自選歌集 2019年7~9月
ゴミのないゴミ集積所に陽が射してお墓になったように明るい
スヌーズに甘えて生きる俺たちにほんとの朝はやってこないさ
「ピンチの時手漕ぎトロッコで逃げきれるタイプじゃないとだけ言っておく」
君は今水平線を越えました僕からは見えなくなりました
老いてゆく世界に傷をつけながら君の若さが輝けばいい
空き地さえあればボールを奪いあい僕らはルールブックを読まない
ほんとうは滅びたかった僕たちにこの先長い余生が続く
省かれたほうに隠れて歴史から物語へと亡命します
人類にバチではなくてオチとしてつぎつぎ降ってくる金だらい
海亀の深い瞳に見つめられ思いだすべきことはまだある
歯車がいくつかうまくまわらずにようやく口に出す「ひさしぶり」
笑い顔の子猫の夢に誘われて疲れた人もすやすや眠る
ソファーからおしりの形に近づけばおしりもソファーの形に近づく
願わずにあきらめるから文月の天気予報はいつまでも雨
あお向けで終わらぬ夏の夢を見る八月三十一日の蝉
どの虫が鳴いてもみんなスズムシで済ませてしまう人がやさしい
姉さんと血のつながりがないことは気づいてたけど、くノ一だったの!?
液晶の黒い鏡の奥にいて人へと育つデジタルアリス
排水に混じった僕の細胞が謎の進化をとげ戸をたたく
AとBふたつのドアの前に立つ(ほんとはどっちのドアもまぼろし)
見下ろした夜景の暗い場所にある数えきれないほどの「準備中」
月光が青く変わればゆらゆらときみのしっぽの影まで淫ら
あの月が本物じゃないと気づいたのは夜いっぱいのくだものの匂い
目をあけたままで金魚が眠るとき少しぼやけてしまうこいびと
ああ俺の理性は徐々に奪われて黒い獣になってゆくニャー
自選歌集 2019年7~9月