夜明けの街のリス
桜の並木道を、冬にとおるときの、いくばくかのむなしさ、みたいなものを、いつのまにか、むねのうちに飼い慣らしている。
みずうみがこおるほど、寒い朝に、街は、ときどき光った。
だれかが、秋のあいだにみつけた、ちいさな愛みたいなものを、たぶん、投げ捨てているのだ。高いところから、朝陽に向かって。
「木の上から、どんぐりを投げるリスみたい」
なんて、きみが、おもしろおかしく笑っているのを、ぼくは、コーヒーを飲みながら、横目で見ている。リスのようなその行いは、夜明けの街の、祈りにも似ている。ざく、ざく、と音をさせながら、ぶあつめのトーストをかじる、きみも、すこしだけリスに似ていると思う。なにかこう、儀式めいたことを、想像しているあいだに、街の光は、朝に溶けてゆく。溶けて、わからなくなってゆく。
えいえんにさめない夢なんて、だれにもつくれないって。
では、えいきゅうにきれない絆や、くおんにおわらない愛、は。
早朝の喫茶店で、ぼくときみがみている街は、きっと、世界にとって、塵ひとつくらいの存在なのだろう。
そう思ったときの、その、広大で、漠然とした、さびしさ。
夜明けの街のリス