タラバガニに人生をみた

いとう。

まず、導入からわけがわからないと思いますがよろしくお願いいたします。

タラチャンと私だけの秘密

水族館でタラバガニを見ていた

タラバガニは深海で暮らすので水の温度は冷たく設定してあるそうだ。
そのせいか、タラバガニの入った水槽のガラスだけ結露がひどい。
指でなぞると絵がかけそうだ。
バンクシーならなにかすごいアートを生み出すだろう。

結露で曇っているがよく見ると水槽のなかにはタラバが3匹棲息していた。

水槽の大きな石の裏に1匹の小柄なタラバ…こいつは水槽のなかで1番若いのだろう。

水槽を眺める私の手前にいる2匹はほとんど変わらないが
身長が150センチほどの私が両腕を広げたくらいの大きさだ。巨大である。

その日は、ひたすらぼんやりとタラバガニを見ていた。

なぜそんなに、カニばかり眺めてるのか分からない
別に私はカニは見るのも食べるのもそこまで好きじゃない。

でも、その日はなんとなくタラバを見ていたのだ。

なるほど、じっと見ているとなんだかかわいいような気がする。
ふよふよと歩く浮遊感のある動き
ぎくしゃくした両腕(ハサミ?)
キトキトと動く目。

しばらく観察してみたいので
手前にいたタラバガニ2匹に名前をつけた。
タラ雄とタラチャンだ。ネーミングセンスはないが許してほしい。

タラチャンはなにか右のハサミで「さけるチーズ」のような
細長い何かを持ってムシャムシャと食べている。
一心不乱に口に食べ物を運ぶタラチャンが健気に見える。

タラチャンは少し休もうとでも思ったのか
人間が両腕を伸ばしてストレッチをするように
両ハサミを思いきり伸ばしてノビをしたのだ。

その時である。

タラ雄がタラチャンの右のハサミで持っていたさけるチーズを奪ったのだ。

タラ雄はガツガツとさけるチーズにがっつく。

タラチャンは、なくなっていくさけるチーズを
無力感のただよう姿で眺めていた。
ふよふよとした動きがさらに悲壮感を誘う。

タラバガニの感情などまったく分からないが
タラチャンはジャイアンに漫画を取られても何もできないのび太のような
そんな、情けない表情を浮かべているようにみえた。

そんなことを思う私とタラチャンにもかまわずタラ雄は
さけるチーズを完食した。

私は世の中の縮図をこの小さな水槽のなかに見た気がした。

奪うタラ雄、無力なタラチャン、傍観者の小柄なタラバ…

奪うもの奪われるもの、いじめ、弱肉強食、ブラックorホワイト、格差社会…

こんなタラバガニの世界でも存在するのかと
動物に対して平和な感情しか抱いていない私は
若干、ショックを感じながら水族館をあとにした。

18歳の春だった。

友人Sが遠方で就職するので最後の地元の思い出にと水族館に来たのだが
私は、あのタラバガニの姿を見て友人にはタラチャンにはなるなよ…と
心の中でひそかにエールを送ることしかできなかった。

月日は流れて現在、30歳。

友人Sも私もそれぞれの仕事についているが

友人Sは、20の時に遠方の職場を辞めて地元に帰ってきていた。

上司が平気で罵倒や暴力などを行使するといういわゆるブラックな職場だったのである。

相当、ストレスをためて神経をすり減らしていたが
地元に帰ってくると、みるみるうちに回復して
今では、仕事をしながらアイドルの追っかけをするほどの元気を取り戻した。

今でも、友人Sは時々会う
仕事の愚痴や人付き合いの悩みなどをよく聞く。
友達が少なくのんきものの私には、いまいち悩みに共感はできない。

しかしこの手の悩みを聞くたびに30になった現在でもあの時のタラ雄とタラチャンの姿を思い出すのだ。

タラバガニに人生をみた

昔の水族館でみたタラバガニの記憶を掘り起こしてかいてみました。今でも、こいつらのことは鮮明に思い出せる。

タラバガニに人生をみた

水族館で学んだ世の中の仕組み。

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