⬛︎朗読詩「マンション」

下から見上げると高く感じるが、それはめったに姿を現さない。
燻らせたあの日の私自身が、非常階段を駆け上がる音だけがよくよく響く。
響かないこともあるが、そういうときは大抵私がセックスに夢中になってるときだ。
獣のふりをしながら、世界を否定する言葉はいつだって「逝ってしまいそう」なのだから。

だから、そのマンションには亡霊が住み着いている。
私という亡霊が。


 +美しい名前


泡立てたシャンプーのにおいからは、梅雨の時期の鬱蒼とした毎日を消し去る妖精が生まれる。
その度に私だけはこの狭い浴槽でシャワーを浴びるのを涙のせいにして、

明日は電球を買いに行かなきゃとか考えて、また半身浴を忘れるのだ。

その度に私だけはこの狭い浴槽でシャワーを浴びるのを涙のせいにして、
赤ん坊に戻りたいと
内臓のにおいを思い出したりする。


 +鯨

大きく開いた空が、ぽっかりと青いままなのは
私のことを一ミリも考えていないからだ。
鯨の形をした雲が、ぼおぼおと風に流されてゆく。
それが薫風だとも知らずに。
ぼおぼおと風に流されてゆく。

スクランブル交差点、

エロティック、

算数。

 +アインシュタインのポスター


剥がれかけていた。
でも直さなかった。


 +【マンション】


だから、そのマンションには亡霊が住み着いている。

身を投げることもせずに、
曖昧なままの頭で、
伸びつづけた髪の毛、

でも直さなかった。

ぼおぼおと風に流されてゆく、
その度にしやらりとなった私の髪の毛からはシャンプーのにおいがして、
今日こそは電球を買いに行かなきゃ。


 +私


世界を否定するのはいつだって私自身だ。

⬛︎朗読詩「マンション」

⬛︎朗読詩「マンション」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-08

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