冬を迎えるための街。





照り焼けて健康だ。
潮風を坂道で受ける。
水気と一緒に若さが炙られ
例えばおにぎりに合う海苔の
パリッとした気分になる。
下ってることから翳りは
僅かな木立に留まって上方に,
しかも通りかかった飛行機にまで
駆け込んで降りて来ない。
曲がれない右には潮騒が青,
砂浜が白い。
途中の家の前で風見鶏が動いたのは
風か自転車か,漕いだ僕か。







ペリカン便とすれ違う街。
今日も届きものがある。
手紙が入った冷凍食品とか
地元新聞を読んじゃうお菓子類とか。
敷き詰められた懐かしさは
初めての地に人見知り,
知った顔見つけてはにかみ,
お風呂も一緒になることだろう。
湯気した鏡で落書きするは
荒っぽい故郷の地形か,
何となくの「あ」の一字。
まだあった電話ボックスは
10円玉からかけられる。







市街局番を跨ぐ地域性。
落葉なしの街路樹に
囲まれここは,
まだ坂の途中。
有名な星砂も
ここまでは飛んで来ない模様。
坂道にはそれ程箒が要らない。
だから自転車を漕げる。







高台は街を広く見せ
家々の玄関から小さくなる。
辛うじて知る信号機は黄色から赤へ
そして青から離れるように往来が始まり,
紛れて自転車は歩行の中で手荷物に近付いてる。
進む刻を落ち着かせ隣の声に耳傾けて,
どこへ行く人なのか。
問いたくなるのは遠距離と
すぐ見えなくなる速さのせい。
信号まで見えなくなった。
さっきから続く下り坂。







進行中。
直進する緩カーブ。
その分傾く世界中の
何かが変わってもとに戻り,
次のカーブでまた変わる。







一日中。
そこかしこで落ちない落ち葉も
声を潜めて雰囲気を整える。
外気とも温度差が高まり,
寒さから始まる短い朝から
よく起きてる長い夜になる。
ルーティンの彩りが変わって







街の中。
風は徐々に塩分控えめで
じっくり通った小道から寒さかき集めて
大通りの煌びやかさに備える。
健康よりも神秘さを打ち出す海で
星砂は意味深長になり
浮いたら見えなくなる小瓶の中で
ミリグラムの願いを思う。







坂の途中。
飛行機降りて追いついて来た
陰は今や冷気にもなる。
照り焼けた潮風は結晶になって
海中へ沈んだみたいだ。
それでも温かさはほのかに目立ち,
下る自転車の纏う風に負けじと
ペダル踏む力となる。
内々の熱機関は
それでまた坂の途中を行ける。






そして初めての信号機。
坂終わりを暗示する。
頬抜けた潮風がまた一個の
結晶になって沈む。







一定に保たれた秋の新茶は持参の
飲み物として近くでチャポチャポいう。
思い出したかのように空けて飲む。
飲み終わりは湯気で知る。







曲がれない右の海の方向から
潮風が生温いもの持って来る。
大通りの風と分かり
時計の日付を見る今年は,
まだあると確認する。







秋の新茶の温度を保つ。







平面化した街中で手荷物として
歩きながら自転車を押す。
アーケード街はしっかりと活気を持って
互いの確認が嬉しいように商われてる。
美味しそうだから焼き栗を買った。
手渡された紙袋のホクホクは
待ってる人への狼煙に見立てた。







信号待ちと踏切待ち。
秋の新茶。
頬張る焼き栗。







渡れる。







道すがら
一応の観光スポットを尋ねられた。
えーと。
前置きはもう1人の尋ね人,
一緒に思い出して帰って来る。






潮騒が青で白い砂浜。
地平線を同じくして,
薬局屋さんから見えない。
風見鶏が回ったのなら
それは自転車を押す僕でない。







遅々として広がる寒さは
星砂の身を引き締めている。
長袖のアウターを着ているから
拾いに行ける道草が出来る。







スマホで送るメール。
到着は10分遅れる。
雑用品を頼まれたから僕は街の中,
自転車を押して歩く。







長めの夜は始まり短めの昼が往く。







小瓶を持っていないのは
帰路の途中だから。
小腹は満足して,
願いは今は取り敢えず無いから,
数個のチョイスで良いか。
ミリグラムに変わりはない。







自転車は手荷物のように
隣を歩く。
ここが街だと
教える隣人。







秋の新茶は保たれる。
星砂は寒さに身が引き締まる。

冬を迎えるための街。

冬を迎えるための街。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-27

Copyrighted
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