不思議なお友達☆

みなみ☆たえと

病院に入院している女の子のお話。

「菜の葉ちゃんヘ
急に入院なんて大変だったね。お見舞いに来たけど検診中みたいだったので、私の作ったケーキを机に置いていくね。
それから私のお友達と仲良くしてあげてね、よろしく。 美野里(みのり)より」

 ふいな出来事から、私はしばらく入院している。今日は検診中に、いとこのみのりちゃんがやって来たようだった。
サイドの机にリボンのかかった箱と小さなクマのぬいぐるみ、それとこんな手紙が置いてある。彼女はケーキ屋さんの職人なのだ。

毎日オルゴールの音楽が漂う素敵な店内で、美味しいケーキを作っている。
私はよく学校の帰り道に、入り口に飾ってある可愛らしいクマのぬいぐるみに誘われてよく通っていたのを思い出す。

 さっきから、最後の文章が気になってしかたがない。お友達、って誰だろう?あたりを見渡しても、今はここには誰もいない。(小さな病院なので、私は個室だったのだけれど。)

少し開け放した窓から、春のさわやかな風が吹き込んでいる。柔らかな午後の光に包まれて、私はおもむろにそのリボンをほどいて箱を開けようとした、その時。

 ジジジ、もぞもぞ……。

何だろう?箱の横に置いてあったクマちゃんが動いたみたいだ。
よく見ると、後ろがポーチになっていて、そのジッパーが、ひとりでに開きかけている。

 「ふぅ、あぁ~よく眠った。あれもうついたのか?」

 私はもう一度目をみはった。小さなポーチの中から、さらに小さな男の子がひょっこり顔を出していたのだ!

一瞬は驚いたけれど、その仕草がおもちゃみたいであんまりかわいくて、思わずクスクスと笑いだしてしまった。
こんなに暖かな午後の陽射しの中だもの、不思議なことがひとつやふたつ起きたって、おかしくない。

「くすくす、小さなお客さま、あなたがみのりちゃんのお友達ですか?」
「君がナノハだね?そうさ、おいらはミノリの友達。働き小人のコポっていうんだ!!」

 小さな小さなそのお客さまは、にかっと私に笑いかけて、元気よく自己紹介をしてくれた。

働き小人?そういえば昔みのりちゃんに読んでもらった絵本のなかに、そういう妖精の話があった気がする。
台所や倉庫なんかに住んでいて、その家の住人となかよくなればいろいろとお手伝いをしてくれる小人さんたちだ。
確かお礼は一杯のミルクか甘い果物や、お菓子で。
洋服や靴なんかを間違ってあげてしまうと怒って二度と目の前に現れなくなるという不思議なお友達なのだ。

 「おいらはミノリが働いているケーキ屋さんの工場に住んでいるんだよ。ミノリはとっても優しい子だから、困ってる時はいつもおいらが助けてあげてるんだ!だからナノハのところにも来てあげたんだ!!」

 「そうなんだ、来てくれてありがとう、コポ。」

 私が手を差し出すと、小さなクマちゃんから出てきて、なんのためらいもなくちょこんと座った。
私はもっとこのお友達を近くで見たくて、手のひらに乗った彼を顔の前までもちあげた。彼は小さな緑色の瞳で、心配そうに私を見上げている。

「ミノリからいろいろ聞いたよ。大事なナノハが一人で淋しい思いをしているって。だから君が本当のおうちに帰れるまでは、僕がここにいてあげるよ。」

「それじゃあ、今日からは私たちお友達ね?」
「もちろんだよ!君はミノリの知り合いだもの。よろしくな、ナノハ!!」

 それから私たちはふたりで仲良くみのりちゃんの作った美味しいケーキを食べた。
かわいい苺がまわりにたくさん飾ってあって、真ん中には甘酸っぱい薄ピンク色の苺ムースがふんわりとのっかっているやつだ。そして、みのりちゃんの優しい字で”はやく元気になってね!”と描いてあるチョコのプレートもついていた。

私はとっても嬉しくなって、おもわず顔が自然にほころんでいくのを感じた。

「このケーキとってもおいしいね、コポ。」
「うん!!このケーキはね、”いちご畑”っていう名前なんだよ!おいらも飾りを手伝ったんだぃ。」
 
コポがとても自慢げに胸をはって名前を教えてくれる。なるほどこのケーキにピッタリだなと思った。だってほんとにこのケーキは苺のお花畑みたいなんだもの。

 一度店内の奥をちらりと覗いたことがあったけれど、職人さんやエプロン姿のお姉さんたちの元気なかけ声が飛び交う中で、白い調理服を着たりりしい姿のみのりちゃんが、とても熱心にケーキを窯からだしたり、クリームを塗ったりしていた。みんなとても忙しそうだったけれど、その分とても楽しそうな顔をしていた。
あの銀色の作業台の合間を、コポたち働き小人が苺や飾りなんかを頭にかついで、とっとこ走りまわっている様子がなんとなく目に浮かぶ。みんな一生懸命で。あれなら美味しいケーキができるはずだ。

私はきっとみのりちゃんがいなかったら、もちろんコポにも出会えていなかっただろうけれど、このケーキにもやっぱり出会えていなかった事だろう。

 時間はあっという間に過ぎて、明日はいよいよ手術をすることになってしまった。
私はいずれやってくるもの、とあまり考えないようにしていたのだが、前日の夜はやっぱり不安でしかたがなかった。
白いベッドの上にうつぶせになって、枕に顔を埋めてみても、なかなか眠れなかった。

「ねぇ、コポ。明日わたし大丈夫かな。」
「もちろんさ!ナノハは強い子だもの、へっちゃらだよ!!」

いつもはサイド机の引き出しの中で眠っている彼だったが、今夜は枕もとに居てくれている。

「明日は一緒にはいられないのよ、コポ」
「そうなの?でもナノハはぜんぜん大丈夫だよ。」

もう消灯の時間はとっくに過ぎていて、月の光は窓のカーテンごしに、静かにこの部屋にも降り注いでいる。

「僕の勇気を君にわけてあげるから。だからぜんぜん大丈夫だよ!!」
「え、どうやって?」
「くすくす、見てて。」

そう言なり、彼は不思議な緑色の瞳をいたずらっぽく輝かせて、カーテンに潜(もぐ)り込むと、その奥の薄明るい窓ガラスを少しふんばって開けて、月光をまるでスポットライトのように浴びてこちらを向いた。

「今夜はお月様も味方してくれるって。ナノハに僕の魔法をあげるよ!!」

 コポの小さな人差し指に、一瞬月光がさあぁっと集まってきたような気がした。これは夢なんだろうか?

いいえ、だって私はぜんぜん眠くなんかないもの。
だからこれはきっと夢じゃない。

その光に優しく包み込まれていると、不安な気持ちがだんだんと消えていくような気がした。

 コポに勇気の魔法をもらったから、明日はきっと、私はぜんぜん大丈夫だ。

                              

☆終わり☆

不思議なお友達☆

このお話に登場するケーキ「いちご畑」や厨房内の様子は、神戸市北区のケーキ屋さん『果樹工房ユーカリプティース』さんをモデルにさせて頂きました。(許可済)
以前、高校生の作者がバイトさせて頂いていたお店で、地元では大変人気のケーキ屋さんです。よかったら、サイト覗きに行ってみてください。美味しそうなケーキがずらりと・・・。

お店のホームページはこちら→ 果樹工房ユーカリプティース https://eucaly.shop-pro.jp/

不思議なお友達☆

病院に入院している女の子が見た、一晩の素敵な体験のお話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
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