スター・シュガー
もとめられる、というおこないを、されたときの苦しさ、みたいなものがあるのだと、くまはいいます。くまは、神さまではないのに、神さまとして崇め奉られている、くまです。にんげんは、勝手だ。というのが、くまの口癖です。すこしでも怪我をさせれば、私たちを狩り殺すくせに、困ったときは、手のひらを返して、すがってくる。にんげんについて、くまは、そう述べます。ぼくも、にんげんであるけれど、というと、くまは、きみはいいのだと、はっきり答えます。それから、おいしいコーヒーを淹れる、森の喫茶店のマスターと、毎日たべたい絶品フランスパンを焼いている、町はずれのパンやさんのおじさんのことも。
くまの部屋は、ちいさな丸太小屋です。せまくて申し訳ない。くまは、いつも、ぼくが訪れるたび、律儀に謝ります。ぼくは、まるで、ぜんぜん、気にならないのだけれど、くまは、まじめなので、ちょっと、まじめすぎる節も、あるので、そこもまた、くまのいいところだろうと思うけれど、いちいち、謝らなくてもいいのに、とも思います。くまの家におじゃまするぼくは、確かに、おきゃくさんではありますが、もう、ただのおきゃくさんでは、ないのだから、かくばった様式みたいなものは、ひつようないのに、というのが、ぼくの本音です。くまの家は、ちいさな丸太小屋で、お世辞にも広いとはいえませんが、なかはきれいだし、無駄なものがなく、くまの、たいせつにしているものだけが、きちんとそろえておかれています。まどぎわにゆれる、白いレースのカーテンの模様をじっくりみたとき、あまりの細かさにめまいがしました。くまはかならず、ハーブティーと軽食を、ごちそうしてくれます。クラッカーにサーモンや、クリームチーズや、ジャムをのせたもの、たまごのサンドイッチなんかを、くまは作ってくれます。ハーブティーの、ハーブのことを、ぼくはあまりわかっていませんが、これが、もともとは、葉っぱなのだ、と想うと、すこしふしぎな気持ちにもなりました。白でそろえられた食器は、いつも、ぴかぴかしている。
くまは、まじめすぎるくらい、まじめだけれど、どうしようもなく、やさしくて、星に、砂糖をまぶしたら、きっと、口にいれた瞬間に、はじけて、そんな刺激を、くまは、ときおり、あたえてくれます。
二十二時。
もとめられる、ことを、望まないくまに、ぼくは、でも、もとめて、すがるみたいに、毎夜、くまに逢いたいと思っています。
ごめんね。
スター・シュガー