せかいじゅうの夜にたったひとり
花になった少女と、星になったしろくまと、夜を越える方舟と、白い海。
ようこそ、せかいのおわりは、つねに、あなたのとなりにひそんでいると、街角の道化師はあやしく笑い、もとは少女だった花たちが、お花屋さんのつめたいショーケースのなかで、さびしげにゆれる。めがねのむこうで、せんせいが、いつまでも、ぼくを、てまねいている。いつまでも。
せかいが、みんなわるいとおもうのならば、そのうち、じぶんじしんも、わるいとおもうようになって、そのまま、せかいの、いちぶになれるよ、と言っていた、せんせいが、海のさかなになったので、せんせいが、いちばん、わるいよ。
しらないあいだに、五臓六腑が、チョコレートや、ビスケットになって、れいとうこのなか、ペンギンが、さかなばっかりたべている。だいじょうぶ、そのさかなのなかに、せんせいはいないから、星になったしろくまが、ときどき、空でまばゆく光っては、しゅん、と流れてゆく。流れて、おちて、森のみずうみに、星だったはずの、しろくまたちが、しろくま、という原形をとりもどして、みずうみをおよいでる。かろやかに。
最終電車には、にんげん、の、かげが、転写され、朝日を浴びると、あとかたもなく消える。海のさかなになるまえの、せんせいが、ぼくにおしえてくれたこと。教科書のなかの、数式や、元素記号ではなく、ひとのありかたとか、せかいとのむきあいかたとか、かみさまとのつきあいかたとか、そういうのの、なまえ。ひっくるめての。
わかんないなあ。
せかいじゅうの夜にたったひとり