変身ヒロインを動力炉に改造することは可能か
手術室に入るなり、はげ頭の中年男性は嬉しそうに部屋の様子を見た。
「やーミーティアちゃん、アレ捕まえたんだって? ほら、ウチの工場つぶし回ってた特撮ヒーローっぽい変身する訳分からないヤツ」
ミーティアと呼ばれた三十台の女性は渋い顔で答える。
「部長、入るときは衛生服着てくださいって言ったじゃないですか」
部長と呼ばれた男は悪びれる様子を見せない。
「いいじゃん別にぃ、殺そうぜって言ってたヤツなんだから感染症になってもざまあみろとしか思わないし」
「他に使い道があるかもしれないでしょう、調べる前にダメにされると困るんです」
「ミーティアちゃんは堅いなぁ……で、どれよ。その特撮ヒーローもどき」
「あれですよ、真ん中の台の女の子」
部屋の中央に据えられた手術台には幼い女の子が縛り付けられている。
「ロリ通り越してペド入ってるじゃーん? あんなのが工場潰せるとか世界って怖いな、誰の差し金よ」
「すみません、わたしの落ち度です」
頭を下げるミーティアを見て、部長は顔を渋くする。
「あぁん? どういうことか説明してくれるよね?」
「あれ、わたしの娘なんです」
「ミーティアちゃん未婚のはずだよね?」
「旦那になる予定だった男は本社を裏切って死にました」
部長の顔は険しさを増した。口調こそふざけているが、声色には強い怒りが含まれている。
「ああ、思い出した……じゃあ何、ミーティアちゃんは彼氏殺された復讐がしたくてウチに残ってたワケ?」
「違います。裏切り者の肩を持つくらいなら部長に抱かれるほうがマシです」
眉も動かさずに冗談を言うミーティアを見て、部長の顔は少しほころぶ。
「遠回しにオレに抱かれたくないって言われるのきついわぁ。じゃ、どうしてこうなったのよ」
「プレイボーイって鉱石、覚えてます?」
「忘れた、教えて」
「盗掘隊が見つけてきたオーパーツと目される、金属の線が大量に入った宝石です。集積回路、記憶回路、動力としての機能を示すのですが、X線も磁気も通さないなど、まるで解析を拒むような……」
「もっと簡単に」
ミーティアは難しい顔のまましばらく黙り、声を大きくし身振り手振りを交えて話し始めた。
「この石絶対すごいよ、めっちゃパワーあるよ、でも仕組みも使い方も分からない。もーホントに分からなくて、分かったのは人が触ると動くってことだけだった……っていう、石です」
「あー思い出した、女が触った方がよく動くからオレがプレイボーイって呼んだんだった。コードネームに採用しろなんて言わなかったんだけどなぁ。で、それと娘ちゃんの変身、どう繋がるの?」
「調べるには丁度いいと思って、娘の体に埋め込んでおいたんです」
「どうやって?」
ミーティアは気合いを入れ直し、再び身振りと手振りを加えて説明した。
「薬で眠らせてここに運んだんです。どうも人間の鼓動に反応するようだったので、娘の胸を切って心臓に直接押し当てたんですよ。そしたら心臓の動きを真似し始めたんで、いっそ交換してやろうと思って心臓を切り取って、切った血管やら神経やらをプレイボーイにくっつけて心臓のあった場所に戻しました」
部長に伝わるよう言葉を選び、ミーティアは息を切らしている。ミーティアはふざけている訳でも、部長をからかっている訳でもない。彼が日系人で言語に疎いことは承知していたし、上司として有能であるとも思っていた。ミーティアが生き残るには、部下の不祥事に寛大な彼を味方に付ける他にない。
「ははぁん、それでヒーローごっこになったワケね。子供からすれば、ウチの会社は父親の敵だ。ミーティアちゃんの事情なんて知らずに、身についたミラクルパワーで悪党退治……な~んて話も納得出来る。でも、ミーティアちゃんの不手際には違いないよね、どう責任取ってくれるのかな?」
◆◆◆
「や、やあ……ママぁ!」
少女は実験室へ移され、目を覚ました。母親が近くに居る、だが自分は縛り付けられ、見たことの無い機械に囲まれている。少女は泣き始めた。
「ママぁ、やだよぉ」
体中に注射針と電極が取り付けられ、周囲にはカメラとX線撮影機。目の前の母親は助けてくれる気配が無く、少女を不安でいっぱいにした。子供の泣き声がカンに障るらしく、部長は不機嫌そうだ。
「やかましいなぁ、娘ちゃんいくつよ」
「今年で八歳です」
「それは驚きだ、プレイボーイはペドフィリアだったのか」
「子供の成長は早いです。あれくらいなら自分の性別くらい自覚していますよ」
「女扱いにはなるってか。以前の実験じゃ年齢での差はなかったからな」
プレイボーイの資料をめくりながら、部長は疑問を口にする。
「で、どうやったらスーパーヒーローに変身するんだ?」
「これです」
ミーティアが取り出したのは、電池式の音と光が出るオモチャ。漫画に出てくるヒロインが使用するものを模した市販品だった。
「あたらしいジョークか?」
「わたしはジョークが嫌いです。部長も確認してください。まず、新品のアルカリ電池を入れてスイッチを入れます」
安っぽい電子音とともにオモチャは光り始め、しばらくすると止まった。何度スイッチを入れ直しても、同じ事しか起こらない。大人二人のやりとりを見て少し安心したのか、娘は泣き止み鼻をすすっている。
「何の意味があるか分からないけど、確かに見た……心配そうな顔するなって、ミーティアちゃんの腕は信用してるから」
「ありがとうございます、後は眺めていれば分かるかと。マルティナ、お母さんが分かる?」
「うん」
幼い少女は小さく返事をする。ミーティアは微笑み、マルティナの胸にオモチャを押しつけた。
「マルティナ、変身のことを考えなさい!」
ミーティアは変身と口にしてからオモチャのスイッチを入れた。マルティナの体は光り始め、体中の血管が透けて見えた。
「え、なんで? ふああっ!」
マルティナは変身が始まったことに気づいたが、いつもと違う違和感に怯え始めていた。他人の意思で変身するのは初めてだったからだ。
光はそのままマルティナに繋がれた拘束ベルトや電極、注射針を焼き切り、多くの計器は大きすぎる電力に耐えきれず壊れる。光が収まるとゴツゴツした鎧に身を包んだマルティナが横たわっていた。少女は動こうと必至にもがいたが、手術台が鎧と融合してしまっていて、動けなかった。
「ママ、助けてぇ」
娘の声に耳を貸さず、ミーティアは部長へ説明を続けた。
「警備員がかき集めた情報の成果です。原理は分かっていませんが、こういうことが起こせて、近くに居るわたしたちには害が無いことは分かっています」
「こりゃあすごいね。なんか体がベッドとくっついてるけど、あれも分かってたことなの?」
「はい。変身するとき、体に密着していたものは焼き切ってしまうんですが……焼き切れないものは、ああいう風に融合することが分かっています。ああしないと、部長の言うスーパーパワーでこっちがやられますよ」
「なるほど、ベッドが拘束具になってくれるのね。でもさ、それって不便じゃない? 変身する度に足と床がくっついちゃうでしょ、しかもあんな子供が。どうやってくっつかず変身してたの」
「鉱物由来で、かつ金属ではないもの。コンクリートやレンガ、石材とはくっつかないことが分かっています。変身は石床の上を使ったんだと思います」
「なるほどねぇ、ミーティアちゃん好きだよね、こういうの調べるの」
ベッドと外骨格が融合し動けないマルティナから目を離し、部長は出口に向き直る。
「一年は時間を稼ぐよ。いい結果が出たら、オレが話をつけてあげるから。がんばってね」
「もう少し、よろしいですか」
出て行こうとする部長をミーティアが引き留める。部長が振り向くと、先ほど変身に使ったオモチャとレントゲン写真が差し出された。部長はレントゲン写真を手に取る。
「これは?」
「写真を見てください、おかしなものが映ってると思いませんか?」
レントゲン写真には胸元の石……プレイボーイと、プレイボーイを囲み支えるように作られた電子機器のようなものが映っていた。
「こんな目立つ機械も一緒に埋めたのか、娘ちゃんに少しだけ同情するよ」
「いいえ、わたしが埋めたのはプレイボーイだけです。周囲の台座は、プレイボーイが変身の際に作ったと思われます。それと、これを」
ミーティアはオモチャを指しだし、何度かスイッチを入れた。電池が無くなっており、光も音声も出ない。ミーティアが電池を交換すると、再び動き始めた。
「あの子にせがまれて電池を替えていたのはわたしです。様子から見るに、あの子は変身が一回きりと思っていたようですが……先ほどの変身は二回目です、一回目からあまり時間を置いていません。あの発光現象は電池さえ替えれば繰り返し起こせる、電圧を上げることだって。しかも、変身した体は石と違ってレントゲンもエコーも通るんですよ! ふ、ふふふ。部長、一年どころか半年も必要ないかもしれません」
ミーティアは楽しくて仕方がなかった。娘を実験台にすることに罪悪感はなく、得られる成果で胸が躍っていた。
「やる気があるのはいいけど、安全には配慮してよね。ミーティアちゃんが死んだらこの研究凍結しちゃうよ」
◆◆◆
「ま、ママ……もう、やめてぇ」
プレイボーイの研究は外部に知られると都合が悪く、金属と有機物の両方に干渉できるという特性が危険という都合も相まって、砂漠に建てられた小さな研究所で行われた。
ミーティアの予想は的中し、変身は何度も繰り返すことが出来た。マルティナ本人や取り込まれた人工物は時間経過である程度は元に戻るが、変身を重ねると一部が元に戻らないことも分かった。
「マルティナ、可愛い子。あなたのおかげでいろんな事が分かったわ。変身!」
「やあっ! あ、おっ」
ガラスのかぎ爪に吊され、発電機と直接繋いだオモチャで繰り返し変身を強要されるマルティナ。彼女の体は人間の体裁こそ保っているが、中はほとんど機械部品になっていた。
「数え初めて三百二十五回目の変身。ごめんね、お母さんが無理させ過ぎちゃったから、ずーっと安静にしても、もう二割くらいしか元に戻らなくなっちゃったね」
体を発光させ、痙攣するマルティナ。彼女は新しい、未知の恐怖と向き合わされている。変身が収まると外骨格は太くなり、体の太さは二倍近くまで膨れていた。計測のために取り付けていた機械のいくつかがマルティナ自身と完全に融合し、外すことができなくなっている。そのおかげで、ミーティアは変身時に出るエネルギーの量を正確に把握できるようになっていた。
「ママ、もうやめて。あたし、き……機械になっていくのが、分かるの。これ以上変身したら、人間じゃなくなっちゃうよぉ」
幼い少女が涙ながらに訴えても、ミーティアは無視し続けた。が、今日は違った。
「そうね、マルティナが人間じゃなくなっちゃうのはわたしも嫌よ。だから、今日は元に戻そうかと思うの」
「ほ、ほんと?」
力なく、しかし嬉しそうに聞く子供にミーティアは笑顔で答えた。
「じゃ、マルティナにいっぱい付いちゃった機械、取っちゃおうね」
「にゅうううううう!」
マルティナの装甲は硬く、多くのカッターが切断に不向きと分かった。人間の体であった部分の外部も内部も傷つけずに済むよう、ウォータージェット切断で切り取られることになった。ミーティアの研究所に長時間ウォータージェット切断機を使える設備がなかったため、別の研究所の設備を借りることになった。
全身を包む堅い鎧にも神経が通っているらしく、切り取る度にマルティナは苦しそうな声を上げる。
繰り返し行った変身の影響で、少女は一切の食事も休息も必要の無い体になっていた。本人への苦痛は無視され切断は続く。はじめは痛がるだけであったが、切断が進むにつれ少女の表情にも変化が見えた。
「は、あっ、んっ……んにゅうううう!」
我慢できるが、時折限界を超えたようにくぐもった声を上げる。少女本来の体が見えてくる頃には「人間に戻れる」という期待もあるのか、嬉しそうな声も聞かれた。
休憩を何度か挟み、十時間をかけて少女の外装は全て取り除かれた。小さな手足は全て金属に置き換わり、プレイボーイに見られる光る線があちこちに走っているのも確認できた。
「ママ……終わった、の?」
「うふふ、まだよ」
安堵していた少女の腕がウォータージェットで切り落とされた。
「あっ、あ」
右腕が落ちる。放心した少女を無視して、ミーティアは断面の中をのぞき見、ペンライトで照らす。触れると、少女の体が跳ね上がった。
「思った通り行けそうね、次」
「やめっ」
制止もむなしく、左腕が落とされる。今度は右腕より長くいじり回され、そのたびに幼い体を震わせた。少女は悲しみに泣くが、涙は流れなかった。頭部のほとんどが機械化し、目の保湿の必要がなくなっていた。
切断は右足、左足と続き、少女の体はとてもコンパクトになった。久しぶりに手足を自由に動かせると思っていた少女は両手両足を見て、再び悲しみに暮れた。
「そんな顔しないの、これからもっと楽しくなるんだから。さ、お家に帰りましょうね」
優しい声で娘を慰めるが、ミーティアはプレイボーイの活用法しか頭に無く、少女を労ろうなどという気は全く無かった。
◆◆◆
「呼ぶのは実験結果が出てからって話じゃなかったっけ? ピンチでパワーアップしたヒーローに殺されるなんて嫌だよオレは」
部長の顔は渋かった。見せたいものがあると言われて来てみれば、これから稼働実験を行うという。ミーティアには自信があったが、部長は危険をゼロに出来ないなら信用できないと、近くの街で待つことになった。研究所に戻るミーティアは不満であったが、これから試す実験への興味のほうが強かった。
「ママ、ママぁ」
ミーティアの姿を見るなり、マルティナは悲しそうに呟いた。母親に裏切られ現実を頭では理解しても、気持ちではどこか期待してしまっていた。幼い少女の体は人間の皮膚だった部分まで取り外され、機械が剥き出しになっている。切断した両手両足、加えて背中と頭部には太いケーブルが取り付けられている。
「夢のようよね。プレイボーイの量産さえ出来れば、無制限に電力が得られるようになるんだから」
太いケーブルは少女から電力を取り出すためのものだ。数多くの実験から、プレイボーイは変身時に火力発電所一日分という桁違いの電力を生み出すことが分かった。変身に大半が消費されるため取り出せるのは三分の一であったり、プレイボーイの耐久性が未知数であるなどの問題点はあったが、同様の鉱石は複数発見されており、ミーティアの会社では三つ保有していた。そのうちの一つが、マルティナの心臓と交換されている。
そこから使い方さえ分かれば、残り二つはさらに有効に使うことが出来る。発掘を進めればもっと見つかるかも知れない。そうなればミーティアの名声はうなぎ登りだ。彼女は既に、電力の使い道を考えている。
「ママ」
「なあに?」
涙こそ流れないが、涙ぐんだままマルティナが悲しそうに話す。
「あたし、機械に、なっちゃったの。分かるの、もう戻れないの。ねえママ……あたし、捨てられないよね?」
「もちろんよ、捨てたりしないわ。可愛い娘だもの」
「よかった……ママ、あたしはもう機械だけど、ママのいい子でいてあげるからね」
ミーティアはプレイボーイが使用出来なくなれば娘を手放すつもりでいた。マルティナに起こった変化は未知の部分が大きく、同社の研究員から調査したいと言われている。ミーティアは自分の娘を、高く売れる実験機材としか考えていなかった。
「じゃあ、教えたとおりにやってごらん」
「うん。へんし……んあぁ!」
少女のかけ声と共に、プレイボーイが唸り始めた。変身の鍵になるオモチャはプレイボーイの横に埋め込まれ、少女が生み出す電力で動くよう改良されている。少女の体はプレイボーイの台座として完成されているらしく、ほとんど変化しない。おかげで、オモチャを壊すこと無く固定できた。
変化は後から繋いだケーブルへ及んだ。金属を焼き切るほどの電流を逃がせるよう、両手足、頭部に背中に繋がれたケーブルが変質し、少女の体と融合する。
少女の皮膚だった部分は顔以外全て取り外されている。皮膚を失っていれば新しい外装が作られないことが分かったため、ミーティアは繰り返し娘を変身させる。
「まだまだ足りないよ、変身を続けなさい」
「へんし……んんん!」
「ほら、もっと!」
発光が収まらない。電力は外の蓄電所に貯められることになっているが、入りきらない分は地面へ逃がすようになっている。研究所の周囲は砂と土であるため、プレイボーイの浸食を受けない。
変身する度マルティナに繋がれた機械は形を変え、性能を上げていった。だがマルティナ本人はこれ以上変化できないらしく、電力を放出するだけの機械になり苦しんでいた。
「ママ……もう、無理……」
「何言ってるの、がんばりなさい」
「へ……あああっ!」
変化が収まっていく。変身を思い描けなくなるほど少女の思考は朦朧としていた。
「まあいいわ、これも想定済み」
変化が落ち着いたことを確認し、ミーティアは娘の後頭部に機械を差し込んだ。変化に飢えた少女の体はミーティアが取り付けた得体の知れない機械を貪欲に吸収する。
機械が頭に入るほど、マルティナから表情が消えていった。
「タ、スク……実行……変身」
取り付けたのは、絶えず変身を考えるためだけに組まれた荒っぽいプログラムと、それを容量上限まで記録した記憶媒体の塊だった。少女の思考はプログラムに支配され、自分が大好きなヒーローと同じ変身をすることだけを考えるように変わった。
「変身……変身……」
変化は再び加速した。そこまではミーティアの予想通りだったが、予想外のことが一つあった。
プレイボーイは演算回路としての能力も持っており、脳を完全に機械化されたマルティナが人間だった頃の思考を維持するために使われていた。これには自浄作用があり、マルティナの思考を強引に修正してもプレイボーイが正常な状態にしてしまう。
これに対し、マルティナは洗脳と浄化を交互に行えばいいと考えていた。先ほど施した洗脳が消えたときのために、予備の洗脳プログラムが大量に用意され、研究所に保管されていた。
プレイボーイは鉱物と結晶以外のものを浸食する能力を持つ。影響範囲は繋がれたケーブルから蓄電施設、さらには「蓄電施設から電力を取り出している研究所」にまで及んでいた。目に見えぬだけで、研究所そのものがプレイボーイの影響下にあった。
保管されていた洗脳用ユニットや端末の情報は、幼いマルティナの体を軽油してプレイボーイに送られた。その際、マルティナを洗脳するために組まれたプログラムは彼女に影響を与えた。
「変身、実行。変身、実行。変身、実行」
床や壁が発光し始め、ミーティアはようやく事態の異常さに気づいた。が、遅かった。逃げようにも、ドアは全てプレイボーイの浸食を受け使用出来ない。閉じ込められたミーティアを含む研究員達は、繰り返される変身という名の浸食を受け、その一部となった。
◆◆◆
「あららぁ、ミーティアちゃんでも失敗するんだねぇ。冷静さが大事だって言ってあげれば……いや、相手はスーパーヒーローも同然だったしなぁ、言ったところで冷静になんかなれなかったよなぁ」
発光が完全に治まったことを確認し、部長は一旦本社に帰った。再び訪れたのは一月後、プレイボーイが浸食を起こすのは変身時のみと分かってからだ。調査を部下に任せ、自身は奥へと向かった。
研究員達は壁や床と融合してしまっており、見分けが付かない。だだ一つ、ガラスのかぎ爪で固定された「かつて人間の少女だった機械」だけは見分けが付いた。少女には意識があった。
「おじさん、みたことある」
「いいや、初めましてだよお嬢さん。オレは山田おじさん、名前を教えてもらってもいいかな?」
「名前……分からないの。最初はマルティナだったんだけど、今はたくさんの人で出来てるから、どれで呼べばいいか、分からないの」
「ふぅん、じゃあマルティナのままでいいとおじさんは思うけどな。急で悪いけど、おじさん大事な相談があるんだ。マルティナちゃんを研究したいって大人がいっぱいいるんだけど、それはマルティナちゃんにとってとっても苦しいと思うんだ。お嬢ちゃんが手伝ってくれるなら、ここをただの発電所にしてもいい。ただ、どっちも嫌なら……お嬢ちゃんの胸に付いてるその石を、壊さなきゃいけないんだ」
「おじさんの言うこと、難しい……でも、なんでだろう。意味が、わかるの」
山田部長は興味深いと思ったが、同時に危険とも思った。どうするのが正解なのか、判断できないかもしれない。
「じゃあ、特別に聞いてあげよう。今までみたいに、いろんな大人に体をいじられるのがいいか。自分の意思でこれからも変身を続けるのがいいか。石を壊して、ここで終わりにするのがいいか」
少女は輝く宝石の台座になり、ケーブルで研究所と融合してしまった自分の体を見た。男の人に裸を見られるのが恥ずかしい気がして、心臓が高鳴った気がした。プレイボーイはその感情に反応し、電力を発生させた。
「わたしは……」
変身ヒロインを動力炉に改造することは可能か