たいせつにしたいもの

 こどもの声がきこえるから、たぶん、きみが、わらったのだとおもう。
 むかし、天使だった、きみは、いつも、あったかい手をしていて、むなしさでできた、ちいさなあなを埋めるのは、雨の日のフルーツパフェだった。
 教室が、宇宙のどこかに飛んでいって、わたしたちの星が、そろそろと永久睡眠をはじめている。
 さいきん別れた恋人と行った映画の内容を、ときどき、なんとはなしに思い出す。そのひととは一度も行かなかったラーメン屋で、しょうゆラーメンを食べているときとかに。
 生物室で、せんせいがつくる蝶の標本をながめているあいだが、じつはいちばん楽しかった学生時代に、もう二度ともどることができないという現実を、わたしはいまだ信じられないでいる。過去には立ち入ることができないのだと、わかっているからこそ、思い出は鮮明に、生々しくよみがえってくるのか。
 きれいなものって、いつも儚いね。

たいせつにしたいもの

たいせつにしたいもの

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-29

CC BY-NC-ND
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