⬛︎朗読詩「ペリエについて」
昨日の世界から戻ってくるのがうまくなりすぎてしまった。
あまりにも、
簡単に、
そう言えてしまうので、
昔のこと
(大袈裟な言い方だけれど)
を壁にかけたカレンダーと
眠たい目をしながら
話すことにした。
冷房の効き過ぎで
鈍くなってしまった
しすぎてしまった鼻では
もう手遅れなほどに
ミュウズのにおいを
辿ることができない
ごおごおと鳴き声をあげながら
吐き出す冷気を浴びている少し未来の私は
けもののように丸くなり
フローリングの床で
しあわせになることだけを
貪り続ける。
とてつもなく酷い悪口や罵声を
産みつづけたのは
そういえば昨日の出来ごとだった。
ねばねばとして
開くのも億劫になったこのくちでは
もう大層な夢は語れないと
いうことを
忘れたいがために
きんきんに冷えた
透明なペリエを
捩込んでいくんだ。
すぐにでも洗い流してくれる
私だけのペリエは、
今日はすこぶるはつらつで
なんだか私のことも
とかしているよう。
抱き着いたフローリングには
私の形をした
ふしあわせの染みだけが
じんわりと伸びてゆく。
なにも言葉を生み出すことも
できなくなったあとで
また昨日の世界へと
帰ってゆくのだ。
冷房の電源はそのままで。
⬛︎朗読詩「ペリエについて」