【超短編小説】ほれ

六井 象

 ほれ……
 こんなもん……
 ほれ……
 ただの水だから……
 怖くないよ……

 おばあちゃんの優しい声を、夏の川辺で聞いている。絶えぬ蝉の声、焼けるような陽射し。

 飛び込んでみな……
 ほれ……

 声とともに、大きな泡がぼこぼこと、川面に浮かび上がる。

 ほれ……
 冷たくて気持ちいいよ……

 この声が、川底から聞こえてくるんじゃなかったら、飛び込めるのにな。苦笑いしてうつむいた拍子に、鼻の頭から垂れた汗が一粒、足元の乾いた石を濡らした。

【超短編小説】ほれ

【超短編小説】ほれ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-05

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