執事教室~楽しい日本語~

ヤリクリー

注意事項
①米印はト書きです。読まないでください。
②例文中のカッコ内は読んでも読まなくてもけっこうです。
③このお話は男性3人と女性1人の、合計4人の声劇です。
④作者は執事喫茶が何かを理解していないのでご注意ください。
⑤あとがきにもまとめてありますが、授業シーンの内容は、日本人のための日本語文法入門 Itsuo Harasawa 2012 株式会社講談社 『第4章 日本人の心を表す「ボイス」』75頁~88頁21行目 の中を引用・一部改変して利用させていただきました。

執事教室~楽しい日本語~

〔登場人物〕
男性:尚登、拓海、修史
女性:真琴


(※ここは執事喫茶スリーピングボイス。今回は、尚登が教師となってお嬢様方と勉強をしようというものだ。)

修史:今日は、私が受付を担当しますね。

なおとしゃん、スーツ姿もお似合いです♡本物の先生みたいです♡

尚登:ありがとう。こう見えて、日本語教室で先生が出来る資格を持っているんだ。公(おおやけ)の資格だから、日本全国どこへでも教えられる。

真琴:尚登さん、勉強熱心な方ですよね。休憩時間に義之さんと一緒に本を読んだりしているんですよ。

拓海:今度、貸してもらおうかな?

尚登:拓海。後で2冊貸すぞ。

拓海:マジすか?!あざす!!

修史:皆さん、まもなく開館ですよ。用意をお願いしますね。

尚登・拓海・真琴:“はい”


(※お嬢様、ご来館)

修史:おかえりなさいませ、お嬢様。ようこそ♪スリーピングボイスへ♪
今回は、お勉強企画を予定しています。やや難しいテーマになるかもしれませんが、執事たちが専門用語などをかみ砕いて説明してくださいますのでご安心を。

まもなく、案内担当の執事が参りますのでその方について行ってくださいね。それと、勉強企画の日は先に料金を支払うようになっておりますので、お支払いをお願いします。

真琴:お嬢様、お待たせしました。私、真琴がお部屋までご案内いたします。

修史:では、真琴さんの指示に従ってくださいね。


真琴:お嬢様が入室いたします。

拓海:は~い!!

真琴:では、お部屋へどうぞ。


拓海:おかえりなさいませ、お嬢様♪

尚登:おかえりなさいませ、お嬢様。

私、尚登が貴女のために授業を展開してまいります。わからないことばかりだと思いますが、「ふ~ん」程度で流して頂いても結構です。ですが、大事なところは集中してお教えしようと思います。

真琴:お嬢様方、どうぞこちらの席に。○○お嬢様には、私が付き添います。

拓海:△△お嬢様には、ボクがつくよ♪よろしくね♪


尚登:いきなり始めるのもアレですから、何かドリンクを取りながら進めていきましょう。お好きな飲み物の注文をお願いします。

拓海:カルピスソーダとサイダーを1つずつだね。すぐに取ってくるから、待っててね。

尚登:では、始めます。日本語の勉強でもいたしましょうか。昔懐かしく面倒くさい文法のお話です。テーマは、“ヴォイス”です。

真琴:“声”ですか?

尚登:まぁ、確かにそうなんですが、今回は“態(たい)”とでも訳しておきましょう。ここでの意味としては、文中の何をメインにするかで動詞や助詞に変化が起こるということです。

ここに何かあれば…。

拓海:尚登先生!飲み物の用意が出来ました!

尚登:よし!真琴くんが扉を開けるからそこで待っていてくれ。

ちょうど良い例が来ましたね。このシーンをベースに話を進めていきましょう。


(※真琴が扉を開け、拓海が入室。)

拓海:お嬢様!お飲み物の用意が出来ました。○○お嬢様はサイダー、△△お嬢様にはカルピスソーダをどうぞ。

尚登:今、“拓海がジュースを持ってきた。”ありのままを示していますね。ここは、“持ってきた”というよりは“届けた”にでもしましょう。そうすれば、説明がやりやすいかと。

ということで、“拓海がジュースを届けた。”問題はないですね?

拓海:それで?

尚登:この文章は、“能動態”とよばれるタイプで、動作をした人が主語になります。

では、今の文章を少しいじってみましょう。
“ジュースは拓海によって届けられた。”少し違和感を覚えるかもしれませんが、内容は先ほどの文章と同じです。わかりやすく、この文章をB、先程の文章をAとしますか。

では、○○お嬢様に質問です。この2つの文章、内容は同じですか?異なりますか?

真琴:どうですか?“同じに決まっている”。確かに、そう見えますね。

尚登:正解。両者とも内容は同じです。でも、同じことを指すのに2つもあるって不思議ですよね。

Bの文章は、“受動態”と呼ばれるタイプで、動作を受けた人や物である“対象”を主語にした文章のことで、“受け身”とも呼ばれますね。受け身にも、“直接”のものと“間接”の2つがあり、Bの文章は直接の受け身ですね。能動態から受け身になった文章は“直接受け身”なのですね。

拓海:はい!“間接受け身”とはいったい何のことですか?

尚登:間接受け身は、直接受け身とは異なり動作主や主役がいないんです。
1つ例を挙げましょう。

“濁流に飲み込まれた。”このような文章はどうでしょう?“私の車が濁流に飲み込まれた。”と直接受け身にもできますが、前者の方がスッキリしていると思いませんか?
ポイントは、“起こった現象や出来事に対する考えを文章にすること”なのです。頭の中で、イメージが湧きますよね?前者の文章、どうでしょうか?“茶色く濁った大量の水が川から溢れ車や建物を押し流していくシーン。”ニュースで一度は目にしたことがあるでしょう?それがこれなのです。海外にはこのような表現がないので、外国人に説明しようとするとなかなか難しいんですよ。

真琴:尚登さん。1つ質問です。

尚登:はい、どうぞ。

真琴:文章を一目見て、“直接受け身”か“間接受け身”かを識別できる方法はありますか?

尚登:おぉ!良い質問ですね!!
いちよ、あるにはあります。ですが、あくまで“傾向”と捉えて下さいね。

答えとしては、“対象となる物〈者〉の後に続く助詞が「が」か「を」”です。

真琴:何か例を。

尚登:“母がswitchをとった。”という能動の文があるとしましょう。

これを“①母にswitchがとられた。”と“②母にswitchをとられた。”の2つに分けます。ここで、“真琴さん”あなたに質問です。どちらが間接受け身だと思いますか?

真琴:…さ、さぁ。

尚登:では、両者より、“母に”の箇所を消してみましょう。“①(母に)switchがとられた。”そして、“②(母に)switchをとられた。”どちらが頭の中でシーンを想像しやすいですか?

真琴:②ですね。

尚登:その通り。正解は、②です。

最後に、「使役」というものを扱って今回の授業は終わりです。
この「使役」というのも、“態”の1つなのです。受け身と何が違うかと言えば、“出来事への関与を示す使役”と“出来事があり、それから何かしらの影響を受ける受け身”とでもまとめればよいでしょう。

拓海:“関与”??

尚登:“真琴がケーキを届ける。”という文章を用意しました。これを使役文にさせるとこのようになります。

“a(拓海が)真琴にケーキを届けさせた。”

拓海:え?ボク、真琴さんにそんな指示出しましたっけ?

尚登:拓海さん、そう思いますよね?
この文章内では、貴方は真琴さんにその行動を起こすように関わっているんです。“指示を出す”というのをイメージしてはどうですか?

こんなやりとりがイメージできそうですね。
拓海「真琴さん、甘いものが食べたいからケーキとってきて。」

真琴「わかりました。」

真琴:なるほど。

尚登:あくまで、これは例文です。拓海さんに悪口を言っているわけではないのでご安心を。

拓海:ちょっとひどい…。

尚登:…ま、それはさておき。

このように、“その出来事を自分の意思で起こす、強制的な意味合いがある”のが「積極的関与」です。「積極的」があれば、「消極的」もあります。

“尚登が面白い映画を観る。”これを、“b(修史が)尚登に面白い映画を観させた。”
上の文章を比較してどうでしょうか?確かに、“強制”の意味合いが感じられるかもしれません。ですが、今回は「尚登が面白い映画を観たいといったから、そうさせた」というニュアンスですね。

繰り返しますが、“出来事への働きかけ”をしているのが使役です。aの文章なら、拓海が積極的に関わっていると。bの文章では「尚登が映画を観る」ことを修史が許可したということになるのです。自分が関係することに使役が使われるのです。

拓海:ほぉほぉ

尚登:これ以上お話しすると面倒くさくなるので、この辺にいたしましょう。

修史:“お嬢様。まもなくお時間でございます。”

尚登:修史!今開けに行くから待っててくれ。


(※修史入室)

修史:ちょうど良さそうなので、お嬢様方の出発を見守りましょう。

尚登:授業、楽しんでくれたかな?よかったら、また来てくれよ。

真琴:次は、ゲームでも盛り上がりたいですね。本日はありがとうございました。

拓海:日本語って、案外奥深いんだね。次は、お嬢様と一緒になって学びたいな♪

修史:では、最後の一言を。

“いってらっしゃいませ、お嬢様。”

尚登・拓海・真琴:“いってらっしゃいませ、お嬢様”

執事教室~楽しい日本語~

参考・引用文献一覧
・日本人のための日本語文法入門 Itsuo Harasawa 2012 株式会社講談社 『第4章 日本人の心を表す「ボイス」』75頁~88頁21行目
・デジタル大辞泉 電子辞書版 小学館

執事教室~楽しい日本語~

執事喫茶シリーズ、最新作!今回は執事が教師となってちょっとした学習教室を開催。実際にためになることも混じっていたり?いつもとは全然異なる新感覚の執事たちの活躍にご注目!!

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-05

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