続・認められない男

続・認められない男

「神聖な楽器に触るな!」
「顔でやんなよ、顔で。お呼びじゃないよ、お前らビッチは!」
 ノーパソに向かい、毒づく。
 
 ギター女子、ベース女子、ドラム女子。
音楽を愛する女性がフューチャーされるのは、喜ばしいことだ。
しかし、このジャンルにはひとつ、大きな問題が存在している。
 それは結局は顔面偏差値重視、という点。
 その証拠にネットで人気のアカウントは、どいつもきれいだったり、かわいかったり。
MV漁りしている中偶然見つけた、男女混合バンドがその典型だった。
周囲にちやほやされ、サークルの姫ならぬバンドの姫扱いなんだろう。証拠ないけどきっとそうだ、クソったれが。 
 あ~、混ぜるな危険混ぜて、あいつらの顔面にぶっかけてやりたい。

 イライラが収まらぬままソファへダイブし、ムカムカを抱えつつ、ふて寝を決めこむ。
 ……まったく眠れん、脳が興奮沸騰した余熱で、意識覚醒が持続しているのだろう。
 これもすべてあいつらモテモテ団のせいだ、ちくしょうめ。
 
 何か、冷静になれる材料はないものか。
 同じ息でも嘆息ではなく、こう、気分上々にスーッと抜ける鼻息のほう。
 
 そうだ、あのバーテンさん!
 もういない、会うことのかなわぬ彼女だけど、だからこそ美しい一連の思い出をたぐって、つかの間の憩いに浸ろうではないか。
これ以上の鎮静剤,他にはない。
 美人には美人で対抗だ、ハハハ。
 
 って、うん?
おかしい。違和感で我に返る。
理不尽じゃない、このマッチメイク。
顔が命のバン女へのイライラムカムカを緩和するため、同じく顔の良いリア女をカウンターにあてるのって、矛盾してないか。
う~ん……

 あれだ、メソポタミア方式。『目には目を、歯には歯を』って、あのやり方。そうだそうだ、すごい文明のえらい人が言ったんだもの。
戦法における選択肢のとして間違っていない。
 ざまあみろ、ケケケ。俺は正しい。

 でも、待てよ。
 そういえば……
 あのバーテンさん、美人さん。
モニター越しに虫唾の走る愛想振りまく、一頭身分だけ取り柄の奴らと、身体的特徴は共通している。
 だがバーテンさんに対して、攻撃衝動は起こらなかった、なぜ?
 
 これは由々しき問題。我が女性観の根幹を揺るがしかねない大問題だ。
 僕は差別しているのか、否。区別しているはずだ。無意識のうちに、瞬時に、違いを感じ取ったに違いない。 
 ならばそれはなんだ、なんなのだ。
 う~ん……
      
 あ、そうだ、優しかったんだ。
 リアルの美人は優しかった、僕に。
 
 初めて入る店ゆえ戦々恐々としていたら、マニュアル通りであれ、満面の笑みをもって、常に接してくれた。
 二回目の時もそう。たった一度しか来店していない僕のことを覚えていてくれた。嬉しかった。
 
「僕って、話しかけにくくないですか」
 そう尋ねた時も即、そんなことないと、一人にしてくれオーラを放つ方はすぐ分かると具体例を示しつつ、否定してくれた。
 
 容姿に関してもそう。四十の坂を越えたおじさんであるこの僕を、「おにいさん」と呼んでくれた。
あと、こちらの名前を尋ねてこなかった気遣いも、心地よかった。
 カウンター越しのあの人は、照明を暗めに抑えた店内演出も相まって、後光の射す菩薩様に見えた、本当マジで。
 救いを求める衆生を、その懐に優しく向かい入れる、ありがたき存在。

 結論に達し安堵の笑みを浮かべ、僕は再び瞼を閉じた。 

続・認められない男

続・認められない男

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-05

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