男子校高校生の日常

男子校高校生の日常

 本当はやっちゃいけないんですが。
若気の至りってことで、どうかひとつお許し願えますと。

 高校時代。
 クラス内で授業中、漫画を回し読みしていた時期があった。
 自分の席が最後列だったことから、横のつながり限定でローテーションしていた。
机の中にブツを隠し、若干椅子へもたれ気味になり、黙々と読書に耽る。
 背徳の美味、というと聞こえはいいが単に授業をさぼりたいだけ。
実質、時間つぶしに過ぎない。
 スリルを味わいたい、なんて思うほど大人びてはいなかった気がする。
本当ガキだったから、自分含め周りの連中。
 
 クローズやドカベンの文庫版など、思えば週刊少年チャンピオンの作品が多かった。
 人気でいえばジャンプにマガジン、サンデーに続く四番手の少年誌。
 しかしヤンキー系や青春野球ものなど思春期にはうってつけの題材だったこと、
男子校に在籍していた背景を考えれば、渋めのセレクトもなんとなく納得できる。
 
 これらの品々。
 実は他クラスの友人から借りたものをクラスメートに貸し出す、授業中のみだが。
 いわゆるまた貸し。
 幸い一度も先生にバレることなくブームが過ぎたからよかったものの、
友達に一言の断りも入れず皆に回していたことを、今更ながら反省している。

 しかし当時は言えなかった。
 罪悪感を覚えながらも、当然だが事実を伝えれば即日返却を余儀なくされるし、
クラスメートの楽しみを奪ってしまうことにもなるし。
 理不尽極まりないが罪の意識に苦しむこと、
それが代償になるのだと思い込み過ちを消化させていた。
 そして現在に至っても彼には言えずじまい。友情が壊れてしまうことを恐れるあまり。
今も昔も変わらない、臆病がゆえの八方美人、それが僕の本質。

 僕の住む県は配送上の都合により、雑誌や書籍の入荷が他県よりも一日遅れる。
 だが少年週刊誌だけはなぜか発売日に入荷するため、
放課後まで待てず通学時、コンビニに立ち寄り買ってくる同級生が多かった。
 ホームルームが始まるまで好きな作品をじっくり読み込んだり、
まずは一通り関東から巻末まで流し読みしたり。
 読書スタイルは個々人でまちまちだ。
 
 そんな教え子たちのルーティンを教師が見抜かぬわけがない。没収も多かった。
 僕が入部していた合気道部の顧問で、一年時にはクラス担任でもあったS先生。
 山のように大きながたいと豪快な性格の持ち主。
 だが同時にユーモアセンスも兼ね備えた奇特な人物だった。

 漫画雑誌の発売日。
 一時間目が終了するとすぐに、勢いよくS先生が教室に入ってくる。
「はい、没収~」
 高らかにそう宣言すると、愉快そうな様子で一冊一冊、腕に抱え上げていく。
 その早きこと風のごとし。あっという間に回収は終了する。
 
 数学を教えていたS先生。
 教科ごとに設けてある準備室へ所用で入ると、
山積みとなった押収品に出くわすことが多かった。
 ―こんなたくさんの雑誌、どうやって処分すんのかな。一気に燃やせる焼却炉とか……。
 想像は膨らんだ。

 S先生の授業中。
 ある生徒がジャンプを読んでいたところ、見つかってしまった。
休み時間ならまだしも指導を受けている最中、怒りを買っても致し方ない。
 普段は温厚な顔が大魔神さながらに激高。
乱暴に雑誌を取り上げると大股でベランダへと向かった。
 力任せに片手で窓を開ける。グラウンドへ投げ捨てる様子。
 怒り指数は臨界点に達していた。
 勢いをつけ腕を振りかぶったS先生。

 が、腕に余計な力が入り遠くへ投げ飛ばすつもりだったのが、
バルコニーのテラスへと大きな音を立て叩きつけられた。
 思わぬ事態に生徒一同あっけにとられる中、
自身の行為と思惑が珍事と化したことが、面白くてたまらなかったらしい。
 直前まで体が震えていたS先生は笑いをこらえるのに必死で、
その横顔は頬と口元が震えていた、プルプルと。

男子校高校生の日常

男子校高校生の日常

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted