シヴァとディーヴァⅢ

これちかうじょう

  1. 傷口が痛いんだ
  2. THE 洗濯
  3. それぞれの成績
  4. バラ色の毎日
  5. ディーヴァとヴィーナス
  6. ハーフとヴィーナス

イチャイチャさせるための第三弾。
そして、自己満足する作者とげんなりする読者様。

傷口が痛いんだ

痛々しい。
だからといって優しくはなれない。
俺は鬼畜だ。
包帯でぐるぐる巻きになってるのを見ると、
やはり、俺のせいでと泣けては来る。
でも、甘やかしたりはしない。
俺は鬼畜だ。
結ちゃんの左手を取る。
結ちゃんが不思議がる。
ふふんと俺は笑う。
少しずつ顔を近づける。
そんでもってちゅー。
結ちゃんがのけぞって鼻血をふく。

ということを何度も繰り返す俺は鬼畜だ。

THE 洗濯

「…おい、待て待て待て待て!」
どぼどぼ洗剤を入れるものだから、俺は慌ててそれを阻止する。
柔軟剤も同じようにやれば、洗濯が成り立たないってもんだ。
「?」
「なにはてなまーく出してんだよ、洗濯知らねえの?」
「…」
「だんまりかよ!」
いいか、こうするんだ。
俺はキャップの4分の3まで洗剤を注いだ。
柔軟剤はキャップ1杯。

「これで初めてスタートボタン押せるってもんだよ?今まであれでやってきたのかよ」
「うん」
「どーりでいい匂いなわけだ」
柔軟剤も度を過ぎれば単なる芳香剤になる。
まあ、服の面積が俺より多いわけだから、何とかなってたんだろうけど。
それにしても、不器用すぎる…。
洗濯くらいしっかりやれってもんだ。
「じゃあ復習な、俺の服洗ってみろ」
「!」
「なにびっくりまーく出してんだよ、今さら照れてんじゃねえようぜえな」
「…」
「だんまりかよ!」

それぞれの成績

中間テストが近い。
そういう情報は俺には要らないんだけど、
どうやら俺の成績が気になるらしく、
結ちゃんが本当に珍しいことを言い出した。

「教えようか」

いや待て。
長谷川君島ペアに言わせると、
城善寺先輩たちに言わせると、
結ちゃんがものを人に教えるというのは不可能なんだそうだ。
不器用だから、が理由。

「教えられんの、俺に」
「…」
「どうなの、できんの?やれんの?」

ぐいぐい迫る俺に結ちゃんがのけぞる。
ほれ無理だろーがよ。

「そもそも結ちゃんは学年で何位なんだ?」
「…4位」
「げ!4位!?」
「城善寺、天野、藤堂、俺」
「ほえー…」
あのつんつん頭が学年1位か…柳瀬橋もすげえの相手にしてんじゃんな。
とか言って、俺はいまだに気づいていないのである。
もう5月になろうとしているこの季節、
親友の柳瀬橋が実はもう誰誰さんとお付き合いを始めていることを。
それを知ろうにも、
柳瀬橋自身が恋愛に無頓着であるからして、
俺に一切何も相談を持ち掛けずにいることが原因で、
俺には何も伝わってこないのであった。

「まあそれは差し置いてだ、どうなの、できんの、やれんの」
立っていると身長差が激しく、威圧されがちな俺だが、
今の状態は俺が結ちゃんに覆いかぶさるかのような状態だ。
怖いものは何もないぜ。
「で、」
「できんのかおい」
「できない…」
「ほーれやっぱりな!最初っからできないって言えってんだよ!」
でも、ともじもじするのがうぜえ。
とそこで俺ははっとなる。
つい強気に出てまさかの、俺が結ちゃんを押し倒しているような状況。
何、何これ、何なのこれ。
「…」
「何目を閉じてんだボケ!」
誰が何をするってんだ!
散々左手には包帯の上から面白がってチューチューしてた俺だが、
直にとなると、それは、まだないのである。

俺の恋愛成績ってもんは、まだまだ未発展なのであった。
あ、ついでに言うと、
俺の学業成績は下から数えた方が早いです。

バラ色の毎日

いつでも来ていい、とは言ったけれど、
毎晩毎晩来てくれるとさすがに我慢も難しくなる。
でも、もう泣かせるのは嫌だから、
我慢、我慢。

「結ちゃんが見る夢って、何でいつも過去の自分の夢なの?」
「…?」
また入られた。
夢の中に、ずかずかと入ってくるのが、冬至だった。
そういう力が世の中にはあるんだなと不思議に思った。
「最初に見た時は、2歳の時だった。おばあちゃんもおじいちゃんもいて、
 でも親はいなかったな」
「…」
俺は生まれてすぐに親から離れ、祖父母と一緒に過ごしていた。
さすがにまるまる1日親に逢わないわけではないが、
密度としては、親はもはや皆無というか、
祖父母の方が身近だった。
そんな祖父も俺が3歳の時に他界し、
12歳の時に祖母は脳梗塞で倒れ、いまだに施設に入ったままだ。

「ふわー、…今日は小学生だったな…」
朝起きればそういう会話が待っている。
入らないで欲しいとは思うけれど、
入ってくれると妙に嬉しい。
と、思う。

「俺にはそういう力があんのかもな、死人が見れて、夢の中に入れる、
 そういう力。
 結ちゃんが何でもかんでも簡単に壊しちゃうのと同じくらい、
 俺はそういうのに特化してるんだろうけどさ」
「…」
「何でかなあ、どっちの力も普通はないもんだよな、
 普通の人にはなくて、俺だけにあるもの…
 そういうのってなんだか特別扱いで俺、嫌いだ」
「…」
「なあ結ちゃん、お前はどうにも勘違いしているようだから言うけれど、
 こうも毎晩毎晩ぎゅうぎゅうされると俺、
 いつかは殺されるんじゃないかってひやひやしてんよ。
 だって蛇口は壊すわ、ドアは破壊するわ、
 どうしたって俺の方がやわじゃん、
 金物でもなければ木製でもないんだぜ俺」

加減くらいは知っている。
冬至を抱きしめる力加減は、分かっている。
まるでガラス細工を抱擁するかのように、そっとしているつもりだ。
だから。
毎晩来て欲しい。
隣で寝て欲しい。
夢に入ってでもいいから、
俺のことをもう少し理解して欲しい。
それくらい、冬至はド器用なのだ。
俺が不器用な分、冬至がド器用だから、
だから何事もなく、うまくいっているんだと思えるから。

だから、今度は、冬至の話を聞かせてくれないか。
言い分を。
我儘を。
そして、リクエストでも、何でも。

「結ちゃん…」
「?」
「いや、何でもないでーす」
「…」
時々、時々だけど俺には分かるんだ。
冬至が欲しいものくらいは、必然に。
でも、それを決して口に出さないから、
言ってくれるまで俺は待っている。
冬至が欲しくて、俺にできること。
それが、ちゃんと、此処にはあるから。

ディーヴァとヴィーナス

「お前…眩しいくらいに綺麗だなおい」
「え?」
「結ちゃんには負けるけどさ、こんなに美人だったっけお前」
「中村?何言ってんの」

俺には親友がいます。
柳瀬橋袂という名前の、中学から同じ腐れ縁の、
吹奏楽部のフルート担当の美人です。
ミスコンを境に、ドスンドスン落ちていた眼鏡をやめ、
コンタクトレンズになりました。

「あのさ、中村」
「何」
「お前、その、藤原先輩と仲いいよな」
「仲いいか?何でそう見えるんだ?あいつは俺の奴隷だぞ」
「と言いつつも、すげえ仲良しじゃん?最近は学校の行き帰りも一緒だろ」
「そりゃ、居候してるから」
「うんうん、それだよそれ。みんな何て言ってるか、知ってる?」
「俺たちのこと?」
それは初耳だった。
「夫婦だって、新婚ほやほやの」
「ぶは」
思わず牛乳を吐いてしまった。
あー、もったいねえ。
「しかもその弁当、藤原先輩のお手製だろ」
「あー、何か作ってくれるんだよな、いっぱい食えーって」
「最近顔色よくなったし、低血圧も治ったんじゃないの」
「まあ、そうだなあ」
もやしだった俺も、最近は結ちゃんのお手製のご飯と弁当で、
すっかり元気になっている。
栄養が足りてるというか。

「でも結ちゃんと俺が仲いいとは限らんぞ」
「でも、一応聞きたいなーと思ってたんだよ」
「何を」
「どこまでいったのかって」
ぶは、と俺はまた牛乳を吐いてしまった。もったいねえ。

「な、何それ」
「あのね、俺、もう結構前なんだけど、」
「うん?」
「好きって、…言われて。それで、その、」
「誰に言われたのさ」
吹奏楽部で一緒の近藤誠かな?
とも思ったのだが。
「えーと、その、橘に」
「ぶは」
また牛乳を吐きそうになってしまった。
俺は耐えた。
「橘に言われたの?好きって?」
「うん、でも俺そういうの分からなくって、なあなあにしちゃったんだよな。
 そしたら、橘がさ、提案してきたんだよ」
「提案」
「1日1回はしようって」
「挨拶を?」
「違うよ、キスだって」
「ほえー」
まさか柳瀬橋の口からそんな単語が出てくるとはな。
俺はにやにやしてしまった。
「で?」
「え?」
「してんのか、毎日」
「まあ、しようって言われたから、応じてはいる」
「何それ、お前、橘のことどう思ってんの」
「友達」
「あのさ…友達がキスなんてすると思うか?俺とお前、できんの」
「できない。」
「断言してくれんじゃん…まあいいさ、橘は本気なんじゃねえの?
 友達を超えちゃいたいって思ってんじゃねえの」
「友達の上は親友だろ」
「そのさらに上だよ、恋人?」
「え、何、橘が、そんなこと望んでんの?俺に?」

どこまでも、抜けているんである。

「なんか、経験ありそうだね中村も」
「は?」
「藤原先輩が中村にぞっこんだって聞いたんだよ、部長に。
 それってさっき中村が言ったことと同じだろ?
 中村にそういうこと求めてるってことなんだろ」
「知らねえよ」
「キスはしたの?」
「してねえ!」
げーと俺は舌を出して見せる。
「何で俺が結ちゃんとすんの、やだよやだよ、気持ち悪い」
「でも周りの人からすればそれ以上はしてるって」
「してねえ!」

嘘をつきました。

「とにかくお前は橘のこと整理してやんな。好きなのか嫌いなのか。
 嫌いじゃないから応じてるんだろ?
 それって立派に好きってことじゃねえの」
「そうなのかなー」
柳瀬橋が頬杖をついてため息をついた。
「よくわかんないよ、俺、中村のことも好きだし」
「何それ」
「親友じゃん、友達以上じゃん」
「まあ、そうだな、俺もお前を嫌いではない」
「何それ!嫌いじゃないって、好きって言えよ!」
「あのー、話がずれてきてます」
「俺は中村のこと好きだもん!中村も俺のこと好きじゃないと嫌!」
め、女々しい…。
つうか、すげえ台詞だよ。

「あーあー、好きだよ柳瀬橋ー」
「心がこもってない!」
「うん、じゃあ、こうか?好きだよ、柳瀬橋」
「何だそれーあははは」
笑うところか?これ。

「じゃあ橘は」
「そう言われれば、好きだな」
「じゃあいいじゃんそれで。好きだからキスする、それでいいんだよ」
「心で思ってるだけじゃ駄目なの?何でしなくちゃいけないの」
「触りたいんだよ、好きだから、触りたいって思うんだよ」
「ふーん、そう」

分かってるのか、どうかはさておき。
俺はその話を結ちゃんと自分に重ね合わせてみた。
結ちゃんも、したいのかな、俺と。
そりゃそうだよな、初日からいきなり襲われてるもんな俺。
それに至らなくても、
キスくらいはしたいなあとか俺に思うよな。

俺は?

ここんとこご飯のうまさに浸透圧、って感じで、
それ以上のことも、それ以下のことも、
何も考えてこなかった。
好きだから傍に置いて、
と昭和な台詞を吐いたあいつのことだ。
そりゃあ、キス、したいんだろうな、…俺と。

かま、かけてみるか?
いや、そんなことしたらあいつの思うつぼだ。
こんな気持ち、こんなつまらない、くだらない感情、
ご飯を前にしたら、
俺、なくなっちゃうのになあ。

ハーフとヴィーナス

「え」
「だから、中村に相談したんだよ。だってわかんないんだもん、
 橘が何考えてるかとか」
「…普通、する?」
「するよするする、だって中村は俺の親友だもん」
「むー」
袂は分かってない。
僕とのことを、いとも簡単に冬至に相談してしまうことが、
どんなにばかばかしいのかとか、
それが僕にとってどんなに寂しいことかと、
そう思ってくれないことが。

「袂」
「何?」
「好きだよ」
「あー、それね、それ。俺も橘のこと好きかもよ」
「むー」

もうちょっと日本語がうまく話せたら。
せめて、ドイツ語で会話できたら、こんなに苦しむことないのに。
僕は、袂が好きだ。
一番最初に逢った時から、冬至じゃなく、袂ばかり見ていた自分にすぐに気が付いた。

でも、袂は分かってくれなかった。
好きだよと何とか言ってみても、
あーそれねーとかで交わされてしまう。
分かってないんだと思うから、だからキスをした。
1日1回は必ずしようと約束もした。
でも、それでもなお、この態度だ。
相談された冬至は何を助言してくれたんだろうか。

「え?何で」
「だからもういい、って」
「何がいいの、1日1回はちゃんと守ってるじゃん俺」
「1日2回にする」
「え」
「じゃないと分からないでしょ」
「いやまじ、2回は無理、だって1回があんな長時間なんだから」
「むー」
たかが5分くらいで、と僕は思うのだが、
袂にとっては長時間なんだそうだ。
難しいな、と思う。
多分袂は、恋愛に無頓着で、僕のことも単なるキスフレかなんかで考えてるに違いない。
だから僕は勉強する。
学校の勉強と平行線で、言葉が学べる。
日本語が学べる。
放送部の副部長である高瀬にも教わっているけれど、
日本語は難しい。
たまに父さんが電話で日本語をしゃべっているのを聞くと、
すごいなあと思ったものだった。
母さんとしゃべる機会が多かった僕は、
もっぱら日常生活をドイツ語で過ごしていた。
だから日本に初めて来た今年の春は、
そしてあの日、冬至と袂がセッションしていたあの日の午後は、
すごく緊張した。
でも、袂の言葉はすうっと入ってくる感じがして、
普通に話せた。
まるで袂がドイツ語を話しているんじゃないかと思うくらい、
会話がしっくりきた。
その理由は分からないけれど、
きっとこれが僕の生まれて初めての最初の恋になると確信した。
だからこの動かない右手も、
袂になら伸ばせる。
差し出せる。
だから、好きなんだと確信するのに。

袂は難しい。
それ以上に、綺麗だ。

シヴァとディーヴァⅢ

ちょこっと橘を出してみました。柳瀬橋もついでに。
ここでおさらいですが、
シヴァ=結ちゃん、
ディーヴァ=冬至、
ヴィーナス=柳瀬橋、
ハーフ=橘、
といった具合です。
オールラウンダーでハーフな橘は考えてることもむちゃくちゃ幾何学的になりがちですが、
馬鹿で美人な柳瀬橋に感化されて、
少しずつ日本語も理解して、ちゃんとみんなと話せるようになっていきます。
まあ、放送部の高瀬君にも感謝なのですが。
ちなみに高瀬君は、くまさん、です。

シヴァとディーヴァⅢ

イチャイチャさせるための第三弾。 そして、自己満足する作者とげんなりする読者様。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-10-31

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