ゆめんとディーヴァ

これちかうじょう

  1. 4月28日の夜、真夜中のお話
  2. the 添い寝
  3. 白い沈黙
  4. 黒い沈黙

アーユルヴェーダ伍の直後のお話です。
冬至が力を発揮する、
それに結が混乱するという、構図です。

4月28日の夜、真夜中のお話

あてがわれたベッドへもぐりこんでみる。
そうは寒くない。
暖炉の熱が2階まで上がってきているからだろう。
それに、シーツがノリがきいていてびしっとしている。
布団は干したかのようにふかふかで、これまた暑くもなく寒くもない。

「…」
家出、してしまった。
すぐに帰る予定だったのに、馬鹿だよな俺、酒飲まされて潰れて、
そのままお泊りだなんて。
「…」
枕が変わると寝れないタイプなんだよな、俺。
「…」
静か、だ。

「…母さん、今頃、心配してくれてるかな…」
さすがに、それはしてくれるんだろうなとは思った。
それが俺の甘さだった。

「…」
何かこう、手持無沙汰なところがある。
何を期待する?
何を考えている?

「…見たい。」
誰が何と言おうと、結ちゃんの寝顔が見たい。
アイドル的な存在だぞ、誰からも好かれる美人だぞ、
さぞかし美しく寝るんだろうな。
それを拝みたいというか、まあ、何と言うか。

「…結ちゃん…」
いつでも来ていいって言ってた。
俺は枕を抱えて隣の部屋を覗いてみる。
寝てるんだと思ったけど、結ちゃんはベッドの上で足を上げ下げしていた。
こんな時まで筋トレするなんて、と途方に暮れる。


「おいで」
その言葉に胸が熱くなる。
我慢してたのに、だらだらと涙が頬を流れた。
「うー…」

the 添い寝

おいでとは何だ、と思いつつ近寄ってみると、ぽむぽむとベッドを叩かれた。
「え」
「…」
これってあれですか、たまにお子さんが親にしてもらう、あれですか。
添い寝、ですか?
「早く」
早くとは何だ、と思いつつ枕を引き摺って(枕がでかいんです)結ちゃんの真横にそそっと寝てみる。
ちらりと横を見れば例の美人です。
怖いんだか違うんだか微妙な雰囲気の中電気を消されました。
もしかして入学式と同じになるんでは、と汗が出てきます。
「何で泣く」
暗い中そう言われて、俺はぐしぐししながら「違う」と言った。
違わないんだけど、つい、意地を張った。
「見えてたんだ…つい4年前までは…でも、父さんが浮気して、それが冬至の日で…」
「…」
「そしたら母さんに俺が見えなくなっちゃって、…それからずっと、」
独りだった。
孤独とはこんなものかと腹立たしくもなった。
何もしてくれない母さんにムカついたりもした。
でも、それ以上に悲しかった。
寂しかった。
「もう寝た方がいい」
「そだね、疲れたしなー」
だらだら泣いてはいるんだけど、俺はそのまま(無防備に)目を閉じた。
「あーもう本当に眠いや…」

がっくん。

そう意識が反転したのは、俺はただ寝ただけなんだと思った。
何でだろう、寝ているのに意識がある。

「…」
気が付けば俺はどこかの庭に居た。
それ、を真後ろから見ている。
「…」
ただ、ぼんやりとしゃがんでいる、小さい子供が、目の前にいる。
「ここでしたか」
その声に振り返れば、柳瀬橋のおばさんみたいな人が、こちらに向かって歩いてくる。

「また、失敗しましたか」
「…はい」
よく見れば、その子供は左手を怪我していた。
血が出ている。

「でもね、失敗してこそ成長があるのですよ?それを悔やんでどうしますか。
 それをばねにして、さらにうまくなっていくのを想像するのです。
 いつまでもしょぼくれてなんかいないことです」
「…」
「包丁は確かに怖いものです。でも、それ以上においしい料理を作りだしてくれます。
 さあ、分かったなら立ち上がりなさい。午後はケーキを焼いて差し上げます」
「はい…」

俺は、何を見ている?

立ち上がってこちらを振り向いた子供は、すんごく綺麗な顔立ちをしている。
よくよく見れば、このおばさんも綺麗だな。

「ばあさん、ばあさん」
「…何ですかおじいさん」
「指を切ったんじゃぞ、2歳の子供に何させてるんじゃい」
「試練ですよ、この家の者としての」
「可哀想じゃないかの、わしはもうやめさせたいぞ」
「駄目です、この子には生まれつき器用さがありません。それをカバーするのが努力です。
 それを後押しするのが私の役目です。おじいさんもそうですよ」
「わしもかの…でもちーとは休まないと疲れるぞ、なあ、結」

え、と俺はひきつる。
この子、結ちゃんなのかよ。

「結、将棋せんか?教えるぞー」
「またそんなこと言って。結は料理と裁縫を勉強中ですから、将棋はできません」
「たまにはいいじゃないかの」
「駄目です、…でもケーキを焼く約束をしましたからね、焼きあがるまでおじいさんと遊んでも結構です」

おじいさん、おばあさん。
つまりは、結ちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんか。
おばあちゃんにはまだ会えてないけど、おじいちゃんには会ったよな、俺。
もう、死んでるって聞いたけど、
これは結ちゃんが2歳の時、
つまりは14年前の場面だ。
その時は健在だったんだな、おじいちゃん。
でも、さっき話した時とそうは外見、変わらないんだけどな。

「だれ」
「おう!」
やべえ、見つかったよ。
俺はちっちゃい結ちゃんにじっと見つめられて、なんとなくだが、視線を逸らしてしまった。
まるで、いつもの結ちゃんにそうするかのようにだ。

「だれ」
「あーその、俺はな、うーん、」
「…ケーキ、たべる?」
「いや、俺はいいよ。君1人で食べるといいさ」
「…」

そんなこんな(あたふた)していたら、
「結、十和子ちゃんが来てくれたぞー」
とおじいちゃんが嬉しそうに呼びかけた。
「…一ノ瀬先輩が来たのか、じゃあ俺はもういいよな、じゃーな」
「…」

がっくん。

また意識が反転した。
今度はどこだよおい。

白い沈黙

「結…」
「…」
おばあちゃんが、倒れた。
俺は夢を見ている。
と、思う。

「気を落とさないで?要さんはきっとがっかりするわよ、元気ない結を見たら」
「…」

おばあちゃんが倒れたという連絡を聞きつけて、十和子が来てくれた。
俺が、12歳の時だ。

脳梗塞の恐ろしさをひしひしと感じた。
生きているのに、喋れない。意識もない。これじゃ、死んで居るのと同じだ。

「あら、あの子」
「?」
十和子の声に振り返れば、そこに、今は知っているけどその時は知らないはずの、冬至が立っていた。

「よ!結ちゃん」
「…」
俺は返す言葉がない。
だってそうだ、この時はまだ、冬至と出逢っていないのだから。
でもこの夢を見ている俺は冬至を知っている。
知っているけど、話しかけられない。
夢は、どんどん続く。

「おばあちゃん、倒れちゃったんだな…だから母屋にはおじいちゃんしかいなかったわけだ。
 でももうおじいちゃんもいなさそうだな、いつ、亡くなったんだ」
「…」

祖父は俺が3歳になってすぐに風邪をこじらせて肺炎で亡くなった。
だからもう、居ない。

「そっか、じゃああれからすぐに亡くなったのか…苦労したな、お前も、おばあちゃんも」

それよりも、何よりも。
俺の夢だ、ここは。
なのに、何故冬至が此処に居る?

「俺も分かんねえよ、ただ気が付いたらいろいろ飛び込んでるって感じだ。
 結ちゃんの夢の中なんだな、此処。
 何だか不思議だけどさ、これも、俺の力なのかもな」

力?

「死んだ人を見れるのは昔から。話せたのは結ちゃんのおじいちゃんが初めてだったけどさ。
 夢の中に入れるとかいうこれは、俺も初体験だ」

それにしても、と冬至がにやける。

「12歳の結ちゃんもまじ綺麗だな、おっそろしー!」
「…」
「背も少し小さいし、今なら俺が勝てそうな気がする」

身長的に、12歳の時の俺と冬至はそうは変わらない。
ああ、あと3年か。
3年経たないと、冬至に出逢えない。
「…」

白い沈黙が、空に上がっていく。

黒い沈黙

「…冬至、冬至、」
「むー…」
「起きてくれ」
「ん、…お、お?」
真夜中のことである。
俺は、不確かだけれど、夢の中に入られた感覚がある。
でも、不確か、なのだ。

「冬至、俺の中に」
「は?」
月の明かりが差し込んでいる。
「入ったか」
「卑猥!何だよその台詞!馬鹿か!」
「…いや」
「俺も嫌だわ!」

「…」

また、黒いんだ。
暗いんだ。
でも、時々、白くなるんだ。
それは、冬至がいてくれるからだ。
けなしながらも、俺を離さないでいてくれるからだ。

「…」
ぎゅう、と抱きついてみる。
顔が熱い。
俺は熱でもあるんだろうか?
それとも、これは何だろうか。

「眠れないのか?しゃーねえなあ」
ぽん、ぽん、と背中を叩かれる。
「眠れるように、歌を歌ってやる」

ああ、歌だ。
冬至が今、目の前にいて、歌ってくれる。
夢にまで見た、光景。

「おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな結ちゃんの味方だよ」
「…」
「いなくなっても、まだ此処に居る。いてくれるんだ」
「…うん」

感謝しないといけないんだ。
神様がいるなら神様に、
冬至がいるから、冬至に。

ゆめんとディーヴァ

夢の中に入れる力を持つ冬至です。
入られた結です。
ここからしばらく中村家について語らなくてはいけなくなりますが、イチャイチャも
書きたいので、
しばしお付き合いのほど、よろしくお願い致します。

ゆめんとディーヴァ

「どうして、こんなに真っ暗なんだろう」 「…結ちゃん」 「目は、開いてるのに」 「…俺が見えるか」 「見えない、何も、」 「じゃあこうするとどうだ?」 「…!」 光が差し込んでくる。 ああ、歌だ。 いつも、掃除をしている時の、冬至の鼻歌が聞こえる。 まるでラブソングのように、 優しいテンポで耳に馴染んでくる。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-10-20

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