ミスプリント

音澤 煙管

ミスプリント

今は小さな町工場で働いている、
ここはとあるシール印刷会社である。
先代からの後継ぎとして、三世代目の友人から失業中のぼくにお誘いがあったのでお世話になっているが、働き慣れてきて段々とこき遣われるようになり、ぼくは今日も一人で残業中だ。
パートのおばちゃんちには夜遅くまでは頼めない。注文デザインをパソコンソフトで色味を試し刷りしている最中だ。
ここ最近、夜遅くまでの修正作業で目もショボショボして一向に捗らない。
またよりによって、スーパーのバーゲンシールは赤と黄色が多くてチカチカする。今日はこれを片付けたら帰るとしようと、サンプルプリントを指定した色彩形式を間違えてる事も気づかずに作業を進める、そして……

「あっ!やっちまった……時すでに遅し、仕方ないこれはボツだ、もう一度やり直してから作業を終えよう。」

ボツになり失敗した試し刷りのB3サイズのミスプリントを床へ置く、そこへ疲れていたので不注意にも作図用ペンをボツになったサンプルプリントの上に落としてしまった。

「あ!折角買った高いペンを……割れるなよー」

デザイン室の床は作業場と同じコンクリート、使い易くて自分へのご褒美へとネット通販で海外から並行輸入で買い揃えたブランド文房具の一つの物、大事に使っていた0.03mmの物だ。

ところが、鈍い音どころか姿も見えなくなり消えてしまった。

「あれ?どこかへ転がったのか?
音もしなかったのに……」

早く済ませて帰りたいのに、よりによってヤボ用が増えてしまった、
しばらく探すが見つからない。

「おっかしいなぁー……
まぁいいや、明日探そう!」

とその時、パソコンデスクへ向かおうとボツにしたミスプリントの上を踏もうとしたら足を取られたようになりそこは、大きな穴状にモヤモヤ揺れていた。

「な、何だこれは?!」

一人で作業をしていたし、もう午前様の時間帯で怖くなり思わず声をあげてしまった。
ミスプリントの上には大きな穴状の模様がゆらゆら揺れている。
そこへまた、机の上からファイリング用のクリップを落としてしまう……
あっ!と思ったが、消えた。
床の上のミスプリントから、ブラックホールの様にクリップが吸い込まれていくのを確かにこの目で見たぼくは、残業どころでは無くなり色々試したくなった。

デザイン室のドアを開け、
工程ラインの作業場からインク用の空ボトルやら、壊れて廃棄寸前の工具類を慌てて持ってきてその異様な様子でゆらゆら揺れる穴へ落としてみた、
見事に吸い込まれてゆく。
さっき足を取られて気が付いたが、足は無事だったのでどこに繋がっている空間なのかわからないので恐々手も突っ込んでみることにした。
特に痛くもなく痒くも無いし取り出しても手は無事だ。
ボーっとした頭が覚醒され、ニヤニヤ顔になるぼくは、そっと穴のミスプリントを手に取り、四隅だけノリが効く様に剥がしこの部屋の壁に貼り付けた。そして見事に壁向こうの物が取れる、すごいぞこれは!そう喜ぶ自分は悪知恵を働かすと、壁からミスプリントのシールを剥がし、社長室のドアノブ近くに貼り付けて手を伸ばし内側から鍵を解除した。

「しめしめ、ここ最近こき遣われているからなぁ。臨時収入といきますかーヘヘヘッ」

ぼくの悪知恵は、そう……犯罪だった。友人の社長室の大きな金庫にそのミスプリントを貼り付けた。
予想通り、株券やら土地の権利書、札束やらをこの手中に収めた。欲は膨らむ一方で、もっともっとと手を伸ばすだけではなく、体ごとその穴から金庫へ入っていった。
大き目の金庫は、ぼくをすっぽり誘惑し飲み込まれ中でゴソゴソと他の大金を探していた、するとその時……
何度も付けたり剥がしたりしていたせいで、四隅のノリの粘着が弱くなり剥がれ落ちてしまった……
ぼくは、金庫に監禁されてしまったのだ。

ご想像通り、あくる日友人と警察官が金庫の扉を開けた時に出迎えてくれたのは言うまでもない……残業するんじゃなかったなぁーあーあぁ……。



おわり

ミスプリント

ミスプリント

「な、何だこれは?!」

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-10-08

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