美咲
僕と美咲が一緒に暮らし始めて今日で一年になる。
だから、今日は久しぶりに奮発してご馳走を作った。
本当はそんな気持ちじゃなかったけど、僕は努めて明るい声で美咲に声をかけた。
「美咲、ご飯食べよ。爪の手入れなんか後でも良いだろ。」
ソファでくつろいでいた美咲は身だしなみの邪魔をされて少しムッとしたけど、表情を崩すとすぐに食卓へとやってきた。
いつもの食卓でいつものように顔を合わせる。
もっぱら話しかけるのは僕の方で、美咲は時々相槌を打つだけ。
だけど僕の話をちゃんと聞いてくれているってなんとなくわかる。
僕たちはちゃんとつながっている。
それが今日までの当たり前の日々。
そんな当たり前の幸せを僕は噛み締めていた。
美咲は世界で一番可愛い。
いつかその美貌で男を何人も誘惑していると言われた。
美咲は平気な顔をしていた。
その日は珍しく僕と一緒の布団で寝た。
美咲が子どもを作れない体だと知ったときはとてもショックだった。
美咲は何も言わなかった。
本当は子どもが欲しかったのかもしれない。
一緒にご飯を食べて、一緒にテレビを観て、一緒に寝るような日々。
これからもそんな日々が続くと思っていた。
温かかったご馳走はいつの間にか冷めていた。
食後、僕は上品な顔立ちの美咲の頭をそっとなでた。
いきなり頭をなでられても美咲は文句も言わずに大人しく僕に身を預ける。
だから隣にいる美咲に僕はちゃんとした声で告げた。
「……美咲。僕、来月結婚することになったんだ。」
美咲は何も言わずに僕の言葉をじっと待っている。
「…相手は親の知り合いの娘さん。彼女は美咲には会いたくないって。当然かもしれないね。自分のせいで僕は美咲と別れなきゃならないんだからさ。」
美咲はそっと目を閉じた。
「今日でお別れだ、美咲。」
美咲はこんな日が来るのを知っていたのかもしれない。
僕と美咲はそれから長い間寄り添っていた。
数日後、僕は猫アレルギーの女性と結婚した。
美咲