健治と悠司

 俺と悠司は親友だ。
「健治と悠司」と言えば校内でも最強タッグとして名が知られている。
 だから街を騒がせている連続殺人犯を、俺達の手で軽く捕まえてやろうなんて思ってしまった。
 当然のことながら素人が街に繰り出しても収穫はない。
 だからその日も俺達は、収穫の無いいつもの日々を笑い合いながら家の近所で別れた。
 それが俺の見た悠司の最後の姿だった。

 日が暮れた住宅街。
 子どもはもう家に帰ったのか、辺りには人の姿が見当たらない。
 悠司は今日の晩御飯のメニューについて考えながら帰り道を歩いていた。
 その道の少し先の角、そこに全身が黒に近い服を着た猫背の男が立っていた。
 悠司はちらっと男を見たが、さほど気にも止めず男の前を通り過ぎようとした。
 だがその直後、悠司の側頭部に鈍器で殴られたような痛みが走る。
 思わずその場に倒れるが、猫背の男が悠司との距離を詰めてきた。
 幸い出血は見られない。しかし視界が白黒に点滅している悠司に叫ぶ余裕はなかった。
 虚ろな悠司の目に男の持つ鈍器が映る。
 そして先ほどよりさらに強烈な痛みと共に悠司の意識は途切れた。

 その夜、悠司の心臓は活動を止めた。



 それから一年後。
 俺は一周忌を迎えた親友の墓の前に立っていた。

 俺は墓に花を供えながら話しかける。
「いつまでもお前とタッグを組んでいられたらなって思っていたんだけどな。」
 そこで俺は一息つき、雲一つ無い冬の空を見上げる。

 あの日、俺の心臓は一度止まったらしい。
 巡回強化中だった警官の前で倒れなかったら俺は誰にも気付かれずに脳梗塞で死んでいた。
 皮肉なことに俺は連続殺人犯に命を救われたのだ。



 昼が夕方に変わるほど思い出を懐かしんでいたらしい。
 体も冷えてきたし、病み上がりの心臓は大事にしてやりたい。
「さて、と。俺はそろそろ行くわ。」

 俺は最後に健治の墓にもう一度手を合わせる。
「それじゃあ、またな相棒。」
 そして、俺は警官に射殺された命の恩人に別れを告げた。

健治と悠司

健治と悠司

俺と悠司は親友だ。 「健治と悠司」と言えば校内でも最強タッグとして名が知られている。 だから街を騒がせている連続殺人犯を、俺達の手で軽く捕まえてやろうなんて思ってしまった。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-03-27

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