夜は四角い部屋

 めがねをはずして、みえるものは、あります。たとえば、夜には、そういったものが、蔓延っている。水族館の、イルカのトレーナーではなく、イルカ自身になりたいと思ったことも、ありました。あと、シャチとか。
 珊瑚を砕いて瓶に詰めるのは、憧れではありますが、海のなかで存在してこそ美しい珊瑚を破壊するなど、もちろん、ぼくにはできません。自然は、自然のままがいちばん、美しいのです。それをいったら、水族館は、動物園は、という話になってきますので、あまり深くは語りませんが。沈めておきます、ぼくのなかに。
 せんせいは、夜明けの空が好きです。
 ぼくは、夜は、えいえんにおわらないでほしい派です。
 朝など、こなくていい。
 夜明けなど、ひつようないという考えを秘めながら、太陽のもとで生きています。夜が好きで、夜にしかみえないものをみるのが好きですが、夜にはみえないものも平等に、好きなので、フクザツなところです。そういえば、きのう、またひとり、だいすきなひとがいなくなりました。だいすきなひと、といっても、顔も、ほんとうのなまえもしらないひとですが、パソコンのなかの、そのひとのことが、感覚的に、好きだったのです。クリームソーダの、メロンソーダの部分のかがやきは、人工的な照明によるものより、太陽光に照らされたときの方がより宝石チックになるので、おすすめです。しかし、パソコンのなかは、へいきで、ひとが、いなくなります。そして、うまれます。増えては、減りを、まいにち、くりかえしています。
 飛行機の音がはっきりときこえるのに、空にみえる赤いランプはちいさい。指で、つまめるほどに。冬の夜は、遠くの音がよくきこえるので、すこしだけ、こわいです。きこえなくていいものも、きこえてきそうで。夜にしかみえないものは、ぼんやりしていてやさしいのに、夜にしかきこえない音は、突き刺してくるような感じがするので、すこしだけ、こわいのです。
(なので、せんせい、手を、にぎっていてください)
 ぼくは懇願します。
 せんせいは、しかたないなぁと穏やかな声色で、答えます。
 ぼくらの部屋は、四角いです。ときどき、この、四角い箱が、夜の闇のなかでひとつぽっかりと、浮いていればいい。そう思います。

夜は四角い部屋

夜は四角い部屋

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-26

CC BY-NC-ND
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