召喚士と十二の召喚石【暗黒空間】
ずいぶんと遅くなった更新です。
階段を下りると、やはり玄関にはお母さんと美咲がいた。
美咲は昔から見かけていた姿できていた。真っ白のミニスカートに革のベルト、水色と白のしましま模様の七分丈を薄い灰色のカーディガンでうまく色を合わせている。いかにも女の子らしい格好だ。
「あ、悠ちゃんがきましたのでぇ、ちょっといいですかぁ?」
またぞくーーーーっと寒気がきた。もともと美咲の言葉遣いは嫌いだが、明らかに・・・・・・声が変わっている。あのナイトメアと同じ声だった。
「ええ、いいわよ。悠、暗くなるまでには帰ってきなさいよ。お母さん、夕食作っておくから。」
「はーい・・・・・・・」
だるそうな返事を返すが、悠の心はぴりぴりしたままだ。昔からもともと感覚は鋭い方だったが、魔法を使えるようになってから、さらに鋭くなった気がした。
「逃げれるって・・・思わないことね・・・・・」
耳元でこそっと美咲はつぶやいた。とっさにふりむくと目の前にはどす黒いオーラを放つ美咲がいた。オーラは だんだん広がっていき、悠を飲み込んだ。
「きゃあっ」
思わず叫んだが、何も痛みは感じなかった。気がつくと、悠と美咲は漆黒の不思議な場所にいた。そこら中に黒い霧が渦巻き、たまに地面から出る煙は、いやなにおいを放っている。
「さあーてここはどこでしょっ」
にこにこしながら美咲は聞いてきた。
「知るわけないでしょ。それよりさっさとアタシを殺せば?まあ」
きっ、と美咲をにらみつけた。
「アタシもそう簡単には殺されるわけにはいかないけれど。」
「・・・・・ふふふふふふふぅっあーっはっはっはっはっはっはっ」
岬は大声で笑うと、無表情でにらみ返した。
「三千年も生きているわらわがちっぽけな人間のお前ごときに破れるとでも?愚かな。」
「・・・・・やあっと本性を現したわね。どうせ全部演技だったんでしょ?岬の心はどこにいった?」
クスッと美咲、いや、ナイトメアは笑うと、腕を上にあげてぼそぼそと何かを唱えた。すると、ナイトメアの腕の中に巨大な鎌が現れた。
「”暁の黒翼”・・・」
無意識に悠は鎌に彫られているスペル(英語)を読んだ。
ナイトメアの鎌は黒と紫の色合いから堕天使の翼を思わせた。柄は黒く、灰色の蛇が巻き付いている。
「人間よ・・・・これが元は誰のものか知っておるか?・・・・知るはずもなかろう。これは我が忠実な従者”ルシファー”が使用していた大鎌だ。わらわには武器がない。・・・あの忌々しいソロモンが封印と同時に破壊してしまったからのぉ。」
(そのルシファーはどこに・・・?)
だがまともに考える暇もなく、ナイトメアは大鎌を振り上げると、悠めがけて振り下ろした。
「危なっ!」
とっさによけ、魔法を使おうと手を振り上げたが、肝心なことを思い出した。攻撃用の魔法は教えてもらってないのだ。
「・・・っこんなときに」
ポケットをさぐるが、やはり指輪はなかった。
「しかたない・・・・殴るしか、ない!」
悠はもともと運動神経がよく、ジンよりパワーもスピードも勝っていた。・・・・・もちろん、顔に似合わず、喧嘩も。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
素早くナイトメアの腕をひねると、鎌をもぎ取った。
バチッ!
「いたっ!!!!!!」
鎌を放り投げ、自分の手のひらをみると赤く腫れていて、ところどころから血が流れている。
「ふふふ・・・・・魔の力を持たぬ限りは悪魔の武器に触れば命取りなのだが、運が良かったのであろうな。」
ひょいと大鎌を拾い、まるでおもちゃを振り回すかのように大鎌を頭上で振り回し始めた。
「哀れな子猫よ・・・・・・今楽にしてやる」
その瞬間、耳元を風がかすめてなにかがナイトメアに突進していった。
「あ、アクセリア!」
「間に合った、っと」
アクセリアはそのままナイトメアを張り倒し、岬の腕を食いちぎる。真っ赤な血が迸った。
「ぎゃああああああああっっっ」
絶叫をあげ、アクセリアを蹴飛ばそうとするが足は空振り、逆に出した足を思いっきり折られた。
「ぎいいいいいいいいいいいっっ」
残った腕と足で何とかバランスをとるが、ナイトメアはそのまま地面に崩れ落ちた。腕からは血がボタボタと大量にこぼれている。
「くっ・・・・よりによってこんな時にきおって。・・・・・・・ふふふふははははははは」
アクセリアの耳がかすかに動いた。顔をしかめ、悠に近寄った。
「やばいな。なにかやってくるぞ」
「何を仕掛けるって?」
「知らん。そんな前のことを覚えている訳ねーやろ。」
「おぼえといてよっ!!」
だがギャンギャン言い合う暇もなく、ナイトメアが妖気を放ちながら立ち上がった。
「ははははははははははは・・・・・・・・・・ふ ざ け る なぁぁぁぁぁぁっっっ」
メキ、と音を立てて見る間に腕がなかったはずのところを生やし、再生した。
「わらわを、わらわをぉっ、愚弄するではないっっっ!!!人間風情がっっっ!!!!!!愚かな人間ごときがぁぁぁ!!!」
「・・・・・ちょっとやばいんじゃない?」
「かもしれん。・・・ちょっと伏せてろ!」
悠は急いで伏せると、アクセリアがつぶやく奇妙な言葉に耳を傾けた。
「・・・・・我の時空に住まいし従者よ。今ここに現れ、我の闇を破壊する牙となれ。・・・ヴリトラ!!」
ビシィッ
ベキベキと空中に裂け目が出てきて、赤黒い大きな竜が這い出てきた。
「・・・クソッもう少し眠ってられると思ったのに。いきなり起こすんじゃねえよ、バカウサギ。」
「バカはお前やろ。知能はわいの方が上。その事実は変わるわけないわ。」
(何喧嘩してるんだか・・・・・)
「ちょっと今の状況をみてよっ!」
すると、ナイトメアが鎌を振りかざしてヴリトラとアクセリアの間に割って入った。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
ヴリトラは舌打ちをし、アクセリアをギロッと睨んだ。
「おいおい、あいつ・・・封印しなかったか?」
「解けたらしいんや。だからお前を呼んだんだ。・・・戦うよな?まあ鈍っていなければ、の話やけどな。バカ竜。」
「俺をっ」
ナイトメアに尾を振り下ろした。ナイトメアがバック宙で避ける。
「バカというなあああああっ」
ナイトメアが着地するところに燃えさかる赤黒い炎を吹き出した。
「 はっ、そんなもの喰らうか!」
素早く右腕を振り上げると、黒いユニコーンを出して炎にぶつからし、消滅した。
「遅い。」
いつの間にかアクセリアがナイトメアの後ろに周りこみ、両腕をかぎ爪で切り落とした。
「ぎゃあああっ」
(すごい・・・!!!)
ヴリトラとアクセリアのコンビネーションでナイトメアをいっきに瀕死の状態にした。悠はただただ、眺めるしかなかった。
「ぐうっ・・・・・」
ゲホゲホとナイトメアが血を吐いた。
「さあ、死んでもらうぞ。」
「っ・・・しかたないの。」
ゾワアッと妖気を放ち、気で二人を吹き飛ばした。
「「ぎゃっ」」
ぼて、と地面に落ちた。ナイトメアがふらっと立ち上がった。
「仕方ないからの・・・・じゃあな、皆よ。」
岬の抜け殻から黒猫が霧となって出てきた。そうすると、自分自身が作り出した黒い空間に溶け込んだ。
「!ゆ、悠!!あぶない!!!」
闇が、迫ってきた。最後に見たのは、ヴリトラもアクセリアも闇に飲み込まれていたところだった。
そこで、意識が途切れた。
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召喚士と十二の召喚石【暗黒空間】
まだまだ続きます。