燻んだ空
何でもいい、故郷の空なんだから……
夜が明けて朝が来る、
何度も繰り返して今は在る。
これからもずっと変わらないだろう、
あと何百回、何十回と……
見ることができるだろうか?
幼い頃は、苦手な早起きをして
明るくなる朝を待ち焦がれていた、
大人になってから東雲の頃と知った。
夕焼け過ぎても遊んでいた時、
星空に変わる空を見て喜んだ。
夜明けも日没も空を見飽きた歳には
暗い中、誰にも知られず
ひっそり過ごすことが好きだった。
節目の歳には空を見上げ、
これから十年先を思う時もあった。
いつのどんな空も見上げていた、
色々な時代の空にも見守られていた。
たまたま通りかかった、
久しぶりに生まれ育った空の下は
雨でもないのに泣きだしそうだった。
それには訳があった。
何十年と建っていたビルが壊された、
親同伴で訪れた商業施設だったビル。
そのおかげで、
日陰になっていたココは陽が当たり、
大空を眺められるようになった。
あれだけ好きで見上げた空なのに、
この場所から見る空は燻んでいた。
幼い頃のあの時の、
ココで見た空と陽陰は無くなった。
全く別の場所に化けていた、
泣き出しそうなのは
ぼくの胸の中だった。
ココ近くの商店街も、
ひとっ気も無く店も無くなっていた。
シャッターが下され、
ガタガタと冷たい音だけがする。
いい匂いに誘われていた頃の、
吹き抜ける風の匂いも無い。
別の場所に変わってしまったココは、
虚しさの風だけが吹いている。
雲は相変わらず、
ゆっくりと流れているだけで
ぼくに何か話したそうだった。
"今日は通りがかりだ、
ココへはまた訪れるから
その時にまた、ゆっくり話そうな。"
そう告げて家路を急いだが、
ココで見上げた燻んだ空は
もう忘れるように心に誓った。
この日の背中越しの夕陽は、
相変わらず笑って見送ってくれた。
少し眩しかったけど、
嬉しい気持ちがまた蘇った。
気のせいでも何でもいい、
これがぼくの故郷の空なんだから。
同じ場所でまた、
嬉しくなり少し大人になった感じがした。
たぶん気のせいだろうな……
燻んだ空