3・11、偶然の重なる朝

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3・11、偶然の重なる朝

 平成二十三年三月十一日、午後二時四十六分。
 忘れもしない、忘れられない、東日本大震災。
 僕は東京で書店員として働いていた。

 当日は震災に加え、印象深い偶然が重なったがために、
余計に忘れられない一日として今でも強く深く、記憶に残っている。

 この日は僕の大好きなアニメ、そのキャラクターのフィギュアが届いた日。
 数週間前、某大型家電量販店に出向き、薄型テレビとブルーレイレコーダーを同時購入していた。
 七千円近くのポイントが一気に溜まった。
 他に必要な、欲しい家電もない。またポイントはいわばサービス、おまけとして付いてくるもの。
ならば趣味の範疇にある嗜好品に使ってしまおう、そう考えた。

 欲しくても家賃や光熱費他、生活費のため普段なら到底手を出せない逸品を手にしよう!
 再び店頭まで赴き、ショーケース内に並ぶ様々な商品サンプルをあらゆる角度から鑑賞、
吟味に吟味を重ねた上で決めた。

 生憎店頭在庫を切らしていたため取り寄せとなり、しばらく待つこととなった。
 三度目の来店はさすがに面倒。
 その場で伝票記入し宅配を依頼。日にちは指定したがお届け時間帯はお任せにした。

 時間は3・11に戻る。
 仕事へ向かうためアパートを出ようとしたところ、チャイムが鳴った。
 僕が部屋を経つタイミングを数分早めていたならば、
ドライバーが配達時間を午後から夜に変えていたならば。
 インフラの混乱に加えセンターと店舗間のやり取りも途絶えていたはず。
早くても数週間、いやひと月は最低かかったか、それまで僕の手元に品は届かなかっただろう。

 また出社ギリギリの時間に届いたため、包装紙は開けずそのまま、机の上に置いて部屋を出た。
 おかげで揺れに耐えきって、落ちて壊れることもなく、完全体のまま今も棚に飾ることができている。

 加えて。
 すでに日付が変わっていたため、当日にカウントしても構わないだろう。
 この日は毎日服用を義務付けられていたお薬を飲み忘れた日。
それは向精神薬、メジャートランキライザー。
 僕は十代半ばから今に至る二十五年以上、経度ではあるが鬱病を患っている。

 数種類服用していた中、飲み忘れてしまったのは最も効果の大きい薬。
 その分反動として副作用もとても強く、お医者様からは就寝直前の服用を義務付けられていた。
 僕が一回につき飲んでいた錠剤の数は少ない方で、起床後にまで影響を及ぼすことはなかったが、
症状が深刻な場合はおむつをつける必要が生じるほど、日常生活に支障をきたす代物だった。

 この日が初めてではなく、睡魔に負けてしまったり翌朝出社後待ち受ける業務へ意識が向いた夜など、
うっかり飲み忘れることが度々あった。

 効き始めれば立つのもやっと、歩けばふらふら。
 ルーティンをしっかりこなしていれば必要のなかった、
本来業務へと回すはずだった体力と精神力を犠牲にする羽目となる。
 第一に朦朧とする意識をしっかり保つことに神経を傾けなければならず、
このつらい状況を作り出してしまった数時間前の自分を恨むことも少なくなかった。
 通勤途中も辛いのなんの、電車に乗れば歩かずに済むため車内はさながらオアシス。
と同時に張ってきた気も力も抜けるため、同時にぐったりとなる。

 フィギュアを受け取れた幸運に感謝しつつ、寝る前に薬を飲み忘れた凡ミスを反省しながら、
玄関の扉を開け外に出た。この日何が起こるのか、知らず分からず。
 そして数時間後、僕はその瞬間を迎えたのだった。

3・11、偶然の重なる朝

3・11、偶然の重なる朝

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-02

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