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目を覚ますと、不気味なところに立っていた。目の前にある暗がりの中に、ちょうど月のような明るさを放ちながら、何かが正面にあった。しかし、月が真向かいにあるわけがない。しかも、五、六歩進めば手が届くようなところに。あたりには静寂が響き、無機質な地面の冷たさが足に伝わる。
 何故俺がこのような場所にいるかは後で考えるとして、急いで家に帰らなければ妻と子どもが待っている。そう思い、地面を蹴った。しかし身体が動かない。もう一度、今度は少し力を込めて一歩進もうとした。けれど、景色は近づくどころか、遠退きさえもしなかった。
 朝から飯を食べていないからか、それとも厄介な病気にでも罹ったのか、動けないことを納得できるような理由を懸命に考えたが、どれも府に落ちない。ならば何があったんだ。今は、馬鹿げていてもこの状況を納得する理由が欲しい。それさえあれば、次に進める。もう一度、最も正確な答えを出そうと思案していると、何かが弾ける音がした。同時に闇が消え失せ、朝が訪れた。
 しかし、状況に解決の光が差すことはなかった。不思議な月明かりがあった場所には、横長の黒い台に石が数個乗せられていることは確認できたが、それ以外は太陽が昇る前と何も変わらない。
 もしかしたら、少し前まで争っていた奴らに、人質として拐われたのだろうか。もしそうなら、妻にも、子にも、仲間にも迷惑をかけてしまう。この危機を脱する名案を捻り出そうと唸っていると、視界の外から足音が聞こえてきた。一人ではなく数名の。しかも、俺の方へと近づいているようだ。誰だかは知らんが、今は味方であることを祈ろう。
 ついに足音が止み、その正体を見せた。
 初めて見る色の布を身にまとった女と、同じく、珍しい布を羽織った子どもが四、五名。
 「助けてくれ」
 俺はそいつらに話しかけたが、まるで声が何かに遮られているかのように、こちらに見向きもしない。もう一度声を出そうと息を吸ったとき、女の方が俺を指差した。
「こちらは当博物館の名物で、私たち人間の祖先。ホモ・サピエンスの骨です」

 
 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-27

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