せかいじゅうの夜にたったひとり

 花になった少女と、星になったしろくまと、夜を越える方舟と、白い海。
 ようこそ、せかいのおわりは、つねに、あなたのとなりにひそんでいると、街角の道化師はあやしく笑い、もとは少女だった花たちが、お花屋さんのつめたいショーケースのなかで、さびしげにゆれる。めがねのむこうで、せんせいが、いつまでも、ぼくを、てまねいている。いつまでも。
 せかいが、みんなわるいとおもうのならば、そのうち、じぶんじしんも、わるいとおもうようになって、そのまま、せかいの、いちぶになれるよ、と言っていた、せんせいが、海のさかなになったので、せんせいが、いちばん、わるいよ。
 しらないあいだに、五臓六腑が、チョコレートや、ビスケットになって、れいとうこのなか、ペンギンが、さかなばっかりたべている。だいじょうぶ、そのさかなのなかに、せんせいはいないから、星になったしろくまが、ときどき、空でまばゆく光っては、しゅん、と流れてゆく。流れて、おちて、森のみずうみに、星だったはずの、しろくまたちが、しろくま、という原形をとりもどして、みずうみをおよいでる。かろやかに。
 最終電車には、にんげん、の、かげが、転写され、朝日を浴びると、あとかたもなく消える。海のさかなになるまえの、せんせいが、ぼくにおしえてくれたこと。教科書のなかの、数式や、元素記号ではなく、ひとのありかたとか、せかいとのむきあいかたとか、かみさまとのつきあいかたとか、そういうのの、なまえ。ひっくるめての。
 わかんないなあ。

せかいじゅうの夜にたったひとり

せかいじゅうの夜にたったひとり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-17

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND