窓辺の少年

南漏斗

 窓枠に少年が座っている。朝の冷えた風が部屋を吹き抜ける。外の世界はまだ愚鈍に眠っている。薄いカーテンは開け放たれ、光が図々しく差し込んでいる。少年の髪がきらきらと光った。
少年は振り向いて言った。

「ねえ、

揺れた。

「僕ね、たまにイヤホンしたまま寝ることがあるんだ。
それでね、目が覚めて床に足をつけるとき思いがけず冷たくて、もしかして僕寝てるときにイヤホン首に巻き付いてホントは死んじゃってるんじゃないかって思うんだ。
で、僕は今死後の世界にいて、それで今見てるもの全部死体になった僕が見てる夢なんじゃないかって思うんだー

軽やかに笑った。風と光が髪を弄ぶ。

「ね、僕、ここが夢ならなんだってできるんだよ。
空も、飛べるんだよ。

窓枠に足をかける。(ふち)に立って両腕を広げる。
少年の白いシャツが、カーテンがパタパタと乾いた音をたててなびいた。後ろ姿が十字架に見えた。
光が、溢れる。白が眩しい。

「僕、夢だったんだー。ずっと!

嬉しそうな声だ。きっと笑っているのだろう。

「空を飛んで雲に思いっきりダイブするのが!
苦しいことも悲しいことも全部全部夢だから、だから、僕は大丈夫なんだ!

息が、

「――ねえ、

震えていた。

「僕、飛べるよね!

風が、少年に応えた。
踵が浮くのが見えた。
彼は両腕を広げたまま窓の外へ落ちた。

ドスッという音が聞こえた気がした。
からっぽになった窓の向こうに冷たい太陽が半分ほど顔を出しているのが見える。卑怯だ。
 いつしか人の声やらサイレンやらが喧しく騒ぎ出すのがぼんやりと聞こえた。
部屋は静かで、やわらかな光に満ちた。
カーテンがパタパタと踊っていた。

窓辺の少年

窓辺の少年

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-23

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