うさぎとぼくと彼と世界の混沌と

あおい はる

 うさぎは、かわいいので、たぶん、きみも、かわいい。たぶん。
 ぼくは、うさぎ、になったきみを、でも、愛せる自信が、毛ほどしかなくて、ごめんって、あやまった。あたえたキャベツの葉っぱを、きみは、むしゃむしゃと食べていて、ぼくのことばなんか、きいていないようだった。きいていたとしても、うさぎとなったいま、意味がわかるのかは、不明だったし、ぼくのそれにたいする、きみからの返答も、期待はできなかった。きみは、だれが、どこからどう見ても、まぎれもない、うさぎ、になっていた。茶色いうさぎに、なっていた。

「おれらとおなじどうぶつだと思えば、だいじょうぶだよ」

 そう言ったのは、友人のカワネだった。
 カワネは、軽薄そうに笑いながら、うさぎのからだを撫でた。うさぎは、なんだか、いやがっているようだった。撫でられるのがいやなのか、それとも、カワネのことがいやなのか。ひと、だったとき、きみは、そういえば、カワネのことが、すこし苦手だと言っていた気がする。カワネと、ぼくは、ときどき、星を見る仲だった。天体観測、なんて、仰々しい感じではなく、ただ、夜空を見上げるだけ。カワネは、いわゆるところの、不良、というやつだったので、いつも、かすかに、たばこのにおいをさせていた。いまは、なんだろう、深くて、静かな、森のなかをさまよっているような、においがする。つめたくて、うすぐらくて、それから、じめっとしているような、森。
 執拗に撫でまわしてくるカワネから、うさぎ(きみ)は、ささっ、と逃げ出した。カワネから離れて、ぼくのあしもとに、かくれた。カワネは、にやにや笑っていたけれど、それ以上、うさぎ(きみ)を、さわることはなかった。
 かわいい、と思う。
 たぶん。
 おそらく。
 ひくひく動く、ちいさな鼻も、ぴくぴく揺れる、ひげも、きゅるきゅるしている、つぶらな瞳も、かわいい。ただの、うさぎならば。
 きみで、なければ。

(やりきれない)

 ぼくたちは、ぼくの部屋にいて、ぼくの部屋は、うさぎの、けものくさいのと、つめたい森のにおいと、うさぎになった、きみと、あの頃から変わらず、飄々としていて、なにを考えているのかわからない、カワネとで、混沌としている。
 世界のはじまりと、おわりを、同時に見ているようだった。
 きみは、うさぎだから、しゃべらないし、カワネはずっと、薄ら笑いを浮かべている。

うさぎとぼくと彼と世界の混沌と

うさぎとぼくと彼と世界の混沌と

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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