奇天烈! エンサイクロペディア

雨の降らなかった日

その日は一日雨が降らなかった。傘を持って出かけなかった。そもそも出かけなかった。『出かけなかった』というのは事実ではなかった。空気は澄んでいなかった。行きかう人たちと挨拶を交わさなかった。そもそも誰ともすれ違わなかった。人懐っこいのら犬やのら猫が足元にじゃれ付いてこなかった。小鳥がさえずらなかった。木の葉が風にそよがなかった。太陽が照り付けなかった。そもそも顔を出してはいなかった。『雨が降らなかった』というのは事実ではなかった。雨はやさしくも厳しくもなかった。雨は雨でしかなかった。過剰に何かを投影しようというつもりはさらさらなかった。公園には行かなかった。まるっきり行楽日和ではなかった。ボートはひとつも漕ぎ出されていなかった。この目で見たわけではなかった。つまり事実はそうではないかも知れなかった。想像の域を出なかった。貸しボートがこの時期に営業されているかどうかすら怪しいものでしかなかった。公園のことになんてほんとはまったく関心がなかった。春の晴れた日などにはほんとうにとても気持ちの良いところなのだと自分に言い聞かせ公園を悪く言ってしまったことを心の中で取り繕ってみたけれどもそれにあまり意味はなかった。友人の家を訪ねなかった。その扉をひらき雑然と靴が散乱している靴脱ぎのスペースを目にして、「何人お客さん来てるの?」と皮肉めいたことを訊ねなかった。「お茶のひとつも出ないのか……」とか、「いくら親しい間柄とはいっても、建前として少しくらいは歓迎的なムードを演出してもらいたいもんだ」といったような不満も口にしなかった。友人とふたりでテレビなどを見てそれを肴にしながら、しばらく顔を合わせていない間にそれぞれの身に起こったあれやこれやについて言葉を交換し合わなかった。会社や恋人や配偶者の愚痴を聞かなかった。友人がひとりもいない、というわけではなかった。事実としてそう言って言えないことはなかった。図書館へは行かなかった。利用カードの期限が有効でなかった。そもそも有効期限というものがあるかどうかも確認していなかった。カードのありかを把握していなかった。作ったかどうかもさだかでなかった。図書館の入っている建物のエントランスホールに展示してある小学生かそれよりももっと小さな子供達が書いたり描いたりした習字や絵をひとつひとつ眺めなかった。児童書のコーナーではしゃぐ子供たちに苛立ちを覚えなかった。絵本の棚でレオ・レオニのカメレオンの本が置かれているかどうかを確かめなかった。誰とも会わなかったし、どこにも行かなかった。待ち合わせはしなかった。約束はしなかった。映画を見なかった。食事に行かなかった。買い物をしなかった。スポーツに興じなかった。植物園や動物園や遊園地や幼稚園や保育園に入園しなかった。もう子供ではなかった。そもそも良いお天気ではなかった。日曜日ではなかった。月曜日でもなかった。火曜でも水曜でも木曜でも金曜でも土曜でもなかった。曜日の感覚がなかった。“『出かけなかった』というのは事実ではなかった”というのは事実ではなかった。その日は一日実のあることはひとつもしなかった。食事は一切のどを通らなかった(三日ほど何も摂っていなかった)。お酒を飲まなかった。喫煙しなかった、と嘘を吐くのはフェアではなかった。書棚には死んだ本しかなかった、という言葉は言葉が足りず正確なニュアンスを誰かに伝えることができるとは思えなかった。本は捨てなかった。街も出なかった。橋には火を放たなかった。夜には果てがなかった。夜ではなかった。昼間とも言えなかった。何も言いたくなかった。何も言うことがなかった。その日は一日起きてはいなかった、という申告は後で取り消される可能性が全くないとは言い切れなかった。嘘をついたことはなかった。他人を傷つけたり不快な思いをさせたりしたことは一度としてなかった。これらは願望ではなかった。事実ではなかった。知らなかった。ほんとうに知らなかった。帰る場所はなかった。そもそも記憶がほとんどなかった。取り戻したいという気持ちはなかった。

けなげな人 (作業中)

発端は和恩年間の出来事であるというから、今からもう数百年も昔のことである。
彼女はまだ二十歳にも成るや成らずといったところで、子供はなかったが、夫と二人、慎ましやかに暮らしていた。

ある時、やむにやまれぬ事情で、夫が何処やら遠方に出向かなければならないこととなった。
夫婦の住まいは丘の麓にあり、彼女はその頂上の多寡の樹の辺りまで出て、夫を見送った。
一年が経たぬうちには帰るだろう、という話だったが、彼女はそのあくる日から、日没近くにはそこに立って夫の帰りを待った。

一年が過ぎても夫は帰ってこなかった。
さらに幾月かが経ったが、便りもなく、夫に関する些細な風聞も聞かれなかった。
女は何事も手に付かず、ただ多寡の木陰で待ち暮らすことが多くなった。

さらに一年が過ぎた。
彼女は多寡の樹の陰に、日よけの傘と敷物とだけでできたような粗末な小屋を組んだ。
樹の根方に背を預け、遠い方を見て、ずっと眠らずに待ち続けた。

さらに幾年かが過ぎた。

ある冬の夜、雪の中凍えて夢うつつで、もう女がそのまま雪や夜に霞んで消え入ってしまいそうになっていた所に、偶々訪れた男があった。
男は仙術をかじったことのある者だそうで、事の経緯を聞くと、「何時までも待ち続けていたいのであれば、不老長命の秘術を授けよう」と言った。
以来、彼女は老いを知らぬ身となった。

いつしか丘を街道が通った。
街道の踏み固められた土に、旅人相手の店々の瓦屋根が、凹凸のある長い影を落とした。
彼女は粗末な小屋で、行き来する人たちを眺めた。
誰彼となく食べ物や賽銭等を置いていくようになった。

彼女は待った。
四葉のクローバーのような幸運をもたらしてくれる錬金術や、人魚の秘薬のことなども伝え聞いて、道行く人に訊ねたりもした。

時代が流れると共に、街道は廃れ、丘は元のような静けさを取り戻した。

(以下、作業中)

月天使

(二日)

薄暗い帰路をとぼとぼと辿っていて、天使がいるのに気が付いた。ものかげからこちらの様子をずっと盗み見ていた。隠れているつもりなのだろうけれど、翼の先がひょっこり出ていた。円光もうっすら光っていたので、これは天使だなと考えた。さまざまなものを巧みに利用しながら、家に帰るまで付いてきていた。

(三日)

やはり天使は、帰宅するぼくの後をつけてきていた。手帳とペンを持って観察している様子だった。前の日と同じに身を隠していたが、少しだけ身体を乗り出してきているように見えた。

(四日)

もうあまり隠れる気はないらしく、身体の三分の一にちょっと足りないくらいが見えていた。にっこりと柔和な笑みを浮かべていたので、全く悪意は持っていないということがこちらにも伝わってくるようだった。



(八日)

半身くらいを顕わにし、あいかわらずじっと視線を送ってきていた。距離をつめてこようとする様子はなくて、いつでも同じだけの間隔を保ってついてくる。守護天使や記録天使とかいうものなのかも知れないと考えるようになった。


(十三夜)

帰宅時のちょっとした楽しみのように感じることができるようになってきた。近づこうとしたり、話しかけようとしたりすると、逃げ出してもう戻ってこなくなってしまうかも知れない。何もしない分には嬉しそうにこちらを眺めている。



(十五夜)

両の白い翼は円光が発する淡い光を受けて輝いているように見えて、全身を現した天使は、気を抜くとずっといつまでも眺めていたくなるような、近づいてみたくなるような、手を伸ばして手のひらにぎゅっとつかまえてしまいたいという衝動を抑えきれなくなるような、思わず崇拝したくなるような、改宗したくなるような、懺悔して何か自分の罪を許してもらいたくなるような、魂を捧げたくなるような、そんな神々しさを備えていた。結局、振り返りふりかえりして、名残を惜しみながら、いつもよりゆっくりと時間をかけて道をたたんでいった。



(それから)

同じだけの日数をかけて、天使は徐々に姿を隠していった。二十八日目くらいになると、もうほとんど最初の日と同じくらいにしか見えていなくて、それで視線を遣るとしきりに手を振ってくるものだから、ああこれでお別れなのかと少し寂しくなった。次の日は天使は全く姿を見せてくれず、暗い街路を電灯の明かりだけを頼りに、ものかげを覗き込むようにしながら空々しい気分で歩いた。その翌日もやはり同様で。



(ふたたび二日)

薄暗い帰路をとぼとぼと辿っていて、ものかげからこちらの様子をじっと盗み見ている天使がいるのに気が付いた。隠れているつもりなのだろうけれどもやはり翼の先がひょっこり出ていた。視線が合うと親しげに小さく手をかざして挨拶を送ってくる。いつかはほんとうにいなくなってしまうのかも知れないけれど。年に4センチくらいずつ遠のいていってしまうのかも知れないけれど。

空飛ぶ小説家

部屋で細々とパソコンに向かい小説らしきものをどうにかこうにか書き上げようとしてどうにもこうにも全く書けないでいたその人は気分転換にまあ気分転換しようなんて構えて考えたことはそれまで生きてきたうちでたぶん一度もなかったのだけれどその時気の迷いで魔が差したみたいに何かの手違いでどこかの誰かの思い立ちがその人に宛てて誤配達されてきたような具合でちょっと散歩にでも行くことにした。

窓の外はカーテンにかくれていてそこは二階でバルコニー風なものもベランダもなくてとかそういうけっこうどうでもいいことをもし彼のその様子を見ていた人がいたとしても考えさせるいとまもない具合にあっさりと窓をくぐって猫みたいに身体を空中に投げたその小説を書いていたというか少なくとも書こうとしていた人は代々空を飛べる家系の人だとか何とかいう話で子供の頃両親はわりとしつけに厳しいほうだったから空の飛び方もとても格好が付いていて三つ子の魂百までで彼はきっと幾つになってもどんな事態でも身体の許す限りきれいなフォームで飛ぶんだろうって仮の観察してる人も思うことだろう。ちょっとしたところでその人の人となりや育ちみたいなものが感じられるような時ってあるものだ。

夏の終わりが近い感じの空気みたいなものなんて彼はまったく感じない。普段からあまり季節感の持ち合わせなんてないのだけれどその時はとくにとても気分がなんというか切迫とか焦燥とかしているみたいな状態だったのでご近所さんの目もまるで気にならなかったし一応は夜なので大丈夫だろうという計算はあったかも知れないけれどそんなことをうっすらとでも気にしたか意識に上らせたかなんてこともどうでもよすぎていらだちの種になるので彼はつとめて考えることもしないようにしたとか書くと何だか悲壮な印象がするようだけれども特別そんなことはなくて気分転換のための散歩の理由の小説を書くこと自体が彼にとっては気分転換みたいなものに過ぎないとも思われるので本人はそれがうまくいかなくて悲壮とかなんとかそんな気分なのかも知れないけれどよそ目に見たとすればというか小説を書こうとしていて思い直して窓をくぐりいま空に浮かんで電線を慎重に避けちょっと高度のあるところまで泳ぎ出てそこらあたりを空中徘徊してるその人が誰か友人にでも電話して訊ねてみたとしてもぜったいに同じような彼の状態についての評価が聞けるだろうと思う。彼はたぶんただの不審な飛行者だ。

少し遠いところにコンビニの看板が光っている。近くの友人の住居のほうに目をやってみるけどそちらはカラスか何かが一面に隙間なくぎゅうぎゅうと群れているかのようだとか表現できなくもない感じで夜はけっこう更けていてそんな空間が点在しているというよりも辺りはそういう黒いかたまりに占められている部分のほうが多かった。慣れないことはするもんじゃなくて特に行くあてもないし散歩っていうのはもともとそういうものなのかも知れないけどもその人は夜風で頭が冷やされたことも手伝ってか「無意味なことをしているな」って気分になり上空を見ると雲でふたしてあるのがわかるし明日のことを考えると無駄に夜更かしして体力をつかっても仕方がないようにも思えるしででもその明日のために体力や何かを温存しておこうっていうのは何だかばかばかしいような貧相なような自分にたこ糸でも付けられているみたいなような嫌な考え方だなという気持ちにもなったんだけれどもたこは糸がないときれいに飛べないから必要なもんなんだからと前向きにとらえるよう自分を諭し騙しすかし納得させて結局それでその散歩は終わりになった。

西くんの家に遊びに行ったときの記録

お寺さんをやっている西くんの家へ遊びに行くついでに、お祖母ちゃんが書いた写経を持たされて、それを届けると共に続きの分の手本をもらってくるよう頼まれる。途中で、なぜか岩にはさまれていたサルを助けて懐かれたり、その他多くの動物や河童や龍などにも懐かれてそのまま引き連れて行くことになって、西くんのお宅を大いにお騒がせすることになる、その記録。

イルミネーション

春のはじめ、いちめんに枯れ色だったものが、つむっていた数知れない小さな目を、ひとつずつ、うっすらと開いていくようにして、ところどころで、ほのかにあかい色をまぶたに差して、明日か、そのまた明日か、と、待ち暮らしているうちに、いつか、ぜんたいが桜いろに染め上げられている。春には、地球は桜色。仲むつまじい家族づれが、軌道の上にレジャーシートをしいて、行楽をする。

さようならもいわず、春の日は、手品で、瞬きをする間に去っていて、地球は、みずみずしいいのちが、窓に降った雨つぶみたいに、はりつめ、ふるえる、滴りそうな緑の球に変わる。近くを行き来する船の、アンテナがひろうノイズは、風を呼吸する、木の葉ずれの音ではなくって、セミたちが世界を讃える、その歌の、声が、そこまで届いているのだ、という。洗濯機の駆動音みたいに、耳に、からだに、響き、リラックス効果をもたらし、船乗りたちを快適な眠りへと誘ってくれる。

さいごのセミが地面に落ちて、もとの土に返るころ、地球はすみずみまで、紫や赤や黒や白、とりどりの、コスモスにやさしくおおわれる。はてのないコスモス畑で、迷子になった文学少女が、わたしはここにいますよ、って、空に向かってあいずしているのが見える。地球は点滅せず。救助の信号は出されていない。秋が深まり、地球が紅く色づくと、これもまたちょっとした見物で、年間を通して、この時期が最も眺めに訪れる人が多い。

それから後は、真っ白い雪玉みたいになったり、電飾を巻き付けられたり、赤と白とに区切られたり、極点近くに星かざりをのせられたりと、年の暮れまで忙しい日々を過ごす。メンテナンスなどの期間中は、黄色と黒のラインでお知らせしてくれる。地球が青いだけであったのはもう遠いとおいい昔の話。四季折々によそおいを変えて、見る人々を楽しませる。

ふゆの幽霊

ふゆ

ふゆの

ふゆのゆ

ふゆのゆう

ふゆのゆうれ

ふゆのゆうれい

ふゆのゆうれいは

ふゆの幽霊は

冬の幽霊は

冬の幽霊は、

冬の幽霊は、じゅ

冬の幽霊は、じゅも

冬の幽霊は、じゅもく

冬の幽霊は、じゅもくの

冬の幽霊は、樹木の

冬の幽霊は、樹木のさ

冬の幽霊は、樹木のさけ

冬の幽霊は、樹木のさけめ

冬の幽霊は、樹木のさけめや

冬の幽霊は、樹木の裂け目や

冬の幽霊は、樹木の裂け目やお

冬の幽霊は、樹木の裂け目やおち

冬の幽霊は、樹木の裂け目やおちば

冬の幽霊は、樹木の裂け目やおちばの

冬の幽霊は、樹木の裂け目やおちばのし

冬の幽霊は、樹木の裂け目やおちばのした

冬の幽霊は、樹木の裂け目やおちばのしたで

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でふ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でふゆ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でふゆを

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で冬を

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で冬

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でえ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でえっと

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でえっとう

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でえっとうす

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下でえっとうする

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
みつ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
みつけ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
みつけて

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
みつけても

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけても

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっと

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとし

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとして

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしてお

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておい

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいて

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
はる

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
はるが

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春がき

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春がきた

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春がきたら

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が着たら

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、き

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、きみ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、きみに

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君に

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にい

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいち

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちば

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばん

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんに

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにし

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしら

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしらせ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしらせて

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしらせてく

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしらせてくれ

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしらせてくれる

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしらせてくれるか

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんにしらせてくれるから

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんに報せてくれるから

冬の幽霊は、樹木の裂け目や落葉の下で越冬する。
見つけてもそっとしておいてあげよう。
春が来たら、君にいちばんに報せてくれるから。

人生相談

王様から魔王討伐を命ぜられ困惑しています。15歳、職業は一応『勇者の息子』です。

父である『神にも見紛う英雄、兎の足持つイナバ』は5年前、魔王討伐の途に赴き、しばらくは、快進撃を続けている、という知らせが遠い異国からも届いてきたりなどしていたのですが、2年ほど前、不意に行方を露と晦まして、それっきり何の音沙汰もなくなってしまいました。王様は僕を父の後釜に充てようと考えているのです。

父が旅立った後には、母と僕と、それからまだ幼い、育ち盛りの弟妹達とが残されました。もちろん王様からの、僕達勇者家族への手当ては支給されているのですが、実際のところ、暮らしを立てていくにも事欠くような僅かな金額です。僕は学校も休学し、父に憧れ、小さな頃から日課として続けていた剣の素振りも止めにして、一家の稼ぎ頭として働かざるを得ませんでした。無心でいっしょうけんめいに働き、今ではどうにか病弱な母を含め家族9人を養うほどの稼ぎを得ることができています。

王様からは、僕が16歳の誕生日を迎えたら、正式な謁見に出向いて来るようにと言われています。もう思い悩んでいる時間もそれほどありません。

もし僕が、王様のお命じになるままに父の跡を追うとしたら、残された家族達はどうなるでしょう? 王様はきっと、父イナバのものに加えて僕の働きに対しての恩給をも残される家族に与えようと仰ってくれるでしょう。でも、それでも僕という働き手をなくした母と弟妹たちは、二倍ほどになったとはいえ、未だわずかばかりの金額をどう工面して使っていけば良いものかわからず、病人や幼い者達の面倒をみてくれる人もなく、途方に暮れ、その後の日々を泣いて暮らす、ということになるのは間違いないと思うのです。

僕だって、本音を言えば父の跡を継いで英雄になりたい。仕事や家事なんかぜんぶ放り出して世界を見てみたい。父イナバとも旅のどこかで会えるかも知れません。そして魔王を倒し、世界に平安をもたらすことができるとすれば、どんなに素晴らしいでしょう。しかし、もし出立の意思を持ちそれを明かせば、冗談でなく僕は家族に殺されてしまいます。

母からは丁重にお断りするよう言われています。弟妹達もそれぞれ進学などを控え、出費がかさむような状況でもあります。母は、はっきりとは言いませんが、もし僕が家族を見捨てて逃げ出すようであれば、他のすべてを犠牲にし、魔王討伐の旅の節目節目において、母一流の特別な訓練をほどこした弟妹達を、刺客として差し向けてくる覚悟のようなのです。

いったいどうすればいいでしょうか?

迷子のリスト

時速100キロの迷子──現迷子協会長である吉田さんの現役時代の二つ名。

おくる迷子──自身が迷子であるにもかかわらず、素人迷子たちを自宅や親元へと送り届けることを自らに使命として課している勇敢な迷子およびその団体の通称。

迷子言葉──ベテラン迷子たちの間で交わされるテクニカルターム。

迷子の居場所──世界有数の迷子後援団体の名。多くのスター迷子たちとスポンサー契約を結んでいる。世界大会を主催。

迷子狂科学者──正義の迷子と対立する悪の秘密迷子結社の首領。

密室迷子──完全な密室のなかで見事姿をくらまし迷子になるという偉業をなしとげ迷子界に革命をもたらした人。

迷子マンモス──太古の昔からずっとたった一体で世界をさまよい続けているマンモスがいるという、迷子界に受け継がれている伝説のひとつ。しばしば目撃情報が上がる。

迷子味の飴──口に含むと過去の迷子体験の際誰かに優しくされたりお菓子をもらったりした記憶がよみがえり感謝の気持ちがこみ上げ、目の前の迷子に対して何かと力になってあげたくなる飴。迷子必携のアイテムのひとつ。

あべこべ迷子──さがしているつもりが、いつのまにやらさがされていた。迷子探しが迷子に、という迷子界ではありがちな事態。ミイラ取りのミイラも迷子博物館には展示されている。

ロボット迷子──迷子支援システムの総称およびそれを使用しての迷子行為。複雑化されたより精密で高度な迷子状態を構築できるのではないかと一部では期待されているが反対意見も多い。

けなげな迷子──「家に帰りたいという純粋な気持ちを忘れてはならない、自らの迷子の才に酔わず、いつまでもけなげな迷子であれ」、という戒め。

長森さん──生涯獲得保護迷子数歴代トップの記録保持者。迷子以外からでは初めてとなる迷子の殿堂入りも果たした。

おちて迷子──滑落などを発端とする迷子。

こなくなった迷子──「ちょくちょくうちに迷い込んできてたあの迷子の子、もう迷子は卒業したから今度からは普通に遊びにくるってさ」

文学少女迷子──飛騨かどこかの山を読書しながらハイキングしていて、気がつくと不思議なカッパの国へ迷い込んでいた、という経験を持つ女の子。マッド・カッパーやチェシャ・カッパ、などという面々とカッパ・ティー・パーティーを開いて楽しんだり、裁判でカッパの女王様からあやうく首をはねられそうになったりしたらしい。

迷子漂流記──ガリバー・スウィフトという人が書いた冒険小説。迷子たちのバイブル。

夢みる迷子──「いつかは迷子界に燦然と輝くきら星に!」が合い言葉。

時間迷子── 一定時間にどれだけ迷子できるかを競う競技形式。世界迷子大会の正式種目の一つ。個人、団体、時間の長短、などでさらに細かく分類される。

迷子と温暖化──心ならずも世界を遍歴し、見聞した様々な予兆から温暖化問題をいち早く予見し迷子の立場から社会に警鐘を鳴らしたスウィフト渾身の名著。

迷子の人類──さらなる視野の拡がりを見せ、スウィフトが晩年に唱えた「人類迷子起源説」について自ら詳述した学術書。当時の人々には見向きもされなかったが、後にフィクションの題材としてたびたび取り上げられた。

迷子のリスト──迷子協会の登録者や用語のリスト。もう長い間見当たらない。

あべこべロボット

姉はロボットで、私は人間。姉は生まれながらに活発な性質でスポーツも万能ですが、私はといえばいつでも病み上がりかと疑われるような生気のなさ、あまり激しい運動や感情に巻き込んで無理をさせちゃ悪いからと、いつも、皆が一緒になってはしゃいでいるような場面でも、君はちょっとあっちで見ててね、休んでいてね、とでもいうような、妙な気を遣われることもしばしばです。姉は頭脳のはたらきも明晰で成績優秀、私はどちらかといえば間が抜けていて勉強の出来も自慢できるほどではありません。姉は性格も朗らかで友人も多く、私は人間の根が暗い、とは自分では思ってはいないんですが、よそ目には静かな内向的タイプだと捉えられがちで、ほとんど限られた人間関係の中に身を落ち着けているのが通例です。

両親は私達姉妹を“分け隔てなく”っていうのは完全には無理ですから、やはり私から見れば出来の良い姉のほうがよほど可愛がられているようにも見えたし、姉の立場から見ればやはり、ごく稀に、ほとんど奇跡のような僥倖がほんとうに偶々訪れて、普段はあまり目立たない、ぱっとしない、華のない、そんな地味な妹である私に、何かの手違いのようにスポットライトが当てられているような場合には、同様の気持ちを感じたこともたぶんあったろうかと思われるので、そのことについてはあまり気にしたことはありません。私達は両親から、ほとんど分け隔てなく育てられました。姉も私のことを可愛がってくれましたし、私も姉のことが好きでした。

姉は小中学校、高校、大学、とそれぞれの場で人気を博し、長じて現在はロボット工学の研究に勤しんでいます。その世界でも今では広く知られた存在なんだそうです。私も姉の後をしばらくは追ってみたんですが、色々とありまして、現在はSF小説を書くかたわら、知り合いが設立した、本や骨董を扱う小さな本屋さんのようなところに置いてもらっています。私にはぴったりくる、落ち着いた、静かな、小さな、居心地の良い世界です。

ばたばたとして申し訳ありませんが、ここで話が切り換わって、今度は光一君と本体君の話になります。お話の中には私と姉も登場します。そしてこれ、実は、愛の物語でもあるんです。

今では皆から本体君と呼ばれている光一君ですが、そのころは両親からも廻りの人達からも、ちゃんと名前で、光一君と呼ばれていました。一人っ子で、わがままで、ちょっと泣き虫で、すぐにふてくされてしまういじけたところもあったそうですが、笑うと無邪気な顔の、とても可愛い子供だったって言います。
光一君は他の子とは少し違ったところがあって……、とは言いません。子供っていうのはまだ世間の常識の枠に自分を当て嵌めようとはしませんから、皆それぞれが違った子供で、独自性があって、ほんとうに独りっきりの存在です。なので光一君も、そういう意味では普通の子供でした。ただ、独りで遊ぶのが異常に好きでした。近所の子供たちが誘いに来ても断って、独りっきりで遊んでいました。独りといっても、光一君の中では独りではなくて、自分が想像した友達にずっと話しかけながら、その友達に相手をしてもらって二人で遊んでいる様子だったそうです。小学生になっても、中学校に上がってからも、そのままだったそうです。

ある日光一君が学校の友達をたくさん自宅に連れ帰って来たことがあったんだそうです。いくつになっても友達の一人もつくろうとしない光一君でしたから、お母さんは喜んで、たくさんの歓迎の品々(この場合ジュースやお菓子のことですが)を携えて光一君の部屋へ入りました。とても賑やかな様子で、彼らは光一君を囲んで話なんかをしています。光一君自身も、驚いてしまうほど快活に、朗らかに、友人達に受け答えしていたそうです。その言葉の端々から溢れ出る、機智やユーモアや親しみや愛情に、お母さんは思わず涙が出てきたといいます。しばらく呆然とそれに聞き惚れていて、ふと我に返ってから、お母さんは気付きました。友達の皆が親しげに話しかけ、それに答えているのは、光一君の影でした。本体である光一君は、いつも通りに黙ったまま、でもちょっと楽しそうな表情で自分の影のほうに視線を向けていたって言います。

それからはあっという間でした。光一君の影は私の姉と同じで完璧で、友人はもとより、家族、親類などなどあらゆる関係性の中で一躍人気者となりました。皆が彼を光一君と呼ぶようになりました。いつからか彼は、本体である光一君から離れて自律することができるようにもなっていました。それでも光一君と本体君とは特別に仲が良くって、ほとんどいつも彼らは一緒にいました。

二人は仲良く同じ道を歩いて、心理を学んでいくことに決めたんだそうです。影である光一君が自律できるようになってからは、独りでいる時間が増えてきたからか、環境が変わったからかはわかりませんが、本体君にも彼だけの固有の友達が少しずつできていったのだそうです。影の光一君のように万人に好かれるというわけではありませんが、何というか、本体君にも彼独特の、玄人好みな魅力といったようなものがあって、一部では、高まる、ってほどではありませんけれども、静かに、それなりに、その魅力が浸透していき、交友が育まれていったんだそうです。

世の中に“ロボット心理学”というものへの要求が生まれ、その関係で、私の姉と光一君達は知り合う機会を得ました。姉と影の光一君というお似合いの二人はやはり間を置かず、お互いに惹かれあうようになりました。「光一さんを紹介したいから」と姉が、思わずカタカナで表記したくなるような、身内の者に対するいつもの普段着な口調で連絡を寄こしてきて、その席で、私は最初に、影である光一君に自然と随伴してやってきていた本体君を知りました。それからもそれぞれの家族の顔合わせや、姉と光一君との式、その後の新婚旅行になぜか私と本体君も誘われ深い考えもなく着いて行くということなどもありまして、私達二人の仲も徐々に深まっていったという次第です。

ついで、犬の話です。

ある犬が、食べ物をくわえて、川を通りかかりました。なんでそこに来るまでの間にくわえているものを食べてしまわなかったのか、という疑問については、簡単に、そういった場合も有り得るとして、置いておくことにします。さて、橋を渡りに掛かった犬ですが、何やら心づき、欄干に前足掛けて川を眺めます。水面は静かで、鏡のように彼の姿をはっきりと映したといいますので、もしかすると川ではなく湖か何かであったかも知れません。犬は「あいつのくわえているもののほうがうまそうだ」と考えて、「こっちによこせ!」と吠えかかったところが、口がお留守になって食べ物を水に落としてしまいます。後には水音の余韻だけが空々しく残ったかも知れません。
この話について、本体君は「犬はまず、自分の持ってるものを食べてから事に当たるべきだった」と言いました。
もしかすると私のこのお話も、愛の物語なんてものではなくって、“何事も自分のものをかたづけてから”、っていうことだけについてのお話だったのかも知れませんね。

奇天烈! エンサイクロペディア

奇天烈! エンサイクロペディア

短い読み物をいくつかまとめています。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 雨の降らなかった日
  2. けなげな人 (作業中)
  3. 月天使
  4. 空飛ぶ小説家
  5. 西くんの家に遊びに行ったときの記録
  6. イルミネーション
  7. ふゆの幽霊
  8. 人生相談
  9. 迷子のリスト
  10. あべこべロボット