娘の彼氏 ~アキラさんの場合~ (2:0)
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「娘の彼氏 ~アキラさんの場合~」
アキラ(男) シングルファザー 40前後
カイト(男) 高校生 18歳
◇◇◇
アキラ:ああ、いらっしゃいカイトくん。どうぞ上がって。まだ由美は帰ってきてないよ。
カイト:すみません、急にお邪魔して。
アキラ:いやいや、カイトくんならいつでも歓迎だよ。いつも散らかってて申し訳ないね。リビングに座ってて。おっと洗濯物出しっぱなし、ちょっとまってね、しまうから。……よいしょっと。
カイト:すみません。
アキラ:いやいや気にしないで。娘の彼氏が気軽に遊びに来てくれるなんて嬉しいからね。
カイト:アキラさんはえらいですよね。仕事もあるのに、家事もちゃんとやってて。尊敬、するな。
アキラ:はは、シングルファザーが珍しいのかよくそう言われるけどね。ちゃんと手を抜くところは抜いてるからそうでもないよ。由美も手伝ってくれるし。あ、コーヒー飲む? 一服しようと思ってたところだったからちょうどよかった。
カイト:ありがとうございます。いただきます。
アキラ:お砂糖少しだったよね?
カイト:覚えててくれたんですか……。ありがとうございます。そうだ、アキラさん、これ。
アキラ:なにかな? ……え、これって、イベント行かないと手に入らない非売品のはず! なんでカイトくんが持ってるの?
カイト:プラモデル専門店のオーナーと友達なんで。頼んで横流ししてもらいました。アキラさんにあげます。
アキラ:え、いいのかい? ……これ映画版にしか登場しない幻の機種なんだよね。いいなあ……どんな風に塗装しようかなー、ちょっと汚れをつけてもいいし、うーん……
カイト:はは、アキラさん本当にプラモデルが好きなんですね。
アキラ:こんなおっさんが変だって思う? でも、カイトくんたちが思うよりも大人は子供なもんだよ。昔はスポーツとか、バンドとかいろいろやってたけど、妻が死んでからはなかなかね。残った趣味はこれだけ。寝る前の少しの時間、プラモ組み立てるのだけはやめられなくてねえ。
カイト:僕も始めてみようかな。
アキラ:え、カイトくんも興味あるの?
カイト:プラモデルに、というか……そしたらアキラさんが教えてくれるかなって。
アキラ:俺? そんな教えるほどのレベルではないよ、自己流だし。本当にやりたいならもっと上手い友人を紹介するけど、カイトくんは、もっと今しかできない楽しいことをした方がいいと思うよ。 ……おっとコーヒー忘れてた。
カイト:(小声)アキラさんが教えてくれないと意味ない。
アキラ:ん? なにか言った? どうぞ。
カイト:ありがとうございます。アキラさんの淹れるコーヒー好きです。
アキラ:そんな凝った淹れ方はしてないよ。豆はちょっとこだわってるけどね。
カイト:アキラさんのことも好きです。
アキラ:え? はは! それは嬉しいな! 息子が増えたみたいだ。しかもファザコンの。いつか本当に息子になってくれたら……なんて気が早いか。
カイト:ごめんなさい。息子にはなれません。由美ちゃんとは別れましたから。
アキラ:え?
カイト:お互いに他に気になる人ができて……円満に別れました。今はいい友人として付き合ってます。今日も一緒にお昼食べながら、いろいろ相談しあいましたし。
アキラ:そ、そうなんだ。全然知らなかった。
カイト:ええ、でも、できればときどきここに遊びに来てもいいですかね。アキラさんと、話したいし。
アキラ:いや、まったくかまわないけど。こんなおじさんと話したいなんて変わってるね。
カイト:そんなことないですよ。アキラさんと話していると楽しいんです。
アキラ:そう? そう言ってもらえるのは嬉しいけど。 ……ところで、そのカイトくんに別に好きな子がいるってこと? どんな子なのか聞いてもいいのかな? 親バカかもしれないけど、由美はけっこうかわいいし、性格も悪くないと思うんだけど。ま、ちょっと変わったところはあるけど。
カイト:いえ、由美ちゃんのせいじゃないんです。ただ、どうしても、気になる人がいて……まあ、片思い、ですけど。
アキラ:双子のプリンスって言われてるカイトくんにそこまで言わせるって、どんな子なんだろ。カイトくんなら断る女の子はいなそうなのに。
カイト:そんなことないです、全然相手にされてないかもしれません。……僕、わりと大人な人が好きなんで。
アキラ:大人……年上の女性が好みってこと?
カイト:いや、それは……兄のケイトはそうみたいですけどね。僕はなんていうか……包容力? 余裕? そういうのがある人に惹かれるんです。
アキラ:え、どういうこと? つまり、大人の女性ってことだよね。まあ、あるよね、カイトくんくらいの年齢だと、年上の女性が魅力的に見えるっていうの。女の先生に憧れたり。
カイト:……そうじゃなくて。それより、アキラさんの好きなタイプはどんな人ですか?
アキラ:え、俺? ……さあ、考えたことないな。
カイト:教えてください。知りたいんです、アキラさんのこと。
アキラ:そうだな……素直でかわいい感じの子、かな?なんて言ったら犯罪になるねおじさんは。
カイト:そんなことないです。アキラさんはかっこいいです。
アキラ:ははは、ありがとう。かわいいねカイトくん。
カイト:アキラさんが好きならそれでもいいですよ。がんばってかわいくしますよ僕。
アキラ:なにを言ってるやら。……そうだ忘れるところだった。プラモデルのお金払わないと。
カイト:いりませんよ。あれは商品じゃないんで。値段なんてありませんし。僕も無料で分けてもらいましたから。
アキラ:そうもいかないだろう。
カイト:くれるんなら、アキラさんがいいなあ……。
アキラ:え?
カイト:アキラさんの時間、って意味ですよ。アキラさんと話したり、一緒にプラモデル作ったり、そういう時間が欲しいなって。
アキラ:もう今話しているじゃないか。
カイト:これから先も、ずっとって言ったら迷惑、ですか?
アキラ:……カイトくん。
カイト:なんでしょう。
アキラ:カイトくんの好きな子ってもしかして……
カイト:誰だかわかりました?
アキラ:……大人をからかうのはよくないよ。
カイト:からかってませんよ。
アキラ:そうなんだ。
カイト:はい。
アキラ:怖い子だね、カイトくん。
カイト:そんなことありません、気持ちに正直なだけです。
アキラ:やめておいたほうがいいと思うよ。
カイト:どうしてですか?
アキラ:俺が君を憎からず思っているとしたら?
カイト:え?
アキラ:この家に君が遊びにくるのをすごく楽しみにしていたかもしれないし。君の笑顔を想って、実の娘に嫉妬さえしていたかもしれない。そう考えたら怖くないかい?
カイト:アキラさんこそ、いつからか、僕がアキラさん目当てでここに来ていたとしたら? 仕事で疲れているだろうに「ごめんね、すぐに夕食にするね」ってネクタイを外す姿や、ワイシャツの腕をまくる背中をずっと見ていたとしたら?
アキラ:それは面白い想像だね。
カイト:そうですね、妄想かもしれません。僕若いんで。
アキラ:言うね。おじさんが妄想しないと思ったら大間違いだよ。言えないような妄想をする夜もあるんだよ。
カイト:どんな妄想ですか?
アキラ:知りたい?
カイト:はい。
アキラ:どうしようかな。
カイト:いじわるだなあ。
アキラ:おじさんだからね。君らと違って、なんでも飛び込んでみようってわけにはいかない。由美もいるしね。
カイト:由美ちゃんなら気にしないと思います。多分。
アキラ:なるほど。やるね。
カイト:それほどでも。
アキラ:残念だけど、俺は君が思っているような男じゃないよ。
由美にはお父さんはモテないからずっと独り身だって言ってるけど、本当はそうじゃない。女性からのアプローチは割とあったりする。でも、俺は彼女は作らなかった。なんでだかわかる?
カイト:……さあ、なんででしょうね?
アキラ:俺の相手はもっぱら、妻子持ち、もしくは彼女持ち。一緒にいるところを見られても友人で通せる。飽きたら別れる。あとくされもなくて楽でいいよ。
カイト:そうなんですか……で、どうして僕にそんな話を?
アキラ:引くかな、と思って。
カイト:別に。
アキラ:……へえ
カイト:僕を試したって無駄ですよ。
アキラ:言うねえ。
カイト:若いですから。
アキラ:むかつくな。
カイト:嫌いではないでしょう?
アキラ:まあ、ね。
(間)
アキラ:そろそろ由美が帰ってくる時間だね。
カイト:また来ますよ。
アキラ:そうだねえ、来週の水曜日なら由美は帰りが遅いよ。
カイト:いいですね。話し合いの続きをしましょう。首を洗って待っていてください。
アキラ:カイトくんこそ。しっかりシャワーを浴びてきたまえ。
カイト:そうさせていただきます。お邪魔しました。
アキラ:おっと忘れ物。
カイト:え?
アキラ:(リップ音※できれば)……お別れの挨拶。外国では普通だよ。
カイト:唇にはしないでしょう……まったく、覚えておいてくださいよ。
アキラ:またおいで。
カイト:ええ、水曜日に。必ず。
END
娘の彼氏 ~アキラさんの場合~ (2:0)