【Immagini e trasmissione di suoni e tocchi】
大多数のユーザーは、ピアノのメンテナンスを調律師に任せっ切りにしていると思います。
「だって、ピアノのことは分からないから……」
「定期的に調律を行なっていれば大丈夫と聞いたので……」
ユーザー側の理由としては、こういった感じではないでしょうか。
確かに、一定の水準を満たした技量を持ち合わせている調律師に任せておけば、大きな問題に繋がることは考えにくいと言えるでしょう。一方で、ユーザーのスキルや表現力の成長に伴い、調律師に任せっ放しにするだけでは満足出来ず、音やタッチについて、様々な要求が必要な場合も起こり得ます。
その際、一番の問題点は、「言葉でどう表現するのか?」ということです。
言うまでもなく、音やタッチは目に見えるものではない為、言葉で伝えるしかありません。しかし、人それぞれ好みや感じ方は異なります。つまり、同じ音やタッチでも、人によっては違う表現になってしまうのです。それ故に、自分の要望を調律師に伝えたくても、なかなか上手くいかないケースも生じるのです。
例えば、あるピアノの音を聞き、「明るく華やか」だと感じたとします。しかし、別の人が同じ音を聞くと、「金属的で不快」と感じるかもしれません。物理的に同じ波動でも、聞く人の好みによっては、全く別物のように表現されるのです。
この表現の違いは、印象の変化にも繋がります。「柔らかい音」と言えば、良いイメージがありますが、聞く人の好みにより「篭った音」とネガティブな表現になるかもしれません。
同様に、「落ち着いた音」は「鳴らないピアノ」、「重たいタッチ」は「深みのある弾き心地」、「軽やかなタッチ」は「ふわ付くタッチ」、「ブリリアント」は「耳障り」……このように、表現が変わると、全く正反対のイメージになってしまうことも珍しくありません。要するに、調律師とイメージが共有出来なければ、要望も正確に伝わらないのです。
では、どうすれば上手く伝えられるのでしょうか?
結論から言えば、残念ながら確実な方法はありません。しかし、少なくとも以下のことに気を付けて頂ければ、ある程度は伝わりやすくなると思います。
ただし、その前に一点だけ大切なことをご理解頂きたいと思います。それは、ピアノの音とタッチは、一台一台に固有の特性があるため、好きなようにどのようにでも変えられるわけではないということです。むしろ、音もタッチも変動可能なレンジは小さいのですが、その中での要望を伝える方法として参考にして頂ければと思います。
一つ目は、「絶対値」ではなく、「相対値」として伝えることです。つまり、「こんな感じにして欲しい」、「こういう音にして」ではなく、サンプルを提示し、「この音より少し○○に」「これよりは○○にして欲しい」「今より少し○○に」といった、比較を使っての表現です。条件が多いほど、予測の幅は狭められ、調律師はイメージを捉え易くなり、要望との誤差も最小限に抑えられるでしょう。
二つ目は、音やタッチに相応しい形容をすることです。以前、あるピアニストに、柔らかい音と硬い音の違いを、「一番絞りとスーパードライみたいなものね!」と言われました。ある意味、絶妙なニュアンスでもありますが、ビールを飲まない人には全く伝わりません。その場は大爆笑になりましたが、音の表現としては不適切な可能性も孕みます。
また、擬音も大切です。別のピアニストに「もうちょっとクリクリッとしたタッチがいい」と言われたことがありますが、正直な所、上手くイメージ出来ませんでした。音やタッチには、よく使われる表現がたくさんありますので、その中からイメージに近い形容をする必要があります。
※参考までに、音とタッチでよく使われる表現を、幾つか列挙しておきます。
( )内は、ニュアンスの近い反意表現です。
【音の形容】
・明るい(暗い) ・硬い(柔らかい) ・細い(太い) ・尖った(丸みのある) ・鳴る(鳴らない、篭る) ・厚みのある(薄っぺらい) ・華やか(くすんだ) ・乾いた(湿った) ・軽い(重い)……etc.
他にも、ざらついた、艶のある、金属的、抜けの良い(悪い)、生々しい、鮮やか、深みのある……など。
【タッチの形容】
・重い(軽い) ・固い(柔らかい) ・深い(浅い) ・鋭い(鈍い、もたつく) ・滑らか(引っ掛かる) ・腰のある(腰抜け) ・指に吸い付く(付いて来ない、もたつく) ・軽やか(抵抗がある、もたつく) ・ズッシリとした(ふわ付く)……etc.
他にも、ぶれる、弾力がある(ない)、跳ね返りが強い(弱い)、歯切れが良い(悪い)……など。
こういった形容を使い、相対的な説明をすると、音やタッチの要望はかなり正確に伝えられると思います。ただし、折角イメージが共有出来ても、それらを実際に作れるかどうかは、調律師の技量の問題です。
そして、最後に……
実は、音やタッチの要望の伝達には、言葉での表現以前に、調律師との信頼関係が一番大切かもしれません。ピアノのベストコンディションを、一番理解しているのが担当の調律師であるのならば、理想的な関係と言えるでしょう。と言いますのも、そこまでの関係が築けていると、ユーザーが何を望んでいるのかは、調律師はピアノを見れば分かるのです。
ピアノは、我々調律師に、常に様々なことを訴えかけてきます。不思議なことに、調律師とユーザーの感性が共有出来ていれば、ピアノが私たちに訴えかけてくる内容は、ユーザーの要望と見事に一致するのです。ユーザーにとっては、そういった信頼関係を築ける調律師を見つけることが、ピアノを保守管理する上で、何よりも大切なことだと思います。
また、我々調律師も、ユーザーの要望に応えられるように、常に技術と感性を磨く必要があるでしょう。
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