崎。
「てめぇ!パンツ返せ!」
置いて行かれた乃塒は、観てしまった宇崎の秘部を思い出してボーとしてしまったが、ある事に気が付いて頭を抱えた。
「ハッ!しまったーーーーー!スマホを使うの忘れてたーーーーー!」
色々と見当違いな事を考える乃塒であった。

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校屋上

一方、取り残された川辺は、エルザの出現と正体をスマホで姫乃に報告。
「はい。それで間違いありません」
「それでは、今から追っても無駄だと?」
川辺は、生物学に詳しい故にある確信があった。
「いいえ。あの子の持久力は大した事はありません。直ぐにその子から手が出ますよ」

2019年6月26日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校裏庭

未だにエルザを追いかけ回している宇崎だが、
(くそ!あの野郎……獣化もしてねぇくせになんて速さだ!)
だが、宇崎は確信していた。もう直ぐ追いつけると。
しかし、それはエルザの正体を知らないから言える誤算であり、エルザの正体を知らない故の判断ミスであった。
(な!?あの速度、あの体勢から、[[rb:反転 > ターン]]した!?)
見事に宇崎の意表を突いたエルザは、仰向けに倒れた宇崎に馬乗りになった。
「あはっ♡たーんじゅん」
エルザは、優位を確信したのか漸く獣化した。
「駄目だよ。そんな力任せの強引な戦い方じゃ」
此処で漸くエルザの正体を知る宇崎。
「[[rb:狩猟豹 > チーター]]には、追いつけない」

チーター。
哺乳類最高の走行機能を有する、地上最速の肉食動物。
最高速度は120㎞にも達するが、剥き出しの爪がスパイクの役割を果たし、一瞬で静止し方向転換する、『制動力』を生み出す。
さらに、呼吸調整を高めるための大きな鼻腔や軽量化に徹した細長い体躯など、他の猫科動物には見られない、走る事に特化した身体的特徴が多い。
即ち、チーターは、地上最速の[[rb:狩人 > ハンター]]となるべく進化した、異形の猛獣なのである。

優位に立った余裕からなのか、ただただ上から目線で語り出すエルザ。
「最強の[[rb:獣闘士 > ブルート]]、彗星の如く現る。そういう[[rb:台本 > シナリオ]]なんでしょ?[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]を盛り上げるために三門財閥が用意した。そうでなきゃ、[[rb:新人 > ルーキー]]がいきなり[[rb:獅子 > レオ]]を倒すなんてありえない」
宇崎は、何を思ったのか黙ってしまった。それは諦めなのか?それとも……
「現に今、あっさり組み伏されて手も足も出ない。[[rb:速度 > スピード]]も[[rb:力 > パワー]]も並。[[rb:防御 > ディフェンス]]だけはすごいけど、それも硬い甲皮で覆われた背中側だけ」
エルザは、宇崎にトドメをさそうとついに手を出した。
「正面からの攻撃に対しては……まるで無力!」
だが、エルザも誤算があった。
[[rb:谷優牛 > たにゆうご]]同様、手を噛まれてしまったのだ。
「な!?」
慌てて飛び退くエルザ。
「やれやれ……お前もあの川辺とか言うインテリ気取りと同じだな」
宇崎が喰いちぎった肉片を吐き捨てた。
「現実が見えてねえ。スピードだのパワーだの関係無えんだよ。牙の鋭い方が勝つ。それが『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』だ」

予想外の展開に困惑しながら、噛まれた手を視るエルザ。
(ありえない。目の前に迫る爪の一撃を、避ける事もせず、逆に噛みにいくだなんて……)

ラーテル。
猫目イタチ科に属する小型の雑食性動物。体長は60~80㎝。
その性質は荒く凶暴そのもの。
体格に大きな差のあるライオンや水牛等の大型動物にも、臆する事なく立ち向かうため、「the most fearless animal(世界一怖い物知らずの動物)」としてギネスブックに登録されている。

(やばい。もしかしてこの子、ガチで[[rb:獅子 > レオ]]より強い?)
だが、エルザは余裕の舌なめずり。
(やっばい惚れちゃいそう♡)
「[[rb:蜜獾 > ラーテル]]の実力が本物かどうか、確かめてこいってお兄に言われてるからね。こっちもガチで、いかせてもらわないと―――」
だが、姫乃の大声が水を差した。
「其処までです!」
今度は、本気で悔しそうに舌打ちするエルザ。
「チッ!シラケるわー。邪魔しないでくれる―――」
この段階で全てが終わっていた。
姫乃は無数の『兵士』達を引き連れており、『針』も露出して戦闘態勢は万全だった。
「くっ!」
渚が静かに警告する。
「どうする?このまま大人しく捕まるか?それとも、このままブチ殺されるか?」
宇崎が戦闘が白けてしまった事に呆れながら頭を抱える中、エルザは逆に姫乃達を挑発する。
「[[rb:狩猟豹 > チーター]]の足をなめてるの?……馬鹿にしないでよね―――」
姫乃が警告を追加した。
「今日は、どれだけの距離を走りました?もう……貴女はへとへとの筈です!?」
姫乃のこの行動は、チーターの持久力不足を見越した故の行動だったのだ。
だが、そんな姫乃を宇崎が叱り付けた。
「お前は何を聞いてた!そんな浅知恵なんて関係無え。牙の鋭い方が勝つ。それが『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』―――」
渚がめんどくさそうに遮った。
「はいはい!頭の悪そうな台詞は後にして!」
そんな中、姫乃がエルザを睨んだ。
「[[rb:狩猟豹 > チーター]]さん、騒乱罪、暴行罪、殺人未遂罪で―――」
宇崎が姫乃の台詞を遮る。
「てめぇ……これ以上邪魔するなら、もう容赦しないぞ!」
が、宇崎VSエルザを妨害する者は、姫乃達だけではなかった。突然倒れた気が宇崎とエルザの間に割って入ったのだ。
「ちょ、ちょっと……邪魔しないでよ!この子は私が先に―――」
知的に見える小柄な眼鏡男が、[[rb:獣闘士 > ブルート]][[rb:熊 > ベア]]を引き連れながらやって来た。
「そうはいかないよ。[[rb:蜜獾 > ラーテル]]と闘りたいのは、[[rb:三門 > ウチ]]も同じだからね」
獲物を横取りされた気分のエルザが反論する。
「はあ?急に出てきて何言ってんの。こっちは仕事で―――」
三門の使者と思しき少年がとんでもない事言い出す。
「ちょっと事情が変わってね、石田が臨時に雇い入れた[[rb:蜜獾 > ラーテル]]を、[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]に参加させる事を決定したんだ」
その言葉に驚きを隠せないエルザ。
「!?デ……[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]……」
「開催は1か月後。それまでは財閥間の協定で、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]参加者の私闘は厳禁。岩崎総帥の承諾は得ている。君のお兄さんもね」
其処まで言われたら、矛を収めるしかないエルザであったが、宇崎は逆に少年を襲い、少年は近くの木の枝に飛び移り、[[rb:熊 > ベア]]がフルスイングのビンタで応戦するも宇崎に防御される。
「ちょ、ちょっとストップ!あんた、何考えてんのよ!?今の話、聞いてなかったの!?」
宇崎は平然と答えて渚を呆れさせた。
「うん。全然。邪魔だしうるせえから、殺そうかと思って」
「……さっきも言ったが、頭の悪そうな台詞は後にしてくれない?」
一方の少年は、宇崎の凶暴さを嘲笑った。
「いやー、聞きしに勝る凶暴さだね」
そして、木の枝から降りると、何も無かった様に普通に帰って行った。
「用件は伝えたから、僕らは帰るけど、細かい説明はエルザから聞くと良い。喧嘩しちゃ駄目だよ。それじゃ」
他の者達が呆然とする中、姫乃は少年から邪な視線を感じた。
(あれが……園藤姫乃か……)

第10話:時坂、聖、北川、西田

2019年6月29日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]ひばりが丘4-8-22ひばりが丘浄苑

服部渚が墓に手を合わせていた。
その墓は、姫乃が得てしまった『女王』の力を我が物にしようとした日本政府と警察組織に惨殺された『鷺宮女子高銃撃テロ事件』の被害者達を祀る為に造られたものだ。
そんな、姫乃にとっても警視庁にとっても黒歴史(姫乃に『鷺宮女子高銃撃テロ事件』の存在を忘れる気は無いが)とも言える慰霊碑の中に、かつて渚の取り巻きだった者達も、残念ながら名を連ねていた。
だが、渚が今回墓参りしに来たのは、そんな警備部機動隊と特殊急襲部隊に惨殺された取り巻き達の知恵を借りたかったからだ。
(図々しい事は解ってる。だが、マジでピンチなんだ!頼む!力を貸してくれ!)

2019年6月27日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会執務室

『女王』園藤姫乃と[[rb:獣闘士 > ブルート]]『[[rb:蜜獾 > ラーテル]]』宇崎瞳とのやり取りを聞いて、姫乃に仕える『兵士』達が愕然としていた。
「以上が、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に対する[[rb:私達 > ・・]]の作戦です」
「私としては、その方が良いね」
宇崎は、そのまま退室する。
「じゃ。また明日な」
「はい。また明日」
『兵士』達は、宇崎が去ったのを確認してから、まるで飛び掛かるかの様に姫乃を問い詰めた。
「おい。どう言う事なんだよ姫乃!?正気か!?いくらあの四大会長に遭遇する絶好のチャンスとは言え、あんなふざけた大会に出るとは、在り得ねえだろ!」
確かに、良識的な人物から視たら、[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]は色々と異様過ぎる内容であった。
そもそも、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]とは、1対1ではなく、3人1組の[[rb:獣闘士 > ブルート]]が入り乱れての殲滅戦である。
故に、1対1では絶対に起こらない事態が平然と起こる混沌とした戦いであり、[[rb:獣闘士 > ブルート]]の間では「[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]での敗北は、確実に死を意味する」とまで言われている。
だが、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]が異様に見えるのはそこではない。
「確かに、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]は私が四大財閥の最高幹部達に逢える最大のチャンスです。それに何より、私自身が四大会長をこの目で見ておきたいと思ってましたし―――」
「そう言う問題じゃねえだろ!あの糞大会に出る獣人は『駒』なんだぞ!」
そう。[[rb:獣闘士 > ブルート]]の意志通りに動けない事だ。
言わば、[[rb:獣闘士 > ブルート]]を駒としたリアルチェスだ。
出資者代表であるプレイヤーの意志や選択で、参戦する[[rb:獣闘士 > ブルート]]の生死が決まってしまうという、命の重さが解らなくなってしまいそうな戦い。
それが[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]なのである。
「つまり、殺人の片棒を担がされるんだぞ!その事が、そこら辺のハイエナの様な屑記者共にバレて変な風評を流されたら、[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]は終わりだぞ!」
一方の姫乃は冷静だった。
「そうする心算なら、とっくにやっている筈です。力の差は歴然。国の規模も『兵士』の数も王の経験も、圧倒的にあちらの方が上です。もし戦えば、必ず負けます」
姫乃に[[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]と四大財閥の力の差を言われてクールダウンする『兵士』達。
「……そ……そりゃそうかも知れないけど……」
「先ずは様子を視ましょう。今事を荒立てるのは得策ではありません。[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]参戦者がこちらの手の中にある内は、私達をどうするつもりであれ、あまり思い切った手は打たないでしょう」
だが、姫乃の台詞に決意が帯び始めた。
「……ですが、この学校の生徒や、私の大切な『仲間』に、少しでも危害が及ぶの様であれば、その時は……」
姫乃に目に殺意が宿る。
「容赦はしません」
姫乃の静かな殺気に気圧されてドン引きする『兵士』達。
「園藤姫乃の名において、四大会長を殺します」

2019年6月29日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]ひばりが丘4-8-22ひばりが丘浄苑

渚は、この先どうなってしまうのかが不安であった。
その時、懐かしくてもう聞けない筈の声が聞こえた。
(らしくないじゃん渚)
「え?」
(渚は、私達とは違って、最期まで姫乃を護り抜くんでしょ?)
「その通りだ!……その通りなんだが……」
(だったら、戦うしかないじゃん。例え、誰が相手だろうと)
この声は幻だったのか、妄想だったのか、亡霊だったのか……
今は、この声の正体などどうでも良い。
問題は、渚が[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]に対してどう吹っ切れるのかである。
「そう……だったな?変に迷ってた私が大馬鹿だったな!」

2019年6月27日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]HBショップKUE NAIYA

一方のエルザは、宇崎の気楽さに疑問視しつつも呆れていた。
「確かに、『[[rb:駒 > あなた]]』は優秀。それは認めるわ。でも、それを動かすプレイヤーがヘボじゃ、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]で生き残る事は出来ない」
宇崎は聞く耳を持たず、ただパンケーキを黙々と嬉しそうに食べているだけであった。
「今からでも遅くはない。棄権するか、他の出資者を探してエントリーし直すか……ちょっと、聞いてんの?」
だが、姫乃同様に宇崎も冷静だった。
「別に良いよ。[[rb:姫乃 > あいつ]]で」
呆れて驚きを隠せないエルザ。
「はあ?あんた、私の話を聞いてなかったの!?いい?[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]のプレイヤーてのはね、株や外資取引で鍛えた仕手の名手やら、チェスの達人やら、囲碁将棋の名人やら、そんな連中ばっかりなのよ。それなのに、あんなボンクラ箱入り娘が張り合える訳がないでしょーが!」
宇崎が、漸くエルザの意見に反論した。
「そこがいいんだよ。弱い奴ほど強い奴を嗅ぎ分ける。だからあいつは、私に絶対に逆らわない。つまり、私の意志で自由に動けるって事だ」
が……そんな重大さに似つかわしくない者が近づいていた。
(こんにちは。[[rb:乃塒押絵 > のどぐろおしえ]]です。最近、ヒトミちゃんが怪しいのです。ヒトミちゃんにベッタリくっついてるあの女……一体、何者!?)
一見すると、乃塒の方が怪しく見える。
(何の話をしてるの?もっと近くに行かないと……)
エルザは、既に乃塒の不審さに気が付いて背後に回っていた。
「あのさ……あんた偵察下手ね?」
(!?な……つい今しがた、普通にヒトミちゃんと喋ってたのに、いつの間に!?)

チーターは、己が走力に対する自負から、群れでの狩りを決してしないナチュラルハンター。
獲物を発見すると近距離まで忍び寄ってから、全力で疾走しながら獲物を追跡し引き倒す。
気が付けば追い詰められている。それがチーターの狩りである。

「あれ?オシエじゃん。何してんのお前?」
エルザは、ある誤解のせいで呆れ果ててしまっていた。
「何してんのって……こいつ、園藤姫乃が送り込んだ偵察よ!」
宇崎が即座にエルザの誤解を訂正する。
「そいつ、『兵士』じゃないよ」
「え!?」
「それに……」
宇崎は、女性店員がエルザに向けている殺気に気が付いていた。
「[[rb:姫乃 > あいつ]]の『兵士』は、不純物に対する警戒心が物凄く強いぜ?」
エルザは、宇崎に指摘されて漸く気が付くが、知らないふりして話題を乃塒に戻した。
「『兵士』じゃないとしたら、何でコソコソ尾けてきてんのよ?あんたの友達?それともストーカー?」
乃塒が涙目で宇崎に助けを求めた。
「ヒトミちゃーん。説明してあげてー」
だが、宇崎が考え込んでしまった。
「……そう言われてみると……どっちだ?」
乃塒が人目を気にせずに涙で自分の頬を濡らした。

2019年6月29日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]ひばりが丘4-8-22ひばりが丘浄苑

墓参りを終えた渚の許に三門陽湖が訪れたが、
「姫乃の[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]参加を阻止したいってなら無駄だぜ。ああなったらテコでも動かねぇよ」
凛とした態度で言いたい事を先に言われて黙るしかない陽湖。
「それと……私も姫乃に1票だ。直にお前達がどんだけ危険かを、この目で確かめねえとな」
陽湖は、静かだが気丈に振舞った。
「まあ好きにすれば?100%後悔するとおもうけどね。でも、後で泣きベソかかないでね。気持ち悪いから」
渚は、陽湖の挑発を無視した。
『鷺宮女子高銃撃テロ事件』に思い知らされたからだ。こういう勝利を約束されていると勘違いしている者ほど、敗北と言う名の罠に堕ちやすいと。
実際、『仲間』が溢れていた頃の自分達がそうだったし、姫乃を逃がす為に学校に居残ってくれた『仲間』を部外者ごと皆殺しにする様指示した黒田も、事前に用意した罠を姫乃に掻い潜られて殺害され、日本の警察の威厳や名誉を底辺まで失墜させている。
渚は確信していた。陽湖もそうなると。
「用が無いなら帰れ。墓場で騒いでもカッコ悪いだけだぜ?」
そう言いながら帰って行く渚。その顔に、もはや迷いはなかった。
まるで、警察に殺された渚の取り巻き達が背中を押したかの様に。
陽湖は、待たせていたリムジンに乗り込んだ。
同乗していた異様な老人が、陽湖の様子を視て何かを悟った。
「出る様だな?園藤姫乃も」
「はい、お爺様。出場を阻止できないなら、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]の盤上で、直接[[rb:蜜獾 > ラーテル]]を倒すまで」
陽湖の自信を見て不気味な微笑みを浮かべる異様な老人……いや、三門財閥会長『三門陽参』。
「ふぉふぉ、強気よのう陽湖」
だが、そんな陽湖の強気を疑う様な疑問が浮かんだ陽参。
「じゃが、いくらお前が知略に長けているとはいえ、殺し合いは殺し合い。弱い駒では話にならん。仮にも、この[[rb:獅子 > レオ]]に土をつけた者を相手に、一体どんな駒で挑みよるつもりじゃ?」
谷優牛が代わりに答えた。
「ご心配無く。城戸を使います」
陽参がニヤリと笑った。
「城戸か……」
「そうです。1度は凄惨と言う理由から出禁となった、あの城戸です」
陽参が満足そうに笑った。
「面白いではないか。特定遺伝子組換改革法を真鍋総理の言う通りに動かすか否かを決める試金石のつもりでいたが……今回の[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]、いつにも増して血が見られそうじゃのぉ……」

2019年7月1日 [[rb:楽園都市 > ヒメノスピア]]鷺宮女子高等学校生徒会執務室

その後、[[rb:中西獲座 > なかにしエルザ]]も[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]が終わるまで鷺宮女子高が預かる事になってしまった。
その事についてエルザ曰く、
「何言ってんの?闘んないように見張ってんのよ。[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]をぶち壊されでもしたら、私がお兄に叱られちゃうんだから」
……まあ、宇崎のあの性格なら、仕方ないなと言える理由であった。

獣人とは、
ヒトのDNAに含まれるあらゆる生物の遺伝情報から、その人間に最も近い「動物の因子」を抽出し強化する「獣化手術」を受けた者の事である。
つまり、ライオンやヒョウなどの大型動物の狩場に入り込み、堂々と居座り堂々と獲物を盗み、しかも、見つかると逆ギレするという、ギネス級の横暴さを誇るラーテルの因子を色濃く持つ宇崎の性格が、生まれつき横暴なのも自明の理である。

第11話:服部渚

2019年7月2日 東京都新宿区フジモト生物化学研究所

1人の男性が、原口の私物と化した[[rb:元 > ・]]所長室に入ろうとしたが、
「おわ!何だこりゃ。更にモノが増えてるぞ」
それでも、男性はめげずに原口を呼んだ。
「主任。原口主任、いますか?もうすぐ定例会ですよ。たまには顔を出さないと、存在を―――」
当の原口は、着替えるのもめんどくさくなったのか、ほぼ下着姿で顕微鏡とにらめっこしていた。
原口は直ぐに自分を呼びに来た男性に気付いて近寄ったが、男性は下着姿を見られた事を怒っていると勘違いして慌てふためいた。
「な!?何も見てません!殺さないで!」
だが、原口の言葉は予想外であった。
「見つけた!」
「……へ?」
「復元培養した『蜂』の解剖標本と、10年分の実験記録と照らし合わせて、『蜂』の胎内に『女王』の因子を伝達する仕組みを見つけた。やっぱり、園藤姫乃が『女王』になったのも、明確な理由があった」
だが、それでは今までの捜査結果と大きく食い違う。
「ですが、園藤姫乃は、無理矢理『蜂』を食べさせられて『女王』の因子を体内に吸収して同化したっていう―――」
「偶然じゃない。『蜂』は人を刺す時に、『女王』とすべきか『兵士』とすべきか、選択する事ができるのよ」
原口は、男性にパソコンの画面を見せた。
「その証拠に……培養液で復元処理した『蜂』の貯精嚢から、僅かながら『女王』の因子と思しき鎖脂肪酸の跡を発見した」
事の重大さに驚きを隠せない男性。
「え……?それって!?」
「間違い無い!園藤姫乃は『蜂』の[[rb:意思 > ・・]]で、なるべくして『女王』になった。そして、その仕組みが明確になった以上、園藤姫乃の他にも『女王』となった人間は存在する!」

2019年7月2日 アメリカ合衆国某所リビング

女性SPに見守られながら食事をする女性の前に、フード付きのジャンバーを着た少女がやって来た。
「今夜は、お招きいただき有難う御座います」
フード娘の慇懃無礼な態度に苛立つSP達。
「マージョリー、もしかしてこの猿は、我々の『[[rb:女王 > クィーン]]』を侮辱しているのか?そうだとしたら殺すが」
フード娘がわざとらしく慌てて魅せた。
「まあまあまあまあ、取り敢えず届けに来たプリントを目に通していただいて」
『[[rb:女王 > クィーン]]』が即座に反応する。
「見せろ」
SPがフード娘からプリントを奪い、それを『[[rb:女王 > クィーン]]』に渡した。
「どれどれ……」
プリントの大見出しを見て不思議そうにする『[[rb:女王 > クィーン]]』。
「[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]……ただの信憑性皆無の都市伝説だと思ったんだがな」
「今は、それだけマイナーって事だよ[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]は」
『[[rb:女王 > クィーン]]』は、肝心要の質問をする。
「で、私に何をしろと?」
それに対して、フード娘は白々しかった。
「一緒に観に行かね?[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]」
逆に不気味がる『[[rb:女王 > クィーン]]』。
「一体何の話だ。言いたい事があるなら、ハッキリ言ったらどうだ」
だが、フード娘は更に勿体ぶる。
「今まで絶滅した種族の中で、明らかに人間のせいなのは、どのくらいの数か、ご存じですかな?」
「……あのなお前、質問に質問で返すとかありえないだろ。マナー違反だと思わんか」
でも、まだまだ勿体ぶるフード娘。
「IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)は、5月6日に陸地の75%が人間活動で大幅改変され、約100万種の動植物が絶滅危機にあるとの報告書を公表したそうです。でも、それも暫定に過ぎず、この先も数は増え続ける事でしょうな」
遂にSP達に包囲されるフード娘。
「あれあれ?そんな事していて良いのかな?このままだと、『蜂』が絶滅種だぜ?」
フード娘は、図々しくも『[[rb:女王 > クィーン]]』の本名を口にしてしまう。
「セレナ・セルバンテス」
SP達が一斉に『針』を露出して臨戦態勢をとった。
だが、『[[rb:女王 > クィーン]]』セレナはGOサインを出さなかった。
「待て。まだこいつに訊きたい事がある」
SP達が渋々『針』をしまうも、やっぱり不服であった。
(く!……殺したぁーい!)
そろそろ限界だと感じたフード娘は、漸く本題を語り始めた。
「1年前に鷺宮女子高等学校を皆殺しにした連中が、一体『何の』を欲しがっていたのか……ご存じですね?」
「……貴様……何者だ?」
「協力して頂けませんか、本当の[[rb:Mr.大統領 > ミスタープレジデント]]。あなたが本当はそう望んでいる様に、[[rb:八菱 > われわれ]]には、『蜂』の[[rb:天敵 > ・・]]と戦うための準備があります」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]に参加する事になった姫乃達は、豪華クルーズ船に乗せられて……
「へぇー。すげぇな。本物のパーティーじゃん」
姫乃達を待っていたのは、死闘とは名ばかりの超豪華バイキングであった。
「[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]観戦て、いつもこんな豪華な場所でやってるんですかね」
「そしこ重要な闘いっちゅうこっです園藤殿」
岡島のスーツぱっつんぱっつんなのだが、姫乃に同行していた渚と川辺は、スーツが似合わない岡島にツッコミを入れる気が完全に失せていた。
これから待っている死闘を全く知らないかの様に超豪華バイキングを楽しむ[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]参加者と観戦者の姿を視て、機嫌を損ねたのだ。
寧ろ、学校制服で此処に来た姫乃達の方が浮いてる様にすら見える。
「くそ成金が!これから[[rb:獣闘士 > ブルート]]同士の殺し合いを見せられるって言うのに、よくヘラヘラしてられんな?まったく、反吐が出るぜ……」
見るからに不機嫌な渚に声を掛ける者が。
「セレブは、娯楽に飢えているのさ」
「谷……優牛……」
「やあ、また逢ったね園藤姫乃。それに、[[rb:獣闘士 > ブルート]][[rb:蜜獾 > ラーテル]]」
「宇崎瞳だ。名前ぐらい覚えておいてやれよ」
渚の皮肉より、この後言った宇崎のボケの方が、谷にとってはダメージが大きかった。
「ところでお前……誰だっけ?」
谷の眉がピクっと動いた。
「ちょっと宇崎さん!」
「瞳殿が初戦で倒した[[rb:獣闘士 > ブルート]][[rb:獅子 > レオ]]でごわす」
其処へ、谷や渚よりさらに不機嫌そうな男がやって来てしまった。
「欠場だと?逃げたな[[rb:獅子 > レオ]]。俺と闘るのがそんなに怖いのか?」
「お、お兄……」
欠場と聞いて、谷が宇崎に敗けた日の事を思い出して皮肉を言う渚。
「あ。つまり、[[rb:解雇 > クビ]]って事?」
谷に喧嘩を売った男の眉がピクっと動いた。
それを見ていたエルザが慌ててフォローに入る。
「ごめんなさい[[rb:獅子 > レオ]]。お兄は、今日あなたと再戦するつもりだったから……」
が、宇崎がずけずけと話に入る。
「よーエルザ。ふーん、そいつが自慢の兄貴か。お前すげー強いんだって?今日の試合、楽しみにしてるぜ♪」
だが、谷に喧嘩を売った男は、まるで宇崎を侮辱する様に捨て台詞を吐きながら去って行った。
「フン。[[rb:獅子 > レオ]]のいない[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]など……児戯に等しい」
(うわぁー。完全に嘗められてるよ宇崎の奴!)

[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]参加者と観戦者によるパーティを少し引いて客観的に観ている者がいた。
「クク……いつもの事ながら、このくだらない余興は、財閥間の[[rb:力関係 > パワーバランス]]がハッキリ判って笑えるせ」
先ずは三門財閥。
「金に色目をつけず、名うての強者でガチガチに固めた三門」
次に八菱財閥。
「負けじと人材をかき集めたものの、一歩遅れて2番手に甘んじる八菱」
角供財閥は、かなり素行が悪く、まるで劣悪なヤンキーグループの会合の様であった。
「俺達みたいなはぐれ者を使って、姑息に漁夫の利を狙う角供」
最後は石田財閥。
「四大財閥の中で、最も資金力に乏しく[[rb:雑獣 > ザコ]]しか雇えない石田」
そんなくだらない余興を客観的に観ていた男の背後に、セレナ・セルバンテスとセレナを誘ったフード娘がいた。
「そう言うアンタは、そのくだらない4つの内のどっちなんだい?」
「……誰だ貴様は?」
フード娘はすっとぼけた。
「まだ[[rb:獣闘士 > ブルート]]に昇格してないから、まだまだ大手を振って名乗りを挙げられる立場じゃないんだ」
「フン!勿体ぶりやがって!」
フード娘は、親指でセレナを指した。
セレナの姿は、制服姿の姫乃達や一般的な街角の様な格好のフード娘と違って晩餐会に適したネイビーショール風ロングドレスガウンであった。
「でも、セレナは超大物だよ」
「ほう……どの点が?」
フード娘が自信満々に言い放った。
「[[rb:園藤姫乃と同類 > ・・・・・・・]]と言えば解るかな?」
男が慌てて振り返るが、セレナもフード娘も下に降りてパーティに参加していた。
セレナ達を見下ろす形になったが、男にさっきまでの余裕は無かった。
(ど……どういう事だよ!?『針』で『兵士』を増やせるのは、園藤姫乃だけのはずだろ!?それが何で……)

突然照明が消え、壇上にスポットライトが当てられるた。
「ご来場の皆様、長らくお待たせ致しました。この度司会進行を務めさせて頂きます、[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]管理局の篠崎舞です。[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]開催の前に、[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]管理局長祠堂零一より―――」
祠堂の名を聞いて狂喜乱舞する宇崎。
「何!?祠堂さん!?どこ!?」
呆れる渚。
(アホか?単細胞の忠犬獅子公め)
壇上に上がる祠堂。
「祠堂です。[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]は、各財閥を代表する[[rb:獣闘士 > ブルート]]が3名1組4つのチームに分かれ生き残りを懸けて闘う[[rb:殲滅戦 > サバイバルマッチ]]」
川辺がある事を思い出して陽湖の方を見る。
「そして、その舞台はフィリピン海に浮かぶ無人島『[[rb:炎蹄島 > ほていじま]]』。皆様もご存じの通り、今我々は……国内最大級のクルーズ船『獣王』に乗り現地に向かっております」
壇上の後ろの巨大スクリーンに炎蹄島が映る。
「島の総面積は約6㎢。それを100メートル四方のマス目で区切った『ゲーム盤』の上に[[rb:獣闘士 > ブルート]]を駒として配置。それを『プレイヤー』が動かし、違うチームの[[rb:獣闘士 > ブルート]]が同じマス目に入った時戦闘が開始されます」
渚が怒りで拳が震えていた。
(糞外道が!まるでスパロボじゃねえか!)
そんな事お構いなしに説明が続く。
「同じマス目であれば、2対1であろうと、3対3であろうと、9対1であろうと、戦闘は成立します。そして、勝利条件は他の3チーム全ての[[rb:獣闘士 > ブルート]]が死亡または戦闘不能になった時のみ。つまり、経過の如何に因らず、最後まで生き残った者が、[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]の覇者となるのです」
セレナが不敵に笑い、渚が不機嫌そうに唾を吐いた。
「おい!」
渚に唾をかけられたセレブが文句を垂れるが無視された。
「間もなく炎蹄島に到着します。参加[[rb:獣闘士 > ブルート]]は速やかに準備に入ってください」
渚同様ヤンキーぽい女が連れに声を掛けた。
「あんた達、さっさと行くよ!」
だが、返答は無かった。
パーティを少し引いて客観的に観ていた男は、フード娘が言った「[[rb:園藤姫乃と同類 > ・・・・・・・]]」と言う言葉が引っかかってそれどころではなく、もう1人は……
「ちっ!あのアホまたかよ」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』女子トイレ

1人のバニーガールが強姦されて呆然自失していた。
「ふー。やっと落ち着いたぜ。どーも、[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]の前には、女を犯っとかないと気が済まねー」
ヤンキーぽい女がバニーガールを強姦した男に声を掛けた。
「ちょっと、いい加減行くよ」
「ヘイヘイ」
ヤンキーぽい女は、強姦魔を折檻するわけでもなく、只々冗談を言い合うだけであった。
「お前が相手してくれりゃ、もっと手早く済んだんだけどな。へへ」
「死にたきゃどうぞ」
「冗談だって」
だが、強姦魔の邪気はまだ消えてはいなかった。
「でも、まだ犯り足りねー……ま、[[rb:蜜獾 > ラーテル]]でガマンすっかぁ」
どうやら、彼らが[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に参戦する角供派[[rb:獣闘士 > ブルート]]であった。

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』廊下

一方、エルザは付いて来る貴婦人に疑問を懐いていた。
(ねえ、お兄。何でアイツなの?[[rb:八菱 > うち]]には、もっと強い奴いっぱいいると思うんだけど……)
「俺は知らん。会長の指示だ」
肝心の兄がまったく興味を示さなかった。谷が欠席なのがよっぽど不満だった様だ。
「いずれにせよ、結果は見えている。[[rb:獅子 > レオ]]が出ない以上、俺1人でも、全員倒せる」

その頃、石田財閥の幹部達が石田派[[rb:獣闘士 > ブルート]]の眼前で土下座していた。
「どうかお願いします。私共は、会長に勝利を厳命されておりまして、何卒、何卒奮迅頂きたく―――」
岡島は正直困惑していた。自身の実力に自信が無い訳ではない。だが、他の[[rb:獣闘士 > ブルート]]だって勝つ気でいる筈だ。
「おい達も死にたくはなか。じゃっどん、戦況は厳しか。勝つ保証はできもはん」
「そ、其処を何とか!」
宇崎が強気でいつもの台詞を言い放って幹部達を安心させた。
「安心しろって。誰が相手だろうと関係ねぇ。牙の鋭い方が勝つ。それが[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]だ!」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

壇上に戻った篠崎がプレイヤーに指示を出す。
「『駒』が炎蹄島に上陸しました。プレイヤーの皆様は、速やかに所定のシートに御着席ください」
将棋盤とタブレットPCが合体したかの様な大きなテーブルを囲む様に座るプレイヤー達。その中に、姫乃と陽湖が含まれていた。
陽湖は、隣に座る姫乃を見て不機嫌になった。
姫乃は、陽湖の無礼とも言える態度に思う所があるが、陽湖が姫乃を殺しかけた時の谷の態度に思う所が有る為にあえて黙認した。
(あの戦いから既に1ヶ月が経っている。なのに病欠……)
姫乃は、ゆっくりと首を横に振った。まるで邪念を捨てるかの様に。
(今は忘れましょう。今やるべき事とは違いますし)

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島海岸

その頃、宇崎がちょっとした不満を口にしていた。
「[[rb:首輪 > これ]]、ちょっと邪魔なんだけど、外しちゃダメ?」
[[jumpuri:カイジシリーズ > http://kc.kodansha.co.jp/search?_ft=author&_sw=%E7%A6%8F%E6%9C%AC%E3%80%80%E4%BC%B8%E8%A1%8C]]に出て来そうな黒服達は、宇崎の注文を却下した。
「とんでもございません。その首輪は、貴女様を導くナビゲーター。貴女様がどこに向かえばいいか指示してくれます。それに、ワイヤー部分は特殊素材。獣化に合わせて伸縮するので邪魔にはなりません」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

宇崎と黒服達とのやり取りは、壇上の巨大スクリーンに映し出されていた。
そして、姫乃の右横に控える渚の眉がピクっと動いた。

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島海岸

宇崎が最も肝心な質問をしていた。
「指示に従わなかったら?」
黒服達の答えは、ただでさえ不機嫌な渚の堪忍袋の緒を切った。
「ルール違反を伝える警告のメッセージが流れます。そのまま放置いたしますと……ボンッ!となる仕組みで御座います」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に参加するプレイヤーの1人である角供生命常任顧問の横田大がニヤリと笑った。
それに対し、渚が怒りで震えていた。
姫乃の左横に控える川辺が渚の心配をする。
「おい。さっきから様子がおかしいよ?大丈夫?」
渚が静かに怒りの理由を口にした。
「ムカつくんだよ。[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]その物が昔の自分を観てる様でよ」
「昔……」
川辺は、1年前にSNSに掲載されたイジメ動画を思い出して大声を上げてしまう。
「あー!あれかぁー!?」

2018年5月28日 西東京市鷺宮女子高等学校廊下

まだ『蜂』に刺されて『女王』になる前の姫乃が、全裸で四つん這いになりながら移動させられていた。
それを、周りの者達は、助けるどころか物珍しそうに観て楽しんでいた。
「すげー」
「こいつマジかよー」
「超ウケる」
「こっち向けよ」
「オイ」
「ギャハハハハハ」
「校内全裸お散歩♡」
「ぱねー」
「マジで奴隷じゃん」
「バッチリ調教されてんよ」
スマホで姫乃を撮っていた者の中には、それをSNSに実況動画として掲載する悪質もいた。
「ツイキャス配信ぱねー」
「視聴者数200とか、ウチら以外、観てる奴、誰よ!?」
姫乃が慌てて懇願するも、渚が姫乃の後頭部を踏んで懇願を遮断する。
「チョーシこいてんじゃねぇよ。誰に許可とって言葉発してんだよ。この、『虫』が!」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

あのまま……姫乃が『蜂』に出逢わなかったら、渚の取り巻き達が警察に殺される事も無く面白可笑しく暮らしていただろうが、その代償として、『蜂』が日本の警察組織を腐らせていたという事実も、日本経済を支配する四大財閥や[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]の存在も知らず、無知で[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に参加するプレイヤー達と同じ所まで堕ちた状態で、自堕落かつ無駄に人生を消費していたと思うと、渚の背筋を冷たくする。
「あの頃の姫乃と[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に参加[[rb:させられてる > ・・・・・・]]連中……どこが違うって言うんだよ?」
[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]と悪質なイジメを同一視されて激怒する陽湖。
「ふざけないで貰える!これ以上、神聖な[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]を汚す―――」
今の渚なら絶対にしない姫乃への悪質なイジメを神聖視された気がした渚が激怒する。
「どこが違うって言うんだ!?どっちも調教師気取りで自分勝手に命令してるだけじゃねぇか!このままだと、テメェらにこき使われた[[rb:獣闘士 > ブルート]]共が化けで出てくるぞ!」
『針』を出しそうな勢いの渚の手を優しく握る姫乃。
「大丈夫ですよ。瞳さんは違います。瞳さんは駒ではありません」
姫乃に諭されて怒りを収めかけた渚だったが、陽湖の余計な言葉が、渚の激怒を更に煽った。
「そんな事より園藤姫乃、島の地形は把握してるんでしょうね?」
「地形……ですか?」
「単なる『ゲーム』じゃないのよ。闇雲に『駒』を動かせば、崖や川に誘導してしまい、それだけで『駒』が命を落とす事もあるのよ」
「きっさまぁー!」
だが、姫乃が優しくかつ余裕で渚を説得した。
「大丈夫ですよ。魅せれば良いんです。瞳さんが駒ではない事を。自我を持った『戦士』であり『命』である事を」
渚は、姫乃と宇崎とのやり取りを思い出して冷静さを取り戻した。
「そう……だったな!アイツが、ただの『駒』で終わる様なヤワなタマじゃなかったな!」
姫乃が謝罪しながら[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]の開始を促した。
「申し訳ございませんでした。もう邪魔致しませんので、戦闘を開始して下さい」
キョトンとしていた篠崎が、姫乃の指摘でハッとして司会進行を再開した。
「失礼いたしました。前大会の優勝プレイヤーの品田様、ダイズをお願いします」
漸く始まった[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]だが、渚も陽湖も怒りが収まり切っていないのか、横目で睨み合っていた。

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島海岸

漸く[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]が始まった事を察した宇崎が気合いを入れ直す。
「さてと……いっちょブン回すか!」

第12話:藤本康臣

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

とうとう始まってしまった[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]。
先ずは、前回の優勝プレイヤーであり、[[rb:虎 > ティガ]]のプレイヤーである八菱自動車代表取締役『品田正信』が賽を振る。
「進むマス目は……4」
「フム。では失礼して、5-1から5-3を経由、6-3へ」
すると、テーブルの人型が移動する。それを観ていた渚があからさまに嫌そうな顔をする。
(止めてぇー!リバースしちゃう!リバースする所見られちゃう![[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]に参加する[[rb:獣闘士 > ブルート]]の命の重さは、将棋の駒と同額かよ!?)
一方の姫乃は、ただスマホで電話をしていただけであった。
「ん!ん!」
陽湖が咳払いで姫乃を牽制するが、姫乃は気にせず電話を続けた。
其処へ、進行役である篠崎が姫乃に賽を振る事を催促する。
「園藤様、ダイズを振ってください」
「あ、ハイ」
姫乃の空返事に、陽湖がますます不機嫌になる。
で、姫乃が出したマス目は……6。
此処で品田が独白。
(あの場所から『6』と言う事は、このゲームを知る者ならば、指し手は1つ。四方を一望できる絶好の拠点……15-24!ま、そんな事は、素人君には及びもつかないだろうがね)
だが、姫乃は、進める数が決まった途端にまた電話を始めた。
「あの、すいませんが、プレイヤーの持ち時間は、一手につき1分間。長考の局面ではありません。駒を進めて下さい」
だが、気にせずに電話を続ける姫乃。
遂に激怒して立ち上がる陽湖。
「いい加減にして。真面目にやらないなら出て行きなさい!」
姫乃と取っ組み合いの喧嘩になりかけた陽湖を、川辺と渚が遮る。
「[[rb:頭 > ず]]が高い。姫乃様の策に異見する気?」
「静かにしな。電話の声が聴こえねぇだろ!」
陽湖と渚が睨み合いをする中、姫乃が漸く宇崎に指示を出す姫乃。
「瞳さんはこれより……15-24に移動します」
それを聞いた他のプレイヤー達が驚いた。まさか、あんな不真面目な指し手で理想の拠点を探し当てたからだ。
不思議そうに姫乃の顔を見る他のプレイヤー達を不思議そうに見る姫乃。
「いくら始まったばかりとは言え……誰もあのモニターを見ていらっしゃらないのですね?」
陽湖にとっては意味不明な言い分だった。
「いい加減にして!これ以上―――」
「それに!」
自身が言おうとした警告を遮られて更に怒りが増す陽湖。
「一手1分と言うのも非常に短くありませんか?」
この言葉で完全に姫乃を侮ってしまった陽湖。
「あっそ。つまり園藤姫乃は救い―――」
だが、姫乃の言葉は[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]のルールを全否定するかの様な凄まじい物であった。
「これでは、『[[rb:現場の声が聴き取り辛くありませんか > ・・・・・・・・・・・・・・・・・]]?』」
この言葉で何かを悟った品田が、司会進行役の篠崎に指示を出す。
「[[rb:蜜獾 > ラーテル]]の様子を映してくれ!今直ぐに!」
「あっ、はい!」
で、篠崎の後ろにあるスクリーンに映し出されたモノは、3人の鷺宮女子高生徒にスマホを返す宇崎の姿であった。
「無礼を承知で言わせていただくなら、皆さんに『島の地形は把握してるのか?』と訊かれた時、何でそんな『無駄な事』をしなくてはならないのかと思いました。何故なら、現場の現状を最も知っている人物は、その現場に立っている人ですから」
そう、さっきの姫乃の電話の相手は宇崎だったのだ。

働き蜂の数や仕事を決めるのは、女王蜂ではない。
卵の数は、働き蜂同士の「相談」により、女王の食事量を調整する事でコントロールされている。
その役割もまた、女王が命じるものではなく、狩り、幼虫の世話、巣作りや掃除など、様々な仕事に対し、適任と思しき働き蜂が、自主的な判断でその役割を担う。

姫乃が採った作戦を正しく理解した品川が不敵に笑う。
(フフ……考えたな。まさか駒がプレイヤーを動かすとはね。スポーツで言うなら、選手が監督に指示を出すようなもの。前代未聞な戦略だ)
だが、同時にある種の畏怖も感じる品川。
(しかし、そうなると……15-24には、駒が自力で辿り着いたという事になる。データが少なく分析は不十分だが、プレイヤー共々[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]への参加は初めてのはず。見知らぬ地にも関わらず、初見で有利な地点を見抜くとは……これも[[rb:蜜獾 > ラーテル]]の[[rb:潜在能力 > ポテンシャル]]の1つなのか?)

闇夜の中、何の道標も無く見知らぬ場所を動き回る。
人間にとっても動物にとっても、危険極まりない行為は、ラーテルにとっては日常のものである。
その並外れた胆力を武器に、視界が悪かろうと足場が悪かろうと先客がいよと、まるで意に介さず、縦横無尽に縄張りを拡げ、餌場や寝床を見出す事が、ラーテルの生活基盤となっている。
即ち、未開の地にひとり放り出されるという事は、不利どころか本領発揮。ラーテルの独壇場ともいうべき状況なのである。

漸く席に座った陽湖だが、未だに不機嫌であった。
(な、何て奴……思考を放棄して駒に選択を委ねるなんて、どこまで依存体質なの!?プレイヤーとして……いや、人として恥ずべき行為だわ。この女だけは、絶対に潰してやる!)
陽湖が別のプレイヤーに目で合図をする。
(フフ……サイン交換は、あなた達の専売特許じゃなくってよ。見せてあげるわ。[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]]熟練プレイヤーの実力をね)
その後も、参加[[rb:獣闘士 > ブルート]]に移動指示を出すプレイヤー達の姿を、冷ややかな視線で観る渚。
(で、結局、誰も現場の[[rb:獣闘士 > ブルート]]の意見を聴いてねぇ。せっかく姫乃が手本を見せてやったって言うのによ。プレイヤーの指示もタイムリミット付きみたいだし……ますますスパロボ感覚だな)
だが、川辺が渚に指で下を見る様指示する。
「ん?」
(姫乃、何であんな渋い顔をしてんだ?というか、画面を見ずに盤面を見てるぞ。一体何が……)
盤面を見て漸く気が付いた。宇崎が三門派[[rb:獣闘士 > ブルート]]2人に囲まれていた事に。

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島崖エリア

炎蹄島に密かに潜入していた『兵士』達が、スマホで姫乃の指示を受けていた。
「はい。了解しました。では、その様に」
宇崎は、電話の内容を聞かずして、『兵士』達が次何を言おうとしているのかが解った。
「敵か?」
「ええ。しかも、2人で挟み撃ち」
宇崎が笑った。
「姫乃の奴、面白い作戦を考えやがったぜ。お陰で……」
宇崎が嬉々として後ろを振り向く。
「誰かがコッソリ忍び寄ったとしても……すぐ分かる」
後ろにいた男性は、余裕の表情で言い返す。
「心外ダナ。忍ビ寄ッタ覚エハ無イゼ。俺ハ忍ビジャナクテ、力士ダカラナ」
「力士?」
近くにいた『兵士』達が、自称力士を見て冗談を言った。
「その割には、岡島さんよりかなりスマートじゃね?」
「こんなに細い力士なんて、サガるわー」
だが、力士は意に介さない。
「能書キハ要ラナイ。悪イガコノ場所ヲ譲ッテモラウ。コナイダノ決着モマダダシナ。[[rb:蜜獾 > ラーテル]]」
一方の宇崎は、訳も解らず首を傾げた。
「あ?お前誰だよ?」
力士は冷静だった。
「分カラナイカ?」
力士が獣化した。
「ダガ、コノ姿ナラ分カルダロ?」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

川辺が獣化した力士を視て驚いた。
「ヒグマだわ」
「ヒグマ?」
「ヘラジカやアシカなど大型動物をも襲って食べる恐ろしい奴だよ。優れた嗅覚と聴覚を持つから、追跡者としても優秀だよ。まともに戦って勝てる動物は少ないよ」
川辺の解説を聞いた渚は困惑した。
「それてヤバくね?」
その間、篠崎と観客のテンションが急激に上がった。
「SHOWDOWN!1つのマスに2つの駒乗ったため、1巡目にして、早くも戦闘開始です![[rb:熊 > ベア]]VS[[rb:蜜獾 > ラーテル]]!片や比類なき破壊力。片や比類なき無謀。初戦カードから流血必至!果たして、どちらに軍配が上がるのかァァーッ!」
周りの異様な盛り上がりに、姫乃は溜息を吐く。
(1年前のあの悲劇で解っていた事だけど、人間というものが、どんなに平和で調和が取れ、安定した状況にあろうと、必ず、争いを求めるという事を)
そして思い出す谷のあの言葉。
「セレブは、娯楽に飢えているのさ」
(これも、藤本先生が言っていた『政治や軍隊などの中枢機構を男性が占める事による脆く壊れやすい、人類の作る不完全な[[rb:男性 > オス]]社会の弊害』……なのでしょうか?)

「男」であることが犯罪リスクを大きく高めることは、統計的に明らかです。アメリカの調査でも、凶悪犯罪者の9割は男で、人種や宗教、生育環境による差はほとんどありませんでした。唯一、はっきり現れたのが、性差。もちろん、男性イコール犯罪者ではありませんが、「男という性」に攻撃性・暴力性が潜んでいることは間違いありません。
なぜ、男は凶悪犯罪を起こすのか。
進化論的には、男は「競争する性」、女は「選択する性」として「設計」されています。すべての生き物は、できるだけ多くの子孫(利己的な遺伝子)を後世に残すようにプログラミングされており、哺乳類や鳥類の多くでは、オスが競争し、メスが食料や安全などの「資源=支援」をもっとも多く与えてくれるオスを選ぶのが性戦略の基本です。もちろん、ヒトも例外ではありません。
男児は思春期を迎えると、男性ホルモンであるテストステロンのレベルが急上昇します。これによって、他の男たちを押しのけて一人でも多くの女性を獲得するきびしい競争に乗り出すことができるのです。
テストステロンが筋肉質の身体や彫りの深い顔立ち、低音の声などの「男らしさ」に関係するだけでなく、徒党を組んで競争を好み、支配欲や攻撃性を高めることは様々な研究で確認されています。
([[jumpuri:文春オンライン > https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190913-00013997-bunshun-soci]]参照)

2018年6月20日 東京都千代田区霞が関二丁目1番1号警視庁本部庁舎3階留置場

鷺宮女子高銃撃テロ事件では、姫乃の逃亡を手助けしようとした助手の原口を研究者としての本分と好奇心を理由に助長させたため、逃亡幇助と公務執行妨害の容疑で逮捕されてしまった藤本康臣。
其処へ、1人の男性が面会しに来た。だが、その体は包帯でぐるぐる巻きにされており、松葉杖も相まって痛々しそうである。
「大貫さん……でしたかな?生きておられましたか?」
「ええ、まあ……あなたの助手に殺されかけましたけどね」
そう、公安警察特務捜査課に所属していた刑事大貫賢は、姫乃と渚の逃亡を手助けした原口が運転する車に轢かれて重傷を負っていたのだ。
しかも、原口は鷺宮女子高銃撃テロ事件前日に姫乃の『女王』の『針』に刺されて『兵士』化していた。
「今日はその事で来たんですが……何度も理解したつもりだったんですが、どうも解らなくなってしまって……彼女達の……いや、『蜂』の目的は、一体何なんですか?」
藤本は静かに答えた。
「それはですな、ズバリ、理想の社会を作る事です。そのために最も効率的な方法が、社会寄生。スズメバチやミツバチなどの社会性蜂は、女王も兵士も全てがメス。彼女らにとって、オスは全く不要な存在であり、生涯たった1度の生殖活動を終えた後は、メスのみで単一的かつ非常に安定的な社会を作り上げます」
そのまま、藤本は蜂と人間を比較する。
「人類の作る不完全な[[rb:男性 > オス]]社会には、随所に[[rb:女性 > メス]]の存在があります。政治や軍隊などの中枢機構を男性が占めながら、家事や育児などの生活機構は、女性が占める分担制。しかも、それが時折入れ替わったりするという、それはそれで発展的とも取れますが……」
そして、藤本は人間社会そのものを否定するかの様な事を言い出し始めた。
「社会性生物としては落第点。人間社会は、その規模や機能性とは裏腹に、非常に脆く壊れやすい。『蜂』にとっては、まさにそこが付け目。社会形成に不可欠な少数の女性のみを支配下に置けば、最小限の変革のみで、全体を乗っ取る事ができる」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

[[rb:熊 > ベア]]VS[[rb:蜜獾 > ラーテル]]という流血必至の対戦に観客席のセレブ達が熱狂する中、陽湖が冷静に独白。
(15-24は、確かに有利な拠点。でもそれは、チームの連携があればの話よ。ひとりで立っても意味がない。[[rb:熊 > ベア]]が足止めしてる間に、私の駒が増援に向かえば……2対1。この場所は、確実に三門のものになる)
陽湖がクスッと笑いながら姫乃をチラ見する。
(もっとも、そうなるのは私が二手目を指す前に、[[rb:蜜獾 > ラーテル]]と『兵士』共が殺されてなければの話だけどね)
そして、篠崎が熱狂している観客を煽る様に叫んだ。
「[[rb:獣獄刹 > デストロイヤル]][[rb:第一戦 > ファーストバウト]]![[rb:試合 > レディ]]……[[rb:開始 > ゴー]]!」

2018年6月20日 東京都千代田区霞が関二丁目1番1号警視庁本部庁舎3階留置場

が、藤本は、[[rb:熊 > ベア]]VS[[rb:蜜獾 > ラーテル]]の勝敗結果を予言するかの様な言い分を、1年以上前から口にしていた。
「何故我々は、男と女に分かれているのか。その理由が解りますか?」
質問の意味が解らずに困惑する大貫。
「いえ……全く……」
「太古の昔、原始の生命は、配偶子を二極化する事で、繁殖力を高める方策を思いつきました。それが、精子と卵子です。ですが、巨大で複雑な機構を持つ卵子と単純で生産が容易い精子。どちらがより価値ある存在かは明らかであり、自然界は、常にオスよりメスを優位なものとして生み出してきました。[[jumpuri:オスよりもメスが大きい種も多く > https://www.youtube.com/watch?v=BuYLGVGCkfw]]、[[jumpuri:概して、生命力も強く寿命も長い > https://www.youtube.com/watch?v=xC--vbzSGhU]]」
此処で、藤本がまた人間と他の動物を比べた。
「しかし、人間の場合、オスの方が大きく力が強い。これが過ちの第一歩。おそらくは、狩猟と農耕とにその役割が分かれた事が発端なのでしょう。その後の進化の過程で、膂力の強いオスが社会の実権を握り、メスは社会の中核から外されていきました」
藤本は、また人間社会を否定した。
「[[rb:人間 > ヒト]]は進化に失敗した。遠からず亡びる運命にある事でしょう」
困惑する大貫を置き去りにして、藤本が持論を展開する。
「ハチは違います。完全なる社会を持つ彼女らは、産卵管を変質させた刺殺武器『針』の存在により、戦闘力において雌雄の差を決定的なものにしながら、2億年もの生存競争を生き抜きました。『ハチの世界』の常識で言えば、オスがメスに逆らうなど愚の骨頂。集団ならともかく、1対1で相対すれば……」

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島崖エリア

「雌が雄に敗ける、理由が無い」
観客の盛り上がりに反して、[[rb:熊 > ベア]]VS[[rb:蜜獾 > ラーテル]]は一瞬で終わった。
すれ違いざまに攻撃する同士のぶつかり合いが発生してすぐに[[rb:熊 > ベア]]がKO敗けしたのだ。
「ナ……ナゼダ……マサカ、アノ時ノ一撃ダケデ、俺ノ技ヲ見切ッタノカ?」
「ま、完璧じゃないけどな。紙一重でこっちが殺られてた。それでも、牙の鋭い方が勝つ。それが『[[rb:牙闘 > キリングバイツ]]』だ」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

流血必至の戦闘が一瞬で終わったから観客がクールダウン……という事態を防ごうと篠崎が宇崎の大金星を称えた。
「なんと一撃![[rb:蜜獾 > ラーテル]]が[[rb:熊 > ベア]]を下したァーッ!」
一方……[[rb:熊 > ベア]]のプレイヤーが蒼褪めながら頭を抱えた。
「バ、バカな……私の[[rb:駒 > ベア]]が、一撃で……な、何なんだ、あの技は……」
が、そんな敗けプレイヤーを無視してモニターを睨む陽湖。
(フン。想定していたよりは、多少、厄介な相手みたいね……早めに片付けたい所だけど、戦況を考えれば、もう1人の仲間と合流するのが先ね)
今度は、姫乃に怒りと敵意の視線を送る陽湖。
(今に見てなさい。園藤姫乃、あんたの駒は、私の駒で完膚無きまでにブッ潰してやるわ!)
その一方、セレナが宇崎の決め台詞を嘲笑う。
「終わったな……これで確信になった」
フード娘は、何の事か判らず首を傾げた。
「確信?何の事だ?」
セレナはこう予見した。
「牙の鋭い方が勝つと言う勘違いに囚われている限り、[[rb:蜜獾 > ラーテル]]は[[rb:兎 > ラビ]]には絶対に勝てない!」
フード娘は、自分の頭を指で突きながら反論する。
「あの[[rb:熊 > ベア]]に楽勝した奴が[[rb:兎 > ラビ]]にって、あんな[[rb:雑獣 > ザコ]]に何が出来るんだい?大丈夫?」
それを聞いたセレナが高笑いをした。
「な!?……何が可笑しいんだよ……?」
「ただ勝つのと最後まで生き延びるのとは別問題だ。相手の力量を見極め、無駄な争いを避ける。それが、常勝に生きる『勝者』の戦術だ」
フード娘が白目を剥きかけながらツッコミを入れる。
「それって……カッコ悪くねぇ?」
セレナが呆れながら答えた。
「それは、人間どもの歪な常識が産んだ勘違いよ。どんなに外見を馬鹿にされても、どんなに忌み嫌われても、絶滅せずに存在し続ける。それが……自然界における『勝利』の定義よ」
セレナがクスッと笑いながら姫乃を見た。
「だが、これはこれで好都合。あの[[rb:強者気取り > すくいようがない]][[rb:無謀 > バカ]]が、園藤姫乃の『女王』としての力量を測る良き試金石となろう」
そして、セレナが宇崎をまた侮り嘲笑った。
「ま、私なら[[rb:蜜獾 > ラーテル]]などと言う常敗のお荷物のプレイヤーなどお断りだがな」

第13話:横田大

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

宇崎が[[rb:熊 > ベア]]を一瞬で倒した頃、岡島は密林に迷い込んでしまい、困り果てていた。
「ヒトミ殿とウイ殿は大丈夫じゃろうか?じゃっどん、人の心配をしてる場合では無か。こげな密林の中でターン終了となれば、おい本来の力ば発揮できもはん。他の駒に狙われる前に、もっと広い―――」
残念ながら、岡島の背を斬撃の様な引っ掻きが襲った。
「お!?」
攻撃した相手である中西大河は、退屈そうに呟いた。
「フン。石田の[[rb:雑獣 > ザコ]]か。退屈な時間を過ごさねばならんのは、苦痛だな」
だが、岡島はタダで大河に勝利を譲る事を許さなかった。
「待つでごわんど」
大河は、振り返らずに後ろをチラ見した。
「噂通りの素速さでごわんど。じゃっどん、大した事はありもなん」
岡島は、獣化しながら立ち上がる。
「こげな程度なら、かわすまでも無か」
獣化した岡島の頭と手足は、カバそのものであった。

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

獣化した岡島の姿に、渚が岡島の力量を疑った。
「うわ!?弱そぉー……」
一方の川辺は、冷静に岡島が置かれた状況を分析して、困惑した。
「岡島さんも運が悪い」
「そりゃそうだ。カバなのにこんな猛獣だらけの大会に―――」
川辺は、渚の勘違いを真っ向から否定した。
「カバって、ゆったりした動きから穏和で動きの鈍い印象があるけど、陸を時速50㎞で走るし、厚さ3~4㎝の皮膚と4~7㎝の皮下脂肪を持ってるし、カバの下顎の牙は50㎝以上もあるから、下手になめてかかると骨を折られて死ぬよ」
カバの予想外の強さに驚く渚。
「そんなに凄いのカバって?」
でも、川辺は緊張の色を隠さない。
「普通に戦えば、虎がカバに勝つ事なんてありえない……けど」
川辺の台詞に、渚が再び不安になる。
「けどって何だよけどって?」
川辺は、悔しそうに言い放った。
「……密林でカバと戦えば……虎にも勝ち目が有るかもしれないんだ!」
「えぇ!?」

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

岡島も、密林で虎と遭った事がどれだけ不幸かを自覚していた。
(強がってはみたものの、攻撃が全く見えもはん。さすがは前回優勝者。このままでは……)
と、思いきや、岡島にとっては嬉しい誤算が発生した。
「なるほどね。やたらこのマスに駒が集められてると思えば、そういう事か」
[[jumpuri:あの時の眼鏡男 > https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11596984#3]]が枝の上で高みの見物をしていたのだ。
「随分と恐れられてるみたいだね?[[rb:虎 > ティガ]]」
(み、三門財閥の[[rb:獣闘士 > ブルート]])

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

あの眼鏡が[[rb:獣闘士 > ブルート]]である事は、ある程度読めていた渚。
(宇崎のバカがアイツを攻撃した時、アイツは何食わぬ顔で枝に飛び移ったから、普通じゃないと思っていたが……)

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

岡島の嬉しい誤算は、これだけではなかった。
「三門・石田・角供が組んで八菱を潰す共闘作戦……姑息なプレイヤーの考えそうな事だ」
岡島の横顔が、心なしか嬉しそうに見えた。
(角供財閥の[[rb:獣闘士 > ブルート]]まで……なるほど。3対1なら、さすがの[[rb:虎 > ティガ]]といえど……)
で、その角供財閥の[[rb:獣闘士 > ブルート]]が不敵に笑う。
「別に、俺1人で十分だがな」
([[rb:獣闘士 > ブルート]][[rb:虎 > ティガ]]。普通なら、おいの手に負える相手ではありもはん。じゃっどん、3対1。この状況なら、いかに[[rb:虎 > ティガ]]とて……)

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

否応にも盛り上がる状況に、篠崎が更にハイテンションになる。
「SHOWDOWN!いきなりの乱戦!1つのマスに4つのコマが集結。前大会の優勝者で今大会の大本命!八菱財閥[[rb:獣闘士 > ブルート]][[rb:虎 > ティガ]]に対し、三門、角供、石田、三者が手を組み、3対1で、一気に潰す気だああああ!」
大河のプレイヤーである品田が呆れ気味に言い放つ。
「やれやれ。すっかり邪魔者扱いだな」
それに対し、三門物産執行役員の増田と角供生命常任顧問である横田が、悪びれる事無く言い放つ。
「悪く思わないでくださいよ。こっちも必死なんでね」
「そう。これも強者の宿命ってヤツですよ」
品田が堂々とした態度で言い返す。
「分かってるさ。甘んじて受けよう」
陽湖は、あまりにも白々しい展開に呆れた。
(何が共闘戦線よ。プレイヤーは、何のメリットも無く協力なんかしない。各々に別の思惑がある筈。特に……)
横田をチラ見する陽湖。
(角供財閥のプレイヤーは、要注意ね)

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

眼鏡男がいきなり木の枝から飛び降りた。
これは、岡島にとっては予想外であった。あの立ち位置からして、これから大河がやろうとしている3連戦のアンカーとなるかと思われた人物が、しゃしゃり出て来て先鋒をやりたいと言ってきたからだ。
「さてと。そんじゃ、僕から行こうかな。[[rb:虎 > ティガ]]とは、是非1度闘ってみたかったんだよね」
だが、角供派の[[rb:獣闘士 > ブルート]]がそれを遮る。
「お前らは手を出すな。こいつは、俺が殺る」
岡島は、このやり取りに驚き唖然としていた。
(こ、この2人も只者ではなか。あの[[rb:虎 > ティガ]]を1人で倒すつもりでごわんど)
眼鏡男は、あっさりと先鋒を譲った。
「ふうん。別にいいけどさ、あんた1人で大丈夫?大分不利だと思うけど、立地的に考えて……」
「黙れ。邪魔をするなら、まずは、貴様を殺る」
角供派の[[rb:獣闘士 > ブルート]]である椎名竜次が獣化した。
その姿は、二足歩行するワニと言った感じなのだが……

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

川辺は、椎名の獣化を見て違和感を覚えた。
「あれ?」
二足歩行するワニにしては[[rb:何か足りない > ・・・・・・]]気がしたのだ。
「あれ……ワニぃ……だよね?」

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

椎名の挑発に対し、眼鏡男がわざとらしく驚く。
「おー、怖ッ。それじゃ、お手並み拝見といこうか。[[rb:河馬 > ヒポ]]」
「う、うむ……」
椎名と眼鏡男のやり取りに入れずに空返事が限界の岡島であった。
その間、ただ待っていただけの大河に、椎名が遂に飛び掛かった。
「さあ、魅せてもらおうか……地獄って奴をな!」
椎名が飛び掛かりながら噛みつこうとするが、大河がそれをバックステップで躱し、椎名が立て続けに裏拳を繰り出すも、大河はジャンプで楽々と回避してしまう。
だが、ジャンプの隙を衝く様に極太の腕が大河の腹を思いっきり殴った。
予定外の援護に、椎名が不快になる。
「オイ。手出しするなと言った筈だが、どういうつもりだ?」
あの眼鏡男……三門派の[[rb:獣闘士 > ブルート]]である矢部正太の腕が、まるでゴリラの様に肥大化していた。
「いやー……なんかまどろっこしくてね」
椎名が更に不快になる中、矢部が椎名に関する疑問を口にした。
「ダメだよ。闘うなら、本気でないと。半端じゃ、[[rb:虎 > ティガ]]に失礼でしょ。それとも……何か裏がある。とか?」
矢部もまた、川辺と同様に二足歩行するワニにしては[[rb:何か足りない > ・・・・・・]]気がしたのだ。
「貴様―――」
椎名が何かを言いかけたが、大河がそれを遮った。
「気にするな」
大河が矢部の顔面をジャンプ台代わりにして跳びあがり、そのまま木々を飛び移り続けながら椎名と岡島を翻弄する。
「な!?こ、これは一体!?」
岡島が大河を発見した時にはもう遅く、大河に思いっきり引っ掻かれた椎名が身体を前方に1回転させながらうつ伏せに倒れた。
「お前ら[[rb:雑獣 > ザコ]]の本気など、全く興味が無い」

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

「圧倒的!まさに圧倒的!目にも止まらぬ[[rb:虎 > ティガ]]の攻撃で、[[rb:鰐 > クロコダイル]]と[[rb:巨猩羅 > ゴリラ]]の両名がダウゥゥゥゥン!」
あまりにあっけない展開に、渚が驚いた。
「早ッ!これが……密林なら、虎でもカバに勝てるかもしれないって言った理由かよ!?」
川辺が悔しそうに頷いた。
「……ええ」

トラは、世界最大の猫科猛獣である。
最大種は体長3m、体重300kgに達する巨躯でありながら、瞬発力と柔軟性を兼ね備え、特に、密林においては無敵の強さを誇る。
樹木が茂り足場の悪い地で虎に見つかれば、奇襲を防ぐ事はおろか動きを捉える事も不可能。
気が付いた時には、急所を切り裂かれ、屍となって地に伏すのみである。

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島崖エリア

[[rb:熊 > ベア]]を早々と倒して手暇となった宇崎。
「なるほど。このマスにいりゃ、1㎞先まで見渡せる。確かに有利。ここをウロウロしてりゃ楽勝だな」
だが、好戦的な性格の宇崎が安全策を素直に受け入れるとは思えない。
「でも、やっぱそうはいかねえよな」

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

岡島は困惑した。
自分を含めた四つ巴の戦いの筈が、終わってみれば大河と自身との力の差をまざまざと見せられる結果になってしまったからだ。
(こげなこっが![[rb:鰐 > クロコダイル]]と[[rb:巨猩羅 > ゴリラ]]が一瞬で……3対1なら勝てるなどと、とんでもなか。密林の[[rb:虎 > ティガ]]がまさかこれほどとは……)
そうこうしている内に、岡島と大河の目が合ってしまった。
「そうか……もう1匹いたか……」
(ハッキリ言って、勝ち目は無か)
岡島は、覚悟を決めて四つん這いになりながら突撃のチャンスを窺った。
(じゃっどん、只では死にもはん!)
しかし……
「駒の移動が確認されました。3分以内に南方向のマスに進んでください」
大河に下った移動命令に、自身の敗けを確信していた岡島にとっては信じられないと言った感じであった。
(駒を動かした!?バカな!?この圧倒的に有利な状況で、一体何故!?)

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

岡島は知る由もなかったが、有利な状況なのは大河だけではなかったのだ。
品田が苦虫を噛み潰したような顔で盤面を見ていたので、渚が首を傾げた。
(何だ?あのおっさん、画面を一切観ないで盤面ばかり……)
品田がしかめっ面になるのも無理は無い。
別の八菱財閥の駒が、角供財閥の駒に挟まれそうになっていたのだ。
観客席のセレナが品田の苦悩を嘲笑う。
「悩んでるな?見捨てるか……いや!見捨てきれるかな?」
それを聞いたフード娘が苦笑する。
「小を捨てて大を救う……ってか?怖いねぇ!」

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

で、結局、品田は駒の移動を選択したが、それこそ角供財閥の思う壺である。
「この時を待ってたぜぇ!」
椎名が大河の左足に噛みついたのである。
(バカな!?なぜ動ける?さっきの一撃は、確実に致命傷を与えたはず!?)
予想外の展開に困惑する大河だが、置かれた状況は、大河が考えているよりもっと深刻であった。

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

大河の左足が未だに千切れていない事に違和感を感じ……横田の性悪さに寒気を感じる川辺。
「まさか……確か、駒の動きに合わせて本人が動かないと、首輪が爆発する筈!貴っ……様ぁー!」
当の横田は悪びれもせずに品田に言い放つ。
「フフ、正攻法では敵いませんからね、搦め手を使わせてもらいましたよ」
それに対し、他のプレイヤーも観客も只々笑うのみであった。
「ハハハ、こうなっては、さすがの[[rb:虎 > ティガ]]もおしまいですな」
「まったくです」
場の性悪さに嫌気がさす渚。
(何なんだこいつら!?自分の采配で人が死ぬって言うのに、よくそんなに愉しそうに笑えるな!?)
そして、姫乃をチラ見する渚。
(やっぱ……姫乃を此処に連れ込んだのは間違いだったぜ!)
そんな中、姫乃のスマホが鳴った。
「はい」
そんな姫乃の様子を楽しげに観る一同。
「さて、『女王』陛下はどう動きますかな?」
んで、陽湖が姫乃を嘲笑う様に独白。
(ふん。結局、アンタが状況説明と言う名の誘導尋問をして、自分の思い通りに駒を動かすんでしょ?アンタも、他のプレイヤーと変わらないのよ園藤姫乃!)
だが、

2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島密林エリア

角供財閥の卑劣な作戦のせいで動けない大河の姿を木の影に隠れながら観ていた矢部。
実は、大河に顔面を蹴られる際に、バックステップしてダメージを最小限に抑えていたのだ。
(なるほど……流石は角供だ。実力で……とはいかないか?)
角供財閥の卑劣さを嘲笑う矢部であったが、彼もまた、他人事ではなくなっていた。
「駒の移動が確認されました。3分以内に西方向のマスに進んでください」
突然の首輪の指示に、困惑しながら大河と椎名の様子を窺う矢部。
(道草を食ってないで、さっさと城戸と合流しろって事か?けど……)
矢部と椎名の目が合ってしまった。
「……やっぱり……さっきのアナウンス……聞かれて……た?」
椎名は、大河の左足に噛み付いた状態のまま大河を振り回して矢部にぶつけようとしていた。
(フフフ……どうだ!?[[rb:鰐 > クロコダイル]]の咬合力は、1.7t!地上最強だぜ!1度喰らい付けば、この程度の振り回し程度じゃ放さないぜ!)
椎名の攻撃を1度は躱すが、振り回される大河に目が行き過ぎて、椎名の尻尾による打撃をもろに食らってまた失神する矢部。

ワニの尾は、巨大な殴打武器である。
それ自体が巨大な筋肉の塊であり、尾の力のみで時速30㎞もの速度で泳ぎ、垂直に飛び上がる事が可能。
表面は強靭な皮革質で覆われ、「皮骨」と呼ばれるスパイクが並び、その威容は中世のメイスを彷彿とさせる。
事実、川岸で水を飲んでいた三頭のライオンが、ナイルワニの尾の一撃で水中に叩き込まれて餌食となった記録もある。

(これで、[[rb:巨猩羅 > ゴリラ]]も今度こそ終わりだな?2人共、首輪の爆発で本物の地獄へ行けぇーーーーー!)

2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング

矢部と大河が窮地の中、陽湖と増田が大声で揉めていた。
「お嬢様が[[rb:巨猩羅 > ゴリラ]]を動かせって言うからこうなってしまったのですぞ!」
「黙れ!能書きを言っている暇が有ったら、早く[[rb:巨猩羅 > ゴリラ]]に[[rb:蜜獾 > ラーテル]]の足止めをさせなさい!」
「それをやらせろと言った途端に、角供の罠に嵌ったんですぞ!」
「いいから早くしろ![[rb:穿山甲 > パンゴリン]]さえ残っていれば、こっちはいくらでも逆転できる!でも、[[rb:穿山甲 > パンゴリン]]を失ったら、その時点で三門は負けなのよ!」
「ちょっと!?それじゃあ、私は何なんですか!?ただの数合わせと言う御心算ですか!?」
それを観ていた渚が嬉しそうに高笑い。
「はははははは!アーハハハハハハ!」
「何が可笑しいの!?元を辿れば、あんた達が余計な事をしたからでしょ?」
嫌な予感がした姫乃が後ろを振り返ると、渚の顔が姫乃に対して悪質非道ないじめをしていた頃に戻っていた。
「何がプレイヤーだよ偉そうに。所詮は、現場の事を何も知らない癖に上から目線で指示を出す邪魔者じゃないかよ」
それを聞いた横田がクスッと笑い、一方の品田は人の事が言えずに困ってしまった。
それは流石に言い過ぎだと思った姫乃が渚に注意を促そうとするが、岡島のプレイヤーで株式会社ソンバンク代表取締役夫人である尊聖羅が姫乃に進言する。
「まあ、渚さんについては、そのくらいは大目に見てやって貰えます。この場の非人道的な空気に嫌気がさしてたみたいなんで」
確かに、[[rb:牙闘獣獄刹 > キリングバイツデストロイヤル]]のプレイヤーの性格は、ハッキリ言って善人とは言い難い。けど、それをプレイヤーである筈の尊夫人が言うとは……

セレナもまた、陽湖と増田の口論を観て、拍手しながら大笑い。
「だーハハハハハ!」
それに対し、フード娘が皮肉を言う。
「つまり、アンタは四大財閥を過小評価した訳だ?あいつ等なんて……『その程度か』と」
セレナが鼻で笑った。
「フッ!ま、例のルールを聴いた時からそんな気がしていたけど、あいつ等は忠誠の意味を履き違えている。あ奴らは、下に『上に利益をもたらす』を超えるモノを求め過ぎた。正に、姫乃の『兵士』が言う『上から目線で指示を出す無知な邪魔者』よ!」
セレナが勝ちを確信したかの様に微笑んだ。

ヒメノスピア×キリングバイツ

ヒメノスピア×キリングバイツ

pixivに連載中の私の作品であるヒメノスピア×キリングバイツ(https://www.pixiv.net/novel/series/1143454)を、こちらでも掲載させて頂きます。 内容としましては、ヒメノスピア第11話(https://www.heros-web.com/comics/9784864685900/)以降の園藤姫乃がキリングバイツ第30話(https://www.heros-web.com/comics/9784864684729/)までの野本裕也の役割を担うが、無料では引き受けないぞ!的な内容です。

  • 小説
  • 中編
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-28

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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