小学生が学校の怪談を試そうとする話

 香耶(かや)はその日、お昼まではご機嫌だった。
 放課後に駄菓子屋へ行き、お菓子を買って集まろうと約束していたからだ。

 香耶の住む家のすぐ近くに住んでいる香凛(かりん)、裏手にぐるっと回って坂を上った先に住んでいる、双子の真由(まゆ)麻央(まお)が、いつも遊んでいる幼馴染みだ。
 毎日、学校から帰ってランドセルを置いてからが、彼女達の一日の始まり。日暮れまで遊ぶのは、どこの小学生にとっても変わらぬ日課であった。

 だが、その約束は、とある提案であっさりと変更になってしまった。

「ねぇ、影遊び、やりにいこうよ!」

 提案したのは麻央だった。給食当番らしく、白衣と三角巾、マスクという姿で、香耶のクラスにやってきた。

 香耶は麻央の提案にきょとんとしていたが、すぐに思い出した。この西山小学校に伝わる怪談の一つに、“影遊び”というものが確かあった気がする。
 香耶は怖い話が苦手だから、麻央の誘いを面白いものだとは思えなかった。

「やだよ、ほんとに出るんでしょ?」
「そんなの、自分の目で見てみなくちゃ分からないじゃん」
「で、でもさ、ほうかごはおかし買いに行くって言ってたじゃん!」
「それは影遊びした後でも行けるでしょ? 今日はちょうど天気良いし、影ものびるだろうから、分かりやすいよ、きっと」

 麻央の中では、もう行くことは決定しているらしい。
 聞けば、真由と香凛も「行く」と答えたのだという。それなら、香耶だけが行かないわけにはいかない。

 五時間目が終わったら体育館前の広場に集合。麻央は言い残して、自分の教室へと帰っていった。

***

 香耶は五時間目を憂鬱な気分で過ごした。当てられた国語の朗読をこなして、「読み上げ方が上手」と先生に褒められても、心は上の空だった。

 何故、こんなにも影遊びを怖がっているんだっけ?
 香耶は自分でも不思議に思って、ノートの隅に理由を小さく書いてみた。「かげ遊び」と書き、下に箇条書きで内容を書いていく。

・かげ遊びは誰かが名付けた呼び名であって、本当の名前はだれも知らない。
・ともだちとあそぶのが大好きな女の子のゆうれいが、かげあそびをしたがっている。
・4人~5人でわを作り、かごめかごめみたいな歌を歌う。
・「あそびましょ」の後に返じがあるまで、わのままで目はつむっていなきゃだめ。
・返じのかわりに、「おうちにどうぞ」と言われたら、にげなきゃいけない。
・返じがあって、かげがふえていたら、

「・・・・・・?」

 そこまで書いて、香耶は首を傾げた。
 影が増えていたら、どうなるのだろう。
 いつも聞かされる結末は、「おうちにどうぞ」と言われた時のことばかりだ。

 影遊びをしたがる女の子は寂しがりで、「おうちにどうぞ」と言って、輪になった子どもたちを攫っていくらしい。攫われた子どもたちは二度と帰らない。
 いったいどこへ連れていかれるのだろう。その点は、誰も知らなかった。ただ口を揃えて「女の子に誘われると、帰れなくなる」と言うだけだ。

 なら、女の子がただ返事をしただけだったら、怖いことは起きないのだろうか。返事があって、影が増えていて、それだけならいいのだろうか。

 溜め息を吐いて、香耶は鉛筆を置いた。廊下側の席はちょっとだけ寒い。
 半端に開いた引き戸が怖くて、香耶は国語の教科書に視線を落とした。

***

 放課後が来てしまった。香耶は重い足取りで、いつも集まる場所へととぼとぼ歩いていく。
 周りの同級生達は何も知らずに「じゃあね」と手を振るだけだ。その明るさが香耶には羨ましく思えた。
 みんなでやれば、影遊びも怖くないんじゃないのかなぁ・・・・・・?

 西山小学校は新校舎と旧校舎とあり、三年生の香耶達は旧校舎の方を使っていた。
 新校舎の方が大きく、昇降口も二つ設けられているのだが、旧校舎は昇降口が一つしかない。
 また、旧校舎には渡り廊下が設置されていて、北側に通じているのが新校舎への道、西側に通じているのが体育館への道だった。

 旧校舎の裏手には、自然観察園と呼ばれる小さな林がある。これまた小さな池があり、そのひょうたん池もまた噂話の格好の的であった。
 その池の手前にある、今は使われていない古びた焼却炉の前に、いつも香耶達は集まっている。

「かやちゃん、こっちこっち!」

 焼却炉の前には既にみんなが揃っていた。

 黒い肩までの髪を両脇で少しだけ結っているのが香凛。
 ちょっと茶色っぽい髪を短くしているのが麻央。
 同じく茶色っぽい長髪を頭の上で束ねているのが真由。
 そして――。

「あれ、たっちゃんじゃん。呼ばれたの?」

 三人に挟まれるようにして立っている男子――辰間(たつま)の姿に、香耶は驚いて声を掛けた。辰間は香凛と麻央のクラスに居る、運動の得意な男子だ。
 彼は眼鏡の奥のきつい目線をもっと細め、両脇に立つ香凛と麻央を顎でしゃくった。

「呼ばれたんじゃなくて、きょーせーれんこーされたんだよ! せっかくクラスのヤツらとドッジしようとしてたのに・・・・・・」

 それを聞いて、右側に立つ香凛が眉をひそませ、辰間の耳を引っ張った。

「そのドッジに、かりんと麻央がひつようなんだって言ってきたのは、だれだったっけ!?」
「い、いてててて、ひっぱんな!」
「ま、まぁまぁ、かりんちゃん。こーかんじょーけんなんでしょ?」

 見かねた真由が止めると、香凛は耳から手を離し、頷いた。

「ついでに、だれがイチバンびびりなのか、これで決めようじゃんか!」
「びびり?」
「たっちゃんがね、さっきかりんに向かって『びびりはおまえだ』って言ったのが、そもそものはじまりなんだよ」

 香耶の質問に答えたのは麻央だ。
 そのいきさつをついさっきまで眺めていたらしく、そして、その場を収めるためにこう言ったのだという。
 「じゃあ、あんたも来れば?」と。

 香凛と辰間の言い争いは続いていたが、その頃にはだいぶ陽も陰ってきた。夕陽によって影が伸びる頃に影遊びはやらなくてはならない。それまで五人はずっと焼却炉の前に居た。

 香耶はひょうたん池を覗き込みながら、水面を移動するアメンボを見ていた。
 アメンボは綺麗な水の上しか移動できないと聞いたのだけど、ひょうたん池はボウフラが沸いたり、枯れ葉が落ちたり、時々ごみが捨てられていたりする。何をもって、綺麗な水と言っていたのか、香耶には解らなかった。

 視界の端には蠢く深緑の葉陰が広がっていた。ここからちょうど左側の木の下には、二年生の時にクラスで飼っていたモルモットの死体が埋まっている。
 ずいぶんと時間が経ったけど、モモちゃんの死体はもう骨になっているだろうか。香耶は骨だけになったモルモットを想像して、首を捻った。

「よし、そろそろ行こう」

 麻央が言うと、急に香凛も辰間も黙った。自然にその視線は旧校舎の渡り廊下の方に向く。
 自然観察園と体育館への道はほぼ繋がっている。ここからでも、体育館は普通に見えるのだ。

 五人はわずかな体育館までの道のりを、何か大切なものでも預かっているかのように、そろりそろりと歩いていった。渡り廊下の上で、暫し立ち尽くす。

 渡り廊下から通路は伸び、それは体育館の面に沿って、ある所で忽然と途絶えている。五人は準備室まで来ると、影の伸びと太陽の位置を確認した。

 体育館は、講堂と準備室が繋がっており、その準備室の前で影遊びをするのが掟だった。準備室は旧校舎の入り口に近く、何かあった時にすぐに逃げられる位置にある。渡り廊下を渡れば、他の学生の居る場所へ戻れるのだ。

「なんか・・・・・・静かだね・・・・・・」
「そうだね・・・・・・」

 真由は怖がりだから、香耶の服の裾をずっと掴んでいた。
 じゃあ香耶はべつに怖くないのかというと、そうでもない。怖がりだけど、香耶の場合はそれがまだ表に出ていないだけだ。

 今にも誰かが曲がってきそうな体育館の角を、香耶と真由はじっと見つめている。その隣で、香凛と麻央は準備室を調べていた。
 準備室には、当然というべきか、誰も居ない。耳を澄ましてみても、何の音もしなかった。講堂にも誰も居ないらしく、鍵がかかっている。

「ほら、かりん!」
「きゃあ!」

 麻央に背中を押されると、香凛は肩をびくつかせた。

「ちょっとびっくりさせないでよ!」
「あんたが言いだしっぺでしょ」
「急かさないでってば!」
「なんだよ、かりんだってこわいんじゃんかよ」
「うるさい!」

 面白がる辰間を、香凛は拳で殴りつけた。また一悶着起きそうなところを、麻央が収める。

「はいはい、わかったわかった! えーっと、じゃあ・・・・・・まず、わっかになろう」

 その言葉を合図に、自然と五人は準備室の前に集まった。誰ともなしに手を繋ぎ、かごめかごめのような輪を作る。麻央を起点とし、香耶、真由、辰間、香凛の順だった。

 お互いの手がしっかり握られたことを確認して、全員が目を閉じた。真っ暗な中で、麻央の声がする。

「次は歌ね。覚えているトコだけでもいいから、ちゃんと声出してよ?」
「はーい」
「う、うん」
「・・・・・・せーの」

  あーすか あすか あすか いまか
  きこえておるなら へんじをおくれ
  おまえのかあさん くび くくり
  おまえのとうさん やや くくり
  あぶくたったぞ じごくのかまで
  ひとつさいたぞ けしょうのはなが
  あそぼか あすまで ひぐれまで
  きこえておるなら へんじをおくれ

 それはとても奇妙で不気味な合唱だった。しかし、歌っている五人には意味が解らない言葉の方が多い。

 校庭のざわめきが遠くに聞こえて、冷たい冬の風が通り過ぎる。
 香耶は手を繋いだまま、幼稚園の時のことを思い出していた。西山小学校のすぐ隣にある西山幼稚園。そこに植わった桜の大木のことが、今急に気になって思い出された。

 辰間がよくてっぺんまで登って、先生達を困らせていた大木だった。
 香耶もてっぺんまで行きたかったけど、木登りはあまり得意ではない。いつも幹の中間ぐらいまでしか登ることができず、0そこには地上よりもちょっと高いだけの空間が見えていた。

 香耶は、高い所には高い所なりの景色があり、それはまるで御伽話の見開きの絵のように美しいだろうと想像していた。だから、桜の大木のてっぺんにも、幼稚園の平たい屋根の上にも登ってみたかった。

 桜の大木の幹まで登り、辺りを見渡す。景色がぼやけて見えた。
 淡い色あいで彩られた景色には現実味が無く、香耶は妙な胸騒ぎを覚えながら大木にしがみついていた。

 大木の左側に視線を移せば、そこには西山小学校の敷地が広がっている。
 旧校舎と新校舎の間にある動物を飼育する場所。
 卒業生が制作したのだと言われている、旧校舎の側に立つ石の柱。
 特別学級「さざんか」の看板。みんな、ぼやけていた。


 気が付くと、香耶の視線はある一点に注がれていた。彼女だけが、手を繋いだ輪の中で目を開けている。
 だからこそ気付けたのだ。影が増えていることに。

「・・・・・・うそ・・・・・」

 出た声が自分のものなのか解らない。香耶はただ、影を見つめている。
 鮮明に映し出された五人の輪の影は仲良く夕方の中に残っているが、そのちょうど香耶と真由の間に入るように、もう一つの影があった。

 香耶は慌てて、隣を見た。誰も割って入ってきたような感じはしない。目を閉じて不安げにしている真由が居るだけだ。その唇はかすかに震えていて、何かおまじないを唱えているようだった。

 もう一度、地上の影を見る。相変わらず影はそこにあった。五人の実体と、六つの影。
 香耶は声を出したかったが、何故か声は出なかった。さっきの蚊の鳴くような声だけで精一杯だった。だから、その小さな声で喋り続けるしかなかった。


 みんな気付いて、ほら、見て、いるよ、ほんとに出ちゃったんだよ、ねぇ、ねぇ・・・・・・・


 突然、香凛の目が開かれ、地上の影を見た。瞬間、その怯えがまるで電流のように四人に伝わった。

「い、居る・・・・・・増えてる!」

 その声に、残りの三人も目を開ける。増えた影を見つめて、徐々に手を離していった。そして。

『で、でたあああああああああああ!!!!!』

 絶叫を皮切りに、五人は我先にと駆け出した。背中のランドセルの中に入ったノートや筆箱ががちゃがちゃ鳴っている。
 誰がついてきているかも見ないで、五人はただ無心で走り続けた。

***

 やがて、五人は幼稚園の先にある産婦人科の前の駐車場までやって来た。
 ここはちょうど分岐になっており、右側へ行けば香耶と香凛の家のある方へ、左側に行けば真由と麻央、辰間の家のある方へ行くことができる。

 五人は肩で息をしながら、目の前の緩やかな道を見つめた。その道の先には西山幼稚園があり、西山小学校の校舎が見える。孔雀の鳴き声がかすかに聴こえてきた。

 誰もついてきていない。増えていた影の主は、今もまだ体育館の裏手でぼんやりと待っているのだろうか。

「ほ、本当に出るなんて・・・・・・」

 目の端の涙を拭いながら、真由はそう言った。きっとみんなの心境も同じであったに違いない。
 いち早く呼吸が落ち着いた麻央は、息をついて、みんなの顔を見た。

「みんな、とくにかわったことは起きてないよね?」
「た、たぶん」
「なんだよ、かわったことって・・・・・・」
「それは・・・・・・」

 麻央は何か言いかけたが、口を噤んでしまった。辰間が問いかけても首を振る。
 三人は無理に聞くこともしないで、暫く言葉もなく過ごしていた。

 本当に辺りが暗くなってきたので、五人は帰ることにした。

 辰間はもう元のやんちゃっぷりを取り戻し、道の先をさっさと行ってしまう。遅れまいと真由も続く中で、麻央だけが一人、そこに残っていた。
 帰ろうとしていた香凛と香耶はそれに気付き、来た道を戻っていった。

「どうしたの、まお? はやくウチに帰りなよ」
「うん・・・・・・」
「なにか気になることでもあるの?」

 香耶が訊くと、麻央はやっと顔を上げて、香耶を見つめた。

「ねぇ、かや・・・・・・」
「なに?」
「あの・・・・・・あんた、かやだよね?」

 麻央の突飛な問いに、横に居た香凛は思わず拭き出していた。

「あはは! なに言ってんの、まお! しょうしんしょうめい、かやちゃんじゃん!」
「そうなんだけどさ・・・・・・でも、さっきあたし見たんだもん」
「なにを?」
「かやのかお・・・・・・ぜんぜんちがう人だったよ」
「・・・・・・へ?」

 香耶と香凛は顔を見合わせた。若干の怯えた表情を見せながらも、香凛はまじまじと香耶の顔を見つめる。

「・・・・・・かやちゃんだよ、このかおは」
「だから、今じゃなくてさっきだって。それに、まゆも、かやも、へんだったし」
「へん?」
「二人は気付いてないかもしんないけど、ずっとかやは目ぇ開けてなにか言ってたし、まゆは目ぇ閉じてたけど、やっぱ同じようになにか言ってたから・・・・・・」
「・・・・・・」

 香凛と香耶は再び顔を見合わせた。
 香耶は指摘のとおり、何も覚えていないし気付いていない。目を開けた覚えはあるのだが、それは自分の意識の中での話だ。もしかして、その前からずっと目は開いていたのだろうか。

 香耶は恐れながらも、麻央に訊いていた。

「な、なにを言ってたの・・・・・・?」
「ん・・・・・・・と、ここにいるよ、みたいなこと言ってたけど・・・・・・」
「ここにいる?」
「ねぇ、かや、あんた大丈夫だよね?」
「う、うん」

 あまりにも麻央が心配そうに言うから、香耶は頷いていた。実際のところ、どうなっているかなど、誰にも解らない。
 と、香凛が手を打った。ぱん、という音に二人がびくりとして振り向く。

「もういいよ、終わったことでしょ! 明日また、おかし買いに行こ! じゃあね、まお!」
「待ってよ、かりんちゃん! あ、じゃ、じゃあね、まお!」
「ん、また明日」

 香凛が走り出してしまったので、香耶も慌ててそれについていった。
 麻央はそれを曲がり角まで見送った後、もう一度、西山小学校の校舎を見る。孔雀の鳴き声はもう聴こえなかった。


 ランドセルを揺らしながら、香凛は軽快な足取りで歩いていく。
 その後ろをついていく香耶の表情は晴れなかった。麻央の聞いた声は本当に自分のものだったのだろうか?

「どうしたの、かやちゃん」
「さっきのまおの話が気になって・・・・・・」

 不安げな香耶に、香凛は勝気な笑顔を見せて手を繋いだ。

「もうそんなこと気にしなくていいよ! 終わったことじゃん。明日っからはまたふつーに遊ぼ? ね!」

 香凛の笑顔に曇りは無い。その明るさに押されて、やっと香耶も笑うことができた。

「うん、そうだね。今日は楽しいこといっぱい考えて寝る!」
「そうしよ、そうしよ! あ、いっけない、ピアノにおくれちゃう!」
「あ、今日ピアノだったの?」
「うん、七時からね。お母さんに、いつれん習するのってしかられたばっかなんだ。も~、ほんとうるさい!」
「かりんちゃん、がんばってね」
「うん、さくさくっと終わらせてくる! じゃあ、また明日!」

 点々とある街灯の下の香凛に手を振り、香耶は歩き出す。この道をまっすぐ行って、ちょうど突き当たりにある大きな家が彼女の住む所だ。
 近くの家々からは、夕食の美味しいにおいがしている。点いている灯りの洩れた地面を踏みながら、香耶は歩いていき、そして振り返った。

「・・・・・・?」

 街灯の下には、まだ香凛が居た。ぼんやりとした目で、香耶を見ている。何か言い残したことがあるのだろうか。

「かりんちゃーん! かえらないのぉー!?」

 歩いてきた場所から香耶が叫ぶと、香凛はちょっと間を置いてから、叫び返してきた。

「ねぇ、かやちゃーん!」
「なーにー!?」
「またうちにきてねー!」
「・・・・・・? うん、また行くよー!!」

 何故、今その話になるのだろう? 香耶はそう思いながらも、返事をした。
 香凛はその後、やっと動き出し、また軽快な足取りで夕闇の向こうに消えていく。

「うん・・・・・・?」

 香耶は道を歩きながら、どこかで聞いたその台詞を思い出そうとして立ち止まった。脳内で言葉を遣わずに思考が整理されていく。

「・・・・・・遊びに・・・・・・またうちにきて・・・・・・あすか、あすか、明日か・・・・・・」

 その台詞がどこで聞いたものかを思い出した時、香耶の回りにはただただ闇があった。
 香耶は単語を繰り返しながら、その闇を歩いていく。足音は一つだけ響き、香耶のランドセルはかちゃかちゃと揺れた。

H21.12.23

加筆修正にあたっての作業用BGM
森へおいで / 谷山浩子

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-24

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著作権法内での利用のみを許可します。

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