アーユルヴェーダ*参

これちかうじょう

  1. 日曜日は青い目に
  2. 見て見て雨が
  3. 放課後はいつもの間柄
  4. 恋素飽和度
  5. いつでも夢を

雨が多い年なんだと誰かが言っていた。
だから部活動も屋内活動になり、
必然的に筋トレ教室になってしまう。
それより何より。
入学式から1週間目の、日曜日。
俺と柳瀬橋は青い目をした人間と初対面する。

日曜日は青い目に

入学式からちょうど1週間経った日曜日。
朝から晴れていたので、電話をしたうえで俺と柳瀬橋は学校の屋上にいる。
そう、久々のセッションである。
俺はホルン、柳瀬橋はフルートで、
課題曲(中学時代の)を練習する。


「よっしゃ、じゃあBパートから行こう」
「おっけー」
曲もそろそろ終盤、といったところで、

ガチャ

という音に俺たちは凍り付いた。
実は、この学校の決まりってのがあって、他部との活動厳禁というものがあるのだ。
つまり、俺が応援団で柳瀬橋が吹奏楽部、これで生徒会にでも突き出されたらおしまい。
ということになるのだから、このセッションはもはや危険域を超えていた。
だからと言ってどっちかの家でとなると騒音とかを考えなくてはいけないし、
俺の家には到底、柳瀬橋を呼べる状態じゃないのだから、
やはり学校で隠れてしたほうが、
というのは当たり前の選択肢だった。

「…せーの」
がばっと振り向いた。
と、そこには私服姿の同い年くらいの男が立っていて、にこにことしているもので、
思わず俺たちもにこにこ返ししてみる。

「おい、笑ってんぞ」
「いや、俺に言われても」
「とにかく生徒会に通報されないように丸め込もう」
「そうしよう」

屋上入り口のドアのところでにこにこしている奴に俺からコンタクトしてみることにした。
というか、背中を押すな親友!

「あのー」
「?」
「私服だけど、もしかして寮生なのか?」
「?」
「何年生?俺たち、ここの1年生」
「?」

うわわわあああああああああ!
と俺は柳瀬橋の後ろに隠れる。
駄目、これ駄目なパターン。
「出動、柳瀬橋隊員」
「ら、らじゃ」

―柳瀬橋VS謎の男―

「俺、柳瀬橋袂っていうんだけど、お前名前は」
「たもと?」
「そうそう、うちさ、呉服屋なんだよ。みんな家族、衣服に関係した名前なんだ」
「僕、橘総太朗」
「へええ、橘っていうのね、何年生?」
「1年生」
「じゃあ一緒じゃん、でも入学式にお前、いた?」
「ううん、へんにゅー試験で入ったから」
「へいゆー試験?」
「編入試験。第3試験のこと」
「おうおう、なるへそな」

何で柳瀬橋は通じてるんだ?
でも橘って、目が青い。
太陽の光を受けると、その目はすごく、華奢な感じに見えた。
「目が青いね」
「ハーフだから」
「ハーフ?」
「お父さん、日本人。お母さん、ドイツ人」
「ほえー、すげえなあ」
「たもと、その子は?」
「ああうん、俺の親友、中村冬至ってんだよ。そういや中村も黒くねえんだよな、目」

いきなり名前が出ちゃったもんで、俺は何とか橘の前に向かった。
「何が黒くないって?」
「中村の目だよ、ほらほらよく見れば茶色」
「そーいう柳瀬橋の目は真っ黒だい」
「生粋の日本人なのになあ俺たち」
あははははは、と笑いあっていると、
ごほんとされて再び冷や汗をかく。

「とうじ、ホルン。たもと、フルート」
「そうそう、分かる?」
「僕もチェロできる」
「チェロ!?すげえ!」
3人でセッションしないかと言え、と柳瀬橋に言う俺。
「えー、俺が聞くのー?」
「だって口止めしないと俺たち学校追われるよ」
「でも何で俺が」
「どうもお前の方が話通じてるっぽいんだもんさ」
「へいへい」

「橘、俺たちとセッションしない?」
「え?」
「友達になろう!」
「…でも」
「何をためらう!」
「僕は…」
橘はそう言って困ったように右腕を掴んだ。
「言わないよ、生徒会には」
「え」
「だから友達」
「お、おう」

これが橘総太朗との出逢いである。
後々気づくのだが、
彼はオールラウンダーと呼ばれる超次元の人間だったりする。
それはまた、のちほど。

「じゃあ約束の指切りしましょー」
「ったく女々しー」

くさい台詞は柳瀬橋担当です。

見て見て雨が

晴れないと、屋上へ行けない。
ということで俺たちは月曜日、雨の空模様を見つつ、教室で昼食をとっている。
「やだよやだよ、雨はねー」
「中村」
「何さ」
「そのパン、何パン」
「え、ただの総菜パン」
「うまそー」
「馬鹿かお前は」
俺は弁当族の柳瀬橋を叱ってみる、そんな四月の雨の日である。
「お前はちゃんとおばさんに作ってもらってるだろ、体のこと考えた弁当!
 それを何だ、俺の激マズパンをうまそーだと」
「え、え、」
「何だよ」
「激マズなのかそれ」
「マズいよ!すげえ」
ツッコミどころがちがう…。

そんなこんなをしていると、急にスピーカーから音楽が流れてきた。
「ん?」
「これは悲愴じゃね?」


「みなさんこんにちは、お昼の校内放送の時間です。今日もお相手は放送部部長、一ノ瀬十和子です。
 よろしくお願い致します」

放送部の活動ってこれなんだ、と俺たちがぼやいていると、ドアのところからこちらを覗く影が見えた。
橘である。

「あれあれ、橘ー」
「たもと、とーじ」
「何してんの、どっか行くの」
「んと、放送室」
放送室?と聞き返す。

「僕、放送部」
「え、じゃあこの先輩の部下かー」

「今日は雨も降っていて気分もふさぎ込みがちですよね。そんな時こそ音楽で乗り切りましょう!
 ということで悲愴から始まったわけですが、
 放送部では皆様からのリクエストもお待ちしております!
 では次の曲、新世界」

それにしてもいい声してんな、と思う。
どんな顔してんのかなーとも思う。
しかし、それよりも何よりも、俺は放課後の部活が気になっている。
走り込みができないとなれば筋トレ教室開催が断然立ってくるだろう。
そうなればあのクソ美人と同じメニューだ。
きっと、俺は死ぬ。

「クラシックもなかなかですけど、皆さんはやはりJポップがお好きなのではないでしょうか?
 では最後に、リクエスト曲から1つ。
 Jポップの仲間みたいなものですが、アニメの有名な神曲をお送りして今日はお別れです。
 今日は雨でも明日は晴れるかもしれない、なんてことを皆さんにお伝えしてさようならです。
 リクエストより、荒野のヒース」

えええええええええええええ!と俺と柳瀬橋はびっくりする。
橘を見送ってからのことである。
荒野のヒースは、アニソンの1つだけれど、他にも大事な意味合いがあるのだ。
特に俺には。

*********

「お疲れ、一ノ瀬」
「あら天野君、もう生徒会室から引き揚げてきたの?」
「昼食をとるだけに行ってるだけだからね、それよりさっきの放送、驚いたよ」
「何が?」
「最後の曲、藤原のために流したんだろう?」
「よく分かってるじゃないの、必殺仕事人さん」

放課後はいつもの間柄

「こんにちはー」

俺はノブを回す。
しかし、そこに2年生トリオはいなかった。

「あ、れ?今日はどこでやんの」
きょろきょろしてみるが誰もいない。
というか、運動部の部室棟に誰もいない。
え、あれ?俺、場違い?

「おーい」
「?」
俺は初日に紹介されている2年生の校舎を訪れた。
2年8組。
しかも総合男子部の2人を差し置いて総合進学部、つまり結ちゃんの教室にまで来たことになる。

「何だよ何だよ、いるんじゃねえの」
窓際の一番後ろの席、1年の俺たちの教室で言う柳瀬橋の席に結ちゃんは座っていた。
「あらあ、中村君じゃないの!」
しかし俺がコミュニケーションしたい人間とは違う女子の先輩が声を掛けてきた。
ちょ、超美人なんですけど!

「結、中村君よ中村君!いつまでも照れてないで相手しなさいよ」
「て、照れてんのか?」
俺は疑問だが、当人はアタリのようだった。
がたこん、と椅子から立ち上がると、入り口の俺のところまで来て、
「すまない」
と頭を下げた。
それには教室中がびっくりした様子で、全員の視線が俺に集中する。

「な、何がすまないなんだ!遅れるなら遅れるとか先に言え馬鹿!」
「まあまあ中村君、そうカリカリしないで?私たち、進路相談があるのよ」
「先輩には聞いてません!」
「あらら」
「おーまーえーはー!だんまりしてねえで喋れ!」
「中村君、これは」
「先輩には言ってません!」

進路相談?

俺はそこであれれと頭を整理する。
そうか、総合進学部だもんな、2年生の春には理系文系の分岐点があるらしいし、
じゃあ総合男子部の2人は?
とも首をひねっていると、

「自己紹介が遅れたわね、私、一ノ瀬十和子っていうの。放送部の部長なのよ」
「え、あ、じゃあ今日の放送って」
「お昼の校内放送は部長である私の仕事なの。校内の式典の司会は副部長の仕事だけどね」
「橘が、そうだ、橘って知ってますか」
「ええ、私がスカウトしたんだもの。彼、いい声してるでしょ?」
「た、確かに!」

昨日の今日であるが、橘の声はなんというか、すごく透き通っていたのである。

「つかいい加減戻れ!目の前にいるとでかすぎんだよ!」
「うん」
ふんだ、と開き直っている俺に思わず拍手が沸き起こる。

「すげえよあの1年、藤原をものともしない!」
「いやー!藤原君が下僕になってるー!」

何だこれ。

「ふーん、お前が中村かい」
今度はツンツン頭の先輩が話しかけてきた。
というか、髪の毛が茶色だなー。

「結ちゃんの元彼は俺だから!」
「…は?」
「今彼がこんなちっちぇえやつだとはなあ!」
「…あんたもちいせえじゃん…」
「何だと!」
しかし、俺の脳内はまたぐるぐるしている。
「結、ちゃん?」
「そうだそうだ、俺の結ちゃんだ!なあ結ちゃん!」
「も、もしかして柳瀬橋の上司ですか」
「柳瀬橋?なんだよ、知り合いか」
「親友なんで」
「じゃあホルンやってるのってお前か!吹奏楽部入らないとは何事だ!」
「いや、急にそう言われましても」

そうか、吹奏楽部の部長ってこの人なんだなと妙に納得。
しかし、この人も結ちゃんって呼ぶんだな。
それだけ親密ってこと?

「城善寺、中村が困惑してるじゃないか。中村、こっちは城善寺千春っていってね、
 吹奏楽部の部長をしてる。あ、僕は天野真咲っていうんだけど、生徒会の副会長をしてるんだ」
「げ!生徒会!」
「げ?」
「あ、あの、部活は今日はないんでしょうか!」
「えと、藤原?」
言ってなかったのか、と天野先輩が頭を掻く。
「ごめん、今日は2年は遅れるんだ。勿論、うちだけじゃない。総合男子部もね。
 だから君島も長谷川も来れなかったんだ。多分向こうは進路相談というか、
 意向調査でもやってるんだと思う」
「いこうちょうさ?」
「噂通りだね君も。就職組だから、総合男子部は」
「なるへそ…」
あの2人が就職ねえ、と内心少し疑惑が生じたが。

「じゃあ俺、部室にいますんで。すみません、お邪魔しました」
「え、もう行っちゃうのかな」
「え?」
「え?」
「何で俺があいつを待たないといけないんですかね!」
「あはは、中村も面白いね。じゃあ部室で待ってて。
 藤原は多分中間くらいで呼ばれるから時間は少しかかるよ」
「はい」
じゃあ、と頭を下げて視線を戻すと、結ちゃんは困った顔をしていた。
なんだ、そういう顔、できるんじゃん。

恋素飽和度

せっかく逢いに来てくれたのに、何も言えなかった。
というか、
どう、接すればいいのか分からない。
また目が赤かった。

昨日も、泣いたんだろうか?

「結ちゃん、あんな奴どうってことないぜ!俺にしとけよ」
「…」
「どしたの」
「…どう、すればいいのか分からないんだ」

どういう顔をすればいいのか。
どういう声をかければいいのか。
どういう、どういう。

城善寺はにやにやしながら後ろの俺に話しかけてくる。

「ふーん、結ちゃんも本当に不器用なんだなあ。素直に好いてればいいのさ」
「?」
「俺なんか、もう小学5年の時からずっとこうだよ」
「そうだったな」
「だから、医者になろうって思えるんだろうな。結ちゃんも、自分の道、ちゃんと見てるんだからさ、
 中村のこと、もう少し見てやれよ。そうすればどうすればいいのか分かってくるさ。
 あいつ、絶対結ちゃんに気があるかんな」
「…え」
「俺が言うことに間違いはあったか?」
「…いや」
学年イチの秀才に、間違いなど。
どこにも。

「というわけで結ちゃんキスしようぜ!」
「何でそうなるんだ楽器馬鹿!」
「何だとドス声女!」
「何よ!やる気?」
「やってやろうじゃねえの!」

また、ああ、俺のことで十和子と城善寺が、喧嘩する。

「次、天野と一ノ瀬ー」
「ちくしょうめが!」
「一ノ瀬ー、女の子がそういう言葉つかわないんだぞー」
「分かってます先生!」

恋とは、難しい代物だ。
でも、確実に、逢えなかった時間より、今、逢っている時間が、
本当に本当に、俺には何物にも代えがたいものになっているのは確かだ。
俺は、うまく言えないけれど。

「(好きなんだ…)」
ああ、また台詞がため息に消えた。

いつでも夢を

「いつでも、来ていい」

え、と俺はその白い紙を受け取る。
「ゆ、」
言いかけた俺に、

「こんちわっすー」
「こんにちはー」
と総合男子部ペアの声が重なる。そして消えてしまった。

「今日は筋トレですね、結のお得意の!」
「今日は何キロつけてきたんだ?」

何キロ、というのは。

「右に15、左に20」
「すげえ、まじかよー」
「体幹鍛えるにはまずこれからですかね」

「何だこれはおい」

俺はテーブルの下に潜り込んでズボンを捲ってみた。
俺のじゃない、結ちゃんのだ。

足首に黒いものがついている。
重りである。

「み」
「見ないでー中村のえっちー」
「いやよいやよも好きのうちですね中村!」
駄目だ、
もう、俺には何も言い返す言葉がない。

「もう!筋トレしますよ!」
「へいへいー」
「はーい」
「…うん」

アーユルヴェーダ*参

2年生の四天王、というか、とにかく一ノ瀬、天野、城善寺、藤原の4人を書きたかった。
というのが本音です。
城善寺はオールラウンダー、つまり橘と同じ意味合いのキャラで、
でも音楽に関してすごく馬鹿だったりします。
天野は藤原や冬至と同じ意味合いで、救世主という役割を持っています。
あ、藤原は融和者、冬至は応援者という役割を持っているという意味合いで、です。
一ノ瀬に関しては冬至と結の恋路にはすごく重要なポストだったりします。
冬至にしてみると嫉妬とか、憧れになったり。
ほら、超美人ですから。
でも学校イチの美人は結なので、さすがの一ノ瀬もかないません。
そんな場違いというか、立場が違う恋なんてのも、いいかもしれませんね。
最近悪夢ばかり見る、作者にとってはひとときの安らぎだったりします。

アーユルヴェーダ*参

「ホルン、フルート」 片言だよ、と俺は柳瀬橋をせっつく。 これはアタリ、だ。 口止めできる。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-10-09

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