ぬまのものたち

あおい はる

 ぬまのものたちは、たぶん、せかいでいちばん、やさしいから、ぼくらにんげんが、傷つけあっているあいだにも、ゆったりと、のんびりと、さ、してると思うんだ。
 光る石をたべたら、太陽になれるって、かれらは信じてる。
 発光して密集して、幾億の、ぬまのものの集合体が、空に浮かんだら太陽というひとつの星になれるって、ぬまのものたちは、むかしもいまも信じてるから愛しいのだと、せんせいはいう。
 真夜中は、ひそひそ話がよくきこえるから、よくないね。総じて、わるい話が多いから、なおさらのこと。とはいえ、だれかの睦言ならいいわけでも、ないけれど。
 冬になると、かなしみしかおしよせない日があるから、そういうときは、せんせいの部屋で、あたたかいスープをのむ。じゃがいものスープの日は、あたりの日。コーンスープの日は、ややはずれの日。ぼくは、コーンスープのコーンは、しゃきしゃき派なので、しかし、せんせいは、しゃきしゃき感が失われるほど、煮込むひとなので。
 なんというか、あいいれないことも、あるよ、ぼくら。
 きれい好きなぼくと、そうじがにがてなせんせいと、ねこが好きなぼくと、いぬが好きなせんせいと、トマトはまるごとかじりたい派のぼくと、半月型に切ってサラダといっしょにたべたい党のせんせい。
 だれかの怒りや、かなしみや、くるしみなんかが、夜になると撹拌される。
 それらは空気中を漂い、朝になるまでに、きえてゆく。
 朝になれば、また、だれかの怒りは、かなしみは、くるしみは、自然と芽生え、ぐんぐんと成長してゆく。おおきくなり、際限なく、おおきくなって、ゆうがたには、はじける。
 
(こわいね)
 
(こわいよね?)

 こわいと思うから、こわいのだと、せんせいはいいきる。
 こわいものを、こわいねと、共有してくれないせんせいが、ぼくは、きらいではない。
 ぬまのものたちが、いつか、太陽になれたらいいのにって、ひそかに祈ってる。
 ふりそそぐやさしさで、怒りも、かなしみも、くるしみも、つつみこんでほしいから。

ぬまのものたち

ぬまのものたち

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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