5つの話Ⅱ

Shino Nishikawa

5つの話Ⅱ

五輪にちなんだ5つの話です。

5つの話Ⅱ
① ダンサーのヨシカの物語
ヨシカには、ミヨという妹がいた。しかし、二人でのお留守番の最中、ミヨは男に襲われて、亡くなってしまう。ちょうどヨシカとミヨは喧嘩中で、ヨシカは別の部屋で、リカちゃん人形の髪の毛をとかしていたのだ。
ヨシカは物音に気づいたが、なんだか恐い感じがして、見に行けなかった。この前、お母さんから、「2人は別の人生を歩むんだからね。」と言われたばかりだった。
ヨシカが見に行くと、ミヨは目を開き、血を流していた。
「ミヨ、大丈夫?」
ヨシカはミヨの頭をなで、目を閉じさせた。
ヨシカはぶるぶると震えながら、警察に連絡をした。

ヨシカの家は嘆き悲しみ、静まり返ってしまった。両親は心の病気になり、ヨシカに酷い言葉を言った。でも、ヨシカだけでも残ってくれた事に心から安堵した。
ヨシカは暗くなり、学校にも行けなくなる。
連絡帳を届けてくれた友達に、挨拶もできなかった。

落ち込んでいるヨシカに、女神様が声をかけた。
『ヨシカちゃん、ミヨちゃんがいなくなっても、普段通り生活できたのなら、いつか、ミヨちゃんを返してあげるよ。』
「ええ。でも、ミヨが死んじゃったのは、私のせいだから。」
『ううん。あれは、ちがうよ。あの恐ろしい鬼畜のせいだから。』 
「うん。ありがとう。」

ヨシカは、何度か女神様と話したが、ミヨが死んだせいで、少し心の病気になっていて、女神様の声が嘘だと思うようにもなった。
ヨシカはダンスを始める事にした。
『ヨシカちゃん、ダンスをやめれば、ミヨちゃんを返してあげるよ。』
女神様は言ったが、ヨシカには分からなくなっていた。

むしろ、ヨシカは、頭に響く神様の声を、ダンスのために使うようになった。
死者が蘇らない事は、何度も教えられていた。

高校を卒業したヨシカはため息をつき、テレビをつけるとバレーの試合がやっていた。
高校では恋をしても、うまくいかなかった。アニメにあるように、綺麗でもっと上品な交際がしたかった。
バレー選手はみんなが輝いていたが、ヨシカが一番かっこいいと思う人がいた。
しかし、休憩になると、チアダンスの人たちが出て来て、その人の前でダンスをした。
ヨシカは辛くなり、頬を切ってしまう。
ヨシカは顔をしかめた。悔しく思い、頬から血が流れる中、トレーニングをした。
そして、ヨシカは、アクロバットをできるようになる。

ヨシカはダンスにさらに熱中し、日本一のダンサーの地位を手にした。
そして、世界のステージにも上がるようになる。
ヨシカには厳しい目を向けられたが、ヨシカは気にしなかった。

そんな中、孤独になったヨシカは、変な男と付き合ってしまう。
汚い食堂で、目の前にようじを置かれた時、ヨシカは付き合った事を後悔した。
もっと素敵な人と恋がしたかった。

ヨシカはお別れをした。再びヨシカがテレビをつけると、ダンスの練習場近くでよく目にしていた男が、体操選手としてテレビに出ていた。
ヨシカはようやく素敵な好きな人が見つかったと思い、涙した。
でも、体操選手のカズキとヨシカが付き合う事は難しい事だった。
ヨシカはアクロバットの技を極めたが、その一方で苦しくなった。
夜中、ミヨと一緒に食べたポテトチップスをむしゃむしゃと食べた。

血液検査の結果が悪く、こんな物をカズキに見られたらおしまいだと思った。
ダンスには、どんどん若い子が出て来て、自分よりもうまかったので、腹が立った。
カズキとは、一度も会った事がない。
何度も話したように思ったが、それは全て空しゃべりだった。

カズキの心は、ヨシカの物だったが、ヨシカには分からなかった。
とにかく、2人が付き合ったりするには、壁が高すぎた。
ある日、カズキが国際試合に出ているのを知り、ヨシカは激怒してしまう。
ヨシカは泣きながら家に帰った。そして、テレビをつけると、バレーの試合がやっていた。
ずっと前、ときめいた選手が出ていた。まだ独身みたいだ。
可愛くて、アクロバットができるヨシカは、きっと好きになってもらえる。ヨシカの心は楽になった。

ヨシカは、ミヨを殺した男を心の中で追っていた。そして、大人になり、落ち着いたヨシカは、もう一度、女神様の声を聞くようになる。
「やっぱり、ミヨを返してもらえますか?」
『もう遅いわ。でも、ミヨちゃんを殺した人は、あなたが思っている人で間違いない。』
「そうですか。」
ヨシカは本気になった。
ミヨを殺した男は、今では、オリンピック選手になっていたのだ。
男にとっても、それは若い頃の罪であり、心から反省した。もう二度と罪を犯さないために、悪魔に力をもらっていたのだ。

ヨシカは、男に復讐を果たすため、オリンピックの開会式でパフォーマンスする事を目標にするようになる。
本気になったヨシカは、テレビのステージに出るようにもなった。女神様がチャンスを与えてくれたのだ。

ある日、嫉妬で狂った女性カコが、ヨシカを殺そうと考えた。
ヨシカは可愛くて光り輝いていたが、男への憎しみで心は鬼のように汚く、カズキにもバレー選手にも会えていなかった。その上、夜中のポテチを止められていなかった。
でも、『今日はこのくらい。』と、ヨシカは皿にポテチを出し、天の神様に確認した。
ヨシカは、天の神様や女神様、五輪のドラゴンとも、心と伝えあうようにもなっていた。
でも、憎しみの心は治らなかった。

カコは、ヨシカのアパートを調べ上げ、オートロックでない事を確認した。
そして、ヨシカの部屋のドアのぶに、青酸カリをかけた。

練習で疲れ果てたヨシカがアパートに戻ってきた。
『今日、うまくできなかった。』そんな事を、ヨシカは思った。
ドアについた粉を見て、青酸カリだとすぐに分かった。
ミヨを思い出しては悲しくなり、男への憎しみの心も治せない。好きな人にも会えないヨシカは、死んでもいいと思い、冷蔵庫から酎ハイを出した。
「別に、死んでもいいよ。」
粉を顔と唇に塗ったヨシカが言うと、神様の声が鳴り響いた。

『死んではいけません。苦しいのなら、まず顔を洗い、うがいをしてください。』
「え‥。」
ヨシカは酎ハイをしまった。
『それから、救急車を呼ぶこと。』
「わかった。」
ヨシカは救急車を呼んだ。

オリンピックの開会式ダンサーを目指す女の子達は多かった。
それでも、みんな半端者だ。けれど、上手だったので、ヨシカは焦った。
ヨシカは、必ず、オリンピックの開会式に出て、男に見せつけ、男の試合を妨害し、復讐を果たさなければならない。

「みんな、どうして、ステージに出たい?良い男の人に見てもらえば、幸せになれるから?良い人と早く結婚したいから?私は結婚なんかしたくない。ダンスをして、みんなに輝いている姿を見てもらいたいの。」
ヨシカは言った。

ヨシカはあの日、本当に死ぬつもりだったのだ。

オリンピックの開会式のダンサーが発表され、ヨシカはメンバー入りした。
ヨシカは、最高の姿を見せ、みんなを魅了した。
なんと男は、オリンピックに出なかった。
ヨシカの復讐が完了したのだ。

カズキは体操で金メダルを取った。それは全て、悲しい思いをさせてしまったヨシカのためだ。カズキの下には、アイドルや女優たちが、集まってきた。
でも、カズキの心は、ヨシカのための物だったのだ。

ヨシカは感動して泣いた。
2人はきっと幸せになれるだろう。いつか、再び、ミヨと会う日を信じ、ヨシカはこれからも生きていく。


② ヒロシの物語
ヒロシの伯父は、棒高跳びの先生だった。しかし、着地に失敗し、頭をうち、右半身麻痺となり、ヒロシが10才の頃から、一緒に暮らすようになった。
ガキ大将だったヒロシは戸惑い、恥ずかしいと悔しい、両方の気持ちになった。
ヒロシは元気がなくなり、大好きだった空手の稽古にも通わないようになる。
それでも、本だけは好きで、よく読んでいた。
中学校になると、ヒロシは、自分の体がまわりよりも遅れている事に気が付いた。
ヒロシは部活に入らなかったからだ。ヒロシは勉強をよくしていた。
父に言われて、2人の弟と10日に1回くらいは走りに行ったが、それ以外は手がつかなかった。伯父はいつ死んでもおかしくないと医師から言われていたが、一向にその気配はなかった。
ヒロシは、筋トレを始めてみた。終わってみるとすっきりした。でも、ヒロシはゼロに等しい所からの体作りをするので、毎日筋トレをする事は厳しい事で、ヒロシは学校でも、ぽろぽろと涙をこぼしてしまった。
小学校の頃のヒロシは、授業中、ふらふらと立ち上がる事もあった。でも、それはみんな、伯父さんのせいだった。最初、先生は怒ったが、ヒロシの事を理解したらしい。
中学校では、みんなに迷惑をかけないと決め、やっとの思いで1日を終わらせていた。
誰でも死と隣合わせだが、死に近い体の家族がいる事は、とても苦しい事だった。
それでも、ヒロシの家族は掃除をして、家の中を綺麗にし、やるべき事をした。
しかし、なかなか、伯父さんのその日はやってこなかった。

高校になったヒロシは少し元気になり、恋がしてみたいと笑うようになった。
でも、よくよく考えてみると、古くて伯父さんがいる家に住む自分が、女子と付き合う事は無駄な事だと分かった。弟がエロ本を読んでいたので、ヒロシもそれを読み、それで満足する事にした。

ヒロシの心はいまだ、重いままだった。1人でいる時、大声で叫んでしまったり、歯をかみしめて、猿のような顔をする事だってある。一方で、嬉しい時には、軽く踊ったりした。
足を広げて立ったら、腰を軽く左右に振ってみる。しかし、その動きを、自分が嫌いな人も、嬉しい時はするのかなと思うと、切ない気持ちになった。
思春期には心が傷つきやすく、動きやすい。死に近い人間と暮らすヒロシは、普通の高校生の5倍だった。
そんな人間が、チームに入っても、迷惑をかけるだけだ。
ヒロシは筋トレをつみ、体を作っていたが、部活に入らなかった。

別に大した思い出も作らず、高校を卒業した。
雪の中の卒業式に、少しだけ仲良くした女の子と写真を撮った時は、つまらない親父になった気分になった。

ヒロシは専門学校に入学した。1人暮らしをしたが、また実家に戻る事になった。
ヒロシは元気が出ず、浮かない顔で模型を組み立てた。
伯父さんのその日が来る気配はなかった。伯父さんは、トイレも部屋でしている。
とても臭い感じがした。
ヒロシはいまだ、ちゃんとした恋愛を出来ていない。
スポーツが出来なかった事を考えると、涙が出た。
しかし、どんなに苦しい思いの日でも、筋トレを続けてきた。
毎日同じ場所をいじめる事もあったし、日によって鍛える場所を変えたりもした。
ヒロシは、普通の男性よりも良い体になっていた。
心が辛い日こそ、マラソンをする事が大事である。
ヒロシは持久力もつけた。

ヒロシの心には、まだ釘が刺さっていた。死に近い体の伯父さんがまだいるのだ。
勤め先はスーパーで、イラつく事もあったが、仕事は毎日行けた。
でも、やっとの思いで仕事を終わらせる事もあった。

ヒロシはまるで、霊に取り憑かれているように感じた。
けれど、元気を出し、ダンスを始めてみる事にした。
YouTubeを参考に、基本ステップを一つ一つ、マスターしていった。
10カ月後には、ヒロシは、テレビのダンサーよりも踊れるようになっていた。
ヒロシは、自分の才能を開花させたのだ。

オリンピックの年に、ヒロシの伯父さんが亡くなった。
ヒロシは、パラリンピックで、車椅子のメンバーとパフォーマンスをした。
なんと、ヒロシは音楽まで作れるようになっていたのだ。
ヒロシが作る音楽は、アメリカのヒップホップのようだと絶賛された。
車椅子のメンバーがステージに立つ事は、恥に近い事だと分かっていた。
でも、心と体が楽になったヒロシには分かった。
苦悩に苦悩を重ねる事で、人生が良くなるという事を。
我慢した生活を送る事で、脳が成長するからだ。

ヒロシは、パラリンピックのメンバーと家族の気持ちを痛いほどに分かっていた。
だから、いろいろな事を、神に祈った。

ヒロシはこれからも活躍していくだろう。なぜなら、祈る事を分かっているから。


③ エリナの物語
エリナはずっとスポーツを続けてきていた。バレー、ソフトボール、卓球、柔道‥。
子供の頃から、エリナは心配性だった。でも、明るい電気の下、スポーツをしている時は、それを忘れられた。
鍵を何度かけ直しても、心配になって見に行く。コンロの火を消した事をお母さんが確認しても、出かけた先で、心配になった。
顔見知りだった家族が、殺されたせいもあるかもしれない。
「いつになったら、エリナの心配性が治るのかな?」
エリナはお母さんと話した。

「どうすればいいのかな?」
苦しくなったエリナは、手を組み、神様に祈った。
すると次の日、エリナに考えが浮かんできた。この前アニメで見た、小さな天使を空想するのだ。大抵、エリナが心配する事は大丈夫な事だった。エリナが心配した時、小さな天使が代わりに確認してくれるという空想をする事で、エリナの心配性は治った。

エリナはずっとスポーツを頑張ったが、スポーツ選手になる夢は忘れる事になる。
小学校からの友達が逮捕されたり、高校の部活の友達が亡くなったりしたのだ。
エリナは東京に進学した。
東京での暮らしは夢のようだった。テレビの撮影で使われる場所がいたる所にあり、全てが憧れのスターが見た景色と同じだった。
全ての道が、憧れのスターが通った道だった。

エリナは高架下の小さな店でコロッケを買い、歩きながら食べると、いつも目にしていた男も同じように食べていた。
エリナはその人を元に、空想にふけるようになる。その男も、エリナの事が好きだった。けれど、今は勉強中で、エリナと付き合うわけにはいかなかった。
しかし、エリナは失敗をしてしまう。その男と似た人と交際をしてしまったのだ。
エリナが付き合った人は最低な男だった。男は、性的な事をして、朦朧としたエリナにフェラをさせたのだ。フェラだけなら、よくあるかもしれない。でももっと酷いのは、急所に米をつけたのだ。エリナは急所についた米を食べてしまった。
性的な事をすると、脳が麻痺してしまう。どちらから迫ったのかが鍵になる。
エリナも男も22才で、失敗をしてはいけない年齢だった。
エリナは米を食べられなくなってしまう。病気になったのだ。
性的な失敗を消してくれるカメレオンがいる。でも、同じ人には5回までで、そんな失敗をしたエリナはまた犯しかねない。だから、もっと年ごろになるまで、魔法をとっておく決断をしたので、エリナの悪い記憶は無くならなかった。

それでも、エリナはカメレオンの声を聞いた。
『俺が合図したら、メールしろ。』
「うん。ありがとう。」
『いい。』

1時間後、声が聞こえた。
『今だよ。もうお別れしない?おばあちゃんが病気だから。と言え。』
「わかった。」
すぐさまエリナはメールをし、男と別れた。

エリナはカメレオン様に感謝し、もう二度と迷惑をかけない事を約束した。
エリナは実家に戻り、両親に顔を見せると、両親は驚いた顔をした。
あの事はバレていないようだった。
エリナは言った。
「私、もう一度、柔道をやりたいの!」
エリナは、全国大会に出た事もあったのだ。

親は柔道の先生もしている。道場で稽古をつけると、あの時の事がバレているとひやひやしたが、エリナは「気にするもんか!」と言い、本気になった。

エリナは主要大会になかなか出場できなかった。だから、地元の聖地に行き、耳をすまし、神の声を聞いた。
エリナは、神の声を頼りに願掛けをする事にした。
例えば、夜12時になったら走りに行く。聖地を3周する。メッカの方向にお辞儀をする‥。
様々な願掛けをこなしていき、エリナは世界選手権に出場する事になる。

エリナにとって、外国人を負かすことはたやすい事だった。
ただ、試合の前に、あの時の事を思い出し、心と体を炎でつつむだけだ。

エリナは、五輪の竜とも、あの時の事を話した。そして、夢の中で、竜と抱き合った。

エリナはオリンピックに出場し、金メダルを取った。あの時の事を思い出し、カメラを見て、笑顔を見せた。
エリナは人生の苦しみに勝ち続けるだろう。なぜなら、エリナは願掛けのやり方を知っているからだ。それにはまず、神様を信じ、好かれる生き方をする事である。

④ 間違えたアーティストのコノハ
コノハには、絵の才能がある。でも、それ以外はゼロからのスタートだった。東京で1人暮らしをしているが、オリンピックは嫌いだった。
幼馴染の直人が、陸上でオリンピックに出ている。それも何度か‥。でも、いつもふざけてしまって、付き合えなかった。
コノハは仕事もうまくいっていない。でも、絵が上手いので、直人から突き放されるわけないと思っていた。
『もっと、絵を描けばいいじゃん。』コノハには、スヌーピーの精霊がまとわりついている。
「うん、でも‥今は忙しいから。」
東京の人込みで疲れてしまって、良いと思う絵が描けていなかった。
『君の好きな歌をかけてよ。』
「うん。」
『テレビ、観なくていいじゃん。』
「うん。そうだね。」

「どれにしよう‥。」
コノハは、スマホで音楽を探した。
『これでいいじゃん。』
「わかった。」
スヌーピーが言った曲をかけると、少し気分が癒された。

『絵本を描いてみたらどうかな?』
「えー、でも‥。」
『どうして?僕のお父さんが漫画家だから?でも、コノハのスヌーピーは漫画じゃないんだよ。』
「あー、そっかぁ。」
コノハはスヌーピーの精霊との会話をやめた後、電車の中で会っただけの男と空しゃべりをしてしまった。
空しゃべりをしてぐったりとしたコノハは、布団に横になった。
その瞬間が、人生で一番楽な時間に感じた。

『まだ寝るの?』
「うん‥。」

コノハの職場は、チェーンのカフェだ。1人暮らしを長く続けたので、昔、大切だった人と疎遠になった。でも、ふと、思い出す時がある。それは、直人ではない。雄介の事だ。
雄介もきっと、スポーツ選手になれた。その事を考え、仕事中、涙が出た事がある。
今は、何をしているのだろう?
コノハの妹の知り合いの男が、バレーやバスケの試合に出ている。
妹は実家で暮らしている。妹の知り合いの試合をテレビで観るたび、自分の知り合いも選手ができると思い、胸が痛んだ。バレーを熱心にやっていた木与という男は、今は渋谷のよく分からない会社に勤めている。
数年前は、会えれば、胸がときめいたものだ。でも、今は、木与の身長は縮んでしまって、会えてもうれしくはない。
『全部、コノハちゃんのせいだからね!』
「私のせいな訳、ないでしょう!」

でも、やっぱり雄介かなと思い、コノハは唇同士をかみ、少し微笑んだ。

コノハは、人ごみの東京で、心を変にしてしまった。カフェに来る馴染みの不良男と話すようになる。
その上、直人に会えた時に、その人の事を話してしまったのだ。

結局、不良男とも直人とも、関係が悪化してしまった。
人にもよるが、26才くらいだと、恋愛対象をまちがえやすい。
26才というのは、お洒落なデートがしたい盛りなので、みんな恋をしたがる。
でも、特に意味はない。何もせず過ぎてしまえば、間違えを犯さなくてよかったと、せいせいするものだ。
お洒落なデートをしてもよいが、素敵な思い出で相手の価値を、測らない方がいい。
ずっと好きでいられるかが、一番のポイントだろう。
あの日の思い出が好きなの?あの日を思い出したら、別れられないの?

気合を入れ直したコノハは、漫画を描き始めた。それがうまくいってきたので、再び話すようになった不良男に見せてしまう。
都会の業界人に漫画を気に入ってもらえたコノハは、ドラマ化の話がトントン拍子で進んでいく‥。
主役は不良男をモデルにしていたので、俳優はその人でお願いをした。
不良男もやる気になり、テレビ局の人と話をした。でも、やっぱり話の最中で、不良男が役者を降りることになる。その不良男はよくない男だったが、不良男も不良男で、心に傷を負ってしまった。

例え、誰かをモデルにした作品を書いても、そのモデルが一般人ならば、ちがうと言い切る事だ。例え、俳優であっても、もっと良い人が見つかるかもしれないので、黙っておいた方がいい。書き手は、モデルに必ず失敗をする。本当に、そういう物らしい。
うまくいく場合もあるかもしれない。でも、ほんの1パーセントと考えておいた方がいい。
だから、空想の人物をモデルにしたり、同じキャラクターで名前を変えたりする事が大事である‥。

その頃には、スヌーピーの精霊が、コノハの下に来なくなっていた。
東京は人が多い。助ける人がたくさんいたのだ。

五輪のドラゴンが、コノハに話しかけた。テレビでは、コノハの同級生の女がスポーツ選手として、活躍している。
『お前も、何かやらなくていいか?』 
「うん‥。何もできなくて。」
『ちょっと鍛えてみろ。』
「分かった。」

コノハは、軽い筋トレやジョギングをした。
『これ、なんだ。』
「え‥。」
『そんなものじゃ、ダメだ。話にならない。』
「でも‥。」
『お前は、誰かと付き合っているのか?』
「いえ‥。」
コノハは、最近ではずっと、雄介を思い出していた。
雄介によく似た人が、バレーの試合に出ている。

『言いづらいけど、お前が想っている男はもういない。』
「どういう事?雄介は、ちゃんと、試合に出ているもん!」
『あいつは別の男だ。お前の雄介は、ずっと前に、もう死んだんだよ。』
コノハは立ち尽くした。
1人暮らしを長くしすぎて、雄介を想わなかったせいで、雄介は心臓発作で亡くなっていたのだ。

オリンピックには、呪いがかけられる。
ゼロから始めなければならないアーティストが呪いをかけるものだ。
大体は、選手の大事な家族のSNSのフォロワー数が0になるとか、顔に傷がつくとか、そういう物だ。
顔に傷をつけて、死んでまで、オリンピックに呪いをかけてくる。

コノハは布団で休んだ。
スヌーピーの精霊がまた来た。
『コノハ、これからどうする?オリンピックのために、何かできるの?』
「わからない。」
『また後で来るから、それまでに考えておいてね。』 
「うん。」

『コノハ、顔を切る?どうする?』
「体は傷つけたくない。」

すると、ドラゴンが現れた。
『体に傷をつける以外の事で、何か考えろ。』
「それほどの力を持っていないから。」
コノハは起き上がり、泣いた。
『でもな、俺から見れば、日本一、才能を持っていたのは、コノハなんだよ。オリンピックには間に合わないけど、人生はまだ続く。それまでに、しっかりと力をつけてくれ。』
「はい、わかりました。ありがとうございます。」
コノハは泣いた。

『恐ろしい呪いがない五輪でも、別にいい。』
ドラゴンはそう言い、透明になった。

『呪いがない方がいいじゃん!』
スヌーピーの精霊が言った。


⑤ あと一歩の男
競輪競技のマークスは、とてもかっこいい男だったが、あまりテレビやネットには出なかった。周りを気づかう良い男だった。
「マークスってさ、どこで努力してんの?」
チビのロイがドリンクを飲みながら、聞いた。
「え‥。まぁ、大体、気づいた時にかな。」
「へー、そう。」

実際、マークスはかなりの努力をしていた。
トイレを10時間我慢したり、ペットボトルにした事もある。
そういう悪魔の努力こそ、勝利の鍵になるものだ。
自分の中だけならば、決して、犯罪ではない。
普通の努力と、凡人ではかなわない悪魔の努力も、マークスは重ねていた。
でも、それは、犯罪ではなかった。
物干し竿の先をなめたりして、自分自身に呪いをかけた。

しかし、代表入りまであと一歩のところで、マークスは恋人を作ってしまう。
代表入りしたのは、マークスが嫌いだったルーダである。

ある晩、古アパートで暮らす若い夫婦に、女神様が男の子を落とした。
「ああ!」
若い妻は、しりもちをついた。
「え?赤ちゃんだ!」
夫も顔を出した。

「ええ、何これぇ‥。誰?こわぁ。」

「きっと、神様だよ。困っている俺たちの事を見てくれたんだ。」
夫は赤ん坊を抱いた。
でも、神様の声は届かなかった。
2人はとてもふざけた夫婦で、神様にも敬意を示さなかったためだ。

2人は男の子を育て始めたが、神様に対して、ふざけたりした。
「うひょー、このハゲ、治してくだせぇ!」
赤ちゃんが置かれていた場所で、ふざけたりした。

その夫婦に育てられたのが、ルーダだった。
それを知っているマークスは、ルーダが嫌いだった。

マークスは神様に敬意を払ってきた。しかし、最後は裏切ってしまった。
でも、ルーダは、肝心な恋を、オリンピックのためにしなかったのかもしれない。

マークスは、夜はセクシーになる妻をぼんやりとながめた。
しかし、一般的には、そのようにして子供を作るので、仕方ない。

あのおバカな若夫婦には、2人きりの時、子供の手前、そのような事をしたくないという話があったのかもしれない。
あるいは、それをした私たちは別れようとも。
子供が来てから、そういう事はやめたのかもしれない。

馬鹿だが、馬鹿ではなかったのだろう。
だから、ルーダは、オリンピックに代表入りしたのかもしれない。

End

5つの話Ⅱ

5つの話Ⅱ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-25

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