電車に就いての記憶
さて、電車というのは不思議なものだ
不思議なリズムを奏で
乗客をそのリズムの中に閉じ込めてしまう
イヤホンなぞが無かった昔は
これが共通の音楽だったのだろう
私は今日電車を使ったのだが...
見る人見る人、イヤホンをし
電話をし
会話をし
電車の声なぞ微塵も興味が無いだろう事が窺えた
走る事でしか会話が出来ないこやつのことを
誰も見ては呉れぬのか...
終点の駅に着くと人々は散り
私は一番最後に下車した
口を固く結んだこの楽器が
なんだか不憫に思えてきて
一瞥も呉れぬ人間らが
なんだか薄情に思えてきて
私は居た堪れなかった
巨体を抱擁する術も無く
遂に考え倦ねた私は
人差し指で彼の輪郭をなぞり
またお前さんの独演会、聴かせてくれよ
と心の中で呟き
私は俯き踵を返した...
電車に就いての記憶