シヴァとディーヴァ(アーユルヴェーダ外伝)

これちかうじょう

  1. シヴァ
  2. ディーヴァ
  3. ビオトープ
  4. ハムラビ
  5. シロツメクサ

ちょっと小休止。
ということで短編集のようなものをここで書きたいと思います。
時間つぶしと言わないでください。

シヴァ

「あ」
「…おい」
水道がネジくれちゃいました。
本当に馬鹿力です。
「これじゃ水が出ないじゃん!皿洗えないじゃん!」
「…よいしょ」
むぎゅう、と逆方向に直す。
直すというか、これまた捻じ曲げるといった感じ。

結ちゃんは筋トレ馬鹿ですが、それ以上に馬鹿力です。
すぐ水道やドアノブを破壊してしまいます。
それを直すのはいつも俺です。
俺は水道やですか?それとも内装やですか?

「結ちゃんみたいなのはねえ、破壊神と言ってもいいんだよ」
「?」
「何でもかんでも壊すんだからさー、直す方の身にもなってくれよな」
「うん」

インドの方に、シヴァっていう神様がいるみたいだけど、
まさに結ちゃんはそれだ。
たまには自分で直してほしい。
直せないほど不器用だから、器用な俺が直すって具合だけど、
これはいつまで続くんだ?

「あ」
「まーたー!」
皿洗いは俺の仕事になりました。

ディーヴァ

「ふんふんふふーん」
ああ、歌が聞こえる。
「ふんがふんがふーん」
鼻歌が、聞こえる。
俺が蛇口を壊してしまうから、冬至が皿洗いを引き受けてくれたけど、
本当は俺が全部やってあげたい。

「ふん、ふん、ふーん」
「…」
ご機嫌なのか、と思わず苦笑してしまう。
泣いてるか、怒ってるかしか見たことがないので、
その笑顔を見てみたくなって、俺はドキドキしている。

「ふんふん」
「冬至」
「ふ、…な、何だよ」
駄目だ、ちょっと怒っている。

「何でもない」
「じゃあ呼ぶな」

でも、初めてうちに来てくれた時の顔は、忘れない。
「結ちゃん、来ちゃった」
と言った冬至は、泣きそうなくらいの微笑みを浮かべていた。
多分、昨夜も泣いたんだろうなと勘繰った。

「ふんふーん」
「それ」
「はい?」
「何」
「何って、皿だろ」
ふるふると首を横に振る。

「歌」
「あ、あー、歌か、まあこれはな、俺の」
「…」
俺はポケットから携帯を出して操作してみる。
途端流れてくる、『荒野のヒース』。
「な、なん、え、」
「…」
出逢えた奇跡にもう息が止まりそうだよ。
という一連のフレーズで俺は少し理解した。
多分、恐らくだけれど、
冬至は俺をそうは嫌ってはいない。
いや、むしろ。

「冬至」
「あんだよ」
「それ終わったら庭、案内する」
「へ、あ、そ、そう、じゃあ頼むわ」

ビオトープ

好かれているというのは、立場が上になれるんだろうけど、そういう気分ではもう、ない。
皿洗いを終えて、俺は結ちゃんの後ろにくっついていって、
『庭』を案内してもらっている。
しかし庭じゃないなとも思う。
山だ、これは。

「あ、これって竹藪じゃん!春にはタケノコ!」
「…」
「ねーねー、山菜とかも出る?」
「うん」
「すげえ、キノコとか秋には出んだ?」
「うん」
「うおー、自然の台所だな!羨ましい」

沢が流れている。
橋が架かっていて、それを渡る時に水面下を覗き込むと、何故か密着的に隣にしゃがまれた。
「魚、いんね」
「うん」
くそう、いい匂いしてんだよお前は。
ドキドキしてる俺が馬鹿みたいじゃん、何ですぐ真横にいるんだよ。
「あ、これ田んぼにいるやつじゃん、タニシ」
「?」
「食べられるんだよ、海外ではメジャーな食べ物だ」
「…」
「水草も綺麗だな、金魚も鯉も飼えるな」
「…恋」
「ちげーよ、漢字変換間違ってるからなそれ」
立ち上がる時に立ち眩みがして少しふらついた。
それをすかさず結ちゃんががしっとキャッチする。
「体幹鍛えた方がいい」
「うん、そ、そうだな」
「…」
何故に、腕を掴まれたままなんだ。
これ、いい雰囲気、とか思ってるのかよこいつ。
「結ちゃん、痛い」
「ごめん」
小学生の時、自然破壊の問題に解決案をみんなで練ったもんだけど、
その時にビオトープの話題が沸き上がったのを思い出した。
人工的に作った池である。
環境を整えてやればとんぼやかえるがやってきて繁殖する。
魚だって生きられる。
まさにこの家は、結ちゃんにとってビオトープなんだろうな。
庭、おじいちゃんが作ったんだろうし。

「おじいちゃん、庭師?」
「?」
「多分、何でもできる人なんだろね、橋架けたのおじいちゃんだろ」
「…よくは知らない」

自分のおじいちゃんのくせに何も知らない様子で、
俺は俺で地団太を踏んでしまう。

「何でだよ、おじいちゃんと会話しねえの?一緒にご飯食ってんだろ」
「え」
「雨も上がってさ、風邪ひかないだろうから、おじいちゃんも呼ぼうよ」
「…祖父は」
「優しそうな人だもんな、いいな、おじいちゃんが近くにいるって」
「…」
結ちゃんが再び俺の腕を掴む。
「あんだよ」
「…冬至」

ハムラビ

「目には目をー!歯には歯をー!」
「!」
おふざけである。
おふざけでもって俺は結ちゃんにプロレス技をかけている。
「ふんがー」
「…痛い」
「痛いだろうよ、まじでやってんもん、ねー!」
「!」

どんな子供時代を過ごしたんだろうと疑問に思う。
兄弟もいないで、離れでひとりで住んで、料理は作って。
俺は上に4人いるから話題に事欠かない。

「上からね、正義、勝利、誠、誉っていうんだよ、兄ちゃんたちの名前。
 みんな父さんがつけたんだ、でも俺だけそういう意味合いじゃないんだよな、
 冬至の日に生まれたから冬至って、ただそんだけ」
「…うん」
「聞けば母さんがつけたってさ。まあ、そんな母さんももう、俺が見えないんだけどさ」
「うん」
「何でなんかなあ、どうしてなんかなあ、」
やべえ、うるうるしちゃう。

「なあ、結ちゃんは幼馴染とかいないのか?兄弟がいないんじゃあそういうのだろ、遊び相手」
「…十和子」
「とわこ?」

聞いたこと、あるんだけど。

「一ノ瀬十和子」
「あ、あー!放送部部長のあの超美人さん!」
「うん」
「何だよ何だよ、結ちゃんもだけど一ノ瀬先輩も美人だしさ、お似合いじゃん、美男美女で」
「…」
「俺なんかじゃなくて一ノ瀬先輩と付き合えば?ゆくゆくは結婚もできるし」
「冬至がいい」
「だからさ、俺じゃなくて」
「冬至がいい」
駄目だ、フラグだ。
何を言っても答えはそれしかなさそうだ。

「ここ、お酒造ってるんだな。お酒の匂いっていうのかな、ぷーんとしてる」
「今は父が当主」
「結ちゃんのお父さんね、すげえ強そう」
「弱い」
「え」
「酒、飲めない人だから」
「ほえー」
飲めない酒造るのも厳しいな。

「じゃあお母さんが飲めるとか?」
「母も飲めない」
「どうすんの、味見とかしないの」
「…俺がしてる」
「!」

こ、怖いです!
酒には酒を、ですか?

シロツメクサ

冬至が太陽なら、俺は月だろうか。
と、ふと、思う。

「何してんの」
「…」
シロツメクサでかんむりを作る。これは昔、十和子に教わったもので、
あの頃は作れなかったけれど、今なら大丈夫だ。
完成させたものを冬至の頭に乗せる。

「…お前は女子か」

そうでも構わない。
そうすればもっと、自然に、恋ができる気がする。

シヴァとディーヴァ(アーユルヴェーダ外伝)

シヴァは勿論結でした。ディーヴァは冬至です。
吹奏楽部に入りたくて入学してきた冬至ですから、
音楽の成績はすごいものなんです。
歌もうまかった。
結は歌なんか歌えませんので、憧れの目線で冬至を見ています。
恋はこうすべき!という法典がないもので、
結はどう冬至に接するべきかを自分なりによく考えています。
でも答えが出ないんですよね。
今はまだ、冬至が好き、それだけなんです。
これからどんどん成長していくふたりを、どうか見守ってください。

シヴァとディーヴァ(アーユルヴェーダ外伝)

シヴァ、つまり破壊の神、戦いの神様。 ディーヴァ、つまり歌姫、戦場の女神。 そんなふたりは、誰でしょうか?

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-10-20

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