文豪たちと2019年の旅!
とある研究所の博士が文豪に会いたいがためにタイムマシンでタイムスリップする話。
第1話俺たちがタイムマシン造ったわけ
「鮎川博士ー、やっぱ不可能じゃないすかね」
「何をいってんだ。試作に試作を積み重ねた俺達の集大成だぞ!横溝くん」
今、俺達の目の前に鎮座まします銀色のどでかい堅物はいわゆるタイムマシンだ。
いや、冗談だっていわないでくれ。
俺だってほんとにタイムスリップなんてできるわけがないと思ってるんだ。
……なにがあったって?
聞いてくれよ。あれは、5年前。
俺はただの芽のでない研究者、横溝啓二28才。
なんの因果かこの鮎川研究所に入ることになって数年。
しけた日々を過ごしていた。
だって、鮎川博士と言えば
1日中、ほとんどなにもせずに本ばかり読んでるんだ。
研究所の隅に積まれた本の数々…
俺もいい年…そろそろ、食いっぱぐれない仕事をしないと。
うんざりして博士に辞表を叩き付けようと声をかけようとした。
そのときだった。
「決めた!タイムマシンを造ろう!」
俺は自分の耳を疑った。
「いや、博士…タイムマシンは現代の科学技術をもってしても造れないって知ってます?」
しかし、鮎川博士は聞く耳を持ちゃしない。
ボサボサの黒髪を振り乱して
「俺は文豪に会いたいんだーーー!」
と、叫びだした。文豪ときたか。
はあ…そもそもこの鮎川博士とは何歳なんだ。
ボサボサの黒髪と重そうな銀縁眼鏡に隠されて
顔形は見えないがまだ30代といったところか?
しかし、いい年こいて「文豪に会いたいからタイムマシン造る」なんて
最近のガキでも言わないだろう。
「タイムスリップしたいんだったらそのこ汚い机の引き出しから
青い猫型ロボットでも出てくることを願っててください」
俺は、この頭のおかしな博士に愛想を尽かし部屋から出ようとした…
ところを、思いっきりがっしりと肩を捕まれた。
「横溝くん…私は仮にも科学者のはしくれだよ。なめてもらっちゃ困るね」
そういって、博士はジーンズのポケットから数枚の紙を取り出した。
どや顔で俺に差し出す。
「俺は独自の時間移動方法をあみだしたんだよ」
それを見た俺は、眠りこけていた研究者魂がうずきだした。
そのタイムマシンの製図は従来の発想を越えたものだったからだ。
俺だって、なにも現実だけを見続ける人間ではない
タイムマシンなんて代物をもしこの世に産み出すことができたら…
なんて、愉快でゆめいっぱいな事だって考える。
俺はもう一度この博士にかけることにした。
そして、5年後の今に至る。
やはりタイムマシンを造るなどという突飛な行為はそう簡単にはいかなかった。
ある日は材料費を工面できず、ある日は黒い服の男に追われ
ある日は研究所が爆発し、ある日は博士が痛風になった。
それでも、俺と博士はタイムマシンを造るという
両者一致ともいえる大義名分のために毎日走り続けた。
そして、今目の前にあるのはタイムマシン試作品3号だ。
「横溝くん、今回は期待できるぞ。見たまえ、この堂々とした佇まいを!」
まあ、確かに俺達の目の前にあるタイムマシンは
人3人分が入るほどの球体だが鈍く光る銀色が渋い。
俺達の汗と涙をたっぷりとあびて鈍い銀色になってるような気もするが
それは、置いといて
何度も製図を書き直し、緻密な調整を繰り返し
1度は動物実験で猫を1分まえに戻す事もできた。
「今日は俺達の伝説の日となるぞ」
博士と俺は球体のタイムマシンに乗り込む。
中は必要最低限の機器、無数のコード、目の前には小さなモニター
あとは、目的の時代をキーボードに打ち込めば
一応はタイムスリップが、できるという偉く簡単な仕様だが
まあ、そこは無視をしててくれ。
「ところで博士、何年前に行くつもりなんですか?」
「ん?決まってるだろう、1909年だ」
「その日になにが?」
「知らないのかね!1909年は夏目漱石が名作それからを執筆していた時代なんだぞ!」
そういや、そうだった。
この人は文豪に会うためにタイムマシンを造ったんだったな。
俺はゲンナリしながらモニターに必要事項を打ち込んだ。
あとは、このスイッチを押せば理論上は時間移動ができるはずだ。
博士はともかく、俺は高鳴る胸を押さえ震える指でスイッチを……
押した。
その瞬間
俺達は激しい閃光に包まれていた。
耳鳴りがする。
体が波打つような奇妙な感覚。
…………
しばらく、気を失っていたようだ。
俺達はタイムマシンの中で体を折り畳むようにして倒れていた。
体が重い…
しかし、博士はそんなことも気にかからない様子で
機敏にモニターの操作をした。
「正常に動いている…横溝くん、外に出てみよう!」
「う…はい…」
これは、成功したのか?
タイムマシンの扉を押す。
ギギギと重い音を立てて扉は開く
眩しい太陽の光が暗いマシンの中にいた俺の目を刺激した。
ざわざわという人の気配がする。
球体のタイムマシンから出てきた俺を
袴をつけた男性に着物を着た女性が囲んでいた。
現代では見ないような板塀に囲まれた木造の家が目にはいる。
ここは…
博士は目の前にいた、男性の持っていた新聞を奪い取った。
博士の目は大きく見開き輝いた。
「あーーーーーー!!!」
博士はその場で何度もジャンプをし、奇声を上げながら乱舞する。
囲んでいた人々は何人か気味の悪いものをみるように博士との間をあける。
俺は恥ずかしくなりもう一度、タイムマシンに戻ろうとしたが
「見たまえ見たまえ見たまえよ!この新聞を!」
博士にさんざん振り回されたかわいそうなくしゃくしゃの新聞を俺は
震える手でそっと開く…
1909年8月12日
確かにそう、書いている。
俺達は…成功したんだ。
誰も成し遂げることのなかったタイムスリップを。
俺と博士の二人で‼
「博士…こうはしちゃいられませんよ!まず動画を回してこの成果を学会で発表…」
「さあ!横溝くん!行くぞ!」
は?どこへ。
「夏目漱石のもとへと!」
あー、そうだ、博士の目的は文豪に会うことだったな。
「夏目漱石を現代に連れ帰るんだ!」
あ?なんていった?
「そして、現代の日本を見てもらい、また新しい作品を書いてもらうんだ!」
なに?現代に連れて帰る?
それより、なんて言った?
新しい作品を書いてもらう?
まてまて、文豪をなんだと思ってるんだ?
それより、俺達は科学者であって出版者じゃねーんだぞ。
「さあ!行こうじゃないか横溝くん!憧れの大先生の元へ‼」
博士は俺の襟首をつかみ明治の町を歩き出した。
第2話 漱石さんちへ行く方法
「鮎川博士、文豪を現代に連れてくってどういうことですか?」
俺は博士の突飛な考えにまだ、追い付いていなかった
文豪を現代に連れていって新しい本を書いてもらう?意味がわからない。
先をズンズンと歩いていく博士に問いかけた。
博士はボサボサの頭を振り乱して勢いよく振り向いた。
「うん!まず私は本が好きだ!」
話が噛み合わない。
「そのなかでも俺は夏目漱石、太宰治、谷崎潤一郎を愛してやまないのだよ!」
「はあ…」
「彼らは常に文学という形で時代の最先端を築いてきた!」
「はあ…そうかな」
「考えてもみたまえ!この文明が発達した現代の日本を!」
「俺たちが今いるのは明治時代ですがね…」
そういえば、明治も文明開化の時代だったな
博士は構わず続ける。
「もしも、文豪たちに現代を見てもらうとする
今の現代人や社会情勢を文豪たちが目にしたらどんな反応をするだろう?」
俺はそんなややこしいことを考えるたちじゃないから分からない。
「彼らは現代の日本を目の当たりにして嘆くか?それとも、文明の発達を目の当たりにして喜ぶだろうか?どちらにしろ、彼らはそれらにインスパイアされまた、新しい発想で小説をかくのではないだろうか?」
……興奮している博士の言ってることは支離滅裂でさっぱりわからないが
過去の文豪たちを現代に連れていって、現代日本をテーマにした新作をかいてもらいたいと…
そして博士はそれを読みたいと…そういうことだろうか?自分勝手すぎやしないか?
ていうか、どう思う?文豪たちだって人間だぞ?
いきなり、わけのわからん男二人がやってきて
「未来から来ました。2019年に行きましょう、小説かいてください」なんて言ったら
変わり者が多い文豪だってビビって逃げ出すのではないか?
……と、そこまで考えて疑問に思う。
「…夏目漱石の家ってどこですか?」
「よく聞いたね!これをみたまえよ」
先程の気の毒な男から取り上げたくしゃくしゃの新聞を博士が開く。
「それから…が連載されてますね」
「そう彼は1909年5月から10月14日までそれからを朝日新聞で連載してたんだよ」
「なるほど…とは思いますが、それがどうしたんですか?」
「夏目漱石はね、書生の西村誠三郎に頼んで東京朝日新聞本社まで原稿を届けさせていたんだ」
「で…?」
「察しが悪いなあ、横溝くん。つまりだね、朝日新聞本社で原稿を持ってくる西村誠三郎くんを待ちぶせるんだよ」
「え…その…書生の方を利用して夏目家へ乗り込むってわけですか?」
「どうだー?いい考えだと思わないかね?」
いつも、ボケーッと本を読んでるだけの博士だがこんなときだけは頭が働くんだな。
「じゃあ、マシンはここに置いておいて電車に乗るよ!」
「え…電車とかあるんですか?」
「今で言うJRが通ってたはずだ、それで新聞社へ向かおう」
博士は俺のことなど気にせずにずかずかと歩いていく。
おいおい、ほんとにやるつもりだぞ?あの博士は…。
第3話 待ち時間
と、いうことで俺と博士は
夏目漱石家の書生、西村誠三郎をまつべく朝日新聞本社でまっている。
え?どうやって電車に乗ったかって?
博士が明治時代のお札をなぜか持っていた…としか言えない。
「博士…ていうか、こんなお札をどこで手に入れたんですか?」
「ん?メルカリだ、ちなみにロシアのお札も売ってたぞ」
マジかよ、メルカリなんでもあるんだな。
俺たちは朝日新聞本社の前でポツネンと待ち続けていた。
そういえば、俺は夏目漱石のことを1000円札の人としか認識していない。
いや…「こころ」なら読書感想文を書くとき読んだっけ…?
「俺は夏目漱石のことは詳しくないんすけど…どんな人なんすか?」
「は?」
博士は大袈裟に目を見開く。
「いやいやいや、夏目漱石だぞ!Wikipediaだけでも読んだらどうかね?」
博士が俺の無知さを煽ってくる。実にうざい。
「待ってなさい、今スマホで…あれ、スマホ使えない」
博士はスマホの画面をトントン指で叩く
しまいには、スマホをシェイクしだした。
「あー、博士、タイムスリップした時代では現在の電子機器は使えないのでは?」
ていうか、考えたら分かるだろ。
ここは明治時代なんだから…
博士はめんどくさそうに、頭をかきながら言う。
「では、めんどくさいが口頭で…簡単に説明するぞ
夏目漱石は本名を夏目金之助という。現代の東京新宿生まれだ
1904年「我輩は猫である」が正岡子規門下の会で好評を博しデビューしたんだ
そこから、数々の名作が世に送り出された。
流派は世の中を俯瞰的に…余裕をもって眺めるような作風なので余裕派と呼ばれたんだ
分かりやすく言うとラノベの「やれやれ系主人公」みたいなもんかな
ただ、子供の頃から病弱でな
いくつもの、病気や精神病にも悩まされてたんだが
「明暗」の執筆途中…49才で亡くなった」
「そんなに、若く…ていうか鮎川博士って、ラノベ読むんですね」
俺は新聞に載っている「それから」を読みながら
ここまで早口で説明した博士の夏目漱石愛に少しだけ感動する。
「ちなみに、それからってのはどんな話なんですか?」
新聞では途中からしか読めないので内容がさっぱりわからない
「職につかずに悠々自適に暮らしている30歳の長井代助が友人、平岡の妻の三千代と再開し
三千代への眠っていた恋心が再燃するんだ…また、この平岡ってやつがひどいやつでな。
まあ、そこは小説のキモである部分だから君が読みたまえ。
代助は三千代へ想いを伝え逢瀬を重ねるんだが…平岡は代助と三千代の関係を暴露するんだ。
もちろん、親、兄弟、婚約者から責められる…不倫芸能人みたいになるんだ
代助は自分を取り巻く全てのものを捨てて三千代を選び就職や世間と対峙する…という話だな」
「ニートへのアンチテーゼのような話なんですねえ」
「ニートではない、高等遊民だ!」
ニートにも種類があるのか…?
俺たちが夏目漱石話に花を咲かせているとカランと下駄の音が聞こえた。
音がした方に目をやると利口そうな青年が片手に原稿を持って新聞社の前まできている。
「博士!あの人じゃないですか?」
「きっと、そうだ!横溝くん、行ってみよう!」
俺たちは、走り出した。
夏目家の書生、西村誠三郎に
俺たちが未来からきた人間だということをどう説明するか…なんて考えずに。
第4話 書生、西村誠三郎登場
夏目家の書生らしき青年が新聞社の扉の前にたった
「あのー、すみません!あなたが西村誠三郎さんですか?」
博士がいきなり切り出す
バカかよ、知らないやつに名前を知られてるなんて
本人からしたら気持ち悪いから警戒されるかも知れないじゃないか!
西村誠三郎らしき青年は立ち止まって目をぱちくりとさせる
「ええ…そうですけど、あなたは?」
意外な反応だ。この時代は個人情報を知られることを
それほど、恐れられる時代でもないからなのか西村青年は
特に、警戒している様子はない。
「あなたは?あーえー、えーと…」
鮎川博士…なんていうか考えてなかったのかよ
博士はしどろもどろになっている
この人は以外とアドリブに弱い一面があるのだ。
俺はどうにでもなれという思いで
今、思い付いた嘘を口に出してみる。
「あのですね、私たちは出版社の者でして…」
博士は何かを思い付いたようにあとをついだ
「そ、そうです、実はですね半年ほど前、先生に文学評論の奥付けに捺印をしてもらったのですが
ちょっと、それに不備がありまして…」
「あ、そういえば、そんなこともありましたね僕も捺印を手伝いましたので…」
「ええ、なのでそのことについて漱石先生にお話があるので
僕ら、ここで待ってるので西村さん…先生の家まで同行させてもらえますか」
「ええ、わかりました!では、原稿だけ届けるのでしばらく、お待ちください」
そういって、西村青年は新聞社に入っていった
「はーーーー!うまくいきましたねえ」
「ああ、横溝くんが出版社というキーワードを出してくれたおかげだ」
「ていうか、博士…捺印がどうとかって…なんなんですか」
「この明治時代は、本には奥付け…本の出生証明書みたいなものだが
その奥付けに著者本人が検印を押印していたんだ。
まあ、他にも方法はあるんだが、それははしょるとして…
それを元に発行部数や印税などの計算をしていたんだが、夏目漱石が文学評論に捺印したのが
1909年の3月だっていうのをネットで読んだ」
博士がなにか、小難しいことを話していることに俺は感激する
でも、俺がついた嘘がいかされたのなら御の字だ。
「と、ところで」
「ん?」
博士はなにか黒いオシャレなショップバッグのようなものをとりだした
「夏目漱石へのプレゼントなんだけど…」
「……」
「夏目漱石は肌の痘痕がコンプレックスで
そのせいか、かなり高い美意識を持つお人らしいんだ…
たしか「それから」にも代助が肌の手入れをするシーンがある
だから、ネットで高級メンズコスメを買って持ってきたんだけど…
漱石先生…喜んでくれるかな?」
博士が俺を上目使いでみる。
まるで、乙女のようで気色が悪い
「ちなみに、そのメンズコスメはいくらくらいするんですか」
「ラインで揃えたら五万円かかったよ」
「ごまっ…!?」
そんな金があるなら俺の給料を上げてくれよ…
そうこうするうちに、西村青年が出てきた
「では、向かいましょうか」
西村青年はスラッとした面立ちの理知的な顔をにっこりとさせて俺たちと、夏目家へ向かった。
俺はこの好青年を騙したことに多少の罪悪感を覚えてしまった。
第5話 夏目漱石登場
カラン…カラン…
西村青年の下駄が明治の町並みに響く
(冷静に考えたら俺たちって明治にいるんだよなー)
教科書や写真でみるモノクロ写真とは違い明治の町並みに色がついている
新聞社には、高い建物が並んでいたが
今は古い平屋のような家が立ち並ぶ一角まできた
なんか、ふしぎな気分だ
西村青年は大きな門の前で立ち止まる
「つきましたよ、先生は部屋にいらっしゃいます」
ここが…俺が感慨にふけろうとしたとき
「横溝くん!ここが夏目漱石の家だよ!」
博士がひそひそと俺の耳元に向かって興奮ぎみに話す。キモい。
しかし、さすが文豪の家というか門を抜けると
広い日本家屋、瓦屋根、縁側…
庭はさくで囲われていたが子供が走り回れそうなほど広い
俺たちはキョロキョロと失礼なほど夏目家を眺めまわす
玄関の奥からパタパタと足音が聞こえてきた
「西村さんお帰りなさい、あら?お客さん?」
髪を結い上げたふっくらとした女性が出てきた
博士は口を開けたまま女性に見とれている
「博士?博士?タイプなんですか?」
「バカか、君はあの人は漱石先生の奥さん鏡子夫人だよ!」
博士のなかではちょっとした有名人にあった気分なのだろう
緊張のせいか、しゃんと背筋が伸びている
西村青年は事の顛末を奥さんに説明する
「あらあら、そうでしたか、では今、主人を…」
鏡子夫人が廊下を歩いて部屋にはいる
その時
「だから!私は金は貸さないと言ったでしょう!」
部屋の奥から男性の大きな声が聞こえる電話で話しているようだ
奥さんが戻ってきた
「今、主人は電話で話しているところなので…あなたたち、上がって待ってて下さい」
「はっ、はい!」
博士の声が裏返る
俺も少しドキドキしてきた
誰もが知るあの夏目漱石の家に今、俺たちは上がり込むのだ
しかも、すぐ目の前には本人がいる
はやる気持ちを押さえながら
奥さんの案内で廊下を歩いて1番、奥の部屋に向かう
「この部屋に主人がいますわ、私はあとでお茶を持ってきますので」
「あ…いや、お気になさらず…」博士が言う
「義父さん!もう電話をかけてこないで下さい!」
ガチャン!と大きな音をたてて電話をきる
「ったく、いつものように電話の受話器をあげておくべきだった…」
いる、俺たちの目の前に夏目漱石が…
凛とした顔立ち
穏やかにも見えるが相手を射すくめているようにも見える目
グレーの浴衣を着て座布団の上に座っている
文机には原稿用紙が束になって積まれてある
「ん?なんだね?君たちは?」
漱石先生は眉間にシワを寄せて俺たちをしげしげと眺める
俺は夏目漱石の謎の迫力に気圧されそうだった
横をちらと見ると博士はあまりの喜びのためか硬直している
顔なんて耳まで真っ赤になっている
横にいた西村青年が漱石先生に説明する
「なんだ、文学評論のことか、用はなんだ?さっさと済ませてくれ」
夏目漱石は手で俺たちに座れと促す
俺たちは夏目漱石の真ん前に座る
博士はもう、気を失わんばかりだ
しかし、俺は別のことを気にかけていた
さあ、これからどうやって「俺たちが未来から来た人間」だと伝えよう
第6話 さあ話をつけようか
いぜんとして俺たちは漱石先生と睨みあうように向かい合っていた
「早く要件を話さないか」
漱石先生が、イライラとした様子で腕を組む
博士…どうするつもりなんだ?
博士は懐に手をしのばせた
ゴクリ…俺は思わず息をのむ
「先生…」
何をするつもりだ?博士…
博士の手には先程の黒いショップバッグがぶらさがっていた
「これをお納めください」
博士は頭を下げながら漱石先生に
メンズコスメの入ったショップバッグを差し出す
「なんだね、これは」
「メンズコスメです」
「めんずこすめ?」
「肌の手入れをする化粧品のようなものです」
「ほお」
漱石先生はなんだか
新しいおもちゃを手にした子供のように
ショップバッグを開けて
メンズコスメの化粧水だか乳液だかを
手に取ってキラキラとした目で眺め回す
化粧水だかを手のひらにとりだし
ペチペチと顔につけたりする
文机の上の鏡を引き寄せて
鏡にうつった自分の顔を見てうなずく
俺たちはそんな夏目漱石の姿をぼんやりと見ていた
漱石先生は新しいものが好きなんだな
いや、それよりどうやって話を切り出す?
俺は小声で博士に声をかける
(博士…どうするつもりなんですか?)
(うむ、私にひとつ考えがある)
博士のめがねの奥の目は確信にみちた目をしている
文豪たちと2019年の旅!
たぶん、時代考証がおかしいし、科学の知識もないのでめちゃくちゃだったのではないでしょうか。すみません。