明滅する

北上八三

タイトルがなかなか決まりませんでした

今住んでいる集合住宅の部屋からカーテンを開けると、少し先に違う集合住宅が建っているのが見える。
その集合住宅の共有スペースの外廊下の蛍光灯が一本切れている。いや、ああいうのは切れかけているというんだろうか?その切れた、切れかけた蛍光灯が、
「・・・」
ずっと明滅を繰り返している。
しばらく前からだ。
本当にずっとチカチカしている。
「もう」
もうどれくらい前からあの状態なんだろう?
一週間か、十日か、もしかしたら一か月も前からだったか?

よく覚えていない。

最近あのチカチカが気になってよく眠れていない。
「ふー・・・」
一日中頭がぼーっとする。私は寝れるタイプだ。よく眠れる方だと思う。ツイッターのタイムラインなどで、眠れないとつぶやいている人がいるのをよく見るけど、そういう人たちに対して申し訳なくなるぐらい私はよく寝る。すぐ寝る。寝れないことなどない。

一時嫌いな人の殺人計画を考えて眠れなくなったことはあったけど、それももう過去の話だ。今はそういう事もない。
「眠れなくなるぐらい嫌いだったんだろうなあ・・・」
きっと。

今は、その時ぶりに寝れない。あの明滅するライトが気になって、
「寝れない」
カーテンをしっかりと閉めても、隙間からあのチカチカが入ってくる。
「・・・」
気にしないようにしても、気になる。
目を瞑っていても、横になっていても、うつ伏せになっていても、アイマスクをしていても、隙間から、繊維の隙間から、あの明滅するライトの、チカチカが、
「見える。入ってくる」

いつか替えるだろう。
誰かが言うだろう。
「ライトが切れている」そう言うだろう。連絡をしたりするんだろう。
「いつ替えるんだろう?」
そう思っていたのに、一向にライトは変わらない。

特殊な蛍光灯なのか?海外のメーカーか?取り寄せないといけないのか?
見た感じ、そうは見えない。
「普通の蛍光灯でしょう?」
ほら、気になっている。

いつの間にか布団から起き上がり、カーテンを少し開けて私はあの集合住宅の明滅しているライトを見ている。窓際に座って夜中。
「・・・」
回らない頭で、だらしなく口を開けて、明滅するライトを見ている。
もうずっと見ている。
毎日見ている。もうどれくらい見ているんだろう?記憶にない。
いっそバチン!と切れてくれたらいいのに。
いや、私が替えに行こうか。
どうしよう?でも住人でもない奴が、入れるのか?入口にセキュリティとかあったりして・勝手に入ったらセコムとか来たりして。そしたら警察がきて不法侵入罪とかに・・・、
「・・・あ・・・」
考えているうちに意識を飛ばしていた。
窓枠に肘をついてその上に顔を乗せて。
それでも少ししたら明滅するライトに起こされる。
もう毎日こうだ。昨日もおとといも同じようなことをしていたし、考えていたような気がする。
でも、行動には移してない。
よく眠れていない。だから気力が無い。眠りたい。
「眠りたい・・・」
心の底から眠りたい。

「・・・あ」
その日も窓枠の前に座って明滅したライトを見ていた。意識が途切れていた。
何時から自分がこうしていたのか記憶が無い。時間経過もわからない。

でも、

その日は初めての事があった。

「誰か・・・」
いる。
明滅するライトの下に誰かが立っていた。
ようやくライトを替えてくれるんだ。
そう思った。
その人はライトを見ている。
目を瞑れば意識がとびそうになる。もうまばたきすらも億劫だ。
早く替えてほしい。頭が全然回らない。早く替えてほしい。それしか思えない。
早く。
私が死んでしまう前に。早く。

でも、

死ぬ寸前なのに、ふと、疑問が頭をよぎる。

こんな夜中に替えるのか?

時間経過はわからない。携帯電話も手の届くところにない。でも、外は暗い。だからきっと夜中なんだ。

まだ夜中なのに。

明滅するライトの下に立っている人を見る。
暗い。人の形、シルエットはわかる。でも、他は何もわからない。見えない。
明滅するライトがチカチカとしていて。
見えない。
焦点が。
定まらない。

こんな夜中に人の形をしたシルエットが、明滅するライトの下に立っている。
「・・・」
なんとなく体が震えた。背中に悪寒が走った。

私は思った。

「あの人、私の事を見ているんじゃないかな?」
明滅するライトじゃなくて。

するとそのシルエットがスーッと滑るように外廊下の手すりを越えた。そこに何も無いようにスーッと手すりをスライドして超えた。そのシルエットが宙に浮いた。

それがそのままそれを見ている私の方にスーッと。

私に向かってスーッと。

そこでカーテンを閉めて枕と毛布をもって、その部屋を出てドアを閉めて玄関までの間の廊下でその日は寝た。久々に、本当に久々にぐっすりと寝ることができた。

よく寝た次の日、蛍光灯を買ってその集合住宅に入り、勝手に蛍光灯を交換した。台は知り合いの小さい脚立を借りた。

それからはまたよく寝れるようになった。
でも、
未だに私は廊下で寝ている。
カーテンも開けなくなった。

そこにあのシルエットがいるかもしれないから。

明滅する

明滅する

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-10-08

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