この頃よく風邪をひく

 
 この頃よく風邪をひく。
 
 この前失恋したこととは関係ないと思う。
 失恋とは言ったってそんな大したものじゃなくて、周りの同級生みたいに、付き合っている人と別れたとか、何回もアプローチして告白したのにフラれたとか、そういうわけじゃない。
 だから、失ったものなんて何もないし、大きな決断を自ら下したわけでもない。
 
——好きかもしれなかった人が自分の手の届く範囲から出て行ってしまった。
 
 ただ、それだけ。
 意気地なしの僕は、この思いを伝える意思も成就させる願望も、最初から最後まで持つことが出来ないままだった。

 最近で言えば、大学の授業が楽しくない。目指していた国立大学の工学部に入れたのはよかったけど、3年目にしてその判断が正しかった自信がなくなってきている。
 親も喜んでくれたし周りも褒めてくれる。エリートだと茶化されることもあるが、それが間違っているわけではないと思う。
 確かにこのままいけば、そんなに就職活動に精を出さなくても大学の研究室の紹介で、給料もよくて経営も安定しているいい会社に入れて、それが世間一般で言う幸せに近くて、うらやましがられる大人になれるのかもしれないのだけど、それが自分にとって「楽しいこと」とは思えなかった。
 
 今が楽しくないのに、その先に幸せがあるなんてとても信じられないと思った。
 それでも大学の同期達は今僕らが専攻している分野には興味がないとか、向いてないと言って、他分野への就職活動を一生懸命頑張っているようであった。研究室の後押しのない就職活動が大変なのはなんとなく分かる。会話から出てくる、履歴書、インターン、エントリーシート、面接、自己PR、、、なんて言葉はそのどれもが自分には向いているように思えなくて、僕だって彼らと同じ気持ちなのに、就職という言葉は自分の気分を落ち込ませるものでしかなかった。
 今までずっと頑張ってきて、やっとの思いで大学に入ったのにこれからももっと頑張らないといけない。そんな当たり前のことが理不尽にしか思えない自分にあきれるしかなかった。

 時給がいいから決めた酒屋のバイトも始めて一年が経とうとしていた。
 接客の時はとにかく愛想よくするようにと、上司の源田さんには何度も言われている。源田さんは親父と同じくらいの年のおじさんで、バイトを始めたときから仕事を教えてもらったり、飲みに誘ってもらったりとよくしてもらっている。
 お金をもらっているとはいえ、日によってはきつい時もあって、愛想よくしているだけでも人は疲れるのだなと初めて知った。僕は人と接するとき演技をしている自覚があるから、自分は知らないうちに体力を使っているのだなとも思った。でもそのかいあって、「岩本君ってほんとに人見知りしないよねー。」と源田さんに褒められたときは、本当は人見知りで、合コンで緊張して女の子と上手く話すことのできないこの自分が、上手く立ち回れている、上手く演じれていると思うとても嬉しかった。

 それでも、丁寧に接客されたい自分がいるのを最近知った。
 僕はいつも夕方から閉店までの時間働くので、バイトがある日は毎回遅くなる。なので、バイト終わりにちょっとした買い物をしたいときは、少し遠回りして24時間営業のスーパーに行っていた。
 いつも行っているとその時間に働いている従業員の顔はだいたい分かるようになる。その中でも特に、レジのおばさんはどこか品があって綺麗な人だったからすぐに覚えた。会計後に毎回「いつもありがとうございます。」と笑顔で言ってくれるのが嬉しかった。「いつも」と言うのだから、顔を覚えてくれたのかなと思っていた。
 だけどそんなわけはない。
 ある時、レジがいつもより混んでいたから、いつものおばさんではなく、他の女子大生らしき店員さんにレジを打ってもらった。その人は疲れているのか、けだるそうにレジを打つ。会計後、「いつもありがとうございます。」とあったが、その人は無表情でけだるそうだった。
 「あぁ、マニュアルだったんだ。」そんなの当たり前のことなのかもしれないのだけど、僕的にちょっとショックだったのは間違いない。
 風邪を引いたからなのもあって、それ以降そのスーパーには行っていない。

 最近風邪でしょっちゅうバイトを休んでいたのにも関わらず、僕は今日も風邪気味でバイトに出勤する。マスクをしてはいるのだけれど僕が咳込むと、その音が店内に結構響いて、自分の病状が思ったより良くないことが分かる。いつもは無口の副店長がなぜか優しいのが気味が悪かった。
「性病?」
 源田さんは咳込んだ僕にこう言って、黄ばんだ歯を見せながらニヤニヤしている。
 とても品のないジョークだが不覚にもおもしろい。源田さんにつられてニヤニヤしてしまう。今時こんなこと言っていい楽しい場所はどこにもない。品なんてなくたっていいから、楽しく生きたい。
「まだ童貞なんですよー、僕。性病なわけないじゃないですか!」
 源田さんとは仲が良いのもあるが、ここで童貞アピールをすると男ウケがいいのを僕は知っている。人と仲良くするためには変なプライドなんていらない。そもそも、自分を貶めてでしか人と仲良くする方法を僕は知らない。
 
 バイト先では源田さん以外の人とも普通に仲が良いとは思うのだけど、数か月前に入ってきた1歳上の新人の人と話すのはとても苦労した。その人は正直言って暗くて地味な人だったし、話す度にいかに自分がまっとうな人生を送れていないかとか、いかに自分が暗い人間であるかをアピールしてくるものだから反応に困った。
 それで、多分周りも自分と同じことを思っていて、バイト先の人たちもその人の発言一つ一つにぎょっとしていた。僕と同い年の大学生のバイト君は、新しく年の近いバイトが入ることを聞くととても嬉しそうで目を輝かせていたが、本人を目の前にするとかなりおとなしくしていた。
 話してみるとよく分かったが、その人は自分がいままで報われなかったこと、心に闇があることにある種のプライドをもっている人だった。
 「私はあなたよりも闇深いですから。」という言葉が印象的だった。生きていく中で何かに恵まれなくて精神的に病んでしまう気持ちは分かるのだけれど、会話をしている相手の気持ちなんて一切考えないで自分の矜持を全面に押し出してくる態度は気に食わなかった。
 帰り道が一緒だったから、シフトが同じ日は2人で会話しながら歩いて帰ったが、楽しいのかムカついているのかその数分間の間自分がどう思ってその人の話を聞いているのかは判別できなかった。それでも、嫌いだと思っている相手に対して自分の感情を知られないように接するのは得意だったから、自分の中の不快な思いがその人に伝わっていることはないと思う。大学の人たちなんて自分からしたらもう会いたくないくらい嫌な奴ばかりだけど、それが伝わらないから目の前に現れることを止めてはくれない。
 とにかくその人が話好きなのはよく分かった。僕は無感情で「いいですね。」とか、「いいと思います。」といった、相手を肯定するような言葉を機械的にしか言わなかったけど、内容はともかく話題を自分から提示してくれるのはやりやすかった。
 ただこの人はかまってほしいのだ。そこの感情を読み取ることは出来たけど、そのこと自体がその人に対する愛しさに変わることはなく、感情を知ってしまったことで嫌悪感が募ったばかりだった。
 
 そして僕が風邪をひくようになる少し前、その人は「月が綺麗ですね。」と言った。
 意味が分からなかった。
 夏目漱石を知らないわけではない。
 でも、月なんてどこにも見当たらなくて、その人の顔を見ることも出来ないまま無言の時間が過ぎていった。
 あの時、あの人は何が言いたかったのだろう。その答えも出ないまま、一週間後。その人はバイトを辞めた。

「ぱキっ、、」
 製図用具のバッテンが折れると同時に心の折れる音が聞こえる。軽くて小さい音だけどなぜかそれは部屋中に響いている気がする。周りの視線が気になって、はっと顔をあげ周りを見渡してしまう。
 しかし誰もこっちを見ていない。恥ずかしくなって、すぐ作業に戻る。この授業の製図は完全に一人の作業だから、僕一人の不幸になど誰も興味を持たない。
 透明で細くて折れやすく一度折れると二度と元には戻らないバッテンは、自分の心と似ているせいか共鳴しやすいのかもしれない。

 大学の同期達と言ったが、一緒に授業を受けるその誰もが友達とは言い難かった。
 大学の授業は一人で受けている。それでも普段から自分に絡んでくる奴がいて僕はそいつらが嫌いだ。
 授業で配られる資料の余りを休み時間で席を立った隙に僕に押し付けたり、貸したペンを返さなかったり、バッテンが折られた状態で返ってきたりと散々だ。なのに、直接本人達に怒れるタイミングもなくて、僕は何も言えない。
 それでも製図で集中している時にちょっかいをかけられたときは流石に怒ろうと思った。でも、今までのことを覚えているのは僕だけで、
「えっ、怒ってるの?」
みたいな突き放すような言い方をされて悲しくなった。

 この前のこと。
「お前の兄ちゃんお笑い芸人やってるらしいな。」
 授業中に突然後ろから話しかけられた。確かに僕の兄はお笑い芸人をやっている。話しかけたのは、数えるほどしか会話したことのない同期。そいつは僕とは生態が異なり、わかりやすく言うと、イケてる人。髪をおしゃれに染め上げ、学部で一番かわいい女の子と付き合っている。授業に来ることは珍しいのに単位は取得できているらしいと言う僕からすれば憧れすら抱く人種だったから、話かけてもらうこと自体は悪い気はしなかった。
 でも、明るい顔はできなかった。兄のことを誇りに思っているから秘密にはしてないが、僕の知り合いの誰かがこの男にその話をするシーンを思い浮かべると、どこか自分でも説明のつかない気持ち悪さを感じた。
 
 兄と僕はよく似ている。顔も背丈も親戚にしょっちゅう間違えられるくらいにそっくりだけど、その暗い性格、未来に希望をもてない心が一番に似てしまっていた。
 だから、僕はお笑い芸人になった兄の気持ちが痛いほどに分かった。僕ら兄弟は仲が悪いわけではないけど、連絡をすることなんて滅多にない。現状を変えるために勇気を出すことができた兄を眩しく感じてしまう。両親は兄がお笑い芸人をやっていることに今でも反対しているが、そんなのどうでもよかった。
 どこへ行ってもエリートともてはやされ、いろんな人に羨ましがられ、「この先は安泰だな。」とどんな大人たちに言われようようともそんなのひとつも信じられなくて、僕の意見なんてまるで無視な誰かによって自分の人生が勝手に決められているような不快さをどうしても拭うことが出来なかった。
 
 大学一年の時にほんの少しだけ付き合っていたまきちゃんとはいつまでたっても気まずいままだ。もう会うことなんてないのだけれど、学科が同じだから嫌でもまきちゃんに遭遇してしまうことは多々ある。恋愛に不慣れで不器用だった僕のせいで別れることになったのだけど、愛しさだけは今でも変わらない気がして、それが未練だと言われるのなら納得せざる負えなかった。
 まきちゃんのことを思い出すと楽しかったこともあったのだろうけど、辛かった思い出しか出てこなくて、そんな辛い思い出達に未だにすがっている自分は一生幸せになんてなれないのかもしれないと本気で思えた。
 でも本当にまきちゃんを目の前にするとどんな顔をしてたらいいのか分からなくなって、恋に落ちるときに「時が止まる」と表現する人もいるらしいのだけれど、僕の時間はこのときに止まってしまうから、彼女に気付いていないふりをしてその場をやり過ごすしかなかった。
 この前もそうで、食堂の人込みを進んでいると、偶然にもまきちゃんにぶつかってしまったことがあって、普段なら誰かにぶつかったときどんな人にでも一応謝るのだけれど、相手がまきちゃんだったから何も言えなくなって、そのときまきちゃんと目が合った。まきちゃんは全然怒った顔をしていないどころかむしろ何かに納得したかのように悲しい目をしていたのが今でも忘れられない。

 あと、もう一つ。まきちゃんのことで嫌な噂をきいた。まきちゃんは所属している英会話サークルでいじめられているとか。
 僕にはその噂に深入りすることなんてとてもできなかった。

 逃げだしたくなる。
 目の前にあるどうしようもない現実から、望みのない未来から。
 すべてをなしにしてしまいたい。
 その思いが身体に充満し、無意識に意味もなく部屋を飛び出してしまう。気付くと自分の腕は小刻みに震えている。頭ははっきりしてるのに、その足は遠くへ行こうとしてる。首から下だけが自分ではないように思ったが、この頭だけが自分ではないのかもしれない。

 逃げ出したい。
 だけど逃げた先に何もないことを僕は知っている。やがて僕の足は止まる。現実を受け止めなくてはと思う。
 君らには無限の可能性がある、と大人たちは言うけれど、怠惰で勇気のない自分に何ら期待出来ないことだけが確かだった。

 約束の時間より30分遅れると待ち合わせ相手から連絡があったので、あてもなく繁華街を歩く。
 僕は約束の時間に遅れた人を怒ることが出来ない。今までにも、連絡のないまま一時間も待たされたのに謝罪の言葉もない友達を怒ることが出来なかったことがある。相手が時間に遅れたとき、遅れたこともないのに自分が遅れたときのことを考えて何も言葉が出なくなってしまう。
 ていうかそもそも面と向かって人に怒るのが僕は出来ない。そもそも仲の良い友達だろうと、気になった付き合いたい女の子も、親も、年上の人たちもみんな心の底からは信用していないから、自分の感情を表に出すなんて到底無理で、特に最近そんな人付き合いしかしてこなかったせいで、そんな自分を見透かされているからいろんな人に見下されてしまっている。
「ゆっくり来たらええよ。」
 相手に気を使われるのは嫌だから、優しい言葉を送る。
 「こんなこと言える俺、優しいな。」なんて自分で思ったりするのだけど、ほんとに優しい人はそんなこと素で言えるのだから、僕の優しさも偽物でしかないのだと思う。
 
「岩本くん変わってないね。」
 彼女が発した最初のその一言ですべてが台無しになった。「久々に会う女の子には、成長して大人になった自分を見せつけるといいよ。」と言う源田さんのアドバイスが泡となって消えていく。
 言葉そのものの中身よりも、僕を見るその目が、その纏う雰囲気全体が、彼女には何の高揚も緊張もないことをはっきりさせていた。
 しばらく連絡もとっていなかった高校の同級生の女の子から、「勉強を教えて欲しい。」と連絡がきて、「僕はこの人に好意を寄せられている。」という何の根拠もない期待に胸を膨らませ意気揚々と待ち合わせ場所に来たはいいが、30分もお預けを食らい、それでも相手から好意の矢印を向けられたいと媚びを売ることしか出来ない自分がとても恥ずかしかった。
 よく考えれば、この人は昔から僕に恋愛感情なんてこれっぽっちも抱いていなかったし、そもそもこの人と仲良くしていた記憶もない。そんな関係なのに、性別が違うってだけの人に少し頼られただけで恋愛の2文字が浮かぶ自分が本当に嫌になった。

 彼女に言われるがまま全国チェーンのどこにでもあるようなカフェに入る。彼女はコーヒー代を奢る素振りは見せない。僕は彼女の言うがまま先に会計を済ませる。注文したコーヒーを待っているうちに、自分が人にものを教えることを苦手としていることが頭によぎり、気が重くなった。
 
 結果的に言うと、勉強を教えるのは上手くいったと思う。そもそも教えたのは高校の数学の基礎的な内容だったため理系の僕にはあまりに簡単だった。あと、大学に入ってからはやったことのない内容だったから懐かしいのもあって楽しかった。女子大に通う彼女はどうやら文系の学科に所属しているから、公務員試験のために突然数学をやらないといけなくなって困っていたらしい。近くにいて数学ができる、それでいて無害そうな人ってことで僕に白羽の矢が立ったのはなんとなく察しがついた。好感度の高さではなく、危険度の低さで僕は呼び出されたのだ。
 勉強の合間には楽しく雑談もした。趣味とか価値観が合う相手ではないから、恋愛の話が一番盛り上がった。共通のテーマがない相手には恋愛系の話が一番盛り上がりやすいことはなんとなく分かってはいたけど、それが女の子相手にも通用するとは知らなかった。女の子とそんな話で盛り上がったことなんてなかったから、とても新鮮だった。
 それでも、「岩本くんってモテるん?」と異性から人気があるかどうか聞かれたときは困った。真剣な面持ちで聞いてくれるなら少しは嬉しいものなのだけど、にやにやしている相手の顔を見ると、「モテないよ。」の言葉が期待されているのを感じて腹が立った。
 
「いやー、全然モテんよー。」
 これがこの時の正解なのは知っている。彼女はその言葉を求めていることを知っている。それでも、高校時代にはすらっと言えていた答えがなかなか言えなかった。
 きっとこの人からすれば、僕が女の子にモテないと都合がいいのだ。異性に人気があることだけが人の価値を測る物差しだと僕は思いたくない。
「女の子にモテない奴は笑える、見下していい、女の子慣れしてない奴は少しくらい都合よく扱っても大丈夫、、、」
 
 目の前の相手がそんなことを思っているのだと思うと、息が苦しくなる。前よりも少しだけ大人になった僕は相手の心を読むのがずいぶんと上手くなっていた。
 結局は相手の質問に何か答えることもないまま曖昧な言葉を並べて時が経つのを待つだけだった。

 勉強を終えた後、彼女を飲みに誘ってみたがやはり断られた。

 
 この頃よく風邪をひく。

 最近は夜も眠れなくて、布団の上でじっと目を閉じたままの夜がほとんどになっていた。でも本当に眠りたいのだけど本当にだめで、そのまま朝を迎えてしまう。 窓の外が明るいのをを見てこんなにがっかりするのは初めての感覚だった。

 この前勉強を教えた彼女からはLINEが帰ってこなくなった。勉強を教えてさえもらえば僕はもう用済みだったのだろう。僕にはそれぐらいの価値しかないのだなと冷静に思うと嫌になる。
 僕には最近怒りの感情が無くなってしまったから、その人にどう怒りを表明したらいいかも、どう毒づいたらいいかも分からないまま言葉では表せないモヤモヤとした感情だけが自分の中に残り続けた。この人の何が気に食わないかを上手く言葉で表すことが出来ないから、その人との出来事が直接体に残り続けて、まるで病原菌かのように僕に不快感を与え続けた。
 とにかくもう恥ずかしいし思い出したくないから、僕が勉強を教えに行った事実はなかったことに欲しい。
 
 女の子の話と言えば、まきちゃんの話を大学の同期から聞いた。
 まきちゃんはサークルの先輩に告白されて付き合ったはいいが、終始その先輩に冷たい態度を取っていたらしく、先輩は怒ってそのまま破局。その先輩はサークルでかなりの権力をもっていたためにサークルでのまきちゃんの立場が悪くなってしまった。
 そんなところらしい。
 自分的にはそんなサークルさっさと辞めてしまえばいいのにと思うが、まきちゃんにそのつもりはないらしい。
 本当ならまきちゃんにアドバイスしてあげたい。でも、一時まきちゃんに大きな不幸を与えた自分にその資格なんてない。
 お互い相変わらず不幸体質なことになぜか安心している自分がいた。

 体調を崩す日も多くなって、それでも咳こみながら大学に通う。最近では大学の同期達もなんだか急に優しくなった。いつもは厳しい先生も心配してくれているのかとても優しい。
 それは嬉しいのだけどやっぱり体調は直したい。病院に行って薬をもらうのだけど、それでもよくならないし、相変わらず夜は眠れない。あと薬を飲むとぐったりするのはたぶん気のせいではないと思う。
 みんなが優しいのはいいけど、風邪は早く治って欲しい。みんなが僕に優しいなんてなんか変だ。
 
 ——やっぱり今まで通りがいい。
 そう思うのだけれど、なぜか風邪は悪化するばかりだった。

この頃よく風邪をひく

この頃よく風邪をひく

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted