志村正彦は完結した。
明日死ぬという誓いの中でしか今日を生きられない人に、命の重さを説くなんて残酷だ。
私は代わりに、魂の軽さを唄う存在でありたい。
高校生のとき、好きだったバンドのボーカルが急死した。
それを知ったのは友だちとディズニーシーに行く電車の中。
その日の思い出で今も残っているのは、ヨーロッパを思わせる建物たち、間を縫う運河を船に乗って進んでいくアトラクションの上、夜空に雪がちらつき、橙色の街灯が所々に灯って滲む感動的な風景を見ながら私は、あぁ彼はもう…、と思ったこと。
志村正彦という閉じた環に想いを馳せると、私はとても安らいだ。
彼はもう誰にも届かない。
彼はもう損なわれない。
彼はもう完結したのだ。
志村正彦は完結した。