娘の彼氏 ~ユリカさんの場合~ (1:1)
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「娘の彼氏 ~ユリカさんの場合~」
ユリカ ♀ 36歳 18歳の娘を持つシングルマザー。
ケイト ♂ 18歳 ユリカの娘の彼氏
所要時間:15分程度
◇◇◇
ユリカ:あらいらっしゃいケイトくん。ごめんね、ちょっと散らかってるけど。どうぞどうぞ。
ケイト:すみません、突然お邪魔して。
ユリカ:いいのいいの気にしないで。亜子(あこ)まだ帰ってきてないけど、座ってて。なにか飲む?
ケイト:いえ、おかまいなく。
ユリカ:いいの、いいの私もちょっと休憩しようと思ってたし。紅茶でいいかな?
ケイト:ありがとうございます。クッキー焼いてきたんでよかったらどうぞ。
ユリカ:えー、うれしい! ケイトくんのクッキー美味しいのよね。
ケイト:ええ、ユリカさんがそう言ってたから、また焼いてきたんです。
ユリカ:やさしいなあケイトくん。いつも思うけど、亜子はいい彼氏つかまえたよね。
ケイト:(小声)そんなこと、ないと思います。
ユリカ:え? なにか言った?
ケイト:なんでもありませんよ。それより、ユリカさんにプレゼントがあるんです。これ。
ユリカ:……え! こ、これって! アーサーの缶バッチとストラップ! え、え、なんでなんで!?
ケイト:『クロスジャッジメント』のイベント行ってきたんですよ。で、ユリカさんアーサー好きだから喜ぶかなって。
ユリカ:喜ぶよ! もらっていいの!? うれしー、まじーうれしー! ああ、アーサー!! なんてかっこいいのアーサー!!! ダメ、無理、死ぬ! ああ、結婚したい!
ケイト:(笑う)かわいいなあ、ユリカさん。
ユリカ:いや、かわいくはないけど! アーサーがかっこよすぎて! すっごく欲しかったの。でも仕事と家事で忙しいから諦めてたのよね。本当にありがとうケイトくんー! あーうれしいー!
ケイト:いいんですよ、そんなに喜んでもらえて嬉しいです。
ユリカ:はあ、かっこいい……アーサー……鞄につけよ。ああでも、落としたらやだな。しまっとこうかな。
ケイト:ところで、ユリカさん、アーサーって17歳ですよ。
ユリカ:……う、そ、それを言わないでよ。年甲斐がないのはわかってます。いいじゃないの、二次元なんて夢を見るためにあるんだから、私の年は関係ないの。ケイトくんの意地悪。
ケイト:そうじゃありません。ちなみに俺、昨日18歳になりました。
ユリカ:あ、そうだったんだ、おめでとう! ごめんね、何も用意してなくて。亜子なにも言ってなかったから。知ってたらご飯もっと豪華にしたのに。あ、食べていくよね?
ケイト:いえ、ちょっと今日は……すぐ帰ります。多分、その方がいいと思うので。
ユリカ:何か用事? 残念だな。そうだ、お金払わなきゃ。お駄賃も含めて多めに出すね、いくらだった?
ケイト:いりませんよ。プレゼントです。
ユリカ:何言ってるの、プレゼントされるのはケイトくんの方でしょ。だめよ、えっと、これくらい?
ケイト:いりません! 絶対に受け取りません。ユリカさんにプレゼントするために買ってきたんですから。
ユリカ:ええ、困るよ! ダメよ、はい受け取って。
ケイト:無理やり渡しても無駄ですよ。帰りにポストに落として帰ります。
ユリカ:頑固だなあ、ケイトくん。わかった、じゃあ、こうしよう! 亜子に渡すからデート代にして?
ケイト:……すみません、俺、亜子ちゃんとはもうデートはしません。
ユリカ:え、え、なんで?
ケイト:別れましたから。
ユリカ:……え、なにそれ聞いてない。
ケイト:もともと、恋人っていうより友達の延長でしたし。亜子ちゃんはいい子で大好きですけど、彼女っていうのとはちょっとちがうなって。亜子ちゃんもそこは同じ意見でした。これからは友達として仲良くやっていこうねって話してるし、実際そうしてます。
ユリカ:そうなの? 仲良さそうに見えたのに……え、じゃあ、今日は何しにきたの? 友達の家に遊びに?
ケイト:今日はユリカさんに会いに来たんです。迷惑でしたか?
ユリカ:私に? ……うん、別にいいけど。変わってるわね。元カノのお母さんに懐くなんて。さてはマザコン?
ケイト:違いますよ。ユリカさんのことが好きなんです。
ユリカ:え? あーありがと、私も好きよ。ケイトくんイケメンだし。家事もできて、成績もよくて、スポーツも得意なんて……少女マンガに出てくる王子様キャラかー!ってつっこみたくなるなんて、亜子はよく言ってるのよ。
ケイト:そんなことありません。普通ですよ。
ユリカ:普通じゃないと思うけど。でも、ケイトくんと話すの楽しみだったのにな。ケイトくんが、亜子と別れたってことはもうここにも遊びに来ないってことか。……ちょっと、寂しいかな。
ケイト:いい方法がありますよ。ユリカさんが俺の彼女になってください。
ユリカ:……は? あ、冗談か……もう、おばさんをからかいに来たの? やめてよ恥ずかしいから。私、高校を卒業してすぐに亜子を産んだから、そういうの慣れてないのよ。いやだ、どきっとしちゃった。
ケイト:知ってます。高校生のとき付き合っていた彼氏に妊娠を告げたら音信不通になったんですよね。
ユリカ:亜子に聞いたのね。はは、笑っちゃうでしょ? 学生だった私にとって社会人の彼氏は大人で魅力的に見えたんだなー。今思えば馬鹿だよね。
ケイト:そんなことありません。一人で育てたユリカさんはえらいと思います。
ユリカ:ありがと、優しいねケイトくん。そりゃ不安しかなかったけど。でも産まないって選択肢が思い浮かばなかったのよね。逃げた父親は今でも殺してやりたいけど、そのおかげで亜子に会えたし。健康でいい子に育ってくれてるから後悔はしてない。
ケイト:俺はその男にはすごく腹が立つし、ありえないと思いますけど、ちょっと感謝もしてます。真面目なユリカさんのことだから、もしその男が責任を取っていたら、俺の入り込む隙間はなかったと思うし。
ユリカ:ケイトくん?
ケイト:俺は本気ですよ。ユリカさんが好きなんです。
ユリカ:ちょっと……え、ケイトくんたら、お友達と賭けでもしてるの?
ケイト:俺がそんな男だと思いますか?
ユリカ:思わない。
ケイト:よかった。じゃあはっきり言いますけど。ユリカさん、俺と付き合ってください。
ユリカ:え……待って待って待って! ケイトくんは亜子の彼氏なのよ? あ、元、か。元だとしても、娘の彼氏だったことに変わりはないし。
ケイト:亜子ちゃんには話してあります。ユリカさんの事が好きになったから、告白したいって。
ユリカ:え、ええー?
ケイト:亜子ちゃん、お母さんをよろしくね!って頭を下げてくれました。
ユリカ:亜子! なんでそうなるの! 嫌だ私、教育間違えたのかしら?
ケイト:間違ってませんよ。亜子ちゃん言ってました。お母さん隠してるけど、ケイトのこと気にしているのバレバレだって。お母さんにも幸せになってほしいって。
ユリカ:……やだ、ちょっと、何言ってるの! そんなわけないでしょ。
ケイト:違うんですか? ときどき、この家に遊びに来たとき、俺とユリカさん、意味もなく目を合わせたままなことありましたよね。俺が亜子ちゃんと話しているのをユリカさん辛そうな目で見ていたことありました。あれは、俺の勘違いですか?
ユリカ:……気のせいよ。
ケイト:俺のことどう思ってますか? 好きですか?
ユリカ:それは……もちろん好きよ、ケイトくんいい子だし。その、息子とか弟、みたいに?
ケイト:逃げないでください。
ユリカ:だって、ありえないでしょ、いくつ年が離れていると思ってるの。亜子と別れたって、ケイトくんならいくらでも彼女候補がいるでしょう? 若くて可愛い子が。
ケイト:俺はユリカさんがいいんです。俺はまだ18で頼りないかもしれないけど、大学入ったら本格的に会社を立ち上げる予定なのは、亜子ちゃんから聞いてるでしょ? これからは俺が一緒に背負います、ユリカさんの人生を。
ユリカ:……ダメよ。お金の問題じゃないし、そのお金はケイトくん自身とケイトくんの大切な人のために取っておくべきよ。
ケイト:俺はユリカさんに頼られたいです。若くて頼りないというなら、ユリカさんが教えてください。いろいろと。あ、変な意味じゃないですよ。……いや、変な意味でもいいんですけど。
ユリカ:何言ってるの馬鹿じゃないの!
ケイト:嫌ですか?
ユリカ:……嫌とかじゃなくて。
ケイト:幸せになりたくないんですか、ユリカさんは。
ユリカ:幸せ? そんなの……私は亜子が幸せならそれで……亜子を幸せにすることだけで精一杯で。急に言われても無理よ。考えられない。
ケイト:でも考えるべきだと思います。亜子ちゃんだってそれを望んでいると思います。ユリカさんの幸せに、俺は必要ないですか?
ユリカ:そんなこと言われても。無理だよ……私はもうオバサンなの。今はよくても、絶対……
ケイト:ユリカさんは綺麗ですよ。俺にとっては誰よりも。
ユリカ:そんなことない、私なんて……ケイトくんに想ってもらえるような女じゃない。
ケイト:勝手に決めないでください。それは俺が決めることです。
ユリカ:とにかく、ケイトくんは若いから、若いがゆえの気の迷いってやつよ! もう、おばさんをからかうのはやめなさい! あーおばさん、本気にしちゃうところだったじゃない! あぶないあぶない!
ケイト:冗談に、したいんですか?
ユリカ:だって冗談じゃない。うん。だって私、こんなのどうしていいか、わからない。
ケイト:まだ聞いてませんよ。俺のことどう思っているのか。冗談にしたいなら、言ってください。「好きじゃない」って。
ユリカ:それは……
ケイト:どうなんですか?
ユリカ:……言えない……
ケイト:ねえ、ユリカさん、どう思います?
ユリカ:なにが?
ケイト:ユリ、ユリカ、ユリカちゃん、ハニー……呼び方どうしようかなって。
ユリカ:ちょっとまって、なんで呼び方を変える話になるの?
ケイト:だってユリカさん、って他人行儀じゃないですか? 俺としては、呼び捨てがいいな。ユリカさんも呼んでください、ケイト、って。
ユリカ:いや、呼ぶわけないでしょ。呼べないよ、そんなの。
ケイト:若気の至りだって言われるのは想定内です。だから20歳になってから告白することも考えたんですけど、無理です。2年も待てません。その間にユリカさんを狙う男が来るかもしれないし。
ユリカ:いないよ、そんな人。
ケイト:今はいなくてもこれから出会うかもしれないでしょ? だから、18歳ですけど、告白しました。ユリカさんが好きです。付き合ってください。
ユリカ:だから、それは……
ケイト:……
ユリカ:……
ケイト:いいです。返事はすぐに、とはいいません。でも、諦めませんから。今日はこれで帰ります。
ユリカ:そ、そう、そうだね。うん、それがいいと思う。
ケイト:また、来てもいいですか?
ユリカ:え? うん、でも……
ケイト:ユリカさん(抱きしめる)俺を信じて。
ユリカ:は、離して、ケイトくん。
ケイト:嫌です。
ユリカ:本当にダメ、さっき魚さばいたから、匂いが……
ケイト:気にしません。
ユリカ:魚の匂いしかしない女なのよ私。……ねえ、本当に離して。大声出すわよ。
ケイト:そんなに嫌ですか?
ユリカ:……困るから。
ケイト:わかりました。じゃ、お邪魔しました。また、来ますね。
ユリカ:う、うん……気をつけて。
(ドアが閉まる)
ユリカ:……(ため息)なんなの、どういうこと……どうしたら、いいの。そりゃ、私だって……でも、無理だよ。ケイトくん……ケイト……馬鹿じゃないのかしら。
(亜子帰ってくる)
ユリカ:ああ、おかえり。ごめんね、すぐごはんにするね。……ううん、なんでもない。ちょっと……疲れただけ。
END
娘の彼氏 ~ユリカさんの場合~ (1:1)