電車に就いての記憶

さて、電車というのは不思議なものだ

不思議なリズムを奏で

乗客をそのリズムの中に閉じ込めてしまう

イヤホンなぞが無かった昔は

これが共通の音楽だったのだろう

私は今日電車を使ったのだが...

見る人見る人、イヤホンをし

電話をし

会話をし

電車の声なぞ微塵も興味が無いだろう事が窺えた

走る事でしか会話が出来ないこやつのことを

誰も見ては呉れぬのか...

終点の駅に着くと人々は散り

私は一番最後に下車した

口を固く結んだこの楽器が

なんだか不憫に思えてきて

一瞥も呉れぬ人間らが

なんだか薄情に思えてきて

私は居た堪れなかった

巨体を抱擁する術も無く

遂に考え倦ねた私は

人差し指で彼の輪郭をなぞり

またお前さんの独演会、聴かせてくれよ

と心の中で呟き

私は俯き踵を返した...

電車に就いての記憶

電車に就いての記憶

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-17

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