モンモンビバノン

モンモンビバノン

 先日、BARにて。
 カウンターで一人飲んでいたとき、隣に座っていた若い男女と親しくなった。
 
 きっかけはこちらから。
 珍しい種類を飲んでみたいと、次の一杯に悩んでいた彼らへ話しかけ、
僕の好きなウイスキーベースのハイボールをお奨めした。
 彼らはハチミツの甘さとスコッチの香ばしさ、その二つが同居する味わいに満足していた。
「まるでパンケーキみたい」
 女性の方はそう言って、子供みたいにはしゃいでいた。
 
 金髪にピアス、ピンク色の髪に鼻ピ。
 一見やんちゃそうな風貌であるが、自然と耳に入ってくる会話から、二人とも常識をもって酒を楽しめるタイプだと分かった。
 
「実は俺、四十越えてんのよ、四十一。もうすぐ二」
 僕の言葉にアラサーの二人が驚く。
「嘘だぁ、マジで?俺、三十五くらいだと思ってましたよ」
「あたしも。肌つるっつるだし」
 お世辞だとしても、おじさん嬉しい。
 
 特に男性とは、互いに一杯おごりあうほど意気投合し、音楽やファッション、女性が席を立った際には風俗の話まで及ぶなど、大いに語り合った。

 彼の左腕、Tシャツの裾から入れ墨が見えていた。見たところ絵柄のようだが、輪郭のみで色はついていない。
 
 聞いてみた。
「それ、トライバル?」
「いいえ、和彫りっす。これ、つい最近掘ったばっかなんすよ。二週間後、色つけに行く予定で」
「そっかそっか。確かにこれで出来上がりじゃ、寂しいもんね」
 
 ―こんな田舎にも店、あるんだな―
 街を歩いていても、すれ違うことが滅多にないため、近隣他県まで通うのかななんて、勝手に思い込んでいた。

 しかしこの昨今、絶対数に差はあれ、若者を中心に間違いなく需要はある。
 また路面店のように大っぴらに展開するのは、地方特有の厳しい世間の目もあり、難しいだろう。
雑居ビルの一室に、ひっそり構えているのかも。きっとそうだ。風営法厳しいから、うちの県。

 会話はさらに広がっていった。
「この前温泉入りに行ったんすけど、受付で並んでたら前の方に、あれたぶん観光客かな、トライバル入れた外国人いたんすよ」
「で、その人は通れたのに俺、断られちゃって。やっぱ無理なんすね、日本人だと」
 残念そうに彼は言った。
 
 おそらく今宵のような、目視で上腕が簡単に確認できる服装だったのだろう。
髪の色は洋風だが純和風な顔つきの彼、止められても仕方がない。

 場所によっては、墨が入っていても入浴OKというところも、あるにはある。
現に僕の女友達行きつけの温泉がそう。彼女は見える箇所にバリバリ彫ってある。

 また見えない場合もしかり、当然だが。
以前父が湯につかっていたら、上半身を鮮やかな倶利伽羅紋々に彩られた男が入ってきた、と聞いたことがある。

「そういえばお兄さんは彫ってんすか?」
 彼が尋ねてきた。
「俺も彫りたいことは彫りたいのよ。好きな映画の主人公が、胸の真ん中に蛇のタトゥー入れてて、それがカッコよくてさ。昔から憧れてんの」
「でも母ちゃんから、入れ墨入れたら絶縁って言われてて。実家住みなんで路頭に迷うわけにはいかないんでね」
 首を振りながら、僕はまくしたてる。
 
 と、年下の前ではカッコつけましたが、ほんとはね。
僕肌すごく弱くて。ひっかいて文字書くと、即みみずばれで浮かんでくるくらい。
 それはここだけの秘密、ってことで。

モンモンビバノン

モンモンビバノン

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-11

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