三千年の月

あおい はる

(みんな、きえるよ)
 三千年後の、冬。
 青白い月と、夜にしかあらわれないバケモノたちと、死にたがりのせんせいと、透明な街と、ぼく。
 森の神さまである、くまと、ぼくが、恋人同士であることは、このあたりでは有名なはなしで、森のどうぶつたちも、森の近くに住むにんげんたちも、夜のバケモノたちも、死にたがりのくせに死ねないせんせいも、よくしっていることで、でも、ぼくは、神さまではない。きょうりゅうをよみがえらせてください、という願いは、ざんねんだけれど、森の神さまでは、叶えられるものではない、きみが、くまに、跪いたところで、ね。つめたいのは氷で、雪は、意外とあたたかいものだよって、せんせいは言う。恋人は、いつも、くすぐったいくらいのやさしさで、ぼくを、包んでくれるけれど、ほんとうは、ひた隠している、野性的な面に、めちゃくちゃに、されたい。こころも、からだも、ずたずたにされて、もう、あなたなしでは生きていけない、っていうところまで、あなたのものに、してほしい。それから、ぞんぶんに、甘やかしてほしい。酷く傷つけられたあとに、馬鹿みたいに溺愛されたら、それはもう、かんぜんに、抜け出せない、ループ。
 夜にしかあらわれないバケモノたちは、ソフトクリームが好き。
 二十五時のコンビニで、ソフトクリームを買っている。からすみたいに真っ黒で、にんげんみたいに、二足歩行で、けれど、個体の識別が、ぼくらにはできない。なにせ、全身、真っ黒いシーツをかぶったような、ひとびとであるから。
 せんせいは、アイスレモンティーが好きで、冬でも、アイスレモンティーを飲んで、ときどき、ぼくのところにやってきては、俗世間に対する罵倒を、一通り行い、アイスレモンティーを飲んでは、ぼくのひざのうえで、わんわん泣いて、ねむる。そこは、恋人だけの、場所なのだけれど、せんせいには、ぼくしかおらず、ぼくだけで、せかいに、たったひとりの、じぶんの理解者であると、せんせいは、ぼくのことを思っているので、縋られると、ゆるしてしまうの。
 窓からみえる、月。
 まるい、月。
 青くて、白い。
 いつか、砕いて、海にまきたい。
 骨をまくように、あの、うつくしい球体を、粉々にして、三千年経って腐った、このせかいに、散布したい。という、ひそやかな、祈り。
 せんせいの、ややかための髪を、撫でつけながら、恋人の、あの、おおきくてたくましい腕のなかで、ぼく、というにんげんが、崩壊してゆく様を想像して、身震いする。二十五時。

三千年の月

三千年の月

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-23

CC BY-NC-ND
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