アーユルヴェーダ*撥

これちかうじょう

  1. シンデレラ大作戦
  2. シンデレラはお城に行きたい
  3. シンデレラは見つけられたい
  4. 王子様は信じたい
  5. アーユルヴェーダ

ゴールデンウィーク後にイベントあり!
あの手塚先輩が部室にやってきた!
その日は雨で、トリオはチア部との合同練習で不在。
ただ一人部室を掃除していた冬至と将臣が、
ついに相まみえる!(笑)

シンデレラ大作戦

「僕たちはチア部と合同練習の前に作戦会議だから、中村はお留守番であるよ」
「え」
「大丈夫です、ものの15分で終わります。また迎えに来ます」
「は、はあ」
何だか疎外感。
俺だってその会議みたいなのに興味はあるってのに。
それにチア部との合同練習か…どうなるんだろ、つか、チア部ってまず何?

「こんにちは」
その声に俺は顔を上げる。あれ、いつの間に部室のドアが開いたんだ?
「あ、手塚、先輩でしたっけ」
見上げれば、ドアのところに見慣れた先輩が、手塚先輩が立っていた。
「そうそう、覚えててくれて嬉しいや中村君」
あっれ、他の3人は?と聞かれて、
「なんでも、チア部との作戦会議だそうです」
「あー、あれかあれか、なるほど、そうだよなあ」
「何か御用ですか」
俺は掃除中です。
久々に掃除なので、念入りにチェックしつつ(チェック表あり)掃除です。
それを邪魔される筋合いはありません。
いくら、前団長であってもです。
「シンデレラ作戦、…知ってる?」
「はい?」
これまた顔を上げれば、手塚先輩が部室の中をうろうろ歩きつつそんなことを言っている。
「そもそも、この応援団が何故も少人数なのか知ってるかい」
「え、いや、知りませんけど?」
「それでこそ中村君だね!」
「はい?」
なんかこう、調子が狂うっていうか、この人。
結ちゃん並みにでかいし、存在感あるし、りりしいし。
無駄に男やってないぜって感じだし。
って何だそれ。
「前副団長の霧島もね、俺と同じさ。藤原の魅力に負けて、退部さ、退部」
「へえ」
「あそこまで美人なんて世の中いるもんだねえ、不思議だねえ」
「はあ」
「その藤原の意中の人ってのが君なんだってさ、分かる?」
「はあ?」
それは分かるよ、あの長谷川君島ペアにも言われてるし、本人にも好きだと言われたし。
でも俺のどこがいいのか分からないんだよな。
「学校イチの美人から好かれるってどんな感じ?」
「え、いや、俺はそういうの関係ないんで」
「シンデレラなのに?」
「だからその、シンデレラって何ですか」
「君のことさ、中村君」
だから、いちいち引っかかるなこの人。
「それはもう藤原は美しかったんだよ、びっくりするよ、甲子園なんか行ったら最期だよ最期!
 ほかの学校の連中からどう守れってんだよ、あんなの!
 まるではちみつにたかるみつばちみたいにぶんぶんぶんぶん」
「…はあ」
掃除の邪魔だって言ったら怒るかなこの人。
「そんな時にさ、じゃあ攻撃するターゲットを1人にすればって話が出たのさ。でもそれが難しかった。
 俺が退部する6月までには見つからなかったからね、でもすぐにその年の11月、
 見つかりましたって報告が来たよ。まさかそんなって思ったね。藤原が、あの堅物が好きな人って、
 いやまじあり得ないって思ってたからさみんな」
「…はあ」
11月?
何かあったっけ?
「でもどこがいいんだろか、こんな子の」
不意に存在感が増して、俺は腰を抜かした。
この人、多分、隙が無い。
目の前にしゃがまれると、結構びびるもんだ。
「んー、ちょこっと笑ってみ?」
「わ、笑う?」
両手で頬を掴まれて、俺は笑うどころではない。
いや、それ以上に、隙が無い人と面と向かっていると、緊張感が半端ない。
さすがは3年生、2つも年上。
しかも前団長だ、現団長は結ちゃんだけど、存在感がすごい。
「あれ、どしたの?びっくりした?怖い?」
「はひ?」
「でもよくよく見れば可愛いね中村君」
「は?」
何だこれ、と思っているうちに、顔が近づいてきて俺は冷や汗をかいた。
何、何!
俺は両手に雑巾を持ったままであるが、見事にキスされてしまった。
おいおい、待てよ待て、何されてんの俺、こんな昨日今日逢ったばかりの人に!

「ただいまであーる」
その声にさらに冷や汗をかいた。
長谷川先輩がドアのところで固まっているのが背中で分かる。秒で分かる。
「な、ちょ、手塚先輩何してんすか!」
「えー?ちょっと味見」
「離れろ馬鹿!いくら先輩でもやっていいことと悪いことがあります!」
中村あ!と首根っこ掴まれて、俺は立ち上がらせられた。
「顔洗ってこい!口周辺100回洗ってゆすいでこい!」
「は、は、い」
長谷川先輩が怒号というか、もう叫ぶくらいに命令してきた。
それが普段の先輩と違ったので、俺は怖くなってしまった。
それ以上に、嫌悪感というものが芽生えた。
俺、何されたの?
わずか時間にすれば10秒もされていないけれど、
俺は、隙があったんだろうか?
水道場に向かうところで結ちゃんと君島先輩とすれ違った。
やばい、目が、合わせられない。
「あれ、中村どこ行くんですかー?」
「…」
すんません、と頭を下げる感じで視線を逸らした。
やだやだやだやだやだやだやだやだ。
俺、どうしたらいいの。

シンデレラはお城に行きたい

ごしごしというか、もはやがっさがっさというべきか。
俺はもういいやと頭から水を浴びている。
暑くはない。
むしろ、今日は曇っていて寒いくらいだ。
それでも、唇だけがぼわっと熱いというか、触ってみてもおかしくはないのだが、
でもどうしても頭がくらくらする。
どうしよう、部室に戻れない。

***************************

「何かあったんですか長谷川」
「…いや、何でもない、何もなかった」
「?」
「誰かいました?ついさっきまで」
「…いや、誰もいなかったよ」
長谷川の様子がおかしい。
と思うのだが、俺にはどう聞けばいいのか分からないので、
尋問は君島に任せている。
(調子がいいだろうか)
「掃除してたんですね中村は。でもさっきすれ違って…どこ行ったんでしょうか結」
「…」
「…おい、真秀」
「!」
やばい、と俺は椅子に腰かけた。
君島の本性がここで出るなんて、まあ、久しぶりなんだけれど。
「おい真秀!何隠してんだ!」
「…何も…」
「俺には言えねえってんかよ!お前の恥ずかしい写真いくらでもばらまいてやんぞこら!」
「…し、知らねえって!いいから部活!部活しよう!な!」
「結、ちょっと真秀借ります」
「えー!!!!!」
冬至が見たら、この豹変した君島をどう思うだろうか…。
俺はもう何度も見てるからびっくりはしないけど、
初めての人は多分、驚くのではないだろうか。

長谷川が引き摺られて出て行った時、さっきのすれ違った時の冬至を思い出す。
何だか、避けられていたような気がするけれど、
気のせいだろうか?

***************************************

どうしよう、どうしよう。
後ろめたいという気持ちだ、これは。
俺が望んでしたわけじゃないのに、勝手にされただけなのに、
何でこうもドキドキしてんの?
いや、ドキドキじゃないな、ズキズキ?
胸が痛い。
どうしよう、どうしよう。
あんなに隙がない人、初めてだったから、どうすることもできなかったよ、俺。
そもそも、シンデレラとかの話をしてるから、気を取られてたっていうか。
ああ、これは言い訳にすぎないな。
どうしよう、どうしよう。
俺、帰りたい。

**********************************

「真秀、何隠してんだよ」
「…君島、誰にも言わない?いや言うよな、お前なら結にしゃべっちゃうよな…」
「結に関係あることか」
「僕は誰にも言わないって決めたんだ、いくらお前でも」
「へええ?それは面白いや、頭に聞いても答えられないなら体に聞くまでだな」
「ま、待って、待て待て待て待て!」
「黙らねえと舌噛むぞ」

*******************************

「…中村」
外では俺を名前で呼ばない約束である。
「…もう部活、終わった」
上半身がびしょ濡れである俺は顔を上げられない。
結ちゃんはいつものように、
「帰ろう」
とだけ言う。
俺も、連れて行ってくれればよかったのに。
その、作戦会議とやらに。
いつだって2年生トリオは俺を1人ぼっちにする。
俺だって、ちゃんと、応援団なのに。
「帰ろう」
「…うん」
「その前に」
「は?」
こっち、と手を引かれる。
何事か、と思えば、部室棟だ。しかも女子しか入れないところ。
「え、や、やばいっしょ!」
「…真希先輩」
「え?」
確かその名前は、チア部の?
結ちゃんの目線の先に、1人の女子生徒がいた。
すごく、すごく、すごく胸がでかい。
ってのは俺の勘違いだろうか。
「よう藤原、そいつがさっきの議題の子かい」
「はい」
「ふうん、へええ、ちっちゃいなあお前」
な、何か、怖いこの人。
俺は結ちゃんの背後に隠れてびくびくしている。
「ふうん、将臣の匂いがすんねえ。ちょい待ち」
「!」
なになに、何で分かるの!と俺はひやひやする。結ちゃんが俺の方を見る。ささっと視線を逸らす俺。

「あーもしもし、あたしだよ!あんた、うちの1年に手を出したね?」
や、め、てー!
と俺は頭を抱える。
「そこんとこわきまえてんだなおい?分かったら謝罪しな、電話代わるから」
え、俺に?と電話を渡されそうになって、その電話を結ちゃんががばっと取り上げる。
『え、あー、その、さっきはごめんなあ?ちょっと味見、じゃねえ、どんなかなあってさ!
 藤原が好きな子だろ、ほら、興味あるっていうかさ!
 よくよく見れば可愛いじゃん、中村君さあ。だからちょこっと悪意が…
 だから、ごめんごめん、もうしないからさ!だから藤原には黙っててな?
 君にキスしたなんて知られたら俺、殺されちゃうよ!』
(冬至には聞こえていない台詞です)
結ちゃんがそれだけ聞いて真希先輩に電話を返す。
「もうあんたはどこまで馬鹿なんだ!いい加減にしなよ!」
真希先輩と手塚先輩ってどんな仲なんだろうか。
チア部の人と前応援団団長。
電話を切って、真希先輩が俺に頭を下げた。
と同時に結ちゃんにも頭を下げた。
「あたしの監督不行き届きだよ、悪かった!」
「あのー」
「なんだい」
「真希先輩って手塚先輩と」
「ああ、付き合ってんだよ、あたしら」
げげげげげげげげ!と俺はのけぞる。
「まあ、あたしはチア部の部長として率いてるわけだけど、応援団とタッグ組んで合同練習とかしてるし、
 将臣とは昔からの付き合いだったんだ。
 そんなあいつもやっと就職組で仕事が決まったってのに、馬鹿だよほんと。
 ごめんな、中村」
「チア部、部長…」
ついつい目線が胸に行ってしまう。
やばいやばい、これはやばい。
「紹介が遅れたな、あたしはチア部部長の真希壮人だ。副部長は相馬颯ってのがやってる。今度の合同練習で応援団の1年、
 つまり中村が紹介されるところだったんだけど、まあ、どっきりみたいなやつさ。
 ネタバレだけどさ、また今度相手してよ。
 将臣のことは忘れな、あいつは単なる藤原狂いだけだからさ」
何か、喋るのと同時に胸が揺れる…この人、サイズいくつ、じゃねえ、俺は何考えてるんだ!
「中村、下の名前は?」
「冬至っていいます」
「いい名前だね、男らしい。応援団の連中、みんな名前が女子っぽいだろ?ゆいにまほにゆき、
 そこにとうじと来れば少しはかっこがつくってもんじゃないのかね、なあ藤原」
「はい」
「じゃあまたな、中村。藤原も、ちょっと目が怖いからな?いろいろ考えろ、いっぱい悩め。じゃあな」
最後まで胸が揺れてた…。
俺、自分が男だっての忘れてたよ…。
「帰るぞ」
「…ん?」
あれれ、何か、結ちゃん怖い?

シンデレラは見つけられたい

シンデレラ的に言えば、最後はガラスの靴がぴったりはまって、
本人認証おっけーということだ。
でも、結ちゃんには違ったらしい。
帰るぞ、と言われて、あれ?と思った。
いつもだったら、帰ろう、である。
何だか怒ってるんだろうか、いやいや、俺は俺でいろいろショックで。
「結ちゃん」
「…」
ご飯の時も、何も言わない。
「おかわり」
「…」
無言でどうぞという感じだ。
「…あの、どうかした?」
おばあちゃんが亡くなってすぐだから混乱してるのかな、それとも、別の何かが?
ご飯が終わって後片付けをして、俺はテレビで明日の天気を見ている。
結ちゃんは居間の横の仏間で、仏壇に手を合わせている。
それが終われば離れに行って、という感じなんだけれど。
「…どしたん」
テレビがざわつく。
結ちゃんがのしのし歩いてきて俺の真横に腰を下ろした。
あれ、テレビに興味ないのに。
「どし」
たん、と言い終えないうちに結ちゃんの頭が俺の肩に乗ってくる。
「…結ちゃん」
シンデレラは最終的に、王子様と結婚した。
見つけてもらえたから、倖せになれたのだ。
でも俺は、見つけてもらいたくはない。
どちらかと言うと、俺はシンデレラではなく、王子様になりたいのであって、
普通なら、結ちゃんがシンデレラでもいい、とさえ思ってしまう。
でも、俺は居候だ。
それだけは譲れない。
「重いよ」
明日は、雨か。

王子様は信じたい

聞いてしまった。
真希先輩のやりそうなことだ。
いつだって他人を焚きつけて、
本気にさせる。
俺がどんなに冬至を好きでも、できないことがある。
多分、入学式の日と同じようなことをすれば、
今の冬至はまた泣いてしまうだろうし、
それ以前に家出してしまうだろう。
だから、俺は前に進めない。
それなのに、手塚先輩が、冬至にキスをした。
それが何だかムカムカして、何も言葉が出てこない。

そもそも、冬至は俺をどう思っているんだろうか?
俺は好きだけど、冬至は違うかも知れない。
現に居候であることを深く考えてるし、
父と母の養子相談にも絶対に乗らないと言った。
養子にならなくても、俺はあの中村家から冬至を救いだしたいという、
そういう願いがある。希望がある。
やっと母親から引き離せたと思ったのに、
今度は違う角度で冬至が引き摺られる。
それが俺にとってどれだけ痛いか、
まだ、まだ15歳になったばかりなんだぞ。
ご飯だってやっと普通に食べてくれるようになって、
添い寝だってしてくれる。
朝になれば寝ぐせを笑われて、
学校に行けば少し寂しくなって、
放課後また逢えて嬉しくなって、
同じ家に帰れる喜びを、
きっと抱いているのは俺だけなんだろう。
ああ、今なら分かる。
あの歌を聞いたときから、
冬至が俺の全てで、俺は冬至の一部なんだと。

でも、同じことはできない。
泣かせたくはないし、困らせたくもない。
俺が何もしないことが、冬至の居候の決定条件だ。
だから何も言えない。
問うことも、できない。
冬至、選ぶのはいつだって、俺じゃない。
お前なんだ。

アーユルヴェーダ

インド方面の、医療のひとつ、アーユルヴェーダ。
それがどんななのかは俺は知らない。
ただ、癒せるのであれば、どんな方法でもいい。
俺は、冬至を守りたい。
癒したい。
ただそれだけのために、俺は今此処に居る。
他には何もない。
いい大学に行ったって、いずれは酒造を継ぐだろうし、
その時にはもう冬至はいないかもしれない。
ふたりの季節が始まれば、いずれは終わりが来る。
それがいつなのかは知れない。
それでも、俺は信じたいし、守りたいし、癒したいし、
選ばせてやりたい。
全ての選択肢を提示して、選ばせる。
此処を出て行くことも、此処に居ることも。
だから、俺は何もできない。
提示することだけだ。
もう、2度と、過ちは犯さないと決めたから。

だから、選んでくれ、冬至。


*******************************

「…結ちゃん、いいか?」
もう寝ちゃったかなと思って隣の部屋に行けば、間接照明1つで結ちゃんはぐったりしていた。
寝ているわけじゃなさそうだけど、口をきいてもらえない。
何でだろう、今日のことは言ってないのに。
「結ちゃん」
「…」
「お前が何を悩んでるのか知らねえけどな、俺は俺で相当に眠いんだよ。
 今日も泣くから隣で寝かせろ、んでもって夢に入らせろ」
「…」
返事の代わりにぽむぽむとベッドのシーツを叩かれた。
「あーもう女々しいなお前!」
「…」
「俺、此処に居ても独り言じゃん…」
どこにいても、独り言。
ずっと、そんなの忘れてたのに。
「…やっぱいい、1人で寝る」
「…」
久々にホルン、磨こうかな。
俺は隣の部屋に戻って、ホルンのケースを引っ張り出す。
ああ、何だか空しいな。
柳瀬橋、今日、休みだったし。
「…はあ」
ぼろぼろっと涙が出た。
死ぬなよ、親友。
それから、それから。
喋ってよ、結ちゃん。

アーユルヴェーダ*撥

ちょっと不穏になってしまったぞ!
すれ違いを経て仲良し度が増すという意味合いで、
手塚先輩を出したのに…。
ごめん、結ちゃん!
冬至がまた泣いてしまった!
次回にも手塚先輩は出てきます。
そこで決着つけたらいいんじゃないでしょうか?

アーユルヴェーダ*撥

あの手塚先輩が部室にやってきた! その日は雨で、トリオはチア部との合同練習で不在。 ただ一人部室を掃除していた冬至と将臣が、 ついに相まみえる!(笑)

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-11-05

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