月と兎とマネは譲る。

【あんた、あの人のモノマネしてんじゃないの?】
月に移住してもう十数年。何百年たっても普通の人間がいわれないようなことをご近所にいわれた。一体誰のモノマネをしているというのだろう。
【何って、あの地球の有名人の、あのこれ、そうそう、なんとかさんって】
結局だれだかわからない。それもそうだ。もはや地球に人類はいない。データはあるが、それはもう何千年も前のデータだし、僕らは、あたらしい人類として誇りをもっている。
ぽーん、ぽーん、月のクレーター、軽い重力で、飛び跳ねる。まるで兎みたいだ。
ところで、僕らは兎をしらない。僕らはどちらかというと、地球人類といよりは、あの水生生物によくにている。そう、あれ、なんていったっけ?
亀だ。たしかそんな童話があったような。
クレーターにひとつロケットがあって、まるでおとぎ話にでてくるような積み木のロケットであって、それをみて、今朝の私がひとことつぶやいた。
【何千年も前の話、掘り返してどうしようっていうんだろうね】
姿も形も違う。ただ単に思うのは、今朝のご近所さんの愚痴もよくわかる、けれど厳密にいえば、しぐさも言葉も常に進歩を探している。今と昔じゃ文化も違う、そこに幅がある事をみとめたくないだけで、実はそこに幅があるというだけさ。

月と兎とマネは譲る。

月と兎とマネは譲る。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-22

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