第8話-29
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惑星ムーノは戦争とは無縁の宇宙の辺境にあった。
銀と銅を成分とする島が多少あるがそのほとんどが海面に覆われ、赤道面が13フェザガタ。
ビザンは父が残した研究結果を元に惑星ムーノに発展した小規模なトエル文明の言葉で「生命の住処」と呼ばれる海溝へ直接向かった。
トエル文明は未だ4足歩行生物に鞍をかけ移動する程度の文明レベルなのだが、惑星へ侵入してくる構造体を認識する科学力は所有しており、ターミナズへ警告もトエル語で流れてきた。
けれどもビザンは、止まるな、と妹に命令するとターミナズは直線的に水面へ水しぶきとともに飛び込み「生命の住処」海溝へ潜っていった。
「ああ、神様、ヒロアナの神様。わたし達はなんということを……」
ミザンはターミナズの内部で白いスラリと長い腕を伸ばし操縦しながら、顔を青く染めて唸るように呟く。父が目の前で死んだというのに自分が何をしているのか、なぜ兄を兵士に渡さなかったのか、なぜ父の遺体をおいてきたのか。
あらゆる後悔が頭の中を目まぐるしく渦巻く。それがジェフフェ族の信仰の対象である13柱の神々の1柱「慈愛の女神ヒロアナ」に祈る言葉で、外に漏れていた。
彼女もビザンも海洋学者。宗教とは無縁であるが、流石にこの状況で思わずミザンは祈っていた。
「神がいるとしたら戦争も飢餓も宇宙から消えている。神なんぞいるわけがない。だがこの先に神に近づく手がかりがある」
ビザンはキューブを見ながら、興奮で巨大な眼をギラつかせ、野心で身体が縁取られていた。
これが本当に兄なのか。ミザンがそう思った刹那、
「どうやら我々の神がお出迎えのようだ」
と、兄は不安の崖にぶら下がる妹に告げた。
第8話-30へ続く
第8話-29