まよなかの乙女たち

 まよなかの、乙女たちは、なんだか、みんな、鈍色に、みえて、華やかさを失った、というよりは、そういった、華美、みたいなものを、おしころしてるような、たとえば、洋服は、夜の闇と、同化する色に、光るアクセサリーは、みにつけないで、しずしずと、街を歩いていて、ぼくは、おそうしきみたい、と思いながら、せんせいの、セーターのすそを、にぎりなおしました。

ぱちん、

という音が、きこえると、せかいのいちぶが、崩れ去るのだといいます。とおい国の、森が、しらない国の、町が、北の方の、ビルが、南の方の、山が、ぼくらの街の、信号機の赤いランプなんかが、ぱちん、という破裂音と共に、ばらばらと、構築していた物質等々が、微細な単一のものとなり、そのまま、崩れて、消え去ってしまう。そんな、こわいことが、おこっているあいだにも、ぼくたちは、おなかがすくので、ごはんをたべます。ねむくなったら、ねむるし、したくなったら、します。せんせいは、いわゆるところの、いいこちゃん、なので、わりと、だれとでもしてしまう、ぼくを、たしなめます。
「どうか、こころとからだを、たいせつにしてください」
 そうして、祈りながら、すこしだけ、泣きます。せんせいの、そういうところが、さいしょは、うざったかったのに、いまは、だいすきで、せんせいに、心配されて、たしなめられ、祈り、泣いてもらうために、ぼくは、やっぱり、だれとでも、してしまうのです。ひどいことをするひともいるけれど、ただ、やさしいだけのひとの方が、多いです。
 にんげんは、みんな、おくびょうなのだと思います。
 おくびょうだから、いとしいです。
 せんせいは、そのうち、セーターがのびるからと、ぼくの手をとり、ぎゅっとにぎってくれます。まよなかの、乙女たちが、なにをめざし、どこにむかって歩いているのかは、わかりません。こつん、こつん、と、いやに規則正しい間隔で、まよなかの街に鳴り響く、乙女たちの靴音が、実態のない不安をかきたてます。
 せんせいの手は、あたたかいです。
 まるで、湯たんぽのよう。
 ちゃんと、生きているのだな、と、妙な感動をおぼえながら、まよなかの乙女たちを背に、家にかえります。 

まよなかの乙女たち

まよなかの乙女たち

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-21

CC BY-NC-ND
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