The Winds of Nature
【まえがきは必ずお読みください】
【11/25更新(まえがき)】【未完】【更新停止中】
中世風ファンタジーです
あらすじ: 小さな村で、父とともに過ごしてきたエイドル。騎士になるために様々な努力をしてきたが、遂にその時が訪れる。騎士となったエイドルは、様々な人間たちと、魔法の世界を巡る旅をすることになる
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[稽古と鍋]
「ほら、エイドル。じゃあ、それを取れ。取ったらすぐに始めるからな」
そう親父が言って、俺の前に、一本の木剣が放り投げられる。木剣と言っても正しく製造された、売り物にでもできそうな綺麗な代物ではなく、ただなんとなく剣らしき形に粗々しく成形した木の棒と言った感じだ。投げられた木剣をしばらくじっと見つめてから、俺はすっとそれを手に取った。
「剣術の基本、毎度のこと言っているが、それは“合いの手”だ。相手の攻撃に合わせて、対応する行動を取る。これも毎回言うが、言わば『遅出しじゃんけんの命を賭けたもの』だ。例えば、相手が上方から切り掛かってきたら、自分も上方に剣を構えて防御行動を取る。これは相手にとっても同じ、自分が攻撃したら相手も防御する。 ……よし、それじゃあ、やってみようか」
言って、親父はおもむろに、自分が手にした木剣を俺に向けて構える。俺もそれに応じて木剣を親父に構えた。
「まずお前から攻撃してみろ」
「……ああ」
俺はゆっくりと剣を振り上げる。狙いは上半身の首近いあたり……。首を斬ってしまえば、一撃で相手を沈められると、これも前に親父から教えられた。
そして、親父めがけて、木剣を袈裟懸けに斬りおろした。
「やっ!」
掛け声に合わせて降ろされた剣は、速度や鋭さは、木剣にも関わらずまだいまいちだったが、一応はそれも攻撃の一つである。親父はどこから斬りおろされたか、どのタイミングで防御を合わせればいいか、一瞬で見極めて、俺の一撃を弾き返した。
パン、と乾いた木の音があたりに一面に響いた。
「前よりは、攻撃が正確になってきているな。だが、あくまでも前よりはマシというだけだ。まだまだ、騎士になるためには鍛錬が必要だな、エイドル」
「……そうなのか。だったら、自分から鍛錬をこなしていくまでだ」
「いい意気だ。それじゃ、俺の攻撃を防御してみろ。本気ではまだやらないから安心しろ」
防御態勢から戻った親父が、改めて剣を構えながら、俺との距離を少し置く。
「よし、それじゃあ、行くぞ!」
そして、親父は突進するように俺に駆け向かってきた。木剣が腹部を搔き切るように水平に薙がれる。
(……!)
俺は、親父のようには、まだ上手くいかなかった。攻撃を見極められず、腹部に一撃を食らう。親父は本気でやると言っていなかったのに、そして、これはあくまで木剣なのに、なぜか本物の剣に斬られたような気がして、その恐怖とそして親父が斬った時の顔面の気迫とで、俺の足には力が入らなくなっていた。
すとん、と、尻餅をついて倒れる。その後、親父は昔の癖が出てしまったのか、俺の首元に刃を近づけた。
「おいおい、どうしたどうした。そんなに力は入れていなかったはずだぞ? 痛かったのなら、謝るが」
「……いや、大丈夫。ちょっと、足が竦んだだけ」
「でも、まあ、怖がることは決して悪いことではない。戦場において恐怖心が無くなり、傲慢な考えに取り憑かれれば、その先に待っているのは、確実な死だ。できれば……弾いて欲しかったがな、ははははは」
俺は立ち上がって尻を両手で払う。そばに落ちていた木剣を拾い上げた。
「よおし、それじゃあ、まだまだ続けるぞ、ついてこい、エイドル!」
「……ああ」
そして、そのあと、俺たちの鍛錬は夕暮れまで続けられた。
* * *
それから数日後。
その日も、二人での鍛錬を終えて家に帰ってきた俺たちは、夕飯の準備をしていた。
お袋はいないので、いつも男二人で飯を作っている。毎日が男の料理だった。
「……親父、今日の料理は何?」
「シチューだ。早く食べたいか?」
「またシチューか……」
「まあ、贅沢言うな。 ……母さんがいれば、もっと旨い手料理を食わせてやれるんだが……」
そう言った親父の顔には少し陰りが見えた。 ……俺はそれに、少し早口で、返答をする。
「毎日シチューでもいいよ、別に。それより早く……食べよう」
男二人は揃ってビーフシチューの入ったお椀と木匙を持ち、ほぼ同時に向かい合って席に着いた。スプーンを持ち、シチューを掬って食べる。ごろごろと、粗雑な形で大きく切られたじゃがいもや人参などが口の中を埋め尽くす。
「母さんのと比べると、やっぱりちょっと出来が悪いな……」
「……でも、まずくはないよ」
ちょくちょくお袋のことに触れながら、親子で会話する。よく分からないが、これが親子水入らずの時間というやつなのか? 普段はあまり実感しないのだが、今日はお袋のことを思ったせいか、余計にそう思えてきた。
「今度の農閑期、久しぶりにアーアンサイズに行ってみるか? 俺も昔の同僚と友人に会いに行かないといけないし」
「アーアンサイズか……行くとしたら二年ぶりだな」
アーアンサイズとは……それはこの国最大の市街であり、首都である。多くの人がいつどんな時でも行き交い、活気に溢れている。前回行った際は、右も左も分からずに年齢十六にして危うく迷子になるところだった。今度行くときは、そんなことはないだろうが。
「分かった、行こう。また騎士兵舎とか練兵場とか見せてもらえるんだろう? それだったら行くよ」
「大きな街を見ることはいいことだ。自分が世間知らずにならずに済むからな。だが、エイドル、お前ももう十八だ、そろそろ一人だけで首都に行ってみるのもいいかもしれないぞ。まあ、次は俺と一緒に行くことにするけれどな」
「分かってるよ」
騎士になるためには、自立した一人の男にならなければならない。いつまでも親父に頼っていないで、一人で行動するということも大切だということは分かっている。だが、それにはまだ準備が必要だ。今はその時ではない。
「さあて、農閑期までは仕事を手伝ってもらうぞ。小麦の刈り取り、運搬、出荷。この村で学べることは農業だ。騎士になるためには関係ないかもしれないが、決して悪い経験ではないだろうからな」
俺より先にシチューを食べ終わった親父は、ぽんと、流し台にあった水桶に、お椀と木匙を軽く投げ入れた。
コンコン。
その時、玄関の扉が、小さく叩かれる音がした。
「……誰だ、こんな時間に」
流し台で、父が自分が使ったお椀と匙を洗いながら、小首を傾げて俺に視線を送ってくる。
「……小さな村だから、顔見知りだろうとは思うけど」
「それは当然分かっているが、というよりむしろそれ以外に誰が来る、その中でも誰かと聞いているんだ。まあ、でっかい男がでっかい拳でバンバン叩いた音ではなかったが……隣のメイザばあさんか? ちょっとお前、見てこい」
「……」
俺も親父と同じで、村の、農業で鍛え上げられた、親父のような逞しい巨躯の男たちの誰かが訪ねてきたわけではないだろうと、そのノックの音で分かったが、じゃあ女性でこんな時間に誰が来るだろうか? 本当に隣家のメイザばあさんだろうか。
まさかとは思うが……彼女ではないだろうな。
俺は玄関のドアに近づき、扉に手を当てる。そうして、ゆっくりと押し開けた。
「……」
外では小雨がはらはらと降っていた。本当にしとしとと静かに降っていたので、目視で見た今、初めて気づいたくらいだ。だが、肝心なのはそこではない。家の扉の前に、訪ねてやってきた人物がいるかどうかだ。
しかし、ドアの前には誰も立ってはいなかった。
(どういうことだ)
もしもメイザばあさんなら、小柄でしわのよった老年の女性が、小さく腰を曲げて立っているはずだが、ノックの音もしたのに誰もいないとはどういうことだ。用事の主は、急用ができて帰ってしまったのだろうか。それか、可能性は低いが……。
辺りを見渡すが、隣家や周りの家々、俺の家の側に生いている藪くらいしか見当たらない。その藪を掻き分けて確認しようとする気も起きない。きっと気のせいだな、と思い、踵を返して家の中に戻ろうとした時、
「あら、こんばんは」
と声がした。
この声は、と思い、もう一度振り返り、見てみると、家から少し先にいったところで誰か二人が話し合いをしている。暗くてよく見えないが、目を凝らして見てみると、それは、メイザばあさんともう一人の老女だった。ということは……ドアをノックしたのはメイザばあさんではないと分かる。
「誰だよ、イタズラか?」
「おおい、まだかエイドル。ずいぶんと人探しに明け暮れているようだが」
「イタズラだったよ、まったく迷惑千万だ」
と、今度こそドアを閉めて家の中に戻ろうとした時。
つんつん。
背中を、おそらく人差し指か何かでつつかれた。
「誰だよ」
俺は少しだけ苛立ちを覚えながら、勢いよく後ろを振り返った。
「わあ!」
その人物は、俺を驚かせてきた。
「……」
だが、あまり実感はない。なぜなら、そこに立っていたのは、憶測通り屈強な村男でも、狡猾なゴブリンやギガースでもない、一人の、華奢な“村娘”だったからだ。
「……リリサ」
俺は、その人物の名前を呼ぶ。
「どうしてこんな時間に来た。……女性一人じゃ危ないだろ。もしもゴブリンが村に一匹でも迷いこんでいて、それにばったり出くわしたら、どうするつもりだ?」
リリサ、と俺に名前を呼ばれたその少女は、俺の心配を知ってか知らずか、けらけらと笑いながら、次の句を継ぐ。
「いいじゃん、別にー! しかも、ゴブリンが村に入ってくることなんて、まずないしね! 村の自警団は強いからっ!」
そう言ってから、さりげなく、入っていいよね?と言いつつ、づかづかと俺の家に入ってくるリリサを見て、俺は呆れてため息が出てきた。
俺の分の食器も洗っていた親父が声で気づき、洗い物を一旦やめてこちらに来る。
「おやおや、こんな夜更けに訪ねてきたのは、ヴァーゴお嬢だったか」
「グランウィンドさん、こんばんは!」
苗字で呼び合った二人は、顔を見合わせてにっこりと笑う。対する俺は無表情のままだ。ちなみに、リリサをリリサと呼んでいるのは、この村では俺ぐらいのもので、みんながみんな、珍しい苗字のヴァーゴという名前で呼ぶ。彼女はもう慣れたらしいが、ちょっと前まで嫌なことこの上なかったらしく、その時それに対抗する形でリリサは俺以外の村の住民をみな苗字で呼ぶことにした……らしい。彼女曰く。
「用事があってきたんだろう? こんな遅くに来て、何か大変なことでもあったのかい?」
親父が腕組みをしてゆっくりと彼女に尋ねる。
「あ、はい! あ、いやでも、そんなに大した御用ではないんですけれども!」
そう言って、彼女は片手に持っていた黒い何かを自分の前に掲げた。なんだなんだ、と俺と親父は二人でそれを見据えた。
それは、使い古された様子の、中くらいの大きさの鍋だった。
「……鍋?」
俺は怪訝な顔で中空を見つめ、考える。こんな時間に鍋、ということは? ……俺の中では、答えは一つしか浮かびあがってこなかった。
「実は、夕食作りすぎちゃってですね、うちの母がエイドルの家におすそ分けしてきて頂戴、ということで……はい! あーでも……もう食べ終わっちゃってたみたいですね……」
……やっぱりそうか、と俺は得心した。
作品情報(最下部)
The Winds of Nature
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